ノア | #1★2006.06/10(土)22:07 |
---|
プロローグ 生まれたときから、狭い檻の中にいた。 出たい。 何度も思った。 でも、出来なかった。 檻はとても硬くて、どんなに体当たりをしても壊れなかったんだ。 ここにいるのは、たくさんのポケモン。 みんな、小さな檻に入れられている。 僕はどうしてここにいるんだろう。 ずっと抱いていた疑問。 けれど、それに答えるものはいない。 誰もが、絶望に満ちた表情をしていた。 なんでだろう。 考えても考えても、答えは見つからない。 ときどき、白衣を着た人間がやってくる。 そんな時、決まってここにいるポケモンたちは、恐怖を露にしていた。 そして、人間はその中から、何匹かのポケモンを連れて行くんだ。 泣き叫ぶ、ポケモンを。 人間が出て行った後、恐怖は安堵に変わった。 その後… 何日経っても、連れて行かれたポケモンたちは、戻ってこなかった…。 そのときは、まだ何も知らなかったんだ…。 何故、檻の中のポケモンたちが、絶望に満ちていたのか…。 連れて行かれたポケモンたちが、戻らなかったのか…。 そして、僕自身が連れて行かれることを…。 続く |
ノア | #2★2006.06/12(月)18:02 |
---|
ACT 1 始まり 眩しいほど晴れ渡った、ルディカタウン上空。 あまり知られていないが、ここ、ルディカタウンは海の美しい町だ。 海沿いの小さな丘には、大きな桜の樹がある。 その枝に、一人の少女と青い首輪を付けたヘルガーが座っていた。 少女の名はアキ。 ポケモンリーグ優勝の経験もある、ルディカタウンきっての凄腕トレーナーだ。 挑戦者は後を絶たないが、未だ、負けたことが無い。 そして、何より特徴的なのは、ポケモンの言葉が分かる…ということ。 彼女の隣にいるヘルガーは、幼い頃から苦楽を共にしてきた、アキの最初のポケモン。 名は、リウス。 「んー。やっぱりここの風は気持ちいいね、リウス。」 アキが、伸びをしながらリウスに言う。 『そうだね。僕も、ここの風好きだよ。』 リウスが答える。 刹那、 〈たすけて…〉 声が聞こえた。 「?リウス、何か言った?」 アキが問う。 『え?僕は何も言っていないよ。』 「…そっ、か。気のせい、かな。」 そう言いながらも、アキの心は靄がかかったように、すっきりしなかった。 助けを求めたのは、誰…? 続く |
ノア | #3★2006.06/14(水)19:57 |
---|
ACT 2 過去 〜前編〜 翌日。 アキは、いつもより早く目が覚めた。 ふと、外を見ると、空には鉛色の雲が広がっている。 それは、アキの心を映したかのようだった。 「……。」 夢を、見た まだ、幼かったあの頃の夢 何も知らなかった、あの頃の… 何年振りだろう しばらく見ていなかったのに… 昨日の、声 無意識のうちに、あの頃の自分と重ねてしまっていたのかも知れない… 僕はもう、あの頃とは違う! そう、思っていた ―否、そう、思いたかったのだろうか…? 「僕はまだ、あの頃のままなのかな…。」 ポツリ、呟いた声は、空気に溶けていった。 ポタッ。 一粒、涙が零れた。 途端、堰が壊れたように、次々と涙が溢れ出す。 アキは、涙を拭うこともせず、ただただ、壊れた人形のように、涙を流した。 涙は止まることなく溢れ続け、シミが、広がってゆく―。 そんなアキを、リウスが、物陰から見つめていた。 ごめん ずっと、君の側にいたのに 一番、近くに… あの時、君を守るって決めたのに…! 君が泣いている姿を、ただ、見ていることしか出来ない… 僕ばかりが、アキに頼って、甘えている… 君はあの時のように、一人で泣いて、一人で耐えている… 情けない… なんで、僕は無力なんだ!! アキを、守りたいのに…! 何も出来ない… ごめん、アキ 続く |
ノア | #4★2006.09/16(土)22:28 |
---|
ACT 3 過去 〜中編〜 幼い頃の僕は、愚かだった… 否、“今も”そうなのだろう… 僕はまだ、過去に捕らわれている… 10年前― 真っ暗な闇の中、氷のような冷たい雨が、地面を濡らす。 人々は傘を手に、早足で歩き去る。 そんな中、傘も差さず、靴も履いていない少女がいた。 年齢は、4、5歳ほどであろうか。 少女の身体には痛々しい傷が広がり、その瞳には一筋の光さえ宿らない。 そんな少女を、道行く人々は、一瞥しただけで去ってしまう。 なんで? 少女は自問する。 なんで、僕は捨てられたの―? なにもしていない… なにも… 邪魔なら、要らないのなら、なんで僕を生んだの…? 自分を捨てた、両親への憤り。 それと同時に、両親に対する愛情。 相反する二つの思い――。 それは、幼い少女が抱えるには、重すぎて――…。 ただただ、この苦しみから逃れたかった だから、目の前に差し出された手を、何の躊躇もなくとってしまった… それが、どんなことに繋がるとも知らずに―― ただ、寂しかった 誰かに、側にいて欲しかった… 一人が、堪らなく恐かったから… 「おいで」 その人は言った 優しそうな人だと、思った そして、手を引かれるままに、見知らぬ場所へと連れて行かれた… あの、場所へと… 少女が連れて行かれたことに気付く者は、誰一人としていない。 人々が、早足で行き交う。 ただただ、冷たい雨が、絶え間なく降り続いていた。 続く |
このページは http://www1.interq.or.jp/kokke/pokemon/commu/story/890.htm のアーカイブです。