ぴくの〜ほかんこ

物語

【ぴくし〜のーと】 【ほかんこいちらん】 【みんなの感想】

[890] 実験ポケモン

ノア #1★2006.06/10(土)22:07
プロローグ

生まれたときから、狭い檻の中にいた。
         
出たい。

何度も思った。

でも、出来なかった。

檻はとても硬くて、どんなに体当たりをしても壊れなかったんだ。

ここにいるのは、たくさんのポケモン。

みんな、小さな檻に入れられている。

僕はどうしてここにいるんだろう。
 
ずっと抱いていた疑問。

けれど、それに答えるものはいない。

誰もが、絶望に満ちた表情をしていた。

なんでだろう。 

考えても考えても、答えは見つからない。

ときどき、白衣を着た人間がやってくる。

そんな時、決まってここにいるポケモンたちは、恐怖を露にしていた。

そして、人間はその中から、何匹かのポケモンを連れて行くんだ。

泣き叫ぶ、ポケモンを。

人間が出て行った後、恐怖は安堵に変わった。

その後… 

何日経っても、連れて行かれたポケモンたちは、戻ってこなかった…。

そのときは、まだ何も知らなかったんだ…。

何故、檻の中のポケモンたちが、絶望に満ちていたのか…。

連れて行かれたポケモンたちが、戻らなかったのか…。

そして、僕自身が連れて行かれることを…。


                                         
続く
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ノア #2★2006.06/12(月)18:02
ACT 1 始まり

眩しいほど晴れ渡った、ルディカタウン上空。

あまり知られていないが、ここ、ルディカタウンは海の美しい町だ。

海沿いの小さな丘には、大きな桜の樹がある。

その枝に、一人の少女と青い首輪を付けたヘルガーが座っていた。

少女の名はアキ。

ポケモンリーグ優勝の経験もある、ルディカタウンきっての凄腕トレーナーだ。

挑戦者は後を絶たないが、未だ、負けたことが無い。

そして、何より特徴的なのは、ポケモンの言葉が分かる…ということ。

彼女の隣にいるヘルガーは、幼い頃から苦楽を共にしてきた、アキの最初のポケモン。

名は、リウス。

「んー。やっぱりここの風は気持ちいいね、リウス。」

アキが、伸びをしながらリウスに言う。

『そうだね。僕も、ここの風好きだよ。』

リウスが答える。

刹那、

〈たすけて…〉

声が聞こえた。

「?リウス、何か言った?」

アキが問う。

『え?僕は何も言っていないよ。』

「…そっ、か。気のせい、かな。」

そう言いながらも、アキの心は靄がかかったように、すっきりしなかった。

助けを求めたのは、誰…?


続く
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ノア #3★2006.06/14(水)19:57
ACT 2 過去 〜前編〜

翌日。

アキは、いつもより早く目が覚めた。

ふと、外を見ると、空には鉛色の雲が広がっている。

それは、アキの心を映したかのようだった。

「……。」

夢を、見た

まだ、幼かったあの頃の夢

何も知らなかった、あの頃の…

何年振りだろう

しばらく見ていなかったのに…

昨日の、声

無意識のうちに、あの頃の自分と重ねてしまっていたのかも知れない…

僕はもう、あの頃とは違う!

そう、思っていた

―否、そう、思いたかったのだろうか…?

「僕はまだ、あの頃のままなのかな…。」

ポツリ、呟いた声は、空気に溶けていった。

ポタッ。

一粒、涙が零れた。

途端、堰が壊れたように、次々と涙が溢れ出す。

アキは、涙を拭うこともせず、ただただ、壊れた人形のように、涙を流した。

涙は止まることなく溢れ続け、シミが、広がってゆく―。

そんなアキを、リウスが、物陰から見つめていた。

ごめん

ずっと、君の側にいたのに

一番、近くに…

あの時、君を守るって決めたのに…!

君が泣いている姿を、ただ、見ていることしか出来ない…

僕ばかりが、アキに頼って、甘えている…

君はあの時のように、一人で泣いて、一人で耐えている…

情けない…

なんで、僕は無力なんだ!!

アキを、守りたいのに…!

何も出来ない…

ごめん、アキ


続く
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ノア #4★2006.09/16(土)22:28
ACT 3 過去 〜中編〜

幼い頃の僕は、愚かだった…

否、“今も”そうなのだろう…

僕はまだ、過去に捕らわれている…

10年前―

真っ暗な闇の中、氷のような冷たい雨が、地面を濡らす。

人々は傘を手に、早足で歩き去る。

そんな中、傘も差さず、靴も履いていない少女がいた。

年齢は、4、5歳ほどであろうか。

少女の身体には痛々しい傷が広がり、その瞳には一筋の光さえ宿らない。

そんな少女を、道行く人々は、一瞥しただけで去ってしまう。

なんで?

少女は自問する。

なんで、僕は捨てられたの―?

なにもしていない…

なにも…

邪魔なら、要らないのなら、なんで僕を生んだの…?

自分を捨てた、両親への憤り。

それと同時に、両親に対する愛情。

相反する二つの思い――。

それは、幼い少女が抱えるには、重すぎて――…。

ただただ、この苦しみから逃れたかった

だから、目の前に差し出された手を、何の躊躇もなくとってしまった…

それが、どんなことに繋がるとも知らずに――

ただ、寂しかった

誰かに、側にいて欲しかった…

一人が、堪らなく恐かったから…

「おいで」

その人は言った

優しそうな人だと、思った

そして、手を引かれるままに、見知らぬ場所へと連れて行かれた…

あの、場所へと…

少女が連れて行かれたことに気付く者は、誰一人としていない。

人々が、早足で行き交う。

ただただ、冷たい雨が、絶え間なく降り続いていた。

続く
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[890]

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