ぴくの〜ほかんこ

物語

【ぴくし〜のーと】 【ほかんこいちらん】 【みんなの感想】

完結[898] 少女リーシャと少年セイン〜因縁の子供〜

乱菊 #1★2006.12/11(月)23:41
プロローグ

 この世にはね、幸せになれる子供と、そうじゃない子供に分けられるんだって。
 私は最初だけ、『幸せな子供』だった。

 私はこの国、モーリスレイニーの第二皇女“リーシャル・ルイジアーナ”…だった。
 そう、私はもう皇女ではない。
 ただの女の子。っていっても、ただの女の子じゃないな・・。
 狼に良く似た、グラエナの住む大きな森で育てられた「狼の娘」なんだから。
 私を逃がそうとした姉さん、“ダイアン・ルイジアーナ”は、義理の父母の魔の手によって心臓を三発撃たれ、同じく私を助けよう海岸まで運んでくれたおじいさんとおばあさんも、毒矢を射たれ、殺された…。
 私は一人で逃げてきた。だから私は一人ぼっち。
 そうね、いるとしたら…この森にいる、親切なポケモン…っていう子たちじゃないかしら。
 でも、それでもう十分なの。あとはなにもいらない・・。
ましてや人間なんて…大嫌いだ!!
 この森の近くにいる人間もそうだ。勝手に…いろんなことをこの私達の仕業にしやがって…。
 でも、私は人殺しはしたくない。この森のみんな、そう思っている。
 …せめて、別の方法で追い払わなきゃ。

 そうでしょ?『リシャ』そして、もう一人のー…。

 …みてみて、ほぉら。
 追い払うのに、いい人質が、この山に近づいてるのよ…。


第一話   運命の少年

 どこなんだ、ここは。なんで、こんなに…

 「暑いんだよぉ〜!!」
 「そういうな、セイン。たまには息抜きでこういう場所に来ることもいいじゃないか。」
 「でもさ、よりによってなんでこんなジャングルみたいな山なんだよ。もう少し村や町とかあっていいんじゃない?」
 「奥にいけば村があるさ。そこまで歩いていくんだよ。」

 なんでオレがこんな山にとまらなきゃいけないんだよ!

 おっと、言い忘れてたな。

 オレの名は『セイン』ってゆーんだ。
 オレの家は有名な資産家で、超大金持ち。毎日みんなが夢見るほどのリッチな生活してんだぜ?
 だけど、今日は違う。父さんがいきなりこんな山で『一ヶ月過ごそう!』ってことになっちゃって。いつもついてるボディーガートをいっきに40人から5人に減らしちゃって。
 あーあ、なんなんだよまったく。

 「なあ、父さん。まだなのか〜?」
 「もう少しだよ。ほら、着いたぞ。」

 その場所は、周りの山から隔離された空間で。
 なんでか分からないけど、思った以上に景気が良さそうで。

 少し、オレは安心した。
 でも、背筋が少しゾゾっとした。
 山を下ろうとしたその時、予感が当たったー…

 『待て』

 鋭い女の低い声が聞こえたー…。
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乱菊 #2☆2006.12/11(月)23:42
第二話   山の守護神、運命の少女。

 「!!」

 なんだこの声は…。こんな殺気のこもった女の声、聞いたことがない!!

 オレは、急いで山を降りようとした。

 『待て、と言っておるのだ。さっさと止まれ。止まらねば、村に着いたとたんに粉々にしてしまうぞ。』

 びくっ!

 オレは素直に立ち止まった。

 『なかなかわかるようだの。いいか、お前は人質になるのだ。この山のみんなのための、人質だ。』

 …人質、だと?このオレが?

 「ふざけんなよ。テメーはダレだよ。どこにいやがる、出て来い!!」
 『まあ待て。じきに分かる。良いか、このことを決して誰にもいってはならぬぞ。もし言ったとしたら…』
 「いったと、したら?」
 『…オマエとその周りの人間どもの命を落としてやる。』

 声が一層低くなった。   ―本気だ。

 『いずれまた会うことになるであろう、少年。まあそのときは、“我”ではないかもしれんがの。    
    さらばだ。』

 
 ―声が、しなくなった。
 
「おーい、セイン。早く来い、何やってるんだー?」
「…あ、ああ。今行く!」
 父さんの声で、現実に引き戻された。
 すぐに、山を降りて村に入った。
 村にはいってからも、あの女の声が耳からはなれなかった。

 一体なんなんだ?人質って、一体…。


 この時は、思いもしなかったんだ。
 この後この声の少女と出会ったのが、運命のイタズラの始まりだなんて。

 ―この時は、何も…
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乱菊 #3★2006.12/15(金)18:09
第三話  運命の少女、襲来。

 「あ、おにーちゃんきた〜。おっそいよぉー、おにーちゃん!」
 「…わりぃ。」

 「あら、セイン。どうしたの?顔色悪いわよ?」
 「へーきだよ。オレ、ちょっと着いたばっかだけど、散歩してくるよ。」
 「いってらっしゃい。」

 最初に話しかけてきたのは、オレの妹『リナ』。後のママさん口調のは、母さんの『ラズリー』。

 リナは体操界の有名なスターだ。立ったまま後ろにそり返してかかとに手をつけることもなんなくできる。オレの自慢の妹さ。
 母さんは芸術家。いっつもすっげーキレイな絵描いてて、何回か美術館に展示されるような絵なんだ。自慢の母さん。
 …もちろん、父さんも自慢だぜ?

 ちなみに、一応オレは柔道で世界チャンピオンにいきそうだった男だ。オレは二位だった。
 ま、その一位のヤツが二メートル以上の150キロ以上だったから長くて持ち上がんなかっただけなんだけどな。
 そんなこんなの家庭だから、いっつも周りから浮いてた。
金目当てで近づいてくるやつもいっぱいいた。どれだけの強さか試してくるやつもいっぱいいた。…まあ、全部ノシたけどな。

 だから、きっと今回の女も『山のための人質』とかかっこいいこといっといて、実は金が目当てなんだと思う。
 オレは女でも容赦しねぇ。返り討ちにしてやる…


 『いくぞ』

 ドクンッ…

 一体、どこから話しかけてんだよ!

 その時、村からたくさんのベルが鳴ったー…


 「山神だ、山神が出たぞぉー!」

  きた

 「どうしてだ、なんでこんな時に山神が来るんだ!」

 「知らないわよ!とにかく、逃げなきゃ
…で、でたぁ!!」

 トサッ

 オレの目の前に、とてつもなくデカイグラエナと、その上に乗った毛皮を被った女の子が立ちふさがった。

 「迎えに来たぞ。さぁ、さっさと来い。」

 あの低い声の、女だった。

 「ざけんなよ。なんでオレがオマエなんかに人質にされなきゃいけねーんだよ。」
 「山のためだ」
 「んなわけねーだろ。なんでこんな山ごときにオレが人質にされなきゃいけねーんだよ。金目的なんだろ?そうだ、オレに近づいてくるやつはみんなそうなんだ!
 オレのことなんてちっともわかってないくせに、金だけのためにオレと仲良くなろうとして。
  オレはそれにだまされて、友情というものをしらなくなった。そんな―」

 「…何をごたごた言っておるのだ。」
 
 冷たく、言い放たれた。

 「オマエがどれだけ金持ちかは知らぬ。ただ、我は山のためにオマエを人質にするだけだ。」

 …コイツ、本当に山のためだけにこんなことを?
 それになんで

 「―オレが、人質なん『おい、いたぞ!セイン様を襲おうとしているぞ、全員かかれー!』」

 突然、後ろのほうから農民とオレんちが雇ったボディーガードがとっしんしてきた。

 「・・へへん、オレはそう簡単には連れ去れはしないさ。こんなにもいっぱい、オレの軍勢がいるんだからな!」

 しかし、女はものともしずにつぶやいた。

 「全く。どれほどあらそえばどちらが強いか決着がつくのだ。それに、変なもんをもってるやつもおるではないか。
 …仕方ない。」

 “変なもの”とはたぶん、オレのボディーガードの持っている銃・マシンガンのことだろう。

 「―しょうがないの。」

 パチンッ  指のこすれる音がした。

 同時に、オレの周りに風でできた巨大な壁が出来ていた―…。

・つづく・
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乱菊 #4★2006.12/15(金)18:35
第四話   全ては、森のために。

 「な、なんだこれ・・。」

 「“かまいたち”。お母様の技だ。」

 ―外が、全く見えない!

 「おい、どうするつもりだ!」
 「お前の行動次第だ。
  我はいつでも、お前の家族を傷つけることが出来る。もちろん、亡き者にするのも簡単なのだ。
 お前が拒否するたび、大事な者をどんどん傷つけていく。」

 ―いつこの女が攻撃してきてもおかしくない。
  でも、オレはどうすれば…

 「返事がないようじゃの。」

 『セイン!』

 ―父さんの、声。

 『おにいちゃん!』
 『セインッ』

 ―リナ、母さん。

 「お前の家族か。大切な者とは、こやつらじゃな?」

 少し笑ったような声。 

  まさか!

 「では、あいつらを攻撃すれば、お前は来るということじゃろぉな?」

 ―マサカ

 「父さん母さんリナも、絶対にココに近づくなッ!!」

 『セイン!』

 それでも、影で分かる。

 ―近づいてきている。

 「来ちゃダメだ!来たら―・・」


 シュンシュンシュンッ

 『きゃぁぁああッッ!!』


 ドサッ。


 ―ああ

 「まず、一人目。」

 ―一人目のターゲットは、リナだった…。

・つづく・
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乱菊 #5★2006.12/15(金)18:39
第五話 全ては、森のために。後編

 「リ、リナ…。」
 
 「次は、コイツだ。」

 寒気が、全身を駆け巡る。

 ヒュンヒュンッ

 「がああぁ…っ!」

 予感が、当たった―。

 「父、さんっ!」

 村人の、きゃあきゃあという叫びが一緒に聞こえる。

 「さあ、どうだ?まだ懲りぬのか。それじゃあ、今度はこいつだ。」

 「や、やめろォっ!」

 ヒュンヒュン


 「あヴっ・・!」

 母さんの声―

 「母さん…。」
 「さて、次はどいつにするか。」

  ―だめだ。もうこれ以上は。

 意を決して、オレは少女に言った。

 「もう、やめてくれ。オレはついていく!それでいいだろ?
 もう、他のヒトまで巻き込まないでくれっ!」

 少女はやっとか、というかのようにため息を漏らした。

 「最初からそういえばいいのだ。」
 
 トンッ


 何かが首に触れた次の瞬間、目の前が真っ暗になった…。

 
 その後にどうなったか、分からない。
 だが気がついた時には、オレの目の前に、たくさんのポケモンたちがいたー…
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乱菊 #6☆2006.12/11(月)23:50
第六話      多重人格者。

 「ー・・ななななな、なんだこりゃぁっ!?」

  目の前のいきなりの光景に、驚きを隠せず叫んだ。

 「どこだ?ここ…。てっきり連れさらわれたから、森の洞窟に「閉じ込められたかったァ?」」

 「!?」

 いきなりどこからか女の子がオレの前に顔を覗かせた。

 「あら〜?あ、そっか。“リシャ”ちゃん、顔を見せてなかったもんね♪」
 「お、お前はダレだ!!」
 「あ。あたしはね、“リーシャ”っていうの☆さっきまであなたを連れ去って来たのは“リシャ”ちゃんよ。」
 「へぇ。ここに二人で「違うのっ!」」

 ―!?

 少女が、いきなり顔を近づけてきた。

 「あたし達は、同じ体に入ってるの!」
 「…は?」
 「だ〜か〜ら〜、同じ体に入ってんの!!」

 ―耳元で叫ばれた。耳がキンキンする。
 でもそれは、つまり―

 「二重、人格者?」
 「…そう。まだいるかもしれないけどね。」

 ―初めて見た。本当にいたとは・・

 「ま、そんな暗い話は置いといて。
 ―みんなァ〜!新しい友達、『セイン君』で〜す♪」
 「んなっ!?」

 ワー、キャオーン、キューン、…いろんなポケモンが歓声を上げてくれている。―オレの、ために。

 「セイン君。あたしたちはね、人間が嫌いなの。でもね、セイン君だけは特別なの。みんなと違う。オーラかな?そんなものが出てるのよ。
 だから、みんなも安心してくれるしこうやって祝福もしてくれるのよ♪」

 ―そうか。

 「ありがとう。」
 「・・え?」
 「ありがとうっつったんだよ!/////」
 「なんで?」
 「いっ、いいだろどうでも!」
 「クス♪顔真っ赤〜w」
 「み、見んな!////」

初めてだったんだよ。初めて・・

 こんな豊かな気持ちになれたんだ―…
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乱菊 #7☆2006.12/11(月)23:51
第7話  

 いろんなポケモンが、オレのために祝福してくれてる。

 ―嬉しい。

 そして少女の顔を、今度はちゃんと良く見てみた。

 良く見れば、けっこう可愛い顔立ちをしている。
 嫌味もない。
 性格も、けっこう好きなほうだ。
 体系も、どっちかというと細め。
 綺麗な肌をしている。  …傷だらけだが。

 「よし、そろそろ家帰るかァ。暗くなってきたし。
 あ☆でもそこまでの道のりがちょっとセイン君には危険かもね。なんか、弱そうだしィ?」

 ―ムカッ
 オレは、挑発に乗せられてしまった。

 「危険な道なら尚更行ってやるよ。行ってやろうじゃん!」

 ―あーあ…。

 「クス♪決定ね。
 みんな、先に行ってて。後からすぐ追いつくから。
 グラもエナも、お母様に『今から帰ります』っていっておいて?」

 バババザザッザザザッッ

 ポケモンがみんな、この場から一目散にかけてゆく。

 最後のほうで、二匹のグラエナが残っていた。たぶん、さっき最後に言っていたグラとエナだろう。
 遠吠えをして、駆け出していった。

 それから少し経って、

 「さて、あたしたちもいきましょうか。」

 少女が歩き出す。だが、ポケモンたちとは別方向だ。

 「どこ行くんだよ?」

 振り向いた少女がニコッと笑い、オレの後ろに周りこんだ。

 「さあ、行きましょ。よっわむっし君♪」
 といいながら、オレの背中をポンポンっと叩く。

 ―ムカッ

 「分かったよ!」

 二人で駆け出す。前方に、大きな草陰があった。

 たぶん直進なんだろうと思い、突っ込んだ。

 しかし、前には道がなかった。

 ―『崖』だったのだ。

 「う、うわあぁあぁぁっ!!」


 深い森へと落ちて行く時。崖が、オレの声だけをやけに響かせた―…
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乱菊 #8☆2006.12/11(月)23:51
第8話   森の掟<オキテ>。

―只今落下中。

 「う、わぁぁああっっ!」
 「きゃははは♪叫びすぎ〜^^*」
 「オイ、これからどうするんだよ!」
 「え〜?言ったらおもしろくないじゃん☆」
 「…てめぇ(怒)」
 「きゃはは、怒んない怒んないwじゃあこの辺で―」

 リーシャがどこからともなくおおきな角笛を取り出す。

 そして大きく息をたっぷり吸い込み―

 
 『プォォォ〜ンッ!!』

 周りに笛の音が響き渡る。―一体何を・・

 リーシャがこちらにくるっと向き直る。

 「さて、お楽しみはこれからよ☆そんなに警戒しないで。だいじょぉ〜ぶ、多分死なないから♪」
 「オイ。もしその多分の内にはいっちまったらどぅすんだよ?(汗)」
 「うーん。めちゃめちゃめちゃ運がなかったってコトで^^」
 「おい〜っ!?(超汗)」
 「大丈夫だってば☆死ぬときはあたしも一緒だし♪」
 「…そういう問題じゃねぇだろ。」

 全く。こいつはなんでこんなにお気楽なんだよ?
もしかしたら自分も死ぬかもしれないのに。
 そんなに、自信があるってことなのか?

―って、

 「おいおおいおい!下にめっちゃ尖った岩がいっぱいだぞ!?」
 「あーうん、そーなのよ〜。ここいっつもこんなものがあるからさー、大変なんだよねぇ。そのうちバンギラスさんに頼んで壊してもらうつもり。」
 「いやいやいやいや…。オレらはこの先どうなっちゃうわけ!?」
 「あはは、串刺しかな。―ちょっと待って。リキキが来ない・・。本当に、やばいかも。。」

 リーシャもちょっと青ざめている。
 ―もしかして、本当に?

 まぢかよ。でも、こんなところで、

 「死んでたまるかよっっ!!」

 ニッ、っとリーシャはセインに隠れて笑った。

 ―その時だった。

 バッッ
 
 「!?」

 リーシャに手首を掴まれ、そのリーシャをなにかが乗せている。

 ―キリンリキだっ!

 「えへへwだ〜いせいこうー^^*」
 「…んな?」
 「一瞬あたしが青ざめるフリして本当に焦って叫んだじゃない♪ちょっと焦った顔と態度が見たくて演技したの〜☆あははw」

 「はぁ〜。なんだよ。最初っからはめられてたのかよ;」
 「あはは、ごめんごめん^^;じゃ、行くよ!」

 オレ達はリーシャとポケモン達の家に向かった―・・
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乱菊 #9☆2006.12/11(月)23:52
第九話    リーシャの家。

 「へぇ〜。けっこうマシなとこに住んでるんだな。」
 「マシってなによ!失礼しちゃう。(怒)」
 「じょうだんだって、怒んなよ。」
 「ふん。そりゃおぼっちゃまはこんないよぉに広くて何もない家に住んでないから分かんないんでしょうよ!(怒怒)」
 「…悪かったって;(汗)この食べ物やるから。」
 「何?コレ。」
 「マンゴーってゆーんだ。甘ぇぞ〜?」
 「うう〜…。(照)」

    パクッ。

 「お、おいしい…。」
 「うめぇだろ。これで許してくれるか?」
 「なっ、ゆ、許さないからね!(照怒)」
 「はいはい。(苦笑)」

 ここはリーシャの家。家っていっても、窓ガラスとかもないしレンガとかの頑丈な家じゃないから、風がスースー入ってくる。
 まあ、その代わりといっちゃなんだが、すごく涼しい。
 夏にはまさにもってこいの家だな。

 「ってゆーか、なんでこんな高いんだ?」
 「だって、下はみんなが雨宿りする場所だもの。」
 「だからこんなに広いのか…。って、アイツらは?ポケモンたちはどこいったんだ?」
 「あ、そぉだった!あのね、本来の家はここじゃないんだよ。ここはあたし、“リーシャ”と少しのポケモンが一緒に住む仮家で、いつもはリシャちゃんの家、本家のほうにいるの。今みんなはそっち行ってるわ。あたしも行かなきゃ。じゃあね、セイン君。勝手に寝ちゃってて♪」
 「え、ちょっ…」

 ザザザザザッ

 リーシャは草木を掻き分け木々に飛び移りながら行ってしまった。
 「全く。むちゃくちゃな子だな、あのコは。でも、まっ。―楽しいからいっか!」

 ゴロンと仰向きになる。そこで初めて気がついた。

 ―天井には、ちゃんとガラスが張ってあった。

 星が良く見える。心が安らぐ…

 「…おやすみ。」

 誰もいないと分かっていながらも、オレはつぶやいた―…
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乱菊 #10☆2006.12/11(月)23:52
第十話    リシャの家<住処>。※今回はリーシャ視点です。

 ザザザザザッ  バッ

 ―やっとついた。

 「遅れてごめんなさい、お母様。」

 みんなにも同様に謝る。「ごめんね・・」

 優しい反応の声が返ってくる。―お母様の、声。

 「いいんだよ。あんたは飛ばしてきたんだろう?息を切らしているじゃないか。許さないわけがないよ。」

 ―優しい優しいお母様。

 「はい。…ありがとうございます。」

 ―大好き。

 「さて、みなさんも知っている通り村に来た資産家の息子、“セイン・イルバー”を人質に取った。村の人間どもはかなり同様していた。リシャが村の者に忠告したから、当分は安心できるよ。」

 ―イルバー?聞いたことのある姓だった。
 でも、そんなことはいちいちきにしない。
 皆が歓声を挙げて喜んでくれている。
 ―でも、皆を喜ばせてあげているのはあたしじゃない。
 
 ―リシャちゃんなんだ…。

 『リシャちゃん』
>「なんだ?」
 『みんなが、リシャちゃんを祝福してくれてるよ?』
>「分かっておる。」
 『交代、しなくていいの?』
>「今、我がでていってもどうせ受ける歓声は変わらん。それに―」
 『それに?』
>「我が出てくるのにはあの毛皮の仮面が必要だからな。取りに行くにもちょっと時間がかかる。
>なくとも出られるが、そうするとお前に負担が掛かるであろう?」
 『いいわよ、そんな痛みくらい。それより、この歓声を浴びるはずなのはリシャちゃんだ、ってずっと思ってることの方が負担よ。』
>「…悪いの。」
 『いえいえ。リシャちゃんには、幸せを味わってもらいたいのよ。あたしが勝手にやってることなんだから。』
>「…行くぞ。」
 『ええ。いつでもどうぞ。』

 あたしの体を光が包み始める。
 ―うっ・・!!

 痛いっ・・でも、耐えなきゃっ―

 シュウウゥゥ…

 光が消え、あたしの精神とリシャちゃんの精神が交代する。
 
 あたしは、奥の空間にとじこめられた。

 ―リシャちゃんはいつも、この空間に耐えてくれているなぁ。
 だから、あたしもあんなカンジで恩返ししてあげなきゃね。

 これからも、どんどん。
 リシャちゃんが、みんなと仲良さそうにしゃべている。
 万遍の笑みが、こぼれる。
 皆も、どの子をみても、笑顔。

 ―あれ?

 ―あたしの、

 ―居場所は、

 ―どこなんだろう?

 みんなが、仲良さそうにしゃべっているのに不安を抱えるあたしとは対称に、リシャちゃんはいつまでもいつまでも、

 ―優しい微笑みを漏らしていた。
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乱菊 #11☆2006.12/11(月)23:52
第十一話  『あたしはー…』※今回も引き続き


 ザザザザザッ

 ―ふぅ。ようやく着いた。

 それにしても、かなり遅くなっちゃったなぁ。

 でも、あたしは眠くない…。

 ―リシャちゃんは、もう寝てるみたい。話しかけてこないもの。

 家に、足を下ろす。

 トンッ

 「ただいま…。」

 知ってる。誰も待ってはいない―


 「おかえり。ずいぶん遅かったな〜」
 「んな!?お、おきてたの・・?////」

 ―恥ずかしい。独り言を聞かれてしまった…。

 「にしても、2時はおせーだろ。何やってたんだよ?」
 「かんけーないでしょ!っていうか寝なかったの?」
 「ねれねーんだよ。こんな暗くて広いところに一人でなんて。」
 「もしかしてセイン君・・甘えん坊?w」
 「な!そういうことじゃねぇよ!」
 「ふ〜ん」
 
 あたしはセイン君の隣に座った。

 「ねぇ、セイン君。」
 「ん?」
 「この世界に、必要のない人間って、いると思う?」
 「なんだよいきなり…」
 「いいからっ!」

 ―答えは聞きたくない。でも、知りたい。

 ―お願い。

 ―『いる』っていわないで…

 「いるだろうな。」

 ―ああ。

 「…そう。」

 ―聞きたくなかった、答え。

 「でも、それは人によって違うだろ。」

 ―え?

 「人によって違うって、どういうこと?」
 「だからさ、自分が『この人は必要ない』って思ったら、自分の世界ではその人は必要なくなる。でも他の人が『必要だ』と思うのならば、他の人の世界では必要になるんだよ。」

 ―じゃあ、

 「あたしは?」
 「は?」
 「だからっ、」

 ―あたしは…


 「この世界に、必要な人間なの?」

 ―不安だ。もしここで必要ないといわれてしまったら、あたしの居場所は、ない―

 
 「―必要だよ。少なくとも、オレには。」

 暗闇で顔は見えないが、きっと照れているのだろう。
 影が、そっぽを向いた。

 「―ありがとう…。」

 ―あたしは、嬉しさでいっぱいだった。

 ポケモンたちの中にある居場所を取られたあたしには今、

 「あたしも、」

 「セイン君が必要よ…。」

 支えてくれる大事な人が、必要だった―…
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乱菊 #12☆2006.12/11(月)23:53
第十二話  『俺の中の俺』。新しい人格―。


 ここは、どこだ?真っ暗で、何も見えない。

 一体、ここはどこなんだ?


>『お前の心の中や。』

 「だ、だれだ!?」

 振り返ると、黒い影が見える。顔が、良く見えない。

>『俺は俺や。』

 「ふざけてないでちゃんと答えろっ!」

>『せやから、言うとるやろ?俺は俺や。おまえン中におる俺や。』

 「…どういう、ことだ?」

 イミが、分からない。コイツは、何を言っている?

 ―ソイツは、だんだんオレに近づいてくる。オレはとっさに、顔を伏せた。

>『俺はな、おまえン中のもう一人のお前や。それで、俺でもある。』

 オレの中の…まさか!

 「まさか…オレのもうひとつの人格っつーんじゃねぇだろぉな?」

 ―小さく笑う声がした。

>『ご名答。』

 そんな、オレにもリーシャと同じように人格が別にあったのか?

 「そんな、バカなっ・・!」

>『バカでもなんでも現実見ィや。現に俺がおるんや。認めんといかんやろ。』

 認めたくない。でも、現に目の前に、ソイツはいる。
 ―オレは、顔を上げてみた。上げないほうが良かったと後悔するのに、そう時間はかからなかった。

 ―オレと同じ顔。体系。服。似ているというより、同じだ。

 違うのは、しゃべり方と目と髪型。

 しゃべり方は関西弁。目はするどくて、全てを否定し、突き刺さりそうな威圧感を持っている。髪はほぼかわらないが、癖毛の向きが違った。

>『どぉや。分かったやろ。俺は俺で、おまえン中におる俺や。
>でも、人格はちゃうで。お前は甘すぎるさかいな。』

 「…甘すぎる?」

>『そぉや。お前は何かといわれても投げ飛ばしたり殴る、蹴るを寸前でとめて威嚇してるだけや。甘すぎるわ。
>俺はな、そんなお前の不満から出来た人格なんやで?
>好きなことは…


>―人殺しや。』

 寒気が、奔った。
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乱菊 #13☆2006.12/11(月)23:54
第十三話  途切れた記憶。信じられない過去―。

 「人殺し・・だと?」

>『そぉや。ちゃんとしたモンやで。ナイフや剣とか使ぉて。』

 「な、なぜそんなことを!」

 押し殺したような笑い声が漏れる。


>『―楽しいからに決まっとるやないか。
> 恐怖に歪み、追い詰められ、ボロボロになっていくのを見るのがたのしいんや。
> 後、“殺してやった”ゆう達成感も最高やでェ?
> せやから俺は、人殺しをするんや。』

 ―最悪だ。楽しい、だと?

 「ふざけんな…。人の命を、なんだと思ってやがる!」

 さっきまで自慢気に話していたアイツの顔が、いきなり険悪になる。

>『じゃあ、ポケモンの命、考えたことあるか?』

 「え…。」

 いきなりの質問に、言葉が詰まる。

>『この世にはなァ、確かにポケモンはぎょーさんおる。でもなァ、知らんやろぉが、ポケモンの数は年々減少しているんや。
> なぜだか、お前に分かるか?』

 「―分からない。」

 年々減っていること事態、知らなかったんだから―

>『一つは、ポケモンたちの住んでいる住処を焼いて住宅地を立てているからや。その時犠牲になったポケモンが何匹いると思う?数え切れへんわ、そんなモン。
> もう一つは、実験や。
>“どこをどうしたら最強のポケモンが作り出せるのか”そんなことをしているアホな学者どもが、たくさんおるんや。
> こんなんがおって、ポケモンが安心して住め、生きられると思うとるんか?
> せやからまず、ソイツラを殺した。それが楽しかったから、周りの奴らも殺した。
> 楽しいし大好きなポケモンたちも守れるンや。一石二鳥やろォ?』

 にやりと笑う。怪しい笑い方。

 ―だからって…

 「だからって、反対に殺して言いワケねーだろぉが!!」

>『まぁそういうなや。
>ところでお前、記憶飛んでる時なかったか?』

 ―記憶が、飛んでるところ?
  確かに、小さいころ何をしていたか覚えていない。
  いや、思い出せないんだ。
 だが、なんでそのことをコイツが知っている?

>『なぜ俺が知っているのかって思うてるやろォな。
> 誰にも話したことがないのに、なんでやろォな。
>― 見ていたわけじゃああるまいし?』

 ―ミテイタ?

 まさか!

 「まさか、俺が小さいころからいたっていうのか?
 記憶が飛んでいる原因は、お前がなにかしたからだっていうのか!?」

 さっき以上に、口が横に開く。

>『―ああ。俺はお前が小さいころから、いや、生まれ時からいた。
> お前の記憶を消したのは俺や。まぁ知ってても困るさかい消してやったんやけどなァ?
> せやけど、期は熟した。そろそろ真相を話さんといかんなァ。
>―アイツもそろそろ、目覚めてまう頃やしな。』
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乱菊 #14☆2006.12/11(月)23:54
第十四話  『アイツ』 第三の人格。

 ここは、どこ?
 真っ白で、何がそうなってるか分からない。

 前に、四つん這いになった一つの影が見える。その影に向かって、あたしは進んだ―・・


 「リシャ、ちゃん?」

 近づいて分かった。この影は、リシャちゃんだ。

 『―リーシャか。』
 
 リシャは立ち上がり、振りかえってそう行った。

 「ここは、どこなの?」
 『分からぬ。それに、我ら二人が同じ空間に立つことなど、ありえぬはずなのだ。』
 「そういえば、そうよね…。」

>「それは、私(わたくし)があなた方をお呼びしたからですよ。」

  ―!!あたしとリシャちゃんは声のするほうへ振り返った。
    そこには…

 「あ、あなたはっ…!」
 『―やはりの。好くない予感がしておったのだ。』

 そこには、あたしたちと同じ形をしたヒトがいた。
 

>「初めまして。私はリーシャル。あなたたちを見守るものよ。」

 「あたしたちの、第三者っ!」
 『目的を答えろ』
>「あら。私は見守るものですのよ?」
 『何故、今頃出てくる必要があるのだ。それを答えろ。さもなくば…』
 
 リシャちゃんの声が、どんどん低くなる。

>「そうですね、お答えしてさしあげましょう、なるべく早めに。あなたは人間不信ですものねv

> 実は、あなた方に協力してもらいたいことがあるのです―」
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乱菊 #15☆2006.12/11(月)23:55
第十五話  協力の理由

>「実は、私はある方と長年の対決をしているのです。」
 「ある、方?」
>「ええ。私と同じで、何かの媒体、つまり誰かの体に入っていて、操っている者です。」
 『で、対決とはなんだ?』
>「といっても、私が一方的に挑んでいるのですけど…。
> その方は、人殺しをしているのです。」

 ―今、何て―…

 ―人殺し!?

 「人殺しなんて、していいハズがない!」
 『確かにの。脅したり傷つけるまではいいが、さすがに殺すのはの…。』
>「そうなのです。私はそれが許せず、その方と戦っているのです。
>  今まで大丈夫でしたが、ついにその方が目覚めてしまいました。
> ―私はその方を止めたいのです。どうか、力を貸してくださいませんか?」

 あたしとリシャちゃんは顔を見合わせた。
 リシャちゃんがためらいつつもゆっくりと頷く。
 リシャちゃんがいいのなら、あたしも同じ。

 「―分かりました。力をお貸しします。でも具体的にどうすれば?」
>「ありがとうございます。いえ、そのときになった時にお体をお貸ししていただけばそれで。
>   ほんとうに、ありがとうございますー…」

 リーシャルは微笑んだ。

 だけど、

 あたしにはどこか、

 ―この人はなにかを隠してると感じた…。
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乱菊 #16★2006.12/17(日)21:09
第十六話  過去と今をつなぐモノ

 “…ャ、―シャ”

 ―だれ?何て、言ってるの?良く、聞こえない・・。

 “ーシャ、リーシャ、リ〜シャってばっ!!”

 ハッ

 「…エナ。」
エナ(グラエナ)“ど〜したのよ、リーシャ!あんたが寝坊するなんて、めずらしいじゃん。いっつも起きなくていいぐらい早く起きるのに。
 ―しかも、うなされてたわよ?だいじょうぶ?”
 「なんて言ってるかわかんないけど、大丈夫だったか?めちゃくちゃうなされてたけど。」
 「!?なっ////」

 どうやら、うなされていたらしい。
 しかも、

 エナだけならともかく…

 ― セインにまで聞かれていたなんて。


 “だいじょぶならあたいは行くよ。母様に呼び出しされてるからね。”
 「ああ、じゃあ行ってらっしゃい。…あたしはもう大丈夫だから。」
 “―なんかあったら呼ぶんだよ。じゃあね〜!”

 ザザザザザッ

 「…なんて言ってたんだ?」
 「あ、そっか。普通の人間なら聞こえなくて当然だよね。うなされてたけど大丈夫?なんかあったら呼んでね、っていってたんだよ。」
 「すっげぇ!ポケモンとしゃべれんのか〜、うらやましい〜!!」
 「あはは^^;日常茶飯事のことだから、あんますごいって実感ないんだけど…。」
 「すっげぇよ!お前すっげぇな!」
 「え?そんなことは…」
 「すっげぇって!!」
 「あ、ありがと…////」


 ―こんなに褒められたのは久しぶりかもしれない。
 お母様にもみんなにも、褒められたことなんて…あったけど、ほんの少ししかないし、けっこう昔。
 
 ―うれしい。

 あの時みたいに、うれしい…。

 “あのとき”

 リーシャがイキナリ立ち上がって、隣の部屋に入り、何かを探し始めた。

 「どうした?いきなり」

 数分して、リーシャが出てきた。

 手には、小さな丸い綺麗な石のペンダントを持っていた。

 ―あれ?

 セインには、どこかで見たことのあるようなペンダントだった。詳しくは思い出せないが…

 「それは?」

 「これはね、すっごく小さい時、ある男の子に貰ったものなの。
 姿もカオも声も、なんにも覚えてないけど…不思議と、このペンダントのことは覚えていた。
 あたしが遊びに行くときにね、いっつも決まって言うの。『あのペンダント、ちゃんと着けて来た?お守りなんだからね!』って。
 ―なんかその後、よくわかんなくなっちゃったんだけど、これだけはしっかり持ってたの。
  いつか、男の子に会ったとき、これを見せたらあたしを思い出してくれるはずだから…。」

 「そっか。大切な、ものなんだな。」
 「うんw」

 ―なんでこんなくだらないことを、話したんだろう。
  いまさらなのに、なんで…

 “リーシャ、今すぐ着てくれ、沿岸に!!”

 グラ(グラエナ)が、急いで窓から入ってきた。

 ―イヤな予感がした。

・つづく・
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乱菊 #17☆2006.12/23(土)22:49
第十七話    帰ってきたナカマ

 ―一体何なの?突然。いきなり呼び出されるなんて、今までになかった。

 ―それに、この悪寒は…?

 ザザザザッ、ザッ
 「リーシャ、ただいま参りました!」
 
 沿岸には、ほとんどのポケモン達があつまっていた。
 お母様も、グラもエナも。

お母様(グラエナ)「良く来たね、リーシャ。…ゴニョ。」
ゴニョ(ゴニョニョ)「はい。リーシャさん、実は、さっき変な音がしたんです。」
リーシャ「変な音?」
ゴニョ「はい。なにか…いっぱい来てるんです。さっきから、どんどん近づいてるんです。
 もう、すぐそこまでッ!」

 「!?」

 全員で上を見る。 
 遥か彼方の大空に、小さいつぶが5〜6個ある。

 ―どんどん、大きくなっている。

 ―あれは…?

ゴニョ「あ、声が聞こえます!『〜ァ、〜カチュウ』って」
 そのつぶは、やがて小さな影となり、光を放った。

 ―あ!あれは、

 あたしは駆け出し、叫んだ。

 「おかえり〜!ラムネェ〜!!」

 ―それは、


 ―あたしの“心友”だった。

・つづく・
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乱菊 #18★2006.12/28(木)01:04
※物語が二つ同じものになっていたので消しました。
この余白は、消せたら消したいと思いますが、できないかもしれません。
その時はすいませんが、よろしくおねがいします。
前お知らせしたとおり、物語の前半部分で少し修正があるので、話変わっていてもつっこまないでください…。><。
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乱菊 #19★2006.12/28(木)01:01
第十八話  新しいナカマ。そして、悲劇の幕開け…

 帰ってきた。あたしの心友、大好きな親友、ピカチュウの“ラムネ”!

 『リ〜シャ〜!ただいまー!』

 ラムネが叫ぶ。―久しぶりにこの声を聞いて嬉しくなる。

 みんなが着地した。

 「やっと帰ってきたのね。また、にぎやかになるわね・・。」
 
 お母様がそっと笑みを浮かべる。

 『はい、ラトナ様。ご心配おかけしましたが、ラムネ、無事に戻ってまいりました☆あと、ナカマになったコ達も連れてきてしまいました♪』

 
 ラムネはあたしの心友で、手持ちではない。
 そして、このコは冒険が大好き。
 だから、一人で えと…ホウエン地方に行ってたの!
 どうやら、ナカマを連れてきたみたい。
 ―みたことないコばかり。

 
 「わ!チルタリスにキノガッサ、ロコンにミズゴロウ、アブソルまで…どっから来たんだ?」

 ―背後から突然声がした。

 ―この声は…

 振り返ってみるとやっぱり、セインだった。

 「なんでここにいるの?」
 「なんでって、ついてきたからだよ。ずっとあそこの岩陰に隠れてたんだけど、名前が分かんなさそうだったから出て行ってやろうと思ってよ!」

 ―あたしはものすごいスピードでココに来たというのに、ついてきた?

 …すっごい運動神経。(←自分のことは気にしていない)

 ―まぁ、いいや。

 「やっぱり、布巻いておいて正解だったわね。」
 『うんwみんな分かってくれたよ!』

 布とは、目印になるようケムッソの糸から作ったお手製の布のこと。他のポケモンたちと見分けがつくよう、ラムネの耳に巻いておいた。

 『あ、そうそう!実は、あたしたちを旅の中、ずっと付き添って守ってくれた人がいたんだ〜w
 その人、実はついてきてるの♪』

 ―人? …“人間”!?

 「まさか、人間を連れてきたんじゃないでしょうね・・?」
 『正解wでも、絶対悪い人じゃないから安心して!
 今、連れてくるから。』

 ―人間。
 ―あたしと一緒に人間が嫌いだったラムネが、

 ―“ニンゲンヲツレテキタ”

 どうしても状況が掴めなかった。周りのみんなも困惑している。
 
 ―ウソだよね?

 そう、信じたかった。

 でも、すぐに打ち砕かれた。

 ―ラムネは本当に、人間を連れてきていた…。

・つづく・
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乱菊 #20★2007.03/14(水)17:24
―これは悪い夢だ。

 ―きっと、もうそろそろ目が覚めて、

 ―目の前の人間は、消えるはず…。

 『はじめまして』


 ―夢は、覚めない。

 第十九話   新しい人間、“グレイ”。

 「はじめまして。えーっと…人間の女の子、だよね?」
 『そうよ、グレイ!このコはリーシャっていうの♪とっても優しくて、あたしの大大だ〜い親友よ☆』
 「はじめまして、僕はグレイといいます!ラムネたちに連れられて、ここにやってきました。ちなみに、僕が会話をできる理由は、このヘッドフォンにありまして…。」
 「ああ〜っっ!!」

 後ろから大きな声がする。…そっか、忘れてた。セインがいたんだっけ。
 セインは目を輝かせながら走ってきた。

 「なんと!それはオレの会社が発明した“ポケット・スピーカー”じゃないか!小さくて計量なのに、いつでもどこでも着けているだけでポケモンと会話することができる会社の自信作!
 …でも、まだ売ってなかったような?」
「い、いえこれは、僕の叔父様が特別にち、注文してくれたもので;」
「そうだったのか〜。でも、なんか嬉しいぜ♪お前はいい奴だ!」

 ―あやしい。
 ―なぜ、焦る必要がある?

 ―グレイくんは、何かを隠しているのではないの?

 「ねぇ。」
 「は、はい?」
 「それ、ほんとに叔父様にもらったものなの?」
 「え。」
 「何いってんだよ、リーシャ。」
 「なんか、怪しいのよ。普通、物を誰からもらったのか聞いただけで、あんなに焦りはしないわ。」
 「そ、それは…。」
 「ぱっと出てこなかっただけだろ?」
 「はい。…そうです。」

 ―怪しい。

 「とりあえず、あたしはあなたを信じない。ラムネが許したとしても。絶対に。…ここにいるお母様やみんなもね。」

 そういってあたしは、この場を去った。


 ―あの時感じた違和感は、

 
 ―当たっていたのに。

・つづき・
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乱菊 #21☆2007.03/14(水)18:09

 ―なんだろう、この胸騒ぎは。

 ―良くないことが、起こる気がする…。

第二十話   “ツナガリ”

 タンッ!
 
 「はぁ。全く、なんでラムネったら、人間なんか連れてきちゃったのかな…。」
 
 ラムネはあたしの友達。手持ちではなく野性のポケモンだ。
 この森にはじめて来たとき、あたしにここでの生き方を教えてくれた第一人者。
 旅がスキで、今回が3回目の旅。
 今回までポケモンを連れてきたことはあったけど…人間を連れてきたことはなかった。
 なのに、何故。何故今頃になって、人間を連れてきてしまったのか。
 人間が何をしでかすか、大体分かると言うのに…。

 「考えてもしょうがない。寝よう、こういう時は!」

 あたしはすぐ横になって、眠りについた―…


 『リーシャル、リーシャル』

 ―誰の声?ここは、どこ?
  目の前には、見たことのない草原が広がっている。

 『こっちだよ、こっちこっち、姉さん!』

 ―姉さん?
  これは、リーシャルの過去?

 『待ちなさいってば、リーシャル!今日は   が来てくれるんでしょ。もうちょっとじっとしてまってなさいよ』

 ―名前が聞こえない。ダレのことなのかな…。

 『分かってるよ〜。今日は何して遊ぼうかなァ〜・・あ、来た♪』
 
 ―遠くから、誰かが走ってくる。顔が見えない。

 『リーシャルー!今日はプレゼントもって来たよー!』

 ―顔は分からないけど、声で分かる。…男の子だ。

 『わぁ、ペンダントだ。きれ〜い、ありがとう!』

 ―あ、あのペンダントは…

 『これはね、お守りのペンダントなんだ。このペンダントをつけてると、絶対守ってくれるんだって!
 なんたって、伝説のポケモンたちの涙がはいってるんだからね。』

 ―お守りの、ペンダント…。


>「思い出したんですの?リーシャ」
 「リーシャル。何言ってるの、あれはあなたの過去でしょ?」
>「何をとぼけているのです。私があなたに私の過去を見せて何の特になるというのですか。」
 「え…?じゃぁ、あれは・・」
>「紛れもなく、あなたの過去ですわ。
> 話がそれました。さっきまでの話はさておき、あのペンダントがどういうものか、お分かりになったでしょう。
> これからアノ力(あのちから)が必要となってきます。肌身離さず着けていなさい。」
 「どういうこと?何が起きると言うの?」
>「それは秘密裏にしておきますわ。では…ちゃんとつけるんですのよ。」
 「まっ―  ッ!!」

・つづく・
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乱菊 #22☆2007.03/15(木)17:10

―どういうこと?あの記憶は、あたしのなの?

 だったら、あたしは、一体…ダレなの

 
 第二十一話  ペンダント

 ハッ

 「夢、か…。」
 
 ―いや、たぶんあれは夢じゃない。“記憶”だ。
 

 ―記憶の中で、あたしは『リーシャル』と呼ばれていた。
  リーシャルは、あたしの過去のあたしなの?

 ―こんがらがってきた…。

 ズイッ

 ―ん?なんか暗くなった…

 「おい、大丈夫か?」
 「せ、セイン!何でここに?」
 「今、オレの家は一応ここだからな。」

 ―そういえばそうだった…。

 「あの男は?」
 「グレイはまだ海岸にいる。」
 「…そう。」
 「なぁ、なんであんなに拒否るんだ?」
 「言ったでしょ。人間は信用しないって。」

 ―信用した途端に裏切られる。
  あんな悲劇はもう、見たくない。

 「じゃぁ、なんでオレは…」
 「とぼけないで。あなたは人質なの。信用しきってるわけじゃないわ!」

 ―しまった。少し強く言い過ぎた。

 「…ごめん。ちょっと頭に血がのぼったわ。」
 「いや、本当のことだからな。言われてもしょうがないし…」

 ―なんか気まずくなった。
 
 ―あ、そういえば、夢だとしてもリーシャルは『ペンダントをちゃんとつけてるんですのよ。』って言ってたよね。
 …悪い予感もするし、つけとくにこしたことない、か。

  あたしは立ち上がりペンダントを取り出し、首から掛けた。
 「どうしてつけるんだ?」
 「ちょっとね。悪い予感もするし。これ、お守りのペンダントみたいだから。」
 「お守りの、ペンダント…?」

 セインの顔つきが一瞬険しくなったが、すぐ戻った。

 「なんで寝てて起きたと思ったら、そのペンダントがお守りだって分かったんだ?」

 ―ヴ。

 「か、勘よ、勘!あたしの勘、けっこう当たるんだから。」
 「ふ〜ん。勘ねぇ…。」

 ―なんかあやしまれてるけど、まぁとりあえずごまかせた。
 
 ―それにしても、今頃このペンダントをつけてなんになるというのかな。
  今まで、助けてもらったことなんて一度もない。
  …あんな悲劇が起きたときも、このペンダントを持っていたけど、なんにもならなかった。
  本当に、夢で言ってたことは合ってるのかな…。
  ま、つけてて不便はないから、つけておくか!

 
 あたしはこの時思いもしなかった。このペンダントが後々こんなに大きな…


 ―みんなの命を救うほど、大きな力になるとは。

・つづく・
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乱菊 #23☆2007.03/16(金)21:51



 ―あたしの中で不安なことは、あの男の子、“グレイ”の事だけだと思ってた。

 ―この嫌な胸騒ぎは、人間が来たからだって。


 ―そう、思いたかったんだ…。

 
 第二十二話  リーシャとグレイ

 「あ、そういやぁあいつ、もーそろそろこっち来るぞ。」
 「アイツ?」
 「そうそう、アイツ。グレイだよ。アイツ泊まるところないから泊めてほしいんだと。」
 「なっ…そんなのイヤに決まってるでしょ!?なんであんなやつを家にあげなきゃなんないのッ!」
 「そんなこと言ってもよー、アイツだって寝泊りするところないんだぜ?もともとお前の友達が連れてきちまったんだし。」
 「そりゃラムネが連れてきた事が根本的にダメなんだけど、自分で作れば済む事じゃない。」
 「イヤ、普通に考えて無理だろ。(汗)」
 「何言ってんの。あたしはできたわよ。」
 「この家をかっっ!?(汗)」
 「うん。そんなにおかしいことじゃないよ?みんなに手伝ってもらったし。」
 「…そうやって言えよ。ムダに焦っただろ。」
 「なんか言った?(怒)」
 「イエー、ナンデモナイデス。(棒読み)」
 「(なんでカタコト?)というわけで、上げる気ないからね。」
 「そんなコト言うなよ。じゃあ、あの洞窟でもいいのか?」
 「そんなことしたらお母様に噛み砕いてもらうから。」
 「…だったらここしかないな。」
 「でもイヤ。」
 「イヤって言っても、もう来てるぞ?」

 外には、あの男がいた。こっちを向いて呆然と立っている。

 「なっ、いいって言ってないじゃない!!」
 「教えちまったんだからしょうがないだろ。」
 「ちっともしょうがなくない!!(怒)」
 「あの…」
 「何?(怒)」
 「さっき、名前を聞いたんですけど、忘れちゃって。」
 「…リーシャよ。」

 グレイが目を見開く。
 
 「そ、そんな…まさか…。」
 「何なの?」
 「どうしたんだ?グレイ」

 グレイは急いで胸元から何かを取り出した。
 それは…

 ―あたしの首に掛けてるペンダントと、同じものだった。

 「ねえ・・さん…。」

 ―その一言一言が、信じられなかった。

・つづく。
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乱菊 #24★2007.03/31(土)18:39
―ねぇ、今、

 ―何ていったの?

 ―分かんない。聞こえない。

 ―『ねえさん』。

 第二十三話 グレイの正体。

 「ねえさん…姉さんッ!!」
 「ナンって、何を言ってるのよ。」
 「リーシャと同じ、ペンダント?どういうことなんだ?」

    ズキッ

 「うっ!」
 「リーシャ、どうした!?」
 「姉さんッ…」

 ―頭が痛い。狂いそうなほど。

 ―だめだ。みんな顔が、ぼやけ、る…。

 『いいなぁ〜、おねえちゃん。そのペンダント、綺麗〜。』

 ―この男の子、前の男の子とどこか違う。そして、このコは…

 ―グレイだ。

 『いいでしょ〜w    があたしと姉さんにくれたのよ♪』
 『ずるいッ!ぼくもほしいよぉ〜!』
 『そんなこといったって、   が言うにはこれ、けっこう珍しくてもう売ってないかもって言ってたしなぁ…。』
 『なら、私のをあげるわ。』
 『大姉ちゃん!いいの?』
 『姉さん、いいの?』
 『ええ。そのかわり…ずっと大切に持ってなさいよ。』
 『うん、もちろんだよ!ありがとう、大姉ちゃんw』

 男の子…グレイは走ってどこかに行ってしまった。

 『リーシャル』
 『なぁに?姉さん』
 『グレイとは、今日でお別れよ。』
 『え、どうして!?』
 『私達とグレイは血のつながっていない姉弟。あのコは今日、他の親代わりの人に引き取ってもらうの。』
 『そんなっ・・なんとかならないの!?』
 『ムリよ。』
 『そんな…。』

 すると向こうから、男の子が兵隊に追いかけられてこちらに向かってくる。

 『おねえちゃん、大姉ちゃん!やだっ・・ぼく行きたくないッ』
 
 あと10メートルと言う所で、兵隊に捕まり、引きずられていく。
 『すみません、お邪魔しました。』
 『いえ、いいのです。さっさと連れて行ってください』

 姉さんが、冷淡に言う。
 『なんてこというの、姉さんッ・・』
 『大姉ちゃん、おねえちゃん〜ッ!!』
 『ああ…、グレイ、グレイィ〜ッッ!!』

 ―本当に、あたしの、弟なんだ。

 ―本当に、


 ―会いたかったんだ…。

・つづく・
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乱菊 #25★2007.03/31(土)18:40
―グレイは本当に、あたしの弟だったんだ。

 ―でも、どうして?

 ―どうしてまた、

 ―“リーシャル”なの…?

 第二十四話   姉弟

 ハッ

 「大丈夫か、リーシャ!?」

 目の前に飛び込んできたのは、セインの顔だった。

 「また、夢なの…。」

 ―いやむしろ、“記憶”と言うべきなのかな。

 「姉さん…。」

 ―グレイ。

 「僕は、ずっと姉さんを探してたんです。あの後、ずっと…。
 3年前、ようやく思い出の場所まで辿り着いたのに、大姉さんは亡くなっていて、姉さんは行方不明となっていた。
 僕には、もうどこにも、探す術がなかった…。」

 ―あたしは、グレイといた記憶が今までなかった。

 ―だけどグレイは、

 「…会いたかったよ、グレイ。」

 ―ずっと覚えてくれていて、

 ―ずっと探していてくれた。

 「ねえ・・さんっ・・!」

 あたし達は、お互いで抱きしめあった。
 今までの空いた時間を、埋めるように。

 ―あたしの目から知らず知らずの内に、涙が溢れかえっていた。

・つづく・
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乱菊 #26★2007.04/01(日)21:04
―気づかなかった。

 ―あたしをこんなに思ってくれる人がいたなんて。

 ―でも、なんなんだろう、

 ―この悪寒は…。


 第二十五話  ついに対峙、リーシャルVS

 「ねえさん、分かってくれたんだね。」
 「ええッ!」
 
 ちょっとの沈黙の後、いきなりグレイがあたしを離した。

 「どうしたの?」
 「姉さん、こんなところにいちゃいけない。ここにいたら、危ないんだッ!」
 「何が危ないと言うの?ここから出たほうがもっと危ないじゃないの。」
 「違う、そりゃ“普通に過ごしてる時”だけだ。今は危ないんだよ!!」
 「意味が分からないよ、どうしたの?」
 「くッ・・何でもいいから早くこの島から―・・」

 ―キィィィンッ

 「ぐっ・・ガハッ!」
 「どうしたんだ!?」
 「どうしたのよ、グレイ!?」
 「はぁ、はぁ・・。姉さん、実は…」


>『セイン、体はもろうたで。』
 「!お前はッ―…」

 ―ドクンッ

 「ぐ、ガアアァァアアッッ!!」
 「セイン、一体どうし…」

>「来ましたわ、リーシャ。私の相手方が、セインを操ろうとしています。私と代わってください!」
 「でも、リシャちゃんの許可を…。」
 『我は構わぬ。アイツの中の何かを止められるのは、そヤツしかおらぬからの。』
>「じゃぁ、交換しますわよ。」

 体を光が包む。
 ―痛い。でも、みんな痛いんだッ・・!

 「くぅ!」
 『ウグッ!』
>「ッ…」

 シュウウウ

 「…終わった。」
 『やっぱりこの痛みは慣れんの』
 「そうだね。」
>「みなさん、ありがとうございます。

>…ほんと、バカばかりで良かったですわ。」
 
 ニィッ

 ―リーシャルが不気味に笑う。

 「何ですって!?」
 『どういうつもりだ、貴様。』
>「あら、言ったとおりの意味ですわよ?
> リーシャは知らないかもしれませんが、リシャは知ってますわよね。
> “中”にいる者は、“外”の者の許可がない限り、外に出る事は出来ない。
> つまり、あなた方は私の許可がなければ出られないのです。」
 「そんなこと知ってるわ、だからナンなのよ!?」
>「…本当に、頭の回らない方ばかりね。
> 私の許可がなければ出られないと言う事は、私が許可を出さなければ、永遠にあなた方は中に居続けなければならないのですよ!」
 「まさか…」
>「そう、私はあなた方を外に出すつもりはありません。一生ね。
>この体は、一生私のものですわ!」
 「そんなっ…」
 『アヤツは、これをずっと狙って居ったのか!!卑怯者めが』
>「何とでも言うがいいですわ。
>さぁ、“インセ”。勝負ですわ。」

>『お〜、久々やな、リーシャル。
> これでやっと、長年のケリをつけられるのォ。
>  オマエとの…』

>「ええ、やっと邪魔者なしで出来ますわ。
>  アナタとの…」

>“殺し合いが。”

・つづく・
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乱菊 #27★2007.04/22(日)18:17
―そんな、リーシャルは、あたし達を裏切っていたの?

 ―殺し合いをするために…

 第二十六話 因縁の対決。ペンダントの力

>「ようやく、ようやくですわ。あなたとのケリをつけられるのですね。」
>『お互いけっこォ待ったのォ。』
>「ええ。支配権を貰うまで、時間が掛かってしまいましたわ。」
>『俺のように体を強制的に乗っ取ってまえばえかったのに。』
>「ウフフ。あなたほど乱暴にはいかなくてよ。仮にも女相手なのですからね。」
>『俺は容赦せーへんで?』
>「もちろん。してもらってはこちらが不愉快ですわ。」
>『…ほな、行くで。』

 インセがナイフをポケットから取り出した。
 ―長いナイフを、二本。

>「フフ、上等ですわ。かかってきなさい」
>『行くでェッ!!』

 インセが飛び掛ってきた。  
 
 ―リーシャルは武器を持っていない。

 「リーシャル!アナタ、武器なしで戦うって言うの!?」
>「心配後無用ですわよ。私には…

>“念の力”がありますから。」

 バシッ!

 「バリア」のような壁が目の前に現れ、インセを弾き飛ばす。

>『フン。やっぱりその力、邪魔やのォ…。』
>「ホホ。破れるものなら破ってみなさい。」
>『…やったろォやないか』
>「なっ・・!」

 いつの間にか、インセが背後から回り込んできていた。

 ―ザンッ

>「くぅっ!」
 「リーシャルッ!」
>『油断大敵ゆうん知っとるか?今のオマエにぴったりのことばやで』
>「何を…ほざくなっ!」

 ドカッッ

 念力がインセを岩へと叩きつける。

>『ぐ・・クソ!』
>「フフ。どうやらお互い様の・・ようね。」
>『そォやな』
>「まだまだ勝負は、これからですわよ。」
>『当たり前や…!?』

 突然、インセの動きが止まる。

>「一体、何が起こってるんですの?」
 『もしや…リーシャ!』
 「何、リシャちゃん?」
 『きっと、今ヤツが暴走しとるのはセインが反抗をしておるからだ。』
 「…セインが!」
 『ああ。あやつはきっと、今支配している“インセ”を振り払おうとしているんだ。』
 「どうしよう何か出来ないの!?」
 『出来たら苦労はしないのだが…。』
 
 ―ああ、どうしたらいいの?

 ―あんな戦い、見ていられない…。

 ―ダレでもいいから、

 ―助けてッ…!!


 カッッ

 いきなり周りが明るくなる。

 光が、強力な光が、何かから発せられている。

 ―ペンダントからだ!

 リーシャルが“持っていろ”と言った、幼い頃に男の子からもらったこのペンダントが光っている。

 何か不思議な力で、ペンダントが浮いていく…。

 「なんなの?これは…」
 『リーシャ、見ろ!セインの方をっ!』
 「え?…え?」

 ―なんと、見た先にあったのは、

 ―あたしとグレイと同じ、


 ―あのペンダントがあった…。

・つづく・
i222-150-156-200.s02.a021.ap.plala.or.jp
乱菊 #28★2007.04/06(金)10:21
―なんで、なんでセインがあのペンダントを?

 ―数少ない、あたしが見せても気づかなかった、

 ―あのペンダントを…。

 第二十七話  一時の休息

 「あ、あぁぁ…。」
 『これは一体、どういうことなのだ?』
>「う、くぅ…!」
>『ガアアァッ…!』

 あたり一面が真っ白な光に包まれる。
 それと同時に、気を失った―


 「あれ?ここは…」

 覚えのある感覚。この感覚は、

 「初めてあたしとリシャちゃんと前に、リーシャルが出てきた感覚…。」

 ―そう、あのときの感覚だ。

 ふと前を向くと、人影がこちらに近づいてくる。

 ―今度は、ダレなの?

 影をずっと見つめる。影はどんどん大きくなっていく。

 「あたしはリーシャよ!あなたはダレなの!?」

 呼びかけてみた。
 かすかに、「リーシャか?」という声が聞こえた。
 影が走ってくる。 
 影の正体は…

 「リーシャ!」
 「あ、セインッ!」

 セインだった。

 「どうして、ここに?」
 「それはこっちが聞きてぇぐらいだ。」
 「どういうこと?」
 「ここはオレとあの殺人魔、インセが初めて会った空間だ。」
 「何言ってるの。ここはあたしとリシャちゃんがリーシャルと初めて出会った場所よ!」
 「いーや、オレとインセだ。」
 「あたしたちとリーシャルだってば!」
 「オレだ!」
 「あたしッ!」

 そんなこんなで五分経過―

 「はぁ、はぁ。この、分からず屋ぁ…。」
 「ハァ、ハァ。それは、お互い様、だ…。」
 「ふ、フフ。あたしたち、なんでこんなところで変な言い争いしてるんだろうね。」
 「はは、全くだぜ。意味分かんねーよな!」

 二人して笑った。久しぶりに、たくさん笑った。

 「あれ?」
 「ん、どした?」
 「そういえば、リシャちゃんがいない…。」
 「そういえば、インセもリーシャルもいねーぜ。」
 「なんであたしたち二人だけ、この空間に?」

>「二人ではありませんよ」

 いきなりどこからか、リーシャルの声が聞こえた。

 「リーシャル、一体何処から!?」

>『俺らもおるで』

 「インセ、どこにいる!?」

 『心配するな。こやつらはさっきの殺気だった時とは違う』

 「リシャちゃんも…。なんで見えないの?」

>「これからあなたたちには、過去の全てを見てもらいましょう。」
>『お互いにどんな関わりがあるのか。そろそろはっきりさせたろォやないか。』
 『厄介な者が、現れる予感がするしの…。』

・つづく・
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乱菊 #29★2007.04/06(金)18:42
“先に言っておきますけど、ショックを受けすぎて、失神しない覚悟で見てもらいますわ。”

 ―最後に聞こえたリーシャルの声は、そんなことを言っていた。

 第二十八話 リーシャの過去(全3話予定)

 いきなり、目の前の空間が歪む。

 「何が…起こるの?」
 「分からない。」

 映像と音声が流れ始めた。

 “三歳”

 『お父様、お母様!今日こそ遊んでよ〜』

 ―これは、あたしの過去?

 『ごめんなさいね、リーシャル。今日も姉さんと遊んでください。』
 『また〜?お姉ちゃんだって、お父様とお母様と遊びたいって言ってるよ!』
 『すまぬな…。ワシ等にはやらねばならぬことがあるのだ。
 しかし、今日から新しいお友達が来るのだよ。きっと楽しいはずだ。』
 『ぶ〜。じゃあ、今度こそ、絶対ね。約束だからねっ!』
 『はいはい、分かっています。』

 あたしが、勢い良くかけだしていく。
 と思ったが、すぐに戻ってきた。
 『(そおいえば、いつ遊ぶのか決めなきゃ。約束しなきゃ!)』
 思いの声も、聞こえてくる。

 あたしは静かに戸を開け、二人を呼ぼうとした。その時…

 『私達、もう死ぬのですね…。』
 『ああ。でも、しょうがないのだ。これで、ダイアンとリーシャルが救えるのならば。』

 こんな声が聞こえてきた。
 あたしは声をかけたくも、このどうにも言えない空気と、言葉が信じられなくて、かけられなかった。
 ―今のあたしがあそこにいても、きっと同じだろう。
 あたしは、扉をそっとしめ、振り払うように駆け出して行った。

 バンッ!と、どこかの扉を勢い良く開けた。
 『どうしたのよ、リーシャル。そんなに青ざめて、息を切らして…。』
 『う、ううん、なんでもないよお姉ちゃん!』
 手が、震えていた。

 ―この人が、あたしの姉さん…。
  名前は覚えていたのに、顔は覚えていなかった。
  すごく懐かしくて、いとおしいカンジ。
  …姉さんだ。

 自然と、涙が出てきた。

 その部屋には、ダイアン姉さんと、男の子が座っていた。

 『さっき聞いたけど、また自己紹介をお願いするわ。』

 男の子は立ち上がり、リーシャルの前で止まった。
 ゆっくり、手を差し出して、男の子はこう言った。

 『はじめまして。オレ、“セイン”ってゆーんだ!』

・つづく・
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乱菊 #30☆2007.04/06(金)19:13

 ―え?

 あたしは、隣にいたセインを見た。

 「お、オレ…?」

 信じられないような顔をして、見ていた。

 ―こんな繋がりがあるなんて、思ってもいなかった…。

 第二十九話  リーシャの過去(全三回予定)

 『セインってゆーの?変わった名前だね。』
 『清らかに生きてほしいってことで、つけたって、母さんが言ってた!』

 にこっと、無邪気に笑う。
 その笑顔に、あたしは吸い寄せられた。
 あたしは、さっきまでの恐怖感も、消えうせているようだ。
 あたしも、笑って手を差し伸べた。

 『はじめまして、あたしはリーシャルってゆうの!』

 二人で握手して、笑いあった。

 それからは少し飛ばし気味だったけど、どの場面でもあたしはセインと姉さんと遊んでいた。

 だが、長くは続かなかった…。

 “六歳”

 前夢で見た映像と、同じものが流れていた。
 
 『こっちだよ、こっちこっち、姉さん!』
 『待ちなさいよ、今日はセインが来てくれるんでしょ?』
 『分かってるよ〜。今日は何して遊ぼうかなァ…あ、来た♪』
 『リーシャルー、今日はプレゼントもってきたよ!』
 
 あの空欄には、“セイン”が入ってたんだ…。

 『わぁ、ペンダントだ。キレイ!ありがとう♪』
 『そのペンダントには、伝説のポケモンたちの涙がはいってるんだよ!』
 『そぉなんだ、すっご〜いw』
 『姉さまにもあげます♪』
 『ありがとう、きれいね。』
 『そうだ、何かお礼を…』

 バンッッ!

 突然、扉が開かれる。

 兵隊が真っ青になりながら、駆け込んでくる。

 『ダイアン様、リーシャル様ッ!急いで、王室にきてくださいッ…』

 嫌な予感がした。
 あたしと姉さんは、駆け出して行った。もちろん、セインも。

 バンッ

 扉を開け、そこで目にしたのは…

 『あ、ああぁぁ…』


 ―無残にも、首のないお父様とお母様の亡骸だった。

 『いやああぁあぁぁっっ!!』

 あたしは泣いていた。
 何も出来なかった自分への怒りと、殺したやつへの憎しみと、

 突然の死への恐怖に…。

 ―これがほんとうに、

 ―あたしの、過去…。

・つづく・
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乱菊 #31☆2007.04/07(土)01:05

 「うっ…」
 「大丈夫か、リーシャ!?」
 「ええ、一応ね…。」

 ―見たくない。もう、こんなのは嫌。

 ―でも、やっぱり自分の過去を、

 ―ちゃんと、知りたい…。

 第三十話  リーシャの過去(全三回予定)
        ※すいません、まだ続きそうです><。

 お父様とお母様の葬式が始まった。
 あたしはまだ、震え、涙していた。

 『今、悔やんでも仕方がないのよ、リーシャル。』

 姉さんは、あたしにそう言った。
 悔やんでいるのはあたしだけではない。みんな悔しいんだ。
 こんなに無残に、皇と皇女が殺されてしまうことが…。

 『うん、分かってる。』

 『(あたしだけじゃないって)』


 それからすぐ、親戚の義父と義母が皇と皇女になり、あたしたちはその娘となった。

 ―こいつらだけは覚えている。

 ―姉さんと、親切なおじいさんとおばあさんを殺した、

 ―最悪なヤツら。

 
 義父と義母はすぐに国民を支配し始め、勢力を拡大した。

 ―城の者には、見向きもしなかった。


 “八歳”

 「この時にはもう、グレイとは別れてたみたい。」
 「何で分かるんだ?」
 「さっきのペンダントのちょっと後で、グレイとあたしは別れたから…。」

 『姉さん、姉さん〜?あれ、どこ行っちゃったのかなぁ。』
 『あっちじゃない?誰かの声が聞こえるよ!』

 セインが指差したのは、長い廊下の突き当たりにある部屋。

 『もし間違えたら恥ずかしいから、静かにそっとね。』
 『分かってるよ!』

 二人はその部屋にそ〜、っと近づいた。

 声がだんだんと、近づく…。

 『どうだった?』
 『(おじさんの声。ってことは、もしかしたら姉さんいるかもw)』
 
 扉から、そ〜、っと顔を覗かせる。

 姉さんは、見当たらない。

 『(なんだ、いないんだぁ…。)』

 引き返そうとしたそのとき、何かに袖を掴まれた。

 『もうちょっとだけ、話を聞いてようよ。暇なんだしさ♪』
 『もう〜。じゃぁ、あとちょっとだけね。』

 扉に耳を当て、耳を澄ました。

 『ホホホ、金になったわ。』
 『そりゃ、金にならんと困るな。あんなに金出して、スペシャリストを雇ってまで手に入れたんだからな。』
 『(何の話なんだろう?)』
 
 姉さんを探す事など、すっかり忘れていた。

 『そちゃそうですわよね〜。なんせイチバンの目玉だった、“皇と皇女の首”ですもの。売れなくちゃ困るわよ〜。』

 ―今、何て言った?

 ―“皇と皇女の首”?

 ―まさか…

 キィィッ
 扉を、ゆっくり開けた。

 『だれです!?』
 『…リーシャル』
 
 震える口で、なんとか言いたい事を伝えようとした。

 『ど、ゆう…こと…。首って・・。』
 『チッ。厄介なヤツに聞かれちまったもんだ。
 まあ、いい。この際だから言っといてやるよ。

 オマエの親、皇と皇女の首を貰ったのは俺たちさ。
 あいつらの首は裏で高く売れる。
 まあ、元々の狙いはオマエと姉貴の方だったが、どこから情報を仕入れたか知らんが、“どうしても娘達の命だけは、この身に代えても助けてほしい”とアイツ達が言ってきてな。
 好都合だったから、アイツらから先に殺しちまったさ!ハハハッ!』

 ―うそ。

 ―お父様とお母様もコイツ達に殺られていたの?


 記憶の中のあたしは絶望で、座りほうけていた…。

・つづく・
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乱菊 #32★2007.04/08(日)18:30
―思い出した。
 
 ―あたしは確かにこの言葉を聞いた。

 ―そして初めて、

 ―“殺してやりたい”と思ったの…。

 第三十一話  リーシャの過去

 『あ、あぁ…。』
 『このおおぉぉッッ!!』

 記憶の中のセインが義父の方へ、殴りかかっていく。

 しかし、大人の力には勝てなかった。

 ドカッ!

 思いっきり、溝を蹴られていた。

 『ぐぁはっ!』   バンッ!

 蹴られ、壁に叩きつけられた。
 額からは、血がたれていた。

 『く…そッ…!』

 それでも立ち上がり、もう一度立ち向かっていった。

 『何度も繰り返させるな!』

 ドカッ

 『くそっ!ハァ、ハァ…。』

 また、蹴り返された。血の線が、多くなる。

 あたしは、その横で震えていた。


 『セイン、リーシャル、早く逃げてぇッッ!!』

 そのとき、姉さんが息を切らして入ってきた。

 『また邪魔者が…。』
 『こっちの方が厄介ですわ。』

 二人が、ポケットから何かを取り出す。

 ―銃だった。

 『セイン、リーシャルを抱えて早く逃げて!!』
 『わか、った!』

 セインが、放心状態のあたしを抱きかかえ、部屋の外に出て行く。

 『待ちな、簡単に行かせるとでも…』
 『待ちなさい!』
 『なんだい?  …な』
 『ホホ、この状況だったら、あなた方のほうが不利よね。』

 姉さんは、マシンガンの銃を持っていた。
 後から追いかけてきた兵士たちも、銃を構える。

 『ホホホ、降参よね?こんなに圧倒的な差だもの』

 しかし、追い詰められていると言うのに、義父と義母は笑っていた。

 『何が、可笑しいの?追い詰められているのはあなた方なのよ』
 『いいえ、追い詰められているのはあなたの方ですわよ。』
 『なん、ですって…?』
 『私達がもしもの状況を、予想しないとでも思ったのですの?』
 『まさか!』
 『そう。その…まさかですわよ!』

 ダダダダダンッ

 『ぎゃぁッ!』
 『うわぁああぁ〜ッッ』

 後ろのほうで兵士が、どんどん倒れていく。

 『くそッ!』
 『フフフ、作戦不足でしたわね。
  あなたがイチバン厄介だったのよ。最初から私たちに違和感を持ち、何かと調べ上げてここまで追い込んでくるとはね。』

 その時、一発の銃弾が姉さんの肩をかすめた。

 『くそ、くそぉぉっ!!』

 
 姉さんはその場を離れ、あたしたちを追いかけに行った…。

 『リーシャル、しっかりするんだ!』

 あたしたちは、城の裏にある大きな森に差し掛かっていた。

 『もう、だめよ。あたし、生きていても仕方がない気がするわ…。』
 『何言ってるんだよ!生きて、あの悪魔達から国を救わなくちゃッ』

 また歩き出そうとしたとき、後ろから声が聞こえた。

 『リーシャル、セイン!まだこんなところにッ…』
 『姉さん、肩から血が!』
 『そんなことを言っている暇はないわ。はやくこの森を抜けて、海岸に出ましょう。
 兵士達がなんとかふんばってくれているけど、半日と持たないわ!』

 あたしたちは、走り出した。

・つづく・
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乱菊 #33★2007.06/11(月)20:53
第三十二話  リーシャの過去

 それから半日。皆、へとへとだった。

 『セイン、リーシャル。後少しだから、頑張って。』

 あたし達は、意識がもうろうとする中で、走れるだけ走った。


 『見えた、あそこよ。あそこに助けがいるわ!』

 それは、小さな小屋だった。

 姉さんがノックをすると、おばあさんが出てきた。

 『おばあさん、お願い。三時間だけ、あたし達をおいてくれませんか?』

 『もちろんですよ。こんな傷だらけの子供達を、引き返させるわけがないじゃないですか。』

 返事は即答だった。

 あたしとセインは、ご飯を食べ、すぐに眠りについた。

 『おばあさん、おじいさん。本当に、いいんですか?』
 『ええ。もうこの命も後わずか。最後くらい、誰かを守って滅ぶなんて、光栄ですよ。ねえ、おじいさん。』
 『ああ。わしらのような老夫婦にとって、たとえ他人の子供でも宝のようなものじゃ。その宝を守って滅べるなんて、最高じゃよ。』
 
 姉さんは、泣いて頭を下げた。

 『ありがとうございます…!』

 おばあさんとおじいさんは、にこ、っと優しい笑顔をした。

 姉さんは、涙を拭きながらセインを見る。

 『あんたは、巻き込めないわね…。』
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乱菊 #34☆2007.06/11(月)20:58
第三十三話 リーシャの過去

 三時間後、

 『おきなさい、リーシャル。出発するわよ』

 あたしはたたき起こされ、おじいさんおばあさんと一緒に小屋を出た。

 ―セインを残して。

 
 『リーシャル、もうすぐで海岸よ。疲れてるかもしれないけど、もう少しだから!』
 『姉さん、セインはどうしたの?』
 『セインは、大丈夫よ。もう助かったわ。』
 『残してきたじゃない。あれじゃあ、敵がすぐに来ちゃうじゃない!』
 『…大丈夫なのよ、セインは。』

 姉さんがあまりにも優しい顔をするから、

 『それなら、いいよ…。』

 あたしは頷いてしまった。

 
 『海岸が見えたわ!』

 姉さんがそう叫んだその時、

 ドオオォンッ!

 後ろのほうで木々が倒れた。

 『敵が…。早く下りましょう!』

 あたしたちは、急いで海岸へ降りた。

 海岸には、小型のボートが用意されていた。

 ―三人乗るのがやっとのほどの。


 『おじいさん、おばあさん。打ち合わせどおり、リーシャルをお願いします。』
 『分かっていますよ。さあ、行きましょう。リーシャル様。』
 『え?そんな、姉さんは!』
 『リーシャル。あなたは、この国をきっと救える。だから、今は生き延びるのよ。』
 『何で、姉さん。姉さんも一緒に逃げようよ!』

 姉さんが後ろを向く。

 『だめよ。あたしは…あなたとおじいさんとおばあさんを守らなくちゃいけないから。』

 姉さんは、マシンガンの銃を取り出した。

 たくさんの矢が、飛んでくる。

 ガンガンガンッ!

 『早く、早く出発してください。おじいさん、おばあさん!』

 ブオオォンッ

 ボートが、出発し始める。

 『姉さん、姉さんッ!』

 たくさんの矢が、姉さんに降り注いだ。

 『ねえさぁぁあんッッ!!』
 
 『…おねがいよ。国を…救って…。』

 ―姉さんの、最後の言葉だった。
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乱菊 #35☆2007.06/11(月)20:59
―姉さんを残し、ボートは進む。

 ―何かを振り払うように、猛スピードで。

 ―あたり一面には、

 ―叫び声が木霊した…。

 第三十五話 リーシャの過去(最終話)

 ―三日後。辿り着いたのは、あたしが今いる山だった。

 『うう…。ねぇ、さん…。』
 『あなたの姉さま、ダイアン様はとても立派なお方でした。私達の家に来る前、事前に連絡があり、だからこそあなた方を急に泊めることが出来たのです。』
 『リーシャル様。あなたと、国と、あの男の子を守るために。あの方は立派に、立派に戦ってくださった。ですからどうか、あなた様には、生き延びてほしいのじゃ。』
 
 記憶の中のあたしは涙を擦り、顔を上げる。

 『…分かっています。姉さんの、ダイアンさんの気持ちをムダにはしません!』

 声は震えたが、はっきりとそう言った。

 『よかった、それで…こそ…。』
 『次期…皇女様です…。』

 ―バタ

 おじいさんとおばあさんが、倒れた。

 『え?ど、どうした・・の・・。』

 背中を見て驚いた。

 おじいさんとおばあさんには、姉さんを殺した、あの矢が刺さっていた。

 ―“毒矢”だった。

 『おじいさん、おばあさんッ!』
 
 虫の息で、おじいさんとおばあさんはこう言った。

 “あなた様なら、国をきっと救えます。その日まで、絶対に、

 ―死なないで下さい。”


 『そんな、嫌だよ…。』

 『一人にしないでよぉぉっっ!!』

 あたしはその場で泣き崩れた。何時間も。

 ようやく泣き止んだ頃、一匹の大きな狼が現れた。

 ―それが、グラエナの母様。

 母様はあたしを洞窟に連れてきて、こう言った。

 『あんた、名前は?』

 狼が人間の言葉を喋ったと、驚いていた。

 その時、首に掛けていたペンダントが光りだした。

 
 『…リシャです。』

 ―その時から、あたしの精神は3つに別れた。

 ―過去から今までの記憶を持つ       “リーシャル”

 ―グラエナの母様に育てられた記憶のみを持つ“リシャ”

 ―そして、ところどこの記憶のみを持つ   “リーシャ”

  
 ―あたしたちは、三人で生きてきた。

 ―でも実は、三人で、一人だったんだ…。

 
 そこで、あたしの過去は終わった。
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乱菊 #36☆2007.06/11(月)21:00
―少し間を置き、新たな画面が映し出される…。

 第三十六話  セインの過去

 “三歳”
 “六歳”

 ここまでは、同じものが流れた。

 “七歳”

 ―リーシャと違うのは、ここからだった。

 『母さん、どういうことだよ?あの城に行かないで、って!』
 『セイン、よく聞いて。これまで私達は、あの皇様と皇女様がいたからこそ、あそこに行く事が出来たの。
 でも、もう終わってしまった。あの方たちはもういない。
 私達は、縋るものを亡くしたのです。』

 ―どういうことだ?

 『なんでだよ、なんで…。』
 『聞きなさい、セイン。分かるでしょ、この状況が。私達はこれまで、皇様と皇女様に縋って生きてきた。ですが、もういないの。だから、今度は違う方たちに縋らないと、私達は生きていけないのよ…。』

 ―このセリフを聞き、オレは一度、ちゃんと部屋を見てみた。

 ―汚く、狭い。

 ―これが、オレの家?

 ―今と全く違った。

 『幸運なことに、あなたを気に入ってくれたお嬢様がいるの。その方と、十五歳になった日に、婚約してもらうわ。』
 『そんな…。』
 『その方はね、あなたがリーシャル様と会ってると聞いて、すごく怒ったそうよ。
 これ以上怒らせたら、婚約を破棄されるかもしれない。
 どうか、城には行かないで…。』
  『分かった』

  とりあえずオレは返事した。

 ―守るつもりなど、とうていないだろう。

  案の定、オレは母さんと父さんが仕事に行ってる間、城に行っていた。

 しかし、

 “八歳”

 互いに、悲劇が訪れた。

 内容は、リーシャと同じだった。

 ただ、あの小屋の話からは違った…。


 『…おはよ〜。あれ?』

 寝ぼけ眼だったオレの目が、ぱっちりと覚める。

 誰もいない。 ―リーシャルさえも。

 記憶の中のオレは、すぐに外に飛び出して行った。

 無我夢中で、走った。

 海岸の近くまで来たとき、オレは疲れもあってへとへとだった。

 ガシッ!

 誰かに肩を掴まれた。

 今の今まで、疲れで全く気が付かなかった。

 ―どうしようッ…!

 オレはパニックになった。
 嫌な汗ばかりが出てくる。

 ―ここまで、なのか…。

 『セインッ!!』

 その声の主は、母さんだった。
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乱菊 #37☆2007.06/11(月)21:00
第三十七話 セインの過去。新たなる闇。

 『かあ…さん…。』

 体中の力が一気に抜ける。

 その瞬間、母さんのビンタがとんできた。

 バシンッ!

 『かあ、さん…。』
 『あんたって子は、何をしてるの!あれほど城に行くなと言ったでしょっ…!?』

 母さんは、息を切らして走ってきたのだろう。

 オレを殴って、そこに座り込んだ。

 『あんた…。あたしたちが、どれだけ心配したと・・思ってるの?』

 息を落ち着かせ、母さんの後ろを見る。

 そこには、父さんと二歳になる妹がいた。

 『…逃げましょう、セイン。』

 母さんが、やさしく手を差し伸べる。

 『…分かった。』

 ―もう、心配はかけられない。


 それからオレ達は、前居た場所からかなり遠い都会で会社を建てて働いた。

 それからだんだんと儲かるようになり、大企業へとなった。

 ある日、オレは事故にあった。

 ―その日から、オレの八年の記憶は消えた。

 記憶は、そこで終わっていた。


 「あたしたちに、そんな過去が…。でも、全ての辻褄が合う。姉さんは銃で殺されたんじゃなかった…。」
 「オレは昔、貧民だったのか。母さんと父さんはあんなに頑張って、やっとの思いでここまでに至っていたんだ…。それに、リーシャ。いや、リーシャルとこんな関わりがあったなんて…。」
 
 「でも、リーシャルはインセと対決なんてしていなかった。」
 「だが、インセは人殺しなんてしていなかった。」

>「当たり前ですわ。そんなこと、するはずないじゃないですか。」
 「無理だ。こいつらと我は、そのペンダントの精なのだから。争えるわけがあるまい。」
>『そぉやで。全部芝居や。全てはこの瞬間のために。』

 「そぉ、だったの…。」
 「そうだったのか…。」

 「そんなことを言っておる場合ではないぞ、お主ら。」
 「え?」
>「そうですわ。早く、動き出さないと。」
 「何か、起こるのか?」
>『起こるでェ。はよ行動しなあかんで。その時こそ、…俺らの出番やしなァ。』

 インセがニィ、っと笑う。


 その時、空間の外では―…

 「姉さん、セインさん。一体、どうしたんだろう。どうしていきなり動かなく―…」

 “グレイ”

 ビクッ!

 「は、はい。何でしょうか?」

 耳にある通信機から、声が聞こえる。

 “さっきは、危なかったわよねぇ?
 もし、私達がしようとしていることを言おうとするならば…

 どうなるかは、わかってるわよねぇ?”

 ゾクッ

 ―すごく、悪意のこもった声だ。

 ―でも、今の僕には…

 「はい、分かっています。」

 ―従うしか道はない。

 ―例えどんなに、

 ―姉さんを救いたくとも…

 ―自分の命を差し出す勇気は、なかった。
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乱菊 #38☆2007.06/11(月)21:01
第三十八話 新たな悪。運命の螺旋が回る―

 
 ―ピクッ

 「う、ん…。」
 「姉さん、ようやく目が覚めたんだね。」

 ―ドクンッ

 「ヴ…。」
 「セインくんも、無事なんだね?良かった」

 「姉さん、セインくん。いきなり二人して倒れて、何があったの?」
 「…グレイ。あたしたちね、」
 「記憶を、見たんだ。」
 「記憶を、見た?」
 「そう。今まで忘れていた、しまい込んでいた記憶の大部分を。」
 「見た後、全ての記憶が甦ったんだ。」
 「なら、僕のことも…。」
 「―ええ。」

 
 ―ドクン、ドクン

 「ねえ、さん。僕、言いたい事が…。」

 ―姉さんの記憶が戻った。

 ―すごく、嬉しい。

 ―さっきまで流れてきた奇妙な音波は、流れてこない。

 ―もう、さっきまでの恐怖はない。

 ―言わなければ…

 ―姉さんを、この島のポケモン達を、

 ―救うために。

 「なぁに?グレイ」
 「姉さん。実はここに、セ」『大変よ!!』

 ピカチュウのラムネが、グラエナのエナに乗って話に突然入ってきた。

 ―かなり焦っているみたいだ。

 「どうしたの、ラムネ?」
 『大変なのよ、とにかく海岸に来てっ!!』

 ―あたしたち三人は、海岸に向かって走った。

 ―あたしとセインは走って、グレイはラムネと一緒にエナに乗って。

 ―少しして、海岸に着いた。

 ―そこにあったのは…

 「何なの、あれは?」
 「あ、あれは…!」

 「アルジェラ…様の、船…。」

 ―とても大きな、巨大船だった。
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乱菊 #39☆2007.06/11(月)21:01
―大きい船。一体、何のためにここに?

 ―それより引っかかるのは、

 ―“アルジェラ様”

 ―さっきの、グレイの言葉…

 第三十九話  悪のアルジェラ

 その頃、浜辺では―

 「全く。何故こんなにも時間が掛かってしまったんですの?普通なら三日で来れるものを、二週間だなんて!」
 「も、申し訳ありません、アルジェラ様!実は船の進路に、クラゲどもの集団がいまして…。」
 「クラゲぇ〜?そんなものに足止めされたというのですの!?」
 「は、はい…。」
 「許せませんわ、クラゲの分際で!もちろん、撃ち殺しましたわよね?」
 「は、はい!」
 「ぜ〜んぶ?」
 「…もちろんです。」
 「そう!オーホッホ、清々したわ!さぁ、行きましょう。まずはこの村にいる、ご家族会わなくてはね。」
 「ははっ!」

 山の中―

 「グレイ、今、何て?」
 「あれは…」
 「待て。オレが言う」

 いきなりセインがグレイを制す。

 「セインも、知ってるの?」
 「ああ、リーシャ。いや、リーシャル。」
 「今はまだ、リーシャにして。」
 「分かった。
 あれは、オレの婚約者である“アルジェラ”の船だ。記憶にも、『婚約者』という言葉が出てきたろ?」
 「あ、そういえば!」

 ―確かに、出てきた。セインはそれで、城に来る事を禁止されたんだよね…。

 「きっと、オレを探してここまで来たんだ。そうとしか考えられない。」
 「…違う。」
 「え?」

 いきなり、グレイがうつむいたまま口を挟む。

 「何が違うって言うんだ、グレイ?」
 「違うんだよ、アルジェラ様がここに来た理由。確かに、セインくんを迎えに来たのも間違いではないと思う。
 でも、本当の目的は…


 ここに、大きな“別荘”を作るためなんだ。」


 ―な、

 「何で・・すって?」
 「本当なのか、グレイ!」
 「うん。僕はその補助役として、ここに派遣されたんだ。」
 「でも、向こうのほうでラムネ達と会ったんじゃ…。」
 「確かに、会ったよ。でもそれは、つい最近のことなんだ。アルジェラ様は、姉さんの“友達”と呼ぶポケモン達が、みんな目印を付けている事を知っていたんだ。
 だからそのポケモンたちを見つけた時、催眠術をかけ、記憶をいじったんだ…。」

 ―そんな。

 『そんな、ウソよ。じゃぁあたしは、騙されてたっていうの!?』
 「この機械だって、アルジェラ様から付けろといわれ、つけたものなんだ。ごめんね、ラムネ。」
 「…そうか。やはり、父さんから無理やりにでも譲り受けたんだな。」
 『ラムネって呼ばないで!』
 「ラムネ、落ち着いて。」
 『…リーシャ、ごめんねぇ。あたしが、あたしが人間を・・ここまで招いてしまったのね…。』
 「気にしないで、ラムネ。追い返せばいいだけ。何もしないうちに、あたしたちで追い返せばいいのよ!」
 『…そう?』
 「そうよ!」
 『そう、だね。よし、追い返そう!』
 「セインとグレイも。もちろん、手伝ってくれるわよね?」
 「ああ。一応、オレも関係者だからな。」
 「うん。招き入れたのは、僕にも責任があるから。」

 「よし、じゃあ海岸に行こう!」
 「「『お〜!』」」
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乱菊 #40★2007.07/01(日)23:09
―止めなきゃ、みんなのために。

 ―あたしが、守らなきゃ…


 第四十話  リシャとリーシャの怒り

 ザザザザッ

 三人と二匹が、山を猛スピードで下っていく。


十分後―

 「つ、着いた…。」
 「早すぎですよ、みなさん…。」

 セインとグレイは、息が切れていた。慣れているリーシャにとっては、どうてことはなかった。

 ―それより、

 「セイン、グレイ。そいつはあの船のどこにいるの!?」
 「あいつは…、ちょっと待て、隠れろ!」

 すぐに全員、近くの岩に隠れた。

 ―船員たちが、こっちに来たのだ。

 「にしてもよぉ、なんでこんなな〜んにもない山にこなきゃなんね〜んだよ。」
 「仕方ないだろう。アルジェラ様の婚約者のセイン様が、この山で捕らわれの身になってしまったのだから。」
 「にしてもよぉ、わざわざこんなところまで来る必要なかったんじゃねぇか?どうせそのうち帰ってくるだろうよ。」
 「ところがだ。どうやら、セイン様は山の主である狼のような生き物と、少女にさらわれたんだそうだ。」
 「こんな山に少女なんかいんのか?可愛かったら、連れ帰ろうかな〜♪
 どうせこの山は、もう用済みになっちまって、その子も行く所ないだろ!」

 「なんなのよ、アイツら…。」

 ―この山を、お母様たちを、のけ者にして…

 ―許せない。

 
 バッ

 「なんだ、オマエは!」
 「あ、この子なんじゃね?山に住んでる少女って!
 結構可愛い〜じゃん♪どうだ、オレ達と一緒に…」

 『黙れ』

 ―この声は…

 「リシャ?んな馬鹿な!」
 「リシャ?」
 「リーシャの中で作られた、もう一人の人格だ。
 っていうかアイツ、何をするつもりなんだ?」
 「僕も加勢を…」
 「やめとけ。オマエはあいつの部下だったんだろ?だったら顔が知られてる。ややこしくなるだけだ。事は変わらない。」
 「でも!」
 「リーシャを信じれやれ。大丈夫、アイツにはラムネやエナが付いてんだから。」

 「何者だ?貴様、我らは…」
 『黙れ。貴様等にはもはや、しゃべる権利などない。…我の指定した時以外はな。』
 「ナンだぁ?調子こくなよ。オマエ一人で、大人二人に敵うとでも思ったか!?」
 『黙れといったはずだ。それに、何か勘違いをしておるようだな。
 我が一人だと?誰がそんな事をぬかした。
 我はここにいる限り、一人ではない。
 大事な仲間や、…大切な人がいる。
 貴様等に踏み入られる場所など、ここには無い!』

 ザッ

 「ピカピカチュウ(そうよ、さっさと出て行かないとえらいメにあうんだからね)!」
 「グルル(本気よ。あなたたち、さっさと降参しなさい)…」
 「なんだぁ?やけにデカイ黄色のネズミと、子狼じゃねぇか!
  そんなやつらで、オレ等に勝てると思ってんのか?」
 『何をぬかしておる。このこたちは“ポケモン”というものだ。
 そこいらの動物とは、ワケが違うのだ。
 …具体的に、示してやろうかの。』

 「あれ?」
 「どうしたんですか、セインくん。」
 「そういえば、リーシャってポケモンのワザ、知らないんじゃねぇか?
 ポケモンを友達としか思ってねぇんだから、ワザがなんなのか知る必要ないからな。」
 「グルルル(心配無用だ)」
 「な、オマエは…!」

 カチッ☆←グレイがインカムにスイッチ入れた音

 「グル、グルルルルル(俺はグラ。リーシャに頼まれて、あるものを届けに着たんだ)。」
 「ある、もの?」
 「グルグルルッ(そう、コレだ)!」
 「こ、これは…。」

 さびている、茶色のような色をした、四角の箱。

 「ポケモン、図鑑か…?」
 「グルル(そうだ)。」
 「どうして、こんなものを。ダレが持っていたんだ?どこに?」
 「グルルゥゥ(質問は後にしてくれ。俺はまず、こいつをリーシャまで届けなければいけないからな。)」

 ガササッ   ザッ!

 「リーシャ。リシャかもしんねえけど、ほら。頼まれてたコレ、もって来たぜ!」
 『すまんな。…ありがとう。』

 ― 一瞬、声が優しく気がした。リーシャの時の声に。

 「いいって、気にすんな!俺たち、仲間なんだから。助け合わなきゃなんねーんだし。
 …さて、ここに来るまでに、コイツラの話は全部聞こえた。
  俺も加勢するぜ。」
 『そうだな。多い方が得策だ。』
 「おい、無視してんじゃねーよ。
 具体的に示すだぁ?調子こいてんじゃねーぞぉぉ!!」

 船員の一人が、殴りかかろうとしてきた。

 「セインくん。」
 「なんだ?」
 「キミはもしかして…ポケモンを持っているんじゃないですか?」
 「…ああ。持ってる。」
 「じゃあ、何故協力してくれないんですか!ポケモンを持っているということは、少しでも協力―」
 「ダメなんだよ。というより、できないんだ。」
 「どういうことなんです?」
 「…オレのは、どうにもならない、本当にどうにもならないとき、必要な時に向こうから出てきてくれるんだ。それまで、いつもこいつは寝てる。勝手に起こしちゃいけねぇんだ。」
 「たたき起こそうとしても?」
 「ああ。絶対おきねぇ。だから、無理なんだよ・・。」
 「…そうですか。」

 再び、リーシャ(リシャ)のほうに向き直る。
 どうやら図鑑でワザを調べ始めたらしい。

 パカッ  ピッ、ピ…

 「リーシャ」
 『分かっておる。―いくぞ。
 ラムネ、“10万ボルト”。エナ、“だましうち”』

 バリバリッッ!!

 「ぐああぁぁ〜!!」

 バシッッ!

 「ぐおおぉっっ!!」

 ラムネの10万ボルトが手前に襲い掛かってきた船員に、エナのだましうちが後方にいた船員に命中した。

 バタッ

 「くっそぉぉ…」
 「うぐううぅぅ…!」
 『どうだ。こんなこと、普通の動物ができるわけはなかろう。
 これでも、このコらは手を抜いてくれたのだ。ありがたく思え。
  そして、今一度言う。おぬし等のようなカスが、入るような場所はここにない。
  この島から立ち去れ!』
 「そんな、こと…むりだってぇの。」
 『黙れ。ダレが喋ってよいと言った。
 今度喋れば、グラの“かみくだく”がおぬしの頭蓋を粉々に砕くぞ。』
 「ひとつだけ、言わせては…くれぬか。」
 『何だ』
 「私達を止めても…意味は無い。今、アルジェラ様は中央の村に向かわれた。
  ―止めるのなら、早く…駆けつけたほうが良いぞ。
  でなければ、大変な事が起こる。」
 『大変な、ことだと?』
 「てめぇ、グリット…何洩らしてやがんだッ!」
 「ギルド。私は最初から、こんな計画などどうでも良いのだ。
 ただ、ちょうど今回ここに派遣されただけなのだよ…。」
 『そうか。良い事を教えてもらった。ありがとう、グリットとやら。』
 「お礼を言うくらいなら…攻撃などしないでほしいものだな。」

 グリットは、苦笑いをした。

 「くそ!後で動けるようになったら、皆に言ってやるからなぁ…ッ!」

 ギルドが悔しそうに言った。

 「あたしたちも行きましょ。ラムネ、エナ、グラ!」
 「オッケィ!」
 「分かったわ」
 「了解だ!」

 あたしたちは身を隠しながら移動するセインとグレイを連れて、中央にある村を目指した…。

・つづく・
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乱菊 #41☆2007.06/11(月)22:28

 ―あと、少し。

 ―早く、止めなければ…。

 第四十一話  「返してください」

 「はぁ、はぁ。頑張ってみんな、あと3kmくらいだから!」
 「グルルルゥ(大丈夫か?コイツラは俺たちに乗ってるし、俺らは慣れてるから平気だけど)?」
 「そうだよ、姉さん。大丈夫なの?」
 「あたしだって、ここで育ったのよ。これぐらいで、べばるあたしじゃないわ…ッ!」
 「ピカピ、ピカチュ(それならいいけど、えらくなったらいってよね)」
 「ありがと、ラムネ。さぁ、もう少しよ!」

  村では―

 「ここが、その村なのですね?なんとまあ、小汚い。まぁ、いいですわ。どうせここの人たちには新しい土地を用意しておりますし、これからは何不自由なく暮らせるはずですわ。」

 「アルジェラ様。セイン様のご家族を発見いたしました!」
 「そう。ジャァ今すぐ、ここに引っ張り出してきて頂戴。」
 「ははっ!」


 「あなたは、アルジェラ様!」
 「御機嫌よう、みなさま。昔と違って、随分昇進したようですわね。ボディーガードが付くようになるなんて。」
 「アルジェラ様ほどではございませんよ。なんせbP企業の娘さんですからね。」
 「ホホホ!相変わらず、口が上手ですわね、クレイバーさん。」
 「それほどでもございませんよ」
 「…ところで、我がいとしのフィアンセ、“セイン”はどこですの?」

 ギクッ

 「実はその…」
 「誘拐されたんですよ」
 「あら、リナちゃん。お元気ですの?」
 「別に、元気です」
 「相変わらず、わたくしを気に入らないようなその目は変わっていないのですわね。」
 「どーも。言っておきますけど、目は私のチャームポイントのひとつですから。」
 「嫌なチャームポイントですこと。」
 「あなたなんて、チャームポイントあるんですか?私には、あるようにみえないんですけど。」
 「…なんですってぇ?」
 「こ、こら、リナ!!アルジェラ様に謝れ!」
 「ま、まぁいいですわ。どうせ妹になれば、こき使ってあげますわよ。」

 苦笑いでアルジャラが言う。

 「ところで、誘拐ってどなたにですの?誘拐されたなら、なんで追いかけないんですの?」
 「それが、誘拐していったのがこの山に住んでいる“山神”でして…。」
 「山神ぃ?なんですの、ソレは。」
 「この山に住む大きな狼のような生き物と、一緒に行動している少女の事らしいのです。」
 「まぁ、そんな生意気な女がいるのですか?わたくしのフィアンセだと知っていて?
 ―許せませんわ!」
 「フィアンセってことは知らないと思いますけど」
 「お黙りなさい!それで、どこにいるんですの?探させますわ」
 「それが、この山には不思議な生き物がたくさんいまして、どこにいるのか探索できないのです…。」
 「じゃぁ、なんのためにここにいるのですか?役立たずのクセに!」
 「それは…」
 「アルジェラ様!」
 「何事です?今取り込み中ですのよ」
 「申し訳ありません!ですが先ほど、海岸にいた船員から無線で知らせがありましたので…」
 「それが、何か関係あるんですの?」
 「船員がさきほど、その少女と三匹の動物たちにやられたそうです!
 そして、ここに向かって行ってると言っていました!」
 「何ですって?
 …ですが、好都合です。その女から情報を得れば、わざわざ探さなくても済みますわね。
 それに多分、あの裏切り者の“グレイ”もいるはずですわ。」

 ザザザザザッッ

 「着いたわ。みんな、せーので降りるわよ。」
 「おう」
 「うん」
 「ピカァ(了解ッ)!」
 「グルル(承知したぜ)!」
 「グルルルゥ(わかりました)」


 「じゃ、行くわよ。

     せーのぉぉッッ!!」

 ザザザンッ!

 「や、山神の子供達だぁっっ!!」
 「何ですって?山神?」
 「アルジェラ様、山神の少女と狼の子供です!あと、グレイと…セイン様もいます。」
 

 「セイン、グレイ。そのアルなんとかって人は、どいつ!?」
 「アルジェラです」
 「あの中央の、着飾った女だ。」

 「どうやら、こちらに気がついたようですわね。」
 「どうしますか、撃ちますか?」
 「待ちますわ。相手を上手く手ごまにできるかもしれませんから。」
 「ははっ!」

 両者側が、面と向かって向き合う―

 「セイン、生きてたんだな!良かった」
 「お兄ちゃん!」
 「セインッ」
 「…父さん、リナ、母さん。」
 「そこの中央のド派手女。あんたが、アルジェラでしょ?」
 「まぁ、こんな山奥の薄汚い女に名前を知られてるなんて、光栄ですわ〜。」
 「着飾り偽りド派手女よりかはいいはずよ。」
 「くっ…このアマ!!」
 「そんなことはどうでもいいわ。あたしが言いたい事はコレだけよ。
  ―この島から、出て行って。」
 「フン、そんなことできませんわ。
 わたくしたちはもうこの島を買ったのです。
 わたくしたちの所有物なのですから、どうしようと勝手ですわ。」
 「買った?どういうことだ!」
 「この島は、わたくしたちの企業での“商品”なんですのよ。
 ですからあなたもその変な動物も、“商品”というわけですわ。」

 ―な、

 「なんですって…?」

 ―このコ達が、商品?
 ―この島、山にいる全てのポケモンさんたちが、

 ―“商、品”?

 「おおぉぉおおぉッッ!!」

 ―許さない。

 「待て、リーシャ!」
 「離して、セインッ!あの女、一発かましてやんないと気がすまないわ。」
 「待てって言ってるだろ、落ち着け!」
 「…分かったわ。」

 「あら、随分仲が宜しくなったんじゃないですの?この二週間の間に」
 「オマエには、関係ない。」
 「でも、そんなこと知りませんわ。あなたはわたくしのフィアンセにかわりありませんもの。
  さぁ、小娘。セインを返してください」
 「…イヤよ。」
 「あら、何で口答えをするの?あなたにとって、わたくしたち人間は敵なのでしょう?」
 「何で知って…」
 「村人に聞きましたわ。あなたやこの山にとって、セインは“人質”というだけなのでしょう?」

 ―“人質”

 「確かに。山にとっては人質だわ。でもね、今のあたしにとっては…

  ―大切なひとなの。」

 「リーシャ…。」
 「僕にとっても、セインくんは大切ですよ。」
 「グレイ」
 
 「セイン、あなたはどうなのです?
 あなたは、どうしたいんですの?」

 「オレ、は…」

 ―オレは


 「この山に、この島に、… 残りたい。」

 アルジェラがため息を吐く。

 「そうですか、わかりましたわ。どうせあなたに、最初から用があったわけではありませんわ。
 これで安心して、


 ―この山を、焼き払うことができますわ。」

・つづく・
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乱菊 #42☆2007.06/11(月)22:29

 ―今、何て、何ていったの?

 ―“焼き払う”。

 第四十二話   最悪の出来事


 「な、なんですって…?」
 「うそ、だろ、おい!」
 「嘘を吐いて、わたくしに何かメリットがあるとお思いですの?
 ホントの事ですわよ。わたくしはここの土地を買ったのですから、好きにしていいはずですわ。」
 「誰が認めたのよ!あたしたちの意志は完全に無視するつもり!?」
 「…当たり前ですわ。そんなくだらないことを聞いて、何か参考になるわけでもありませんし。」
 「焼き払うって、何をするつもりなの!?」
 「…知りたいんですの?」

 ニヤリ。 アルジェラが嫌味を含めて笑った。

 「当たり前じゃない!絶対に止めてやるんだから」
 「…無理ですわよ?」
 「そんなもの、やってみなきゃ…」
 「じゃぁ、やってみましょうよ。」

  サッ

 アルジェラが袖から、なにか小さい箱のようなものを取り出した。

 「この箱を空けたら、この山に数百の  ―“火の矢”が降ってきますわよ。
  これがあなたに、止められますの?」
 
 ―数百の…火の矢!?

 「や、やめて!!」

 ―そんなもの、

 ―止められるはずが無い…。

 「もう、遅いですのよ!!」

  パカッ

   〜…ぅぅゥゥううひゅううウウッッ!!

 ―たくさんの赤い棒が、船から出て山に降り注がれた。


  バシッッ!

 
 アルジェラの体が、3メートル先まで飛んだ。

 「なっ…」
 「―あんた、後で後悔するぐらいの地獄を見せてやる。覚悟しておけ」

 ビクッ!  

 リーシャの殺気のある低い声で、アルジェラが一瞬たじろいだ。

 「セイン、グレイ、ラムネ、エナ、グラ!!
 みんなを、山を、守りに行くわよッ!!」

 
 ―リーシャ達は、急いで山に入っていった。

 ―大量に降り注がれた火は、たちまち燃え上がる…。

・つづく・
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乱菊 #43☆2007.06/17(日)12:20

 ―早く止めなきゃ!

 ―山にはあたしの家、思い出、

 ―仲間がいるもの…。


 第四十三話   。奇跡。

 ザザザザッ…

 「エナ、グラ。火に強いポケモンさんたちと協力して、火の侵攻を防いで!
 ラムネとグレイは、火に弱いポケモンさんたちを安全な場所へ誘導するのよ!
 セインとあたしは、傷ついたポケモンさんたちを安全な場所に運ぶのよ!」

 『わかったわ』
 『分かったぜ!』
 『オッケー!』
 「わかったよ」
 「おう!」

 あたし達は全員で手分けして、少しでもポケモンさんたちを安全な場所へと移し、火の侵攻を防ごうとした。

 しかし、そのどれもが、苦労の連続だった。

 『だめだ!水ポケモンや地面ポケモンや岩ポケモンの全てのワザ、全てのポケモンで試してみたが、一向に火の侵攻がとまんねぇ!』
 『こっちも、火が小さくなる予兆さえもないわッ…。』
 『チッ、どうすりゃぁいいんだよ!』
 『グラ、母様のところへ行きましょ!母様ならきっと、いい考えを与えてくれるはずよ!』


 「みんな、早く中央にある湖へ移動するんだ!」
 『グレイ!』
 「どうしたの?ラム―…」
 『…どうしよう。』

 そこには、もう逃げる事を諦めたかのように、たくさんの体の小さなポケモン達がうずくまっていた。

 「こんなに、たくさん…。」
 『みんな、急いで逃げようよ!』
(ポポッコ)『無理だよ。こんなに火の気が早いんだもん。ぼくたちじゃ、風に乗ってる間に焼かれちゃうよ…。』
 『何言ってるの!だからって諦めるのはまだ早いじゃないの!?』
 (ポ)『…さっきぼくたちの仲間の一人が、ためしに飛んでみたんだ。
  そしたら、見事に…焼かれちゃったよ。』
 『それはッ―…。』
 「大丈夫だよ。」
 『グレイ…。』
(ポ)『はっ、何を根拠にそんなこと言ってんだよ。根拠もないのに、勝手な事を言わないでよっ!!』
 「そのコは、このこじゃないかい?」
(ポ)『あっ―…!』

 グレイの背には、擦り傷を負っているハネッコ。

(ハネッコ)『ご、ごめんね、ソウ(ポポッコ)。上にのぼってくとちゅうに木に引っかかっちゃって…。たまたま大きな木の実が落ちちゃって、それが燃えただけなの!
      ちょうどその木の下をこの人が通りかかって、助けってもらったの。』
(ソウ)『リン(ハネッコ)!無事だったの?本当にリンだよな!?』
(リン)『うん、私は本物だよ。
    ソウ。だから、まだあきらめちゃダメだよ。私、さっき上から見てて思ったの。まだ、逃げる道はたくさんある。
    道があるんだから、あきらめちゃダメ。希望を捨てちゃダメ。最後まで、生きる事にくらいついていこうよ。』
(ソウ)『そう、だね。ぼくは、なんてばかなことを考えていたんだろう…。
    みんな、逃げよう!道はあるんだ。生きようよ!!』

 周りのポケモン達が一気に立ち上がり、活気を取り戻す。“生きよう”、“信じよう”と言いながら、

 「よし、取り合えず、中央にある“湖”に行こう!」

 ―生きるために、走り出す。


 「くそ!火の回りが速いな」
 「ええ。早く傷ついたポケモンさん達を見つけて、運ばなきゃ…!?」
 「どうした?リーシ…」
 「―酷い。」

 ―そこには、息絶え絶えの、“矢”の刺さったポケモン達が横たわっていた。

 「リーシャ、今はぼーっとしてるところじゃない。早くみんなを運ぶんだ!」
 「わ、分かってるわ!みんな、大丈夫!?」
(オオタチ)『リ、リーシャさん…。』
 「しゃべっちゃだめよ!今、運んであげるからね。」
(オ)『いきなり…みんなで遊んでいたところに・・矢が、夕立のように…。』
 「ええ、分かってる。あたしたちはその瞬間を見たもの。」
(オ)『きっと、こんな数のポケモンを…運び出すことは…容易じゃないはずです。
 ですから、とりあえず…わたしは見捨ててもらっても…結構です。』

 ―そんな。

 「そんなこと、できるわけないでしょ!」
(オ)『ですが、この数…。大きいポケモンは…運ぶのに容易じゃ…』
 「関係ないわ!あたしたちが、全員運びきって見せる。だから、そんなこといわないでッ!!
 さぁ、あたしの肩につかまるのよ!」
(オ)『ありがとう…ございます。』
 「リーシャ!取り合えず、オレは運べるだけ運んどくぞ!最初にオレが見た“湖”でいいんだな?」
 「ええ、頼んだわ。あたしもすぐに行く!」

 セインが先にポケモンを背負っていく。8匹くらいだろうか。その大半は、マッスグマなどの割と大型なポケモンだった。

 後に残ったのは、チコリータやウパーなどの割と小型なポケモン達だった。

 「さぁ、みんな。どんどん乗ってって!イチバン下のコは、湖に着く間だけ我慢しておいて!」

 セインの後に続き、あたしも走り出す。


 ―火の廻りがはやい。

 走りながらそう思った。
 
 さっきの場所を見てみると、もう火が来ていたところだった。


 ―危なかった…。と少し胸をなでおろしていたその時、

 ドサッ

 ―後ろで嫌な音がした。

 ―振り返ってみると…

 「ああ!」

 ―最初に声を掛けたオオタチが、横たわっていた。肩から落ちたのだ。

(オ)『う…』
 「はやく、肩につかまって!」
(オ)『もう、いいのです…。』
 「約束したじゃない!必ず、運ぶって!」
(オ)『はい。ですが…わたしはもうだめなんです…。自分で分かるんです…。』
 「そんなこと、言わないでよッ・・!!」

 ―頬を、涙が伝う。

(オ)『ああ。どうして、伝説の神たちは…わたしたちを守りに来てくれないのでしょうか…。
   わたしたちは、何かしてしまったのでしょうか…?
   こんなに、必死になってくれる人は…いないでしょう。
   どうか、この方だけでも…守って…。』
 「オオタチさん!嫌ああぁぁッ!!」

 ―炎が、オオタチを包もうとする。

 バシャアアァァ!!

 「!?」

 どこからともなく、水鉄砲が飛んできた。
 火が、だんだん後方に退く。

 ザッ

 「お母…様!」

 目の前には、神のように舞い降りてきたお母様がいた。

 「リーシャ。まずはこのコに、オレンの実を食べさせてください。」

 お母様の口には、オレンの実が一つくわえられていた。
 それを、オオタチに食べさせる。

 「このコは、私が運びましょう。あなたはまず、今背負っているポケモンさん達を湖まで運んでください。」
 「はい!」

 ―助かった。

 お母様の駆けていく後を追い、あたしもまた走り出した。


 湖に行くとほとんどのみんなが集合していた。

 『リーシャ!』
 「姉さん!」
 「リーシャ、大丈夫か?」
 「ええ。お母様が助けてくれたの。」
 「そうか。」
 「お母様、ここにこなかった?」
 「今さっき来て、ここにオオタチを置いて、すぐにグラとエナとどっかに行ったぜ。」
 「そう…。」
 『でもリーシャ。ラトナ様がいくら頑張って火を消そうとしても、それは炎の進行の時間稼ぎにしかならないよ。』
 「ええ。それに、お母様が止められるのは一箇所だけ。その間に他の炎はどんどん広がっていく…。」
 「今見たところ、炎はもう間もなく、ここにまで到達するよ。姉さん。」
 「分かってる。でも、どうしたらいいの!?あたしたちには…何も出来ないッ!」

 ―悔しくて、涙があふれ出す。

 「姉さん…。」
 『!リーシャ、炎が!』

 炎が周りにまで到達した。

 「みんな、中央の浮き島へ!」

 みんなで協力して、浮き島へと移る。
 
 ―炎は、さっきみんなが居た所を、丸呑みにする…。

 「もう、何もできない。」
 「くそ、くそ!クソォォ!!」
 『嫌だぁ、誰かっ…。』
 「ここまで…なの?
  もうあたし達は、みんなを助けられないの?
  誰でもいい。何でもいい。あたしから何を奪ってもいい。

  ―だからお願い。みんなを救ってええぇぇ!!」

 ピカッ

 胸のペンダントが光だす。

 「これは―…」

 “やっと私たちの出番ですわね”
 “そぉやなァ”
 
 「リーシャル、インセ!」
 「何故、お前たちがいきなり…。」

 “私達には、あなたたちを見守るしごとがあるの。”
 “ピンチの時は、守ってやらなあかんからなァ。”

 「もしかして、何かが起こるって、このことだったの?」
 “そうよ”
 「じゃぁ、出番ってこのことだったのか?」
 “そうや”

 ―その時、

 ボムッ

 「え?」
 「あ…。」
 「セインの、ポケモン?」

 “せや。名前は”

 『ボクはジラーチ。みんなの願いを、叶える為にここに出て来たノ。
  炎を、消してあげるヨ。』
 “そのためには、俺らの力も必要なんや。”
 “だから、出てきたのです。そしてこれが、最後の使命。”

 『そうだヨ。みんなを呼ぶためにハ、この二人のチカラが必要なノ。』

 そう言って、二人と一匹が、空へ昇っていく。

 『さぁみんな、出番だヨ。』

 すると、空の一部分が、光始める。

 そこから出てきたのは、

 「あれは!ミュウ、ミュウツー、スイクン、ホウオウ、ルギア!!」

 伝説の“神”と呼ばれるポケモン達だった。

・つづく・
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乱菊 #44☆2007.06/30(土)23:44
ザザッ

 「エナ、グラ!」
 『リーシャ、みんなは集められたのね。』
 「お母様は…?」
 『は?まさか、帰ってきてないのか!?』
 「そ、そんな!まさか、お母様は、この炎に…。」

 ―悪い夢だと、言ってほしかった。

 第四十四話 終結。全ての決着。

 『何を言っている!お母様を信じろ。お母様は、いつだっておれたちを信じてくれただろ!?』
 『グラ、今はカッカしてるときじゃないわよ。』
 『…チッ、分かってるよ!』
 『それより、これは一体?』

 みんなで、上を見上げる。

 『みんな、ひさしぶりだネ。』
 『ふふ、そうねw』
 『何用だ?ネス(ジラーチ)こんなところに呼び出すとは』
 『あレ?他のみんなは?』
 『全員を呼び出すことはないであろう。我等で充分だ』
 『ふふwまぁ、みんなを呼び出す事はないかもしれないわね。』
 『…何が可笑しい、ネオン(ミュウ)。』
 『なんでもないわよ、リオン(ミュウツー)。ふふw』
 『マエラ(ホウオウ)様、お久しぶりです。』
 『ええ、そうですね。アーノス(スイクン)』
 『相変わらずだな、マエラ。』
 『あなたもですよ、バイロ(ルギア)』
 『そうダ。今はそんな懐かしんでる場合じゃないんだヨ。』
 『分かっている。大体今の状況を見ればな』
 『この森のみんなを、助ければいいのよね?ふふw』
 『ウン。それが1つめの“願い”だかラ』

 『そろそろ、アーロン(カイオーガ)も来るんじゃないですか?』
 『そうね〜。あ、来たわ、ふふw』

 ザバッ

 『またせたな』
 『さぁ、じゃあ、みんな位置についてヨ。』
 了解、といって、それぞれが動く。

 ミュウとミュウツーが、こちらに向かってくる。

 『我等はここだな』
 『ええ。ふふw』
 「あの、一体何を…。」
 『説明は取り合えず後回しだ。ネオン、やるぞ。』
 『そうね、この状況じゃ、ちょっと危ないものね。』

 “バリアボール”

 「う…わぁ。」
 「すげぇな…。」

 大きなベールが、浮き島を丸ごと包む。

 『よし。では、説明する。』
 『今から、この島全体にアーロン、アーノス、バイロが“なみのり”の水をかけるわ。』
 『だがその際、ここにいるものたちにも波が襲うこととなる。』
 『だから私達は、ここでみんなを守るってワケ。ふふw』

 ―島全体に、水を…。

 「確かに、イチバン効く方法だな。」

 ―でも、

 「じゃぁ、村にいる人間達はどうなるの?」
 『何故、心配する必要がある。』
 「え?」
 『あなたたちは、この島に住んでる人間によって、ここまで追い詰められたのよね?』
 「そう、です…。」
 『だったら、何故心配するのだ。奴等が死んでも、何も影響は無いだろう。』

 ―確かに、無いかもしれない。

 「だけど、あたしは…殺したくない。見殺しになんて、できない!」

 ―殺すほどじゃないの。

 「あたしはもうこれ以上、被害者を増やしたくないの…。」

 ―精一杯の、本音。

 『そうか』
 『ふふw ネス〜、ちょっと来て〜!』
 『なぁニ?』
 『聞いてあげなさい。2つ目の、“願い”よ。』
 『…わかったヨ。』

 「ジラーチさん。いや、ネスさん。
  どうか、村の人たちを、殺さないで!」

 『わかったヨ。じゃあ、応援を呼ばなきゃネ。』

  空が、また光り始める。

 『お久しぶりです、みなさん!』
 『お〜お〜、随分そろってるなぁ。』

 出てきたのは…

 「あれは、ラティアスとラティオスだ。」

 『ティアラ(ラティアス)、ティーロ(ラティオス)。キミ達にも、手伝ってもらいたいノ。』
 『ええ、もちろんです!』
 『協力はおしまないからな。なんとでも言ってくれ』
 『じゃぁ、村のほうを…守ってもらいたいノ。』
 
 了解、と言って、2匹が村のほうへ向かう。

 「ありがとう…。」
 『いいノ。じゃぁ、やるヨ。』

 ジラーチ(ネス)が、光りだす。

 『では…』
 『よっしゃ、行くぜ!』
 『いくぞ』

 『耐えろよ、ネオン。』
 『あら、あなたもよ、リオン。ふふw』

 『ティアラ、頑張ろうな。』
 『うん、お兄ちゃん!』


 “なみのり”!

 大量の水が、一瞬にして島全体を覆った…。


 「すごい…。」

 みるみる炎が消えていく。

 「伝説のポケモンだからこそできる、荒技だな。」


 ―全ての炎が、跡形もなく消えた。

 それと同時に、ホウオウ(マエラ)が島を周りはじめる。

 ホウオウから洩れる“光”が、島に降りかかる。


 「あ!」

 降りかかったところから、生えてくる木々達。

 ―少し前におこったことが嘘だったように、どんどん新しい木々が生まれる。

 ―命を授かったように。

 バリアボールが、消えていく。

 『さあ、我等の役目は終わった。』
 『そうね、帰りましょうか。ふふw』

 ミュウとミュウツー、そのほかの伝説のポケモン達が、空に消えていく。(カイオーガだけは、海を渡っていったが)

 「あ、そうだ!お母様を、探さなきゃ…」
 『待って、私も行くわ。』
 『オレも!』

 『マッテ』

 「何?なんで止めるの?」
 『もう、すぐそこまで、キテル。』

 …ズ、ズズ、ズズッ

 「お、かあ、様…!」

 そこには、ぼろぼろになった、お母様。

 ズンッ…

 あたしたちを見て微笑みを浮かべ、ゆっくり崩れ落ちた。

 「お母様!」
 「リーシャ、島を守ったのね。よくやりました…。あなたは私の、誇れる娘よ…。」
 「お母様、何を言って・・」
 「見て分かるでしょう?私は、もうダメです…。」
 「そ、そんなッ!!」
 「確かに、そうだな…。」
 「お母様!死なないで、お願い!」
 「リーシャ、そんな顔をしないの。おねがいよ…。
 だから最後に、ジラーチ様に、お願いしたいのです…。」
 『ボクが聞けるのは、一度に3つダケ。今までで使われたのハ、2つ。』
 「私を…大きな大木に。この島を守れるほどの、大きな大木に…してください。」
 
 ―涙が溢れ出す。
 ―まさかお母様の口から、こんな言葉が出るとは思ってもみなかったから。

 「お母様…ッ!」
 「ないてはダメですよ、リーシャ。あなたには、この森を守っていってもらわなければいけないのですから…。」
 「はい。…ぅぅ、ひっくッ!」
 「それに、このことが無くとも、私は病に蝕まれていました。どうせなら…姿をかえたまま、この森を守りたいの…。」


 『願い事を、叶えてあげル。』

 カッ!!

 ―目が開けられないほどの激しい光が、島全体を包んだ。

 ―ゆっくり目をあけた、眼前には、

 「お母様…。」

 ―島全体を包むほどの、巨大な木が立っていた。


 『じゃあ、ボクは寝るネ。』
 「ジラーチ」
 『なぁニ?セイン』
 「オマエはこれから、どうするんだ?」
 『ボクはこれから眠りにつくノ。長い、長い眠りニ。』
 「じゃあ、もう会うことは無いんだよな?」
 『そういうことになるノ』
 「…ありがとう。もう、野性に帰ってくれてもいいぜ?」
 『ウン、そのつもりなノ。ふぁぁ〜、オヤスミナサイ…。』

 さきほどとは違う優しい光に、ジラーチが包まれ、天へ昇っていく。

 「ありがとう、本当に。」

 ―言葉で感謝できないほどの、感謝。

 “よかったわね”
 “ホンマやなァ”
 「リーシャル、インセ!」
 「どこにいってたんだ?」
 “いやね、ずっといたわよ。”
 “一部始終、ずっと見てたで?”
 「役目、は?」
 “伝説のポケモンをある一定の場所に集めるためには、そのポケモン達の『涙』が必要となるのよ。”
 「涙?…あ!」
 “そうや。俺達はあの『伝説のポケモンの涙』を集めてつくられたペンダントや。”
 「あのポケモン達がここに来てくれたのは、あなたたちのおかげってことね?
  …ありがとう。」
 “ええて、それが俺達の役目やったんやからな。”
 “あら、インセ。まだあと1つ”
 “ああ、そうや。あと1つあったなァ”
 「あと、1つ?」
 「姉さん」
 「どうしたの?グレイ」
 「何か、音が聞こえない?」

 …ァァバラバララッ!!

 「この音、は?」
 「これは、ヘリコプターの音ですよ?一体、どこから。」
 『リーシャ、あそこ!大量に』
 「一体、何なの!?まだ何かあるって言うの?」
 「…どうやら、海岸に着陸するつもりだな。行こう!」
 「うん」
 「ええ!」


 海岸―

 「ここに、いらっしゃるのですか?」
 「はい。村には、アルジェラ、クレイバー、ラズリー、リナの四名もいるそうです。」
 「そうですか。まあ、わたくしめがお会いしたいのは一人だけですがね。」
 「了承しております。
 ―これでようやく、安定した国づくりができそうですね。」
 「そうですな。きっと、あのかたなら、素晴らしいお国をつくってくれることでしょう…。」

 「あ、あれは。」
 「アルジェラ、クレイバー、ラズリー、リナ。そして、村に住んでいる人間達だな。」

 「ロイ国務大使!!」
 「これはこれはアルジェラ。久しぶりですな」
 「ひ、久しぶりですわ。お元気でしたか?」
 「もちろん。
 それはともかくとして、あなたには処罰を与えなければなりませんね。」
 「え?」
 「ここでしでかした事、聞いておりますぞ。」
 「な、何故、わたくしが処罰されなければならないのです!?」
 「当たり前です。良くお考えなさい。
 ―この森に住んでいるお方を、どなただと思っている?」
 「え、あの、小娘が。まっ、まさかっ…!!」

 ザザザザッ

 「着いたわ。何なの?一体、何をしにきたの?」
 「あ、あれは…。」

 「セイン!」
 「お兄ちゃん!」
 「母さん、リナ。」
 
 母さんとリナが駆け寄ってきて抱きついてきた。

 「セイン、ああセイン。無事でなによりだわ…。」
 「おにいちゃ〜ん、良かったぁぁ!」
 「心配かけてごめんな」
 「お兄ちゃん、あの人が、山神さん?」
 「ん?ああ、そうだよ。」

 頷くと、リナが耳元で呟いた。

 「アルジェラさんより、あっちのおねえちゃんのほうが、あたしはいいな♪」
 「なっ…///」
 「えへへ♪」
 「…///」
 「お兄ちゃん、照れてる?」
 「…うるせ」

 「何です?またこの森に何か、しに来たの?
 だったら、受けてたつわよ。」
 
 リーシャとラムネ達が、身構える。

 「…姫様!」

 ―え?

 「な、に?」
 「リーシャル・ルイジアーナ第2皇女。
 あなたが今を持って、このモーリスレイニー国の王女です。」
 「…え?」
 「三日前、あなたを苦しめ、元王・王女を殺害した義王・王女が、この世を去ったのです。」
 「…嘘」
 「嘘じゃありません。あなたにはこれから、国を治めてもらいたいのです。
 ―わたくしめと共に、国を治めてくれませぬか?」

 ―国を、治める?

 ―でも、あたしは…

 「あたしには、ここでする、大事な役目があります。この島のポケモン達を、守る仕事が…。」
 「では、あなたが国にポケモンの存在を認めるよう、変えれば宜しいのですよ。」
 「あたしが、国を変える?」
 「そうです。ポケモンの存在が認められれば、ポケモンにも権利が下るようになり、わたくしめが勝手に手出しできなくなります。」
 「…変えられる、保証は?」
 「あなた次第です。わたくしめは、信じておりますぞ。」

 ―国に、ポケモンを認めさせる。

 ―あたしにそんなことが、できるのだろうか?

 ―いや、

 「分かりました。お受けいたします」

 ―認めさせて見せる。変えてみせる。

 「では、行きましょう。」
 「待ってください」
 「なんでしょうか?」
 「あたしに必要な人たちを、連れて行っても宜しいでしょうか?」
 「…もちろんですよ」

 リーシャが、こちらに振り向く。

 「セイン、グレイ。あたしにはあなたがたの力が必要です。
 どうか、チカラを貸してくださらないでしょうか?」

 ―そんなの、決まってる。

 「もちろんいいぜ、王女様。」
 「当たり前ですよ、王女。」
 『リーシャ!』
 「…ラムネ」
 「あたしも、付いていく!女同士じゃないと、できない相談もでてくるかもでしょっ?』
 「…ありがとう、ラムネ。
 エナ、グラ。山を、森を、島を。全力で守ってくれる?」
 『ええ』
 『もちろんだ、心配すんな!』

 「リーシャル王女」
 「はい?」
 「セインを、よろしくお願いしますね。」

 頭を下げていったのは、セインのお母さんのラズリー。お父さんのクレイバーも、頭を下げる。

 女の子が一人、あたしのもとにトコトコ駆けて来て、こう言った。

 「お兄ちゃん、バカで単純でたまにカッカしちゃって周り見えなくて、どうしようもなく手が掛かると思うけど、よろしくね!!」
 「ええ」

 ニコッ、とリーシャルが微笑む。

 その微笑を見て、リナはまたセインのところへ駆けていって呟く。

 「おねえちゃん、守ってあげなよ?ちゃんと守ってなかったら、あたしがお兄ちゃんをこらしめるからね!」
 「…分かってるよ」

 ヘリコプターに乗る時、村人達がいっせいに謝ってきた。
 涙ぐんで、土下座する者もいる。

 あたしは、気にしてないから心配しないで、と言った。

 村人が全員号泣し始めて、少し困った。

 「さあ、行きましょう。」

 ―国を、変えるために…。

  …

 「へ〜!お母様にそんな過去があったんだぁ〜」
 「フフ、今じゃ想像もつかない?」
 「うん!だってさ、今じゃポケモンいない世界なんて、考えられないもん。
 ね〜、ピィ♪」
(ピィ)「ピィ(うん)♪」
 「お〜い、リィン。そろそろ行くんじゃないのか?下でグレイが待ってるぞ」
 「あ、お父様。いっけない、もうこんな時間だ!おじさんに怒られちゃう〜」
 「ほらほら、オレのリザードンを貸してやるから。」
 「あ、ありがとうお父様!」
 「全く。久しぶりに山に行くからって、興奮したままあまり寝ないからだぞ?」
 「だってぇ〜、リシャおばさんに会うの、久しぶりだもの♪
 じゃぁ、行ってきまぁ〜す!!」

 バタン…

 「変わったわね、セイン。」
 「ああ。“今じゃポケモンいない世界なんて、考えられない”か。」
 「それに、信じられなかったわ。まさか、リーシャルとインセが最後にしてくれたのが“リシャちゃんを実体化させること”だったなんて。」
 「今は、オマエがリーシャルだろ?」
 「フフwそうね」


 ―ここは王国、モーリスレイニー。

 ―今日もこの国からは、人間とポケモンの笑い声と笑顔で溢れていた。

 ―幸運じゃない子どもなんて、いるはずがない。

 ―そもそも生まれてくる事が、“幸運”なのだから。

 ―ならば、その後は“運命”。

 ―“運命”とは、私達の生きる道筋。

 ―その上には必ずしも“霧”がある。

 ―簡単に振り払える霧もあれば、なかなか振り払う事の出来ない霧もある。

 ―だけど絶対、霧の晴れる時があるはずだから。

 ―私達はそれを信じて、歩いてゆく。

 「行こうか」
 「…うん!」
 
 ―さあ、今日もゆこう。

 ―大切な、仲間と共に…。

・fin・
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ぴくの〜ほかんこ