ぴくの〜ほかんこ

物語

【ぴくし〜のーと】 【ほかんこいちらん】 【みんなの感想】

連載中[919] スカンプー育成記 〜行く先鼻先不安です

アウストラロピテクス #1☆2006.10/19(木)22:41
少し薄汚れた感じの紫と、少し薄汚れた感じのクリーム色。
そんな体毛というフォルムを身にまとい、やや無愛想にも見えなくもない感じの釣った目をしていて、こっちをじっと見ている。だがそれは本人にとって何ら悪意のあるものではなく、平常なものだそうだ。
だがその無愛想な釣り目とは対照的に、まるで人間の尻のような顎の割れ方がなんとも滑稽で、鳴き声はその割れ目から発するらしい。
と、俺はそいつの外見の特徴を簡単にまとめてみたが、ぶっちゃけそんなことはどうでもいいのだ。
ここに書けいたとだけでは最大の特徴であり、個性的過ぎる最強の武器が表現しきれないようだ。
だが敢えて一言言うならば、その個性的過ぎる最強の武器は、「屁」なのである。


#1 最臭屁器


シンオウ地方のある晴れた日のこと。
俺は、サイクリングロードの高架橋の下にいた。
ポケモントレーナーのいわゆるツワモノを目指す自分にとって、一番大事なことはやはり強いポケモンを手に入れるところから始まる。
強いポケモンと一口に言っても様々で、怪力をぶちかまして攻撃するポケモンもいれば、俊敏な動きで相手を翻弄させつつ攻撃するポケモンもいる。要するに強いポケモンというのはどんな攻撃方法によってその「強さ」をうまく高め、生かすことが出来るかがミソなのだ。中には火を吹いたり、カマのような腕を振り回したりと様々な攻撃をするポケモンがいるようだが、俺はそんなありきたりな攻撃をするようなポケモンじゃあ面白くない、そんな訳で、俺はある特殊な攻撃方法持つポケモンを捕まえた。
“スカンプー” ―世間ではそう呼ばれているスカンク型のポケモン。
で、その特殊な攻撃方法っていうのが、ケツから臭い液体をブっ放すこと。
自分より強い相手に臭い液体をぶっかけて護身をするという動物の話はよくあることだが、ポケモンの世界ではその行為をするもので最もタチの悪いものとして、そいつが挙げられる。
何といっても、そいつの体液は24時間いつでもどこでも消えないらしく、それを扱うトレーナーは常に自分の体臭にも気を使わねばならない。その上、そいつは人間の生理現象である放屁(ほうひ)と同じような感覚でケツからブッ放してくるので、世間ではスカンプーの体液=屁として認識されている。
まあそれだけにポケモンバトルではかなり強力な武器になることだろう。同時に相手トレーナからはウチの大事なポケモンになんてことをするんだとばかりに文句クレームの雨あられともなるであろうが、それはあくまでリーサルウェポン、最終兵器とかけて最臭屁器。普段は引っ掻いたりする攻撃で押していくことにしよう、ってこれじゃあ結局普通のポケモンじゃねーか!
そんなノリツッコミはさておき、例え、最臭屁器を使ってクレームストームになっても、そこは最強のポケモン使いなるためには仕方の無いことだと図太く思っておくことにしよう。

さて、この辺にクリーニング屋は無いかな…、と。
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アウストラロピテクス #2☆2006.10/24(火)21:36
毒舌婦人と、チョイ悪オヤジ。
スカンプーのタイプは、どく&あく。ポケモンの性格とかがよく分からないので、身近なものに例えてみるとこんな感じだろうか。
それにしても嫌な例えの組み合わせだ。まるで土曜のお笑い番組のトップバッターみたいだと思っていたら、モンスターボールのトレーナーメモにやんちゃな性格だと書かれていた。何だこんな前フリは。どーでもいーですよ。
どくタイプというのは、ポケモンの中ではかなり扱いにくい部類となる。というのも、どくタイプはその名の通り体内に強力な毒を溜め込んでいて、その毒に触れたり、ガス状のものであれば吸ってしまったりすれば、病院送り。それもポケモンセンターとかじゃなくてリアル病院だ。間違いない。
スカンプーの毒と言うのは、せいぜい「どくガス」と呼ばれる技、つまり気体状の屁の中に含まているだろうが、これが液状の例のウェポンともなればやはり119はまぬがれないだろう。
そしてスカンプーのもう一つのタイプである、あくタイプ。これもやはりかなり扱いにくいクセモノで、このタイプを持つものは大抵攻撃的で凶暴、あるいは悪知恵ばかり働くような気質の奴が多いからだ。
で、その気質に前述のスカンプーにおけるどくタイプの特徴を組み合わせてみると…、
「あるときは悪知恵を働かせつつすかしっ屁の如く毒ガスを撒き散らし、またあるときは攻撃的で凶暴な気質を生かした最臭屁器をブッ放す。」ってある意味最悪じゃねーか!(ノリツッコミ第2号)


#2 大事なのは誇れる個性


「よお、お前ポケモン捕まえたか?」
振り返るとそこには奴がいた。奴というのは、俺のライバル的存在で、こいつもまた、俺と同じくポケモントレーナーのいわゆるツワモノを目指している。
「ああ、捕まえたよ。(ある意味で)強そうなヤツをさ。」
「俺もさ、この辺で捕まえたんだよ。これがまた強そうでさ、お前に負ける気がしないんだよ。だからさ、早速捕まえたポケモン同士でタイマンでも張らね?」
まあ、コイツ…スカンプーの腕を、早速バトルで試してみるのもいいだろう。何せ俺のファーストポケモン。弱いはずが無い。
「いいじゃねえか。」
「じゃあキマリな。出てこい、ジャバロー!」
ヤツが威勢良く地に投げたモンスターボールが割れ、光のシルエットが出る中、炎をまとった馬型のポケモンが現れた。
「何だこの火の馬は。」
「こいつはなぁ、ポニータって名前のポケモンなんだ。ジャバローってのはニックネーム。足が速くて火を吹いたりするからな。結構強そうだろ。」
まあこっちも消化が早くて屁をこいたりするするポケモンだ。こいつとはいい勝負になるだろう。
それよりも、こっちはまだニックネームなんてつけていなかった。といっても、すぐにいい名前が思い浮かぶわけも無い。向こうは馬型の脚がスラリと細長いポニータだが、こっちはスカンク型のぽっちゃり短足。カッコいいニックネームを付けたとしてもスカンプーだとウマが合わない。となると、やはり変に捻らずに無難な名前で呼ぶしかないか。
「考え事長いぞ。」
「ああ、ちょっとニックネームのことでな。だけどそれも今思いついた。」
「そうか、じゃあ早速呼んでもらおうか。」
「おう。ゆけっ、ダスター!」
ボールの中から出てきたスカンプー改め、ダスター。この時点で既にちょっと臭う。
だがそれよりも何だ、奴の顔がどうみてもポカンとしているようにしか見えない。やはりスカンプーだからか。だからなのか。
「んと…、スカンプー?…まあお前らしいポケモンだとは思うよ。」
それはどうゆう意味で言っているのだ。俺は毒舌でもチョイ悪でもない。そして、こき魔すかし魔でもない。
「正直言うとさ、俺、この辺にいるポケモンだとこいつかドーミラーかを捕まえるかで迷ってたんだよ。だから、元からスカンプーなんて眼中に無いわけ。なんつーかアウトオブガンチュー?」
「つまりそれはどうゆうことだ。」
「ああ、アウトオブガンチュってのはただの思いつきだよ。中途半端に訳すなだとかは突っ込んじゃいけないお約束で。」
「いや、そっちじゃなくて。」
「ああ、スカンプーのことなら強さ云々以前に、見た目でそいつはパス、ついでに臭いでもパス、ってかんじで俺は最初から捕まえる気はなかったから、それを捕まえたお前はかなりの物好きってことだな。」
えらく貶(けな)されてしまった。まあ見た目だと流石に可愛いとは言いづらいが、だからこそ強さという中身だけでシンプルに勝負が出来るというのだ。
というわけでダスター、この勝負でお前の個性を存分に知らしめてやろうではないか。

さて、この辺に総合病院は無いかな…、と。
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アウストラロピテクス #3☆2006.11/12(日)16:09
火の馬ジャバローと、スカンクダスター。
両雄が睨み合い、緊迫した状況の中、闘いの火蓋は威勢良く切られた。…ただし、それはスカンプーのダスターの体臭がポニータのジャバローの体温による発熱によって暖められ、なにやらやんわりと生暖かい空気に包まれたフィールドがバトルの舞台であることを踏まえていただきたい。
まあそんなある意味危険なモノを臭わせる空気はさておき、お互いのポケモンはトレーナーの指示に従うという戦闘の経験は皆無。そういった意味では、恐らく互角の戦いになると予想される。
…もしもの話ではあるが、、万が一こちらが危機的状況に陥った場合にはやはり最臭屁器の使用は免(まぬが)れないのかもしれない。あの、ヘタすりゃ救急車で病院直行の危険性も有り得るという悪魔の兵(屁)器を…。

ふと、俺は近くの電話ボックスが気になった。


#3 スカンプー スカンクポケモン


「ジャバロー、でんこうせっか!」
「ダスター、みだれひっかき!」
両者とも同時にそれぞれのポケモンへ指示を送った。
「ヒヒーン!」
最初に攻撃を仕掛けてきたのはポニータのジャバローだった。目にも留まらぬ速さでスカンプーのダスターに体当たりをかまし、ドンと鈍い音を立ててダスターは軽く弾き飛ばされた。
「ぶふーん!」
ダスターはすぐに体制を立て直し、ジャバローに向かって爪を立てて攻め込んだ。しかし、対格差はさることながら、素早さにおいてもジャバローの方が上で、ダスターの引っ掻きはひょいひょいと避けられてしまった。
「ぶっふーぅ、ぶっふーぅ!」
いくら引っ掻いても、ジャバローにはかすりすらせず、空を切るばかり。
その姿と鳴き声に必死さはあるものの、それが返って裏目に出てしまうのは必至である。終いにはダスターは蹴り上げられて逆にいたぶられてしまった。
「あっはっは、なんだか簡単に勝てそうな気がしてきたよ。ジャバロー、もいっちょかましてやりな。」
奴の言葉には余裕のほかに、弱者をいたぶるような上から目線の何かが感じられた。
「ヒヒーン!」
ジャバローはダスターとの距離を空け、再び体当たりをかまそうとした。だが、ここで俺のダスターが二度までもやられてたまるものか。
「ダスター、どくガス!」
「ぶひゅーん!」
ジャバローの体当たりが来る一歩手前、ダスターはどくガスをかました。どくガスというのはもちろんメタン系のアレである。
そして、ガスを吸ったジャバローは次第に失速し、やがては地面に倒れこんだ。
「ヒヒ…ン…。」
弱々しい鳴き声を上げるジャバロー。だが、ダスターは追い討ちをかけるかのごとく、みだれひっかきを次々と決め込んでゆく。
毒を以(も)って敵を弱らせ、悪の如く敵を切り刻んでゆく。まさにどく&あくタイプのスカンプーならではの戦い方である。
「あーっ!お前汚ぇーぞ!」
「汚いのは文字通りの意味だけだ。」
それにしても弱者の叫びとは何とも心地よく響くものだ、なんて俺まで悪(ワル)に浸っていた。
「ちっ、このまま負けてたまるか!ジャバロー、立て、立つんだ!」
お前はまだ真っ白に燃え尽きる時じゃあないとばかりに奴が叫んだ。
そしてその叫びに応えたのか、ジャバローはダスターを蹴り退け、一気に立ち上がった。
「ヒヒィーン!」
ジャバローは高らかに雄叫びを上げる。その姿は、今までよりも体の炎の勢いが強まっているように見える。
「よし!ジャバロー、とっしん!」
そしてそいつの動きは先程のものよりも格段に上がっており、ダスターは避ける間もなく突進を真に受け、そのまま弾き飛ばされた。
まさに火事場の馬鹿力、と言ったところだろうか。いや、こんな奴が火事場に突進してきたら家屋が崩壊するっつーの!(第3号)
「ぶ〜ひゅ〜ぅ。」
それよりもこっちのダスターがピンチだ。やはりとっしんによるダメージは大きかった。やはり…やはり…、あの兵器が要るのか…。
俺はゴクリと唾を呑んだ。やはり使うべきか、使わざるべきか、俺は迷っていた。
ここで使えば、臭いで気を失って病院送り、だがこのまま使わずに勝てる相手でも…。
「ぶっふぅーん!」
突然ダスターが叫んだ。そして、同時にジャバローに尻を向けた。
次の瞬間、ついに悪夢のようなそれは起こった。

     「ばぶびゅびぶぶぅうんべびびべべべ」

なんとも表音しづらいその鈍い音が、辺り一面に渡り響いた。
俺も、奴も、ジャバローも、そしてダスター自身も、その爆音によって、耳から奥へ突き抜けるような感触を覚えた。
だが、それは単なる予兆にしか過ぎない。真の悪夢は、もう鼻の先に迫っていた。

   おしりから きょうれつに くさい
   えきたいを とばして みを まもる。
   においは 24じかん きえない。

     24じかん きえない。

「うおぉおぉおぇ臭えぇえぇえぁ!」
「ヒヒヒヒィーンヌ!」
奴もジャバローも、狂った様に苦しみを訴えた。特にジャバローは、その液体を真に喰らったためか口から火の粉が暴発している。
「ぶひゅうぅーん!」
狂気の場を創り出したそいつ自身も苦しみ始めた。
そして、俺も次第に意識が薄れていくのを感じた。
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アウストラロピテクス #4★2006.11/12(日)20:03
殆どのポケモントレーナーは、『強いから』という理由でポケモンを選ぶ。つまりそれは、弱いと言われているポケモンは最初から目も向けられないと言うことだ。
強いポケモンを使いこなすことが、強いトレーナーの証である。…世間ではそんな概念が精通している。
確かに強いポケモンを使うトレーナーは強いのは当たり前だ。…でも、それでトレーナー自身は本当に強いのか?
そもそも強いポケモン、強いトレーナーとは一体何だ?弱いポケモンを使うのは本当に弱いトレーナーなのか?
第一、それらは一体誰が決めたことなんだ?


#4 強いポケモンと本当の『強さ』


「パチパチパチ…」
何かが焼けるような音がした。
その音に、俺ははっと意識を取り戻した。
辺りを見回すと、何やら赤とオレンジ色の光景が目に浮かんだ。だが音のためにそれが夕焼けではないことは分かっていた。
目をこすり、改めて辺りを見回すと、何とジャバローの口から暴発した火の粉が広範囲に広がり、辺りに大きな炎がぼうぼうと燃え上がっているではないか!しかも、その炎は草や飛び散った液体、臭いやらに引火してどんどん勢いを増してゆく。
まず俺は意識を失っていたダスターをボールに戻し、同じく気絶していた奴を叩き起こした。奴もすぐに状況を察し、(精神的な意味で)真っ白に燃え尽きていたジャバローをボールに戻した。
「どういうことだよ!お前のスカンプーがアホみたいに臭い液体を飛ばしたからこうなったんだ!」
「まあ落ち着くんだ。言い争ってる場合じゃない。」
「分かってるわ!原因がお前にあるのにこっちは言わずにはいられないんじゃい!」
確かにそうだ。俺が指示した訳ではないが、スカンプーを使うとこういったことにもなりうる、というかなっているということを事前に防げなかったのは、俺が扱いの難しいスカンプーへの予備知識が無かったからだ。
だが、こうなってしまった以上、早く火を消す他無い。

さて、この辺に消防署は無いかな…、と。

…ってこんなところで話を締めくくらせている場合じゃねぇ!(そして何気に第4号)
と言うより、この炎の勢いじゃあ消防車が来る頃だともはや大惨事だ。
ちょうど電話ボックスが近くにあるが、こんなことで事を大きくしたくは無い、だがやはり通報せずには…。

「ジェイク、ハイドロポンプ!」

突然ポケモンに指示を出す女性の声がしたかと思うと、その声の方からから水が勢いよく発射され、炎は見る見る内に消えていった。よく見ると、その水はサメのようなポケモンの口から発射されていたようだ。
「ふぅ、危なかったわね。」
声の主の女性はサメのポケモンをボールに戻し、こちらに来た。
髪はウェーブのかかった薄いブルーで、黒いワンピースを着ている。背はスラリと高く、第一印象はいかにもオトナの女性といった感じである。
「「あ…、ありがとうございます。」」
俺と奴はほぼ同時に言った。すると、その女性は静かに微笑んだ。
「可愛いトレーナーさん達ね。」
「…あなたは一体、どのような方なのですか。」
俺はその女性に訊いた
「私はそんなに大した者じゃないわ。それにしてもこの辺、焦げ臭さの他にちょっと臭うみたいね。もしかしてスカンプーか何か?」
「あ、そうなんです。それにしてもよく分かりましたね。」
「私、あくタイプのポケモンには詳しいから。」
「元はと言えばこのボヤも俺のスカンプーが原因なもんで。」
「そうなの。あくタイプは扱いの難しいポケモンが多いから、今度から気をつけるのよ。」
「はい。本当にありがとうございました。」
「それより、あなた達、駆け出しのトレーナーでしょ?」
俺と奴は頷いた。
「なら、いいことを教えてあげる。この先、あなた達と同じように強いトレーナーを目指す人間は数多くいるわ。でも、殆どの人間はポケモンの本当の『強さ』に気付いていない。本当の『強さ』っていうのは、あなたたちがこれからポケモンと絆を深め合っていくことで、自然と見つけることが出来るはず。その『強さ』を見出せるトレーナーこそ、本当に強いトレーナーよ。」
その後、その女性はカラスのポケモンに掴まって、どこかへ飛び去っていった。
それにしても、あのサメのポケモン、あれだけの炎を瞬時に消し止めるなんて、一体どれほどの実力なのだろうか。そして、それを操るあの女性…本当に何者なのだろうか?

シンオウ地方のある晴れた日のこと。
俺は、サイクリングロードの高架橋の下にいた。
ポケモントレーナーのいわゆるツワモノを目指す自分にとって、これからは本当の『強さ』とは何であるのかと考えてみようと思う。
その女性は後に語った。

強いポケモン、弱いポケモン、そんなの人の勝手。本当に強いトレーナーなら、自分の好きなポケモンで戦うべき。


冒険は、始まったばかりだ。
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アウストラロピテクス #5★2006.11/17(金)01:52
「モーモーミルク、ごっくんしてください。」
俺は近頃評判のある、モーモーミルクの旨い『カフェ やまごや』に来ていた。まあウェイトレスさんの制服のフリルがやたらとヒラヒラしていたり、客の中にオタ…濃厚なポケモンコレクターらしき人物がが約2名ほど紛れ込んでいたり(ちなみにそいつらは常連さんらしい。)、どちらかと言えばカフェと言うよりメイ…、いや何でもない。
ここではポケモンをボールから放して、ポケモンと触れ合いながらゆっくりとティータイムならぬごっくんタイムを満喫したり、カウンター側のウェイトレスさんや、俺と相席の牧場おじさんとの話に花を咲かせたり…と、優雅な時間を過ごせる。また、カウンターの台の隅にはウェイトレスさんのニャルマー、マリーちゃんがちょこんと座っている。このカフェの看板ポケモンでもある彼女にダスターは首っ丈らしい。
このカフェも、後ろのテーブル席の約2名を除けば、山の麓(ふもと)の空気が旨い、味のある雰囲気がウリな店なのだ。


#5 決して御主人様御用達なカフェじゃないから


「ねえねえ、ちょっとそこのキミさぁ。」
神経を逆撫でするどす黒い声が俺の後ろで聞こえた。振り返ると、声の主は味のある雰囲気ぶち壊しな大よそ場違いとも言えるディープなヤツの内の1人だった。
「キミ、ポケモントレーナーだろ?だからさぁ、ボクたち2人がどっちか強いかちょっと試させてほしいんだぁ。」
肥えた頬をもごもごと動かすようにそいつは喋っていた。どうやら後ろの2人がどちらのポケモンがスゴいかという暑苦しい討論を繰り広げていて、俺のポケモンを相手に2人がポケモンをそれぞれ出し合って決着をつけるという流れらしい。つーか2人でやれ。暑苦しく外でやれ。
まあぶーぶーとせがまれた末、結局相手をしてやった。相手のポケモンはそれぞれマネネとウソハチ。だが、そいつらはダスターのどく&あく戦法(どくガスで敵の戦意を喪失させ、あくタイプならではの攻撃的気質を活かしてみだれひっかきで攻めてゆくという戦法)の前では、瞬殺のごとくそれぞれ倒されてしまった。
勝負に負けて機嫌を悪くしたディープな2人組みは、席に座るや否や再び暑苦しい討論を始めた。多分もうこれで俺が相手にされることは無いだろうな。よかったよかった。
「ウンウン、やっぱり育てるなら可愛いサーナイトたんだよね…。」
「いやいや、ここは今流行のミミロップたんでしょ…。」
ご勝手に。

で、一勝負をサクッと終わらせた俺は、再び席についてダスターと一緒にモーモーミルクで乾杯した。その時、カウンター側のウェイトレスさんがこちらに話しかけてきた。
「あ、そぅ言えばお客さぁん、強いポケモントレーナー目指してるそぅですねぇ。」
ちなみにこの緩いしゃべり方はそういうキャラを装っているらしい。看板娘というのも大変な仕事だ。
「ん、そうだけど。」
「だったらぁ、ポケモン、新しぃのどんどん捕まえてみたらどぉですかぁ?この辺だとぉ、あまぃミツ木に塗ったらぁ、けっこぉ珍しそうなの出てきますよぉ。」
確かに、戦力がダスターだけだというのも寂しい。それに、色々なポケモンを使いこなせておかなければ、この先の勝負には勝てないだろう。
そんな訳で、俺はウェイトレスさんに礼を言った後、マリーちゃんとの別れを拒むダスターを引っ張って店を後にした。ウェイトレスさん曰く、甘い香りがする木にあまいミツを塗り、一日くらい放っておいたところに珍しいポケモンが寄ってくるそうなのだが、俺はある重大なことに気が付いた。

…あまいミツ持ってねぇ。
うん、あのときウェイトレスさんからホットケーキ用のメープルシロップでも分けてもらえばよかったよね。と言うより、それ以前にそんなモン、わざわざ分けてもらわなくても「さて、この辺にコンビニは無いかな…、と。」って買ってくりゃあいいよね。
まあ、ミツの代用品くらい確かあったはずだから、それを木に擦り付けときゃあ何とかなるだろう。
…で、リュックの中を探って見つけたその代用品がコレ、「ノメルのみ」。その辺で拾ったはいいが、オレンだとかモモンだとかと違ってイマイチ効能が分からないまま、捨てずに取っておいたので、腐りかけである。まあそれを処分するには丁度いい。腐りかけという独特の匂いで物好きなポケモンが寄ってくるだろう。
空がだんだんと暗くなり、夜を告げる頃、俺は珍しいポケモンを明日へ期待しつつ、その場を後にした。
その道中、

「ムフフ、ボク、ムウマージたんなら呪われてもいいよ。」
「ボクはユキメノコたんにみちづれされたいなあ。もちろん呪われながら。フヒヒヒヒ!」

俺はこいつらに呪われた気がした。
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アウストラロピテクス #6☆2006.11/25(土)00:16
翌日、俺は昨日腐りかけのノメルの実を張り付けた木に珍しいポケモンが来ているかどうか確かめるためにそこへ戻ってきた。
その珍しいポケモンというのは、3種類のミノに変化し、オスとメスで進化後の姿が違うらしいミノムッチ、進化すれば太陽の光の強さによってそれ自身の強さも変えるポケモンになるというチェリンボ、そしてこれもまた進化すれば手下に指令を出して戦うポケモンになるというミツハニーなどがある。どれも進化後にかなり個性的な戦術を用いるポケモンなので、武器が「屁」という個性的な戦術を使うダスターの相棒にするにはうってつけだろう。
また、それらのポケモンの中でも個人的に興味深いのが、ミツハニーというポケモンである。進化後の名前はビークインといい、そいつは手下のミツハニーを蜂の巣と一体化した自分の体から何匹も呼び寄せて、「ぼうぎょしれい」「かいふくしれい」「こうげきしれい」といった何ともアーミーチックな格好いい技を覚えるというのである。
まあ俺がビークインに指令を出し、そしてまたビークインが手下のミツハニー達に指令を出すという様子を想像すると、何ともシュールな絵になるが、それはそれで面白いのかもしれない。


#6 いつの時代も女は強し


どうやらビンゴのようだ。というのも、ちょうど仕掛けた木にお目当てのミツハニーが1匹だけそこにいたのだ。
全体的に黄色っぽい身体をしていて、同じ表情の三つの六角形の顔をまるで蜂の巣の形に整えたかのようななんとも言えないシュールさを漂わせているそいつは、ミツハニーに間違いない。
そいつはどうやらぶーんぶーんと羽音を立てながら、腐りかけのノメルの実の蜜っぽくなっている部分を必死でかき集めているなので、こちらの存在には気付いていないようだ。働き蜂もとい、働きミツハニーと言うべきか。
早速、俺はその働きミツハニーに気付かれないように、ダスターに指示を送った。すかしっぺ、という内容である。
「スー…ー…」
意識して聞く耳を立てなければ聞こえない屁をダスターがこき、同時に俺はしばらくの間息を止めた。こうすることによって、相手のポケモンを倒さず、気絶だけを狙うことが出来る。
そして、その臭いに反応したミツハニーはすぐに気を失った。こんなに早く気絶するということは流石に予想外ではあったが、結果オーライである。というか殺虫剤かオマエは。
俺はすぐにモンスターボールを取り出し、気絶したミツハニーに投げつけた。それは抵抗することも無く、ボールの揺れすら無く簡単に捕まえられた。これも結果オーライというわけだ。
早速だが、捕まえたミツハニーにダスターと同じくニックネームを付けようかと思う。ミツハニーという名前を数字の語呂合わせっぽくすると32821となるわけだが、5文字以内とはいえ、流石にこれは名前としては呼びつらいし、愛着も湧きづらい。どちらかと言うとこれは暗証番号にでも持ち越したほうがいいだろう。
その後結局、ミツハニーの名前はハニーとホーネット(蜂)を掛け合わせてハーネットという名前に落ち着いた。ネット(網)という意味も、顔の形がそれっぽいところに掛かっているといのもミソだ。ちなみにネーミングセンスに対する難癖やいちゃもんは一切受け付けない。
ちなみにハーネットは、真ん中の顔にメスにはあるという印が無いので、オスだということが分かった。そういえば、進化後はビー“クイン”という、女王蜂を連想させる名前のポケモンになるそうだが、オスのこいつは進化するとどうなるのだろうか。名前に関係なくメスも存在するヤドキングやキングドラのように「ビークイン」としてオスでもその名前で統一されるのだろうか。またはニドクイン、ニドキングといった、性別によって名前も区別され、「ビーキング」にでもなるのだろうか。はたまた、女王を護衛する騎士として「ビーナイト」にでもなるのだろうか。それはそれでビークインとはまた違った格好よさがにじみ出ている。
まあ、それはコイツ、ハーネットが進化すれば分かるだけの話だ、と俺はオスのミツハニーの進化後の名前と姿に期待を馳せながら、その場を後にした。

そして、それらの期待が進化しないという形で容易くも裏切られるということを知るのは後のことであった。
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アウストラロピテクス #7☆2006.12/11(月)01:45
「あまいかおり」「かぜおこし」

俺は捕まえたハーネットの技を確認してみたが、これらたったの2個である。どう見ても戦うポケモンの技じゃない。
これでどうしろというのだ。あまいかおりで敵のポケモンを「あ〜いい匂いだな〜。」と油断させておいて、かぜおこしでビシッ!っと決め込める訳がない。たかがミツバチのポケモンが起こす風だなんて知れている。それ以前に、たかが匂いごときで敵を油断させようだなんて馬鹿にするのもいいところ。
「あら、いい匂いだわ。くんくんくん…キャ!風さんのいじわるっ!」ってやかましいわ!
何故ミツハニーの戦闘能力がショボいのかというと、ミツハニーの♂は本来、ビークインへ献上する蜜集めが主な仕事だからである。その為戦うのは稀で、しかも戦うときは集団なので、個々の戦闘能力は低いのである。ちなみにミツハニーの♀は数が少ない上、女王蜂の候補でもあるから巣の中で大切に扱われているんだとさ。言うなれば王女蜂ってやつ。男はつらいよ。
まあ戦闘能力云々の問題は、女王の座に就けば技のバリエーションも増え、単独での戦闘能力も大幅に上がるなどによって大方解消できるのだが、この流れだと、これがどのような意味であり、同時にその逆も容易に想像できるだろう。

俺は、ハーネットがどうやらダスターの相棒になるどころか足を引っ張るんじゃないかと思い始めた。


#7 強き心は誰にでも


ポジティブシンキング、どんなときも前向きでいく姿勢を志すときは、この言葉を心の片隅において置くのがよいだろう。ただし、こんなことを言うからには、俺が何かによって後ろ向きになりかけたことへの裏返しを意味するということには触れないでほしい。
兎にも角にも、ハーネットを鍛えないことには戦闘ではまるで役に立たない。それ以前に…、という突っ込みも、ポジティブシンキングで勘弁していただきたい。
そんな訳で俺は、ハーネットの獲物になりそうな虫ポケモンの生息するハクタイの森というところ足を運んだ。ここはあまり光が差し込まれてこないので昼間でも薄暗く、涼しかった。しばらくの間、俺は草むらの中を歩いていた。
「ピキーッ」
どうやら早速、ケムッソが出てきたようだ。だがこいつはあまり手ごわい相手ではないだろう。ハーネット、今のお前は蜜を採るのではなく、獲物を獲るのだ。
「ハーネット、かぜおこし!」
「ぶぅーん」
ハーネットは強風を起こし、それをケムッソへ叩きつけた。どうやら虫ポケモン相手に飛行タイプの技は利きやすいようだ。
何度かのかぜおこしで、ケムッソは倒れた。この調子で、その後も順調にケムッソ狩りを続けてゆく。また、それだけではなく、カラサリスやマユルドといった、他の虫ポケモンも格好の獲物となってくれた。…え?これは単にほぼ無抵抗なポケモンばかりを狙っているだけだって?…ポジティ(それは単なるごまかし)
ちなみに、虫ポケモンではなく、可愛らしいウサギさんなポケモンが現われたこともあったが、その可愛らしさとは裏腹に結構強めのパンチを持っていたので、そこはあまいかおりでカンベンしてもらうことにした。
さて、せこせこと虫ポケモンばかり狩っている内に、辺りはすっかり暗くなってしまったので、俺は帰路につこうとしていた。だがその時、思いもよらぬ敵に遭遇した。
「シャー!」
それは幽霊のようなポケモンで、つぶらで大きな瞳と、ストレートの先がややカールがかった髪のような形の頭で、小さな体の部分には赤い数珠のようなものがある。ムウマという名前らしい。
高く、どこか人間の女の子にも似たような鳴き声を発するので、多分こいつもメスだろうか。折角なので、こいつを相手に、鍛えたハーネットの力を試してみるのもいいだろう。
先ほどまで戦っていた虫ポケモンの相手をする手順を踏むように、俺はかぜおこしをハーネットに指示する。
だが、先に動いたのはムウマの方だった。
「シイィー!」
そいつは念力のような力で黒い影のような球を作り出し、そして念力のような力でハーネットにそれをぶつけてきた。その黒い影のような球はシャドーボールと言い、禍々しいオーラと怪しげな音を発していた。幸い、球は狙いの中心を外していたが、それでもハーネットにとっては大きなダメージだった。
「急にボールが来たので…」と、今年のネット流行語で知られている某サッカー選手もビックリの威力である。
どうやらこのムウマ、かなりの強さと見た。だがもしこいつを捕まえられれば、強力な戦力になってくれるだろう。
俺はハーネットを後方で休ませた後、ダスターをボールから出し、まずはどくガスで弱らせるべく、ダスターに指示を送る。今回は思いっきり、という内容である。
「ぶびゅう〜ん」
食事中の方には失礼な音が、森一体に垂れ込めた。まあパソコンの画面に向かって食事をする行儀の悪い人はあまりいないと思うが。
「シィ…?」
だが、「え、何かあったの」とばかりに、ムウマにはどくガスが通用しなかった。どうやら霊体ポケモンには嗅覚があまり発達していないようだ。
しかもよくよく考えたら、こいつのみだれひっかきも霊体には通用しないではないか。
「シ…ゥ…」
ムウマは眼の瞳孔を広げ、ダスターを睨み付けた。これはくろいまなざしと呼ばれる技であり、これに睨まれたものは上手く身動きが取れなくなるという。
「ぶ…っふーぅ…」
身震いするダスターをボールに戻そうとするも、ボールのスイッチにダスターが反応しない。
ムウマは相手が動けなくなって狙いが定まったのをいいことに、再びシャドーボールを撃ってきた。
成す術も無く、ダスターはそれをど真ん中から喰らい、倒されてしまった。
ダスターですら一撃で倒してしまうその魔力、なんという強さであろうか。強いっていうレベルじゃねーぞ!
俺は倒れたダスターをボールに戻し、後方で休ませていたハーネットもボールに戻そうとした。
だが、ハーネットはゆっくりと再び羽を広げて弱々しく飛び上がった。
どうやら最後の力を振り絞る気なのだろうか、進化できないと言うことに意地になりつつ、力を出す気なのだろうか。そんな力で、ハーネットは「かぜおこし」をした。だが、技と呼べる風が出たのはほんの一瞬だった。
「ムウッ」
しかし、そんな一瞬の風は上手くムウマの顔面を捉え、一瞬出来た隙に俺はボールを投げ当てた。
ボールは激しく揺れた。だが、やがて揺れは小さくなり、遂には静かに収まった。
「ぶぅ…ん…」
最後の一仕事を終えたハーネットも、静かになって倒れた。
俺は3つのモンスターボールを抱えて最寄のポケモンセンターに駆け込んだ。
元気になったダスターに、ハーネットに、新たな仲間となりレーニョと名付けたちょっと強気な女の子のムウマを加え、俺の手持ちも大分賑やかになってきた。

3匹、どれもみんな強くて頼れる奴らに、俺の心はポジティブになっていた。
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アウストラロピテクス #8★2006.12/26(火)03:00
「ハーイダスター、相変わらず元気そうだなー!」
「ハーネット、お前の方が元気じゃないか」

俺はスカンプーのダスター。
元々は全然人気のない野良ポケモンだったんだけど、ある日、今の御主人に目を付けられ、現在ポケモンバトルをメインに活躍の場を見せている。
でも俺が捕まえられてからそれなりに経つだろうか。今では仲間も2匹いて、大分賑やかになってきた。

「ハハハ、そりゃ俺も元気よ。なんたって俺は男一匹ミツハニーだからな。もうあんなクソ女王の命令なんて聞かなくてすむと思えば清々するからな」
テンション高いコイツはミツハニーのハーネット。かつてはビークインの元でこき使われていたそうだが、ある日御主人に捕まって現在に至る。
ミツハニーと言えば、群れを成して行動し、女王であるビークインに絶対の忠誠を示すそうだが…、この言動だとコイツみたいな例外もいるようだ。
「おいおいそんな仲間ハズレみたいな紹介をするなよ」
「いや、お前さっき『クソ女王』とか言ってなかったっけ」
「あ、もう『女王』の部分外しちゃっていいよ。なんたって俺は男一匹ミツハニーだからな。それよりもっとマシな紹介の仕方をしろって」
…テンション高くて面倒くさい男一匹ミツハニーである。以上。

「フフ、盛り上がってるようね」
彼女はムウマのレーニョだ。御主人がついこの間ハクタイの森で捕まえたらし…
「そういうじれったい紹介の仕方はキライ。アタシはムウマのレーニョ。ここの男共より、アタシの方がずっと美しくて強いのよ☆」
こんな感じで自意識が強く、わがままな所も多い。
…あれ、今彼女がなんか黒い影の塊を…、あ、そうそう、言ってる通りホント強いから。特にシャドーボールとかマジでシャレにならんから。だから許してください、お願いします。
「分かればいいのよ」


#8 劣等感コンプレックス


今日は御主人がハクタイの森で自由に行動をさせてくれる日だ。
と言うのも、御主人は時々こうやって俺たちの束縛された時間と行動を開放し、忘れかけていた野生のココロを思い出させるのが目的だそうだ。
「なんだかんだ言って、本来の目的はしばらくの間俺たちの世話はしなくて済むような感じで、御主人も案外ズボラなだけだったりしてな」
ハーネットがそう言った。まあ案外当たってるかも。
そんな感じで森の中を3匹でフラフラしていると、レーニョがある提案を仕掛けてきた。
「ねぇねぇ、折角だからこれからみんなで『ブラザーブイズ』の所に行ってみない?」
「何でぇそのブラザーブイズってのぁ」
レーニョの提案に対してハーネットが尋ねた。
「アタシもよく分からないんだけど、何でも、この森には最近イーブイ族の8匹兄弟が最近やってきて、とても賑やかなの。オス4メス4で、オスの方はとても元気だし、メスの方は…そうね」
その時レーニョは意味ありげに俺の方へ視線を合わせた。…うん、まあ俺も可愛い娘には弱いけど。
「なぁなぁメスの方はなんだよ、なんだってんだよー!」
昆虫類にはそのカンタンな答えが分からなかったようだ。
「まあその『ブラザーブイズ』、聞いてみれば何だか面白そうな兄弟みたいだから行ってみようじゃないか」
俺は賛成の意を示した。
「フフ、そうじゃないクセに☆」
余計なお世話だけど否定できないところが悔しい。

レーニョに案内されてしばらく歩くと、なにやらオレンジの体にもふもふしたクリーム色の毛をまとったポケモンが目に入った。もしかするとそいつが例のブラザーブイズの内の一匹なのだろうか。
「あなた、もしかしてブラザーブイズの一員?」
レーニョがそのもふもふに尋ねた。
「おう、いかにも俺がブラザーブイズの5番生まれ、ブースターのバジルだ!俺のキョーダイに会いたきゃまずは俺と一発バトることだな!」
8匹兄弟のうち5番生まれなのにえらく気が大きいと思った。それだけバトルが好きなのだろうか。
「へへっ、俺と戦いたいヤツはいねぇのか?」
ブースターのバジルが俺たちに向かって自身あり気に挑発する。
というか本気で森の中で火を放つとか狂気の沙汰か?
「なら仕方がないわね。アタシが行ってあげるわ」
挑発と聞いたらやはり強気なレーニョの出番なのだろうか、彼女は快くそれを引き受けた。
「いよーっ!姐さんやっちまえーっ!」
そしてハーネットも威勢良く声を掛けた。そう言えば彼はレーニョに頭が上がらないから「姐さん」なんて呼ぶのだった。どうも彼は常に「女王」からは逃げられない運命のようだ。
「へへ、女だからって手加減はしねぇよ」
「フフ、これくらいの男なら簡単に捻り潰せるわ」
レーニョは大きな瞳で相手を睨み付けた。っていうか姐さんそのセリフ怖いです。
「いくぜッ!かえんほうs」
「遅い」
なんと言うかどこぞの格闘漫画のごとく流れの速い台詞のやりとりがあった後、姐さんが瞬時に作り上げたシャドーボールをブースターのバジルにブチ当て、決着は一瞬で着いた。
倒れこむ敵のバジル、そして余裕をかますレーニョの姐さん。何とも想像しやすい1コマであろうか。
「姐さん流石です!ホントすごいです!」
「俺もやっぱ姐さんには敵わないです」
調子に乗っておだてるハーネットに釣られ、すっかり俺も「姐さん」の配下の仲間入りを遂げてしまった。
「な…あんなに速く攻撃を仕掛けてくるとは…」
すっかりやられ役となってしまったバジルだが、必死の力立ち上がり、最後の力を振り絞って攻撃を仕掛けてきた。
「喰らえ…ッ、ほのおのk『ピシャーン!ゴロゴロ』

「…おばひっ」

…。
えーとなんだこの説明し難い間は。
どうやら、カミナリの音とやられ役の断末魔が聞こえたような気がしなくもないが。
「お前はまたこんな所で油を売ってたのか」
と、その間に現れたのは、針の様にちくちくな黄色い体に、これまたちくちくとした白いエリマキがあるポケモンだった。
「オレの名前はサンダースのフェンネル。ブラザーブイズの4番生まれさ。どうやらこっちのバジルが迷惑をかけたようだな」
喋り方がどうもバジルのものと被りがちだが、あっちは熱血漢な感じで、こっちはクールで刺々しい感じの印象がある。
「あら、別に迷惑なんてかかっていないわよ。むしろ軽い肩慣らしみたいな?まあ腕を振るうまでも無かったけど」
そういや姐さんのどこに肩と腕があるのだろうか。
「まあいいや、オレ達兄弟の所に訪れてくれたみたいだし、案内してやるよ。ほらバジルお前も立て」
兄のカミナリを脳天から喰らった上、しばらくほったらかしにされていたバジルも起き上がり、俺たちは2匹に「ブラザーブイズ」の棲家に案内されることになった。

その道中、俺はブースターのバジルと軽い会話をしていた。
「ふうん、アンタはダスターっていうのか。いい名前だ」
「ありがとう。こいつは俺の御主人が付けてくれたんだ」
「御主人…ねぇ。俺もニンゲンに使われるようになったら、色んな戦いを経験するんだろうな」
「俺も姐さんと違って、まだまだ戦力になりきれてない部分が多いけどな。ニンゲンのポケモン同士の戦いだと、自然界とは違って見たことの無いようなヤツが相手のときも多い。でも、それだけに色々な技を試行錯誤しながら弱点を突いていった末、倒せたときの快感は格別だよ」
「へぇ…、それはいいなあ。俺もニンゲンのポケモンって立場に興味が湧いてきた」
「でも、一番手強かった相手が、最初に戦ったポニータのジャバローってヤツかな。そいつは炎タイプのポケモンなんだ」
「炎タイプか、俺と一緒だな。で、そいつも俺と同じようにかえんほうしゃとかほのおのキバとかするのか?」
「いや、アイツは突進攻撃が得意なんだ。特に、倒れ間際に炎をまとって捨て身の突進を仕掛けてきたときには凄くビビったな。あれ、『とっしん』って言うよりかはもっと強そうな感じの名前が合ってるような気がしたんだ」
「『フレアドライブ』とか?」
「あ、それ、いい感じでカッコいい名前だな!今度からあの突進のことそう呼ぶわ」
「…そうか、それは…良かったな」
「それでバジルさ、お前もそんな感じの攻撃とかは得意か?」
「…」

彼はしばらくの間口を利いてくれなかった。
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アウストラロピテクス #9★2007.01/03(水)00:16
サンダースのフェンネルについて行くこと数分、遂に俺たちは「ブラザーブイズ」の住処に到着した。
ただし、住処と言っても苔が生えた大きな岩の周りから半径約3メートルくらいの、どちらかというとナワバリのような感じだったが。
それにしてもさっきからブースターのバジルが「ゴウカザル…ウィンディ…リザードン…」と何やら炎タイプのポケモンの名前を、まるで呪うかのようにブツブツ言っているようだが、何やら深いインネンのようなオーラが漂っていたので触れないでおこう。
「おうみんな、ただいま帰ったぜ」
サンダースのフェンネルが言った。それに続くように、住処でスタンバっていた他のブイズの「おかえり」コール。
住処には色とりどりの6匹のブイズがいた。その中にはレーニョが言っていたように、可愛い娘も…。
「バクフーン…バシャーモ…キュウコン…」
そういやこいつはまだ何かブツブツ言っている。
「ギャロップ…ブーb『ピシャーン!ゴロゴロ』ぁべし!」
「いつまで言ってるんだお前は」
再び兄の雷撃がバジルの脳天に直撃。一瞬、一昔前の漫画のごとくレントゲンみたいな骨の見え方がしたような気がしなくもない。
てかこれ喰らっても大丈夫なのか?
「あ、別にこいつの心配はしなくていいぜ。いつものことだから」
兄のフェンネルがそう言うのはともかく、周りのブイズが止めに入らないのだからこういったことは日常茶飯事なのだろう。

それより、水色の体で背中に濃い2つの青のひし形模様があって、おでこからぷにぷにしてそうな青いアレがぶら下がっているアノ娘、なんて名前だろうな(ポッ)


#9 俺とコイツのブイズ祭り


「あら、フェンネルが客を連れてくるなんて珍しいじゃない」
そう言ったのは、ブイズの中でピンクがかったようなうす紫の体で、細長い尾の先が二股に分かれたポケモンだった。
「姉貴、正確にはバジルの客さ」
「そう、なら自己紹介をしておくわ。私はエーフィのジャスミン。ブラザーブイズでは2番生まれよ」
ジャスミンさん、か。なんだか高貴で優しそうな感じだ。
そんな訳で、俺たちも順にブラザーブイズの皆に自己紹介をした。
「俺はスカンプーのダスター。ニンゲンに飼われているポケモンなんだ」
「俺は男一匹ミツハニーのハーネット。俺もダスターと同じく御主人のポケモンさ!」
「アタシはムウマのレーニョ。一応この中だとアタシが一番強いから、他の男二匹からは尊敬されているいわば『おかしら』のような存在だと思ってくれればいいわ☆」
ちょ、姐さん、何もわざわざここでアピールしなくても…、
「あんたたち、何か文句でも?」
やばい、姐さんがシャドボ作っとる!
「「全くもってありませんッ!」」
男二匹はかたくなに言い張った。

俺たちは影でのやり取りを含めた自己紹介を終え、お次は残りのブイズがそれぞれ自己紹介をする。
「あたしはシャワーズのミント。ブラザーブイズの7番生まれなの。よろしくね♪」
ミントはニコッと笑った。
それにしてもイルカのような尾びれとヒラヒラエリマキがなんとも印象的な彼女だ。肌もすべすべしてそう。
「あと、あたしは水の中でアクアリングをまといながらとろけているのが好きなの♪」
水の中でとろける?どういう意味だろう。
そんなことを考えていると、横からハーネットが俺の耳元で何やらこっそりと言った。
「べろんべろんに酔っ払って道○堀の川に頭にネクタイをまとったオッサンが飛び込むような感じじゃね?」
常識的に考えてそれはありえないだろ。というかお前もっと清々しいイメージ無いのかよ。
「ハハッ今のは流石にジョーダンだよ。まあ俺のイメージだと水の属性に仕える巫女さんとかが精霊と戯れるとかそういうアレだね、うん」
ソッチに走ったか。

「ボクはイーブイのジンジャーだよ!ブラザーブイズの末っ子だけど、みんなに負けないくらい強くなれるよう頑張るよ!」
お次は他のブイズと比べると体は小さいが、素敵なスマイルとふさふさエリマキがチャームポイントな彼の紹介だ。
うム、元気があってよろしい。
「うんうん、ボクっ娘とは真によろしいですなあ」
またお前か、とばかりにハーネットが余計なことを言った。
なんだか俺とコイツとの「よろしい」の捉え方は380度違っている気がする。
「ち、違うよハチさん!ボクは男の子だよっ!」
ボクっ娘説を必死で否定するジンジャーくん。「ハチさん」のフレーズが可愛い。
「いや〜可愛いだなんてソレほどでも〜」
お前を褒めてんじゃねーよ。…と、なんだかクレしん張りのやりとりをしてしまった。
はい次いってみよー。

「アタイはリーフィアのローリエ。ブラザーブイズの6番生まれよ」
彼女の口調からすると、遅生まれでありながらも何だか強気なものが感じられる。
それにしても今時「アタイ」って喋り方をするのはおじゃる○の赤いやつくらいじゃないか?
「ダスター、彼女のことはこれからだぜ。」
何がこれからだよハチさん。そして何を期待しているんだよ。
そんなことはさて置き、リーフィアのローリエは自信満々に語る。
「アタイが戦うときはいつも真剣勝負よ。なんたって、あたいはつるぎのまいで尻尾を刃のように鋭くさせて、リーフブレードやシザークロス、つばめがえしといった様々な尻尾さばきで一気に勝負を付けるんだからね」
そう言いながらローリエは自分の尻尾をじっと見つめた。
どうもご丁寧に自分の戦法を明かしてくれる彼女、やはり真剣勝負には相当な自信があるようだ。
と、ここで再びハーネットがどうでもいいことを語り出す。
「強気な女剣士、そして頭のアホ毛…こりゃキタな。まさに俺のツボだよ。後はもう一押しってとこかな」
お前のツボなんぞどうでもええわ。ってかお前段々キャラ変わってきてね?
「いやぁ、ここに来て新キャラがどっと出てくるとそりゃ俺も本性表すよ」
どうやらこの昆虫類、俺にはついていけない世界の住人だったらしい。

「そうそう、アンタハーネットとか言ったわね」
と、そこでローリエからのご指名が入った。
「アンタ、どうやらアタイの戦い方に興味があるようね。いいじゃない、相手をしてやるよ」
「いやいやお嬢さん、俺弱いから真剣勝負をするレベルには程遠いっすよ」
まあオスハニーだし。
「そうかい。ま、アタイは別にアンタの事を思って言ったわけじゃないし、好きにしなよ」
案外彼女の諦めは早かったようだ。
「甘いなダスター、実は彼女、構って貰いたくて仕方が無いんだよ。そうじゃないと『アンタのことを思って』だなんて言う筈が無いだろう?」
またもやコイツが変な妄想を掻き立てる。
「要するにお前は何が言いたい?」
「要するに彼女はツンデレってことさ」

…。
何スか、ソレ。ツングースのデレゲーションの略ですか?…いや、これは自分で言ってても分からないや。
…まあ俺もコイツも、それぞれ別の意味で大きな勘違いをしているみたいだし、今回の紹介はこの辺にしておこう。

さて、この辺に精神病院はないかな…、と。
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アウストラロピテクス #10★2007.01/08(月)03:50
「いやいや姐さん、ホント勘弁してくださいよ。俺もこのキャラ演じるの結構ツラいんスよ。俺だって『ツンデーレ』だとかワケが分かりませんよ」
「フフ、アタシもちょっとやりすぎちゃったかしら☆」
「そんな悠長な答え方されても困りますよ。姐さんの命令とはは言え、ブイズのみんなやダスターに変なシュミをしているように思われるような素振りをするのは流石にツラいですって」
「あら、あまりそうやってアタシに口答えしてもよろしくて?」
「…ハハそういうわけじゃ…、てかシャドボを出すのは勘弁してくださいって」
「…まあ、アンタをこうやって利用させてもらって、アタシもアンタとダスターとの一連の会話を聞かせてもらったけど、どうやらあいつの『お目当て』はこれからのようね」
俺はそんなハーネットとレーニョの会話をこっそりと聞いていた。
話の流れから察するに、どうやらレーニョはハーネットに異世界の住人みたいなノリでブイズの女の子について語るように指示し、俺がうまく特定のブイズの女の子の話題にノれば、それが俺の「お目当て」だという疑惑が固まるわけだ。
まあ俺はハーネットが異世界の住人のキャラはあくまで建前だと知ったので、彼への精神病院行きの救急車を用意をしなくても済むという妙な安堵感に捉われ、ほっと息を着いた。
それにしても姐さんは、どうしても俺の「お目当て」が気になるらしい。まあこういっちゃ何だが、彼女も年頃の乙女だからだろうか。
だからこんな色恋話にも目が無いモンなのだろうか。それだったら姐さんも直接俺を脅したら済む話じゃないか?…まあ、それはそれで困るんだけれども。
まあ俺はコイバナだとかには一切キョーミのないんだけども。…いや、確かにお目当ての娘はいるけどさ。あの水色の体で背中に濃い2つの青のひし形模様があって、おでこからぷにぷにしてそうな青いアレがぶら下がっているアノ娘。
そういやまだ名前を聞いていなかったな。後で「紳士的に」話しかけてみるか
あ、実は姐さんは単にハーネットをイジくるのを楽しんでるだけなのかも。それだと姐さんがわざわざ「異次元キャラを演じるように」と指示した理由も納得できる。
そしてハーネットの方はというと、イジられて楽しんで…なんて言い方をしてしまうと、お互いが変な関係になってしまいそうなのでこの辺で止めておこう。
「ちょ、姐さん、やめれっ!マジシャドボは、シャドボは勘bくぁwセdrftgyふじこlpアッー」
あー、やっちまったな。またアイツは姐さんのシャドーボールの餌食になっちまってる。
それにしてもこのシャドボ、サンダースのフェンネルがブースターのバジルに脳天からカミナリ落とすよりも威力がありそうだ。
「フフ、ちゃんと正確な情報を入手できなかった罰よ☆」

…やっぱ119いるな。


#10 ニンゲンのポケモン


「やあお嬢さん、今日はいい天気ですね」
そんな小洒落た挨拶を、「アノ娘」にかけたのは他の誰でもない、俺自身だ。
何故俺がこんなにも改まっているのかというと、ます結論から言えば、まあなんと言うか、俺はそのカノジョに一目惚れをしたわけだ。
そして、今はお喋りなハチさんとコイバナ好きの姐さんはお互いにもめ合っている。
更に、他のブイズはそのもめ合いを見て笑っていたり、時には口を挟んだりして盛り上がっている。
そして肝心のカノジョはと言うと、遠くの風景を一人でじっと見ているのだ。
つまり、俺とカノジョはお互いにフリーなので、挨拶をかけるのには持って来いの状況と言うわけだ。
さて、俺の軽い挨拶でカノジョが振り返ると、俺は「ああなんて美しい方だ、まるで雪原に咲く美しい雪の結晶のようだ」とか言ってそれから…
「…」
あれ、返事が無い。しかばねのようd…じゃなくて俺恥ずかしっ!
これじゃあさっきまでカッコ付けてた自分に軽い殺意が芽生えて軽く鬱るっての!
つーか冷静に考えれば俺はブラザーブイズの「お客さん」なワケだし、こんなところをサンダースのフェンネルとかに見られたらもう脳天カミナリどころじゃ済まないワケで…、
「あの…、あなたが今日私たちのところへ来て下さった方ですか…?」
そうやって俺がテンパっていると、やっと挨拶に気づいたのか「アノ娘」はこちらを振り返ってそう言った。
やんべ、こっちに向けるその娘の顔と話し声がものっそ可愛いw
俺ちゃんますますキンチョーリキッドだヨw
「私…、ブラザーブイズ3番生まれで、グレイシアのアンゼリカと申します。あまり上手く話せませんが…、よろしくお願いしますね」
うわー、俺ちゃんピーンチ!無性に緊張しすぎてアンゼリカ穣の前で口が震えるヨ。
「あ…あハッ、あの、俺は、スカンぷぅのダスターとも、申しま、もう、もうしまふ、ふふ、ふヒ、フヒヒヒヒw」
ああアアあくぁwセdrftgyふじこlp;@:死にてエェー!
アガり過ぎて最後の方変質者みたいになってんじゃねーか!
うわやべーよ彼女引いちゃうよもう頭の中がギリギリギリギリジンジンギリギリジンジンジン!
「あ…、ダスターさん、ですか…。ちょっと顔が赤くなってますが…」
「あ、いや、その、大丈夫です。さっきはちょっとそのホントすいません…」
やっとのことで落ち着きを取り戻す俺。そしてさっきまでの自分にこれまでにない殺意を覚える。
「やっぱり、顔が赤いですよ。…ちょっと顔を動かさないでくださいね」
そう言ってアンゼリカ嬢は俺の顔に自分の顔を近づける。
え、ちょ、お嬢さん、何するの?ねェ何するの!?
そして次の瞬間、俺の左右の頬にそれぞれ何かが当たった。

「ぷにっ」「ぷにっ」

うっひゃひゃひゃひゃひゃぷにぷにぷにぷにw

…しばらくの間、頭の中がまたもや壊れてしまったが、「何か」が頬から離れた瞬間に俺は平常を取り戻した。
どうやら俺の左右の頬に当たっていたものは、アンゼリカ嬢のおでこからぶら下がっている青いアレだったらしい。
冷○ピタみたいなちょうどいいかんじの冷たさで、なによりぷにぷに感が何ともいえないのだ。
ドラ○エのぱふぱふに通じるような、そんな気持ちの良さだった。ぷにぷにwぷにぷにw
もうちょっとあのぷにぷに感に浸っていたいところだが、浸りすぎると「ぱふぱふ」を通り越して、「マヒャド」を頬に喰らう感じにもなりそうなので止めておいた方がいいだろう。
「あ…、よかった!緊張が取れたみたいですね!」
彼女はにっこりと笑いながら言った。そういうや心なしか緊張もほぐれた気がする。
「あ…、ありがとうございます…」
さて、やっとのことでまともに会話ができそうな感じになったが、この状況でクサい言葉なんて口が裂けても言えたモンじゃないし、それ以前に気の利いた話のネタが無い。
どうしようかな…、なんて考えている間にも沈黙があるので、徐々に互いに話しづらい空気にもなっているような気がする。
「…そうだ、ダスターさんって確かニンゲンのポケモンなのですよね」
彼女がやや恥ずかしがりつつも口にした。
「ええ、そうですけど」
「…私、これでもニンゲンのポケモンって立場に憧れるのです。だからちょっとお話を聞かせてもらえませんか?」
お安い御用ですよとばかりに、俺は彼女に「御主人」のことや、ライバルのポーニタ「ジャバロー」のことについて色々と語った。
それに彼女は目を輝かせながら、時には頷いたりして俺の話をとても興味津々に聞いてくれている。
やっべ、語る男ってなんだかカッコイイかもしんないw
「へぇ…、やっぱりダスターさんの御主人様っていい人なんですね」
「いやあ、俺がいてこそなんですけどね」
ちょっと俺も調子に乗りすぎたかな。
そういやブースターのバジルも、ニンゲンに使われるポケモンというものに興味を持ち始めてたっけ。
「…あ、言い忘れていましたが、私がニンゲンというのに興味があるのも、兄の影響があるからなのです」
「え、お兄さんですか?」
「はい、一番上の、ブラッキーのオレガノという…」
そういやブラザーブイズは兄弟が多くて何番生まれだとかややこしいが、一番上の紹介はまだ聞いていなかった気がする。
彼女はそのまま話を続けた。
「実は、オレガノ兄さんもニンゲンのポケモンで、たまにここへ帰ってくるの。それでも大抵は自分の御主人様については語ろうとはしないのだけれど、たまに語るときには、本人も時が経つのを忘れるくらい熱心に語ってくれるの」
へえ、そりゃ意外だな。まさかブラザーブイズで俺と同じように「御主人」に使われているやつがいるだなんて。
「アンゼリカ、どうやら俺の話題で盛りあがっているようだな」
と、そこへその本人かと思われる、黒くつやのある毛並みで、所々に黄色く光る輪っか模様のある赤い眼をしたポケモンが俺たちの元へ近づいてきた。
そういや彼は、ハーネットやレーニョとの会話には加わっていなかった気がする。
「俺はブラッキーのオレガノ。今日、お前達が訪れてきたのも何かの縁かもしれない。とりあえずよろしく頼む」
ああ、よろしく頼む…って、なんだかアッサリとしていて口数の少なそうなアニキだな。
「兄さんは口数が少なくて無愛想だけど、本当は一番の兄弟思いなのよ」
横からアンゼリカが口を挟む。
それにしても意外だと思った。まずは無愛想なアニキが一番の兄弟思いであることと、ニンゲン嫌いなイメージが感じられるのに、実際はニンゲンのポケモンだからだ。
「お前…、確かダスターとか言ったな」
その時、オレガノは俺を見つめて言った。
「少なくとも俺はニンゲンを毛嫌いしているわけじゃない。それに、俺の御主人はとても信頼の出来る方だ。」
その言葉には、「御主人」という存在を絶対的に尊敬するような何かが感じられた。
「それだけじゃない。御主人は俺たちポケモンを、どのニンゲンよりも分かっている。そして俺や俺の仲間の『強さ』が最大限に発揮できるのも、御主人が俺たちのことを全て理解してくれる存在だからなのさ」
その言葉を聞いて、俺は少なくとも彼がタダ者ではないいうことは感じられた。
それに、何よりその言葉には、「強いポケモン」特有の威圧感のようなものがあった。
ブラッキーのオレガノ、そいつはただでさえ強いレーニョの姐さんの何倍も強そうな感じがする。
そしてその強さがあるからこそ、弟や妹からの絶大な信頼があったりするんだな。

俺はオレガノと少しの間話した後、アンゼリカも混じってハーネットにレーニョ、そしてブラザーブイズと共に時が経つのを忘れてしまうほど騒いでいた。
無駄にテンションの高いハーネットが、レーニョの姐さん指示でリーフィアのローリエと真剣勝負に駆り出されてボロ負けしたり、その調子に便乗したブースターのバジルがバカ騒ぎを初めて、その直後にサンダースのフェンネルのカミナリを脳天から喰らったり、シャワーズのミントから水中でアクアリングをまといながらとろけるのを実演してくれたり、それらを見てイーブイのジンジャーやエーフィのジャスミンは笑っていたり、本当に愉快な時間をすごした。
辺りはすっかり暗くなっていた。
俺たち3匹はそろそろ御主人の元へ帰らなければならないので、帰り際にブラザーブイズと別れの挨拶をした。
「俺もいつか、お前みたいにいいニンゲンに使われてみたいぜ!」
バジルは俺にそう叫んでくれた。
その時アンゼリカは何も言わずに俺と目を合わせていたが、きっと彼女もバジルと同じことを考えているだろう。
「また機会があれば、ここに来てくださいね」
ジャスミンさんが優しく声をかけてくれた。
「ハーネットくーん、面白かったよ♪」
「ボクも頑張ってレーニョお姉ちゃんみたいに強くなってみせるよ!」
続いてミント、ジンジャーが声をかけてくれた。
「ハーネット、今度来るときはアタイに勝てるよう精進しておくんだな」
「姐さーん、ハーネットへのシャドボの突っ込み、バジルにカミナリ落とすときの参考にさせてもらうぜ」
ローリエ、フェンネルが声をかけてくれた。
心なしか、ハーネットとバジルの顔が強張っているように見えるのは気のせいだろうか。
最後に、長男のオレガノが、俺にこう言った。

「俺とお前はお互いに悪タイプであり、ニンゲンのポケモンという立場だ。
 いつの日か、お前と戦える日が来れば…、その時は本気で戦い合おう」


ああ、俺もその時は、お前に負けないくらい、誰よりも強くなってみせるからな。
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アウストラロピテクス #11★2007.01/14(日)17:59
「ポワァーオぐちょぐちょ!ポワァーオぐちょぐちょ!6時だぽ!全員集合ぽ!」

えらく騒がしい朝だと思ったら、俺が昨日トバリゲームコーナーの景品で貰った「トリトドン型目覚まし時計(西タイプ)」のせいだった。
この奇妙な目覚まし時計は、ちょうどおでこの白いマルの部分がスイッチになっていて、右の目に時、左の目に分が表示される。
そしてセットした時刻になると両目が点滅し、気の抜けた声でアナウンスしてくれる、まさにトリトドン好きの方にはたまらないアイテムだ。
俺は横でぐっすりと眠っているダスター、ハーネット、レーニョを起こし、ボールの中に戻した。そういやこいつらは昨日、ハクタイの森でえらい楽しい思いをしてきたそうだが、その時俺はトバリゲームコーナーのスロットと格闘していたんだっけ。
ギガインパクトの技マシン欲しさに手持ちのポケモンをほったらかしてゲーセンに入り浸っている、なんて書き方をするとなんだか俺がダメ人間みたいな感じになるが、まあこれもお前らのためなんだ。勘弁してほしい。
でも数万円スッた挙句、手に入ったのがこの奇妙な目覚まし時計なんだけどね。
いやトリトドン可愛いじゃんトリトドン。
…まあ、スロットをやらずコインだけ買ってわざマシンを貰っているやつもいたが、そいつはウラヤマ氏の屋敷の前でポケモンバトルをたしなんでいるジェントルマンやマダムに向かって、右手でバトルサーチャー、左手でおまもりこばんを突きつけて、「賞金」として何十万も巻き上げていくようなアブナイ類のヒトだろう。


#11 DO☆SAIDON先生


「最近マサゴの近くにパルパークって施設が出来てね、そこにはいろんな地方のポケモンがいるんだよ」
「へぇ…、パルパークですか」
「私も一度見に行ってみたのだけど、そこは凄いところだ。何と言っても、地方のトレーナーや団体から搬送された、シンオウじゃあ珍しいカントーやジョウト、ホウエンのポケモンがたくさんいるからなぁ」

俺にとって、モーモーミルクの旨い「カフェ やまごや」は情報交換の場である。
俺はよくここのウェイトレスさんや、ここを訪れるトレーナーたち会話に花を咲かせ、珍しいポケモンの棲家について語ったりしている。
「ムフフ、鋼ポケモンのアイドルのクチートたんは最高ですねェ。これだけは誰にも譲りませんよォ」
「でもボクはてれやなクチたんをゲットしましたよ。恥ずかしがりやな所がたまらん…ブピピピピw」
こうゆうヲタ…ディープな2人組みもいるんだけどね。まあ気にしないでおこう。

さて、今日はテーブル席で牧場おじさんからホットな情報を仕入れたわけだが、何でもその「パルパーク」という所は、カントー、ジョウト、ホウエンのトレーナーや数々の団体から、「ワケあり」で搬送されたご当地ポケモンを見て楽しんだり、優良なトレーナーにはそれらを捕獲させてくれる施設なのである。
ちなみに、その「ワケあり」のポケモンというのは、飼えなくなって捨てられり、何処からか押収されて保管していた施設では管理の出来なくなったりしたポケモンのことを指すらしい。
俺は他の地方の珍しいポケモンに興味があるし、パルパークという施設そのものにも興味が沸いたので、早速そこへ行ってみたいと思った。
「あ、でもパルパーク自体も立地条件とかでマサゴの海の向こうにある『ワケあり』だからぁ、『なみのり』を使えるポケモンがいないと行けませんよぉ?」
俺たちの話を聞いていたのカウンター側のウェイトレスさんがそう言った。
そういや俺の手持ちはスカンプー、オスハニー、ムウマの3体。どいつもなみのりなんて使える面子じゃない。まあ俺が「かいぱんやろう」だったら泳いで渡れそうな気がしなくも無いのだが、メノクラゲに刺されたりギャラドスに喰われたくないのでくないので却下。
たくましいカラダの野郎はともかく、「ビキニのおねえさん」は、釣り糸垂らせばギャラドスの入れ食い状態になるポケモン世界の海でよく泳いでられるな、なんて思ってしまう。まあ考えすぎる色々と訳が分からなくなってくるのでこの辺にしておこう。
さて、俺には「海竜王ナマイアサン」を召還する能力もないので、仕方なく釣り糸を垂らしてギャラドスでも捕まえてなみのり要因にしようかなんて事を考えていた。
「でもお客さぁん、あたしのマリーのお友達に『なみのり』使えるコがいますよぉ」
マリーというのは、ウェイトレスさんの飼っている丁度カウンターの隅にちょこんと座っている看板ポケモンのニャルマーのことであった(過去形)
…ちなみにこれを現在進行系に直すと、どうやらマリーちゃんは「ブニャット」という、でかい図体と図太い性格のトラネコポケモンに進化したらしく、足場の小さいカウンターに座ってなんかいられないのでモーモーミルクのケースの上でだらしなくゴロ寝をしている。
まあ今のマリーちゃんの体格は「トラネコ」と言うより「トルネコ」みたいな感じだ。
どうりで可愛い娘に目が無いダスターが彼女に一切興味を示さなくなった理由が分かったような気がする。恋人というのはいつまでも美しい存在じゃあないんだ。
いや、もしかしたら他にもその理由があるのかも。コイツがまた新しい娘に一目惚れしたとか。
まあこんな事を考えているとマリーちゃんやウェイトレスさんにも失礼なのでこの辺にしておこう。
「じゃあお客さぁん、早速マリーにお友達を呼んでもらいますねぇ」
「ん、ありがとうございまっす」
ウェイトレスさんはだらしなくゴロ寝状態のマリーちゃんを起こし、ミルクのケースから床に下ろす。
そしてマリーちゃんは眠そうな顔でもっそりと起き上がった。
「ブンニャーオ!ブンニャーオ!」
突然マリーちゃんが叫び声を上げたかと思うと、「お友達」を呼び出す合図のような地団太を踏んだ。

「ドン!ドドン!ドンドドン!ドドンドン!ドリドドン!ガバルドン!グラードン!ヤドンウヅドンリザードン!」

それにしてもこのブニャット、ノリノリである。
と、次の瞬間!(世界○見えっぽく)

「ドッッサイドオォォーン!」

と最後の「ドン」を飾る大声で店の壁を突き破りながら出てきたのは、大岩のような巨体にガチガチにプロテクターをまとったポケモン、「ドサイドン」だった。
「ドッセーイ!」
それにしてもこのブニャット、こんなヤツが「お友達」って…
「あ、このコはこんな体でも、ちゃあんと『なみのり』が出来るから大丈夫ですよぉ」
いやいや俺が心配しているのはそっちじゃなくて…、いやそれも今思えば凄く気にするべき所だろうけど。あと店の壁も…ああもう何が何だか。
「ブン、ニャアァァーオ!」
さて、地団太を踏みまくってすっかり一仕事を終えた気分になったマリーちゃんはというと、モーモーミルクをビンから直接ラッパ飲みした後、その場で再びだらしないゴロ寝を始めた。
「はーいフジサン、ちゃんとこのトレーナーさんの言うことを聞くんですよぉ〜」
「ドッセイ!」
フジサンとはコイツの名前だろうか。
それにしてもウェイトレスさんがドサイドンを扱い慣れしていて、一種の恐怖のようなものを覚えてしまう。
もう彼女がある意味最強のトレーナーなんじゃないか?ナンテコッタイ\(^o^)/
「ドッセイドッセイ!」
フジサンがグーの手(?)を胸にドンとかまして、「オレニマカセロ」みたいなノリでこちらを見てきた。
いや、フジサンよ、別に戦闘に出すわけじゃないから。「なみのり」するだけだから。
でもウェイトレスさんはなみのりに関しては「大丈夫ですよぉ」だなんて言っていたが、今思うとその「大丈夫」の信用度はファ○通の攻略本レベルである。

そんなこんなで、俺はフジサンをウェイトレスさんから借りて、マサゴタウンの海まで行こうと壁にぽっかりと大穴の開いた喫茶店を後にしようとした。
手の平に岩を詰めて「がんせきほう」を撃ち出すというコイツは…、まあ、どんな危険な海でも渡れそうだよな。

「ムフゥッ…、今日もツンデレリーフィアたんでハァハァするですよ」
「でもお嬢様グレイシアたんはボク専用でつ。フヒヒヒサーセンwww」

そういやこいつらの頭の中には何が詰まっているのだろう。
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アウストラロピテクス #12★2007.01/27(土)21:33
「ドッッセェェーイ!!」

マサゴの浜で俺がフジサンをボールから出した途端、そいつのバカでかい唸り声が辺りに響いた。
心なしかこの唸り声だけで水面が軽く揺れ、キャモメが数匹海に墜落したかと思われる。
「ドスコイ、ドスコイ」
フジサンがグーの手(?)を何回かごっつんこさせて「オレノアイテハドコダ?」みたいなノリでこっちを見てきた。
いや、別に戦闘に出すわけじゃないから。「なみのり」するだけだから。…ってコイツ分かってんのかなぁ。
多分コイツは極端な言い方をすると、学習能力の無いな戦闘バカみたいなヤツなので、用が済んだらさっさとボールに戻しておくか。
とりあえずフジ木君、さっさと海ん中入ってくれ。
「…ドッスーゥ」
やや不満そうな声を挙げつつも、うつ伏せの体型なって海の中に入るフジサン。
早速俺もコイツの背中の上にまたがった。しかし、ゴツゴツした体の上にプロテクターをまとっているコイツの体に乗るとなれば、腰を低く浮かせなければ、とてもじゃないが乗れたもんじゃない。
しかもこいつはクロールで泳ぐので水しぶきがハンパ無く、その上えらく体を揺らしながら泳ぐのでこっちはズブ濡れである。
「ドッサイドオォォーン!!」
スピードを上げ、ツノのドリルの回転もと共にますます加速するフジサン。俺は死に物狂いの顔を浮かべつつコイツの体に必死にしがみ付いている。
「あヴぁヴぁヴぁヴぁヴぁヴぁヴぁヴぁヴぁヴぁVAVAVAVAVAVAVAVAVA…」
ナマイアサン助けてorz


#12 ホワイトな履歴書


アメリカのマッドでクレイジーなジェットコースターに乗った気分を嫌と言うほど味わった末、マサゴの向こう岸に到着した俺は、フジサンをさっさとボールに戻しパルパークへ向かった。もう絶対コイツ借りたくねえ。
さて、しばらく歩くとそれらしき建物に着いた訳だが、この先に(ワケありの)珍しいポケモンが沢山いるかと思うと、思わず心が躍ってしまう。
そういや、ハーネットを捕まえる時に腐りかけのノメルを気に張り付けたときもこんな期待に満ちていたっけ。
ただ、今思えば俺は単に踊らされていただけかも知れんが。
しかし、俺は今度こそ強そうなポケモンを捕まえられることを願いつつ、パルパークのゲートをくぐった。

「ああい捕獲希望のトレーナーさんね。これパークボールね。そいじゃ今から案内するけ、しっかり着いて来いや」
気の抜けた、いかにもといった感じのオッサン臭の漂う係員にこの施設で捕獲に使うパークボールを渡され、詰め所を出てから外の広場に案内された。
パルパークは草原や森、岩場や水辺、砂浜といった数々のエリアに分れており、それぞれのエリアに違ったポケモンが生息しているという。
まず係員のおっちゃんが案内してくれたのは、草原のエリアだった。
「ハイ、あそこに見えるのがかざんポケモンのエンテイや。アレ結構珍しいポケモンね。じゃ次行くで」
へーなるほどー、あれがエンテイかー。やっぱ近くで見るとリアルだなー。

…っておいおい、アレ伝説のポケモンじゃなかったっけ?
何故に唯一神ENTEI様がこんな箱庭に?てかおっちゃん何軽くスルーしようとしてるんだよ。
「おっちゃんただの管理人だから、あんま『ワケ』については知らなんだ」
いやいや管理人だったら尚更知ってないとおかしいだろ。この施設の管理はどうなってるんですかい。
「あ、今エンテイがゴハン食べようとしてるけ、でも嫌いなお野菜が入ってるから避けて食べようとしてるね。好き嫌いはダメじゃね」
ちょ、ENTEI様、こんなところでなに悠長にメシ食ってんスか。しかも野菜嫌いってもうね、威厳ゼロじゃねーか。
「あーエンテイ、今隣のバクフーンにゴハン横取りされちゃったねー」
唯一神しょべェ!お前もう伝説でも何でもないだろ!
…と流石は「かざんポケモンなのにふんかを覚えず、物理攻撃型なのに某炎系物理技Fを覚えず、最終的に覚える補助技が迷走」なネタポケのENTEI様だと、俺は一人で勝手に感心していた。
「兄ちゃ、欲しいポケモンおったら捕まえてええんやで」
うん、確かにアイツは珍しいし、強そうだから少しばかり欲しいと思った。
あ、バクフーンの話ね。

続いて森のエリア。
先程、エンテイ…ではなく、バクフーンを捕まえなかったので、ここで強くて珍しそうなやつがいたら捕まえようかと思う。
さて、今度はどんなポケモンが出てくるかな…、と。
そんな期待を胸に抱きつつ、木々の中を係員のおっちゃんに案内されつつ歩いていた。

『…ますか?』

…気のせいだろうか。おっちゃんではなく、何処からか、語りかけてくるような感じで声がしたような、しなかったような…。
『…聞こえますか?』
…どうやら気のせいじゃないっぽい。しかも、その声は何処か紳士的で、頭の中で響くような感じである。
『アナタには今、テレパシーを送っています。どうやらちゃんと伝わっているようですね』
テレパシー…ねぇ。何だか胡散臭いが、コイツはエスパー系か何かの類なのだろうか。 
「(アンタは一体何者だ。そして今何処にいる)」
俺は頭の中でそいつに問いかけるかのように言葉を浮かべた。
すると、その声の主からすぐに返事が返ってきた。
『…それは失礼いたしました。ニンゲンと話すときはお互いに向かい合うべきですよね』
「(そんなことよりアンタは一体何者なんだ)」
『まあそう焦らずに。今からアナタの目の前に現れますよ』
紳士的な声の主がそう言った後、すぐにそいつはテレポートで俺の前に姿を現した。
『始めまして、私がアナタに語りかけていました』
人型の黄色い体に首の周りには白いエリマキがあり、怪しげで釣った目つきと長い鼻が特徴的で、左手から振り子をぶら下げたポケモン、「スリーパー」だった。
コイツは強力な催眠技や超能力が使えるので、俺のチームにとってとても頼もしい存在となってくれるだろうか。
それに、テレパシーで意思疎通を図れると言うのも、実に興味深い。
「兄ちゃ、さっきから考え事多いねえ。欲しいポケモンおったらちゃっちゃと捕まえてや」
そうだな、仲間にするのならこいつでキマリだ。
俺はパークボールを取り出し、振りかざした。
『ほほう…、この私を気にいってくださるとは。頼りにしますよ、旦那様』
スリーパーがそれを伝え終えた瞬間、彼は俺の投げたボールの中に吸い込まれた。ボールの揺れは無かった。
そんなこんなで、新たに俺たちの仲間にスリーパーが加わった。俺はそいつをブレンダンと名付けた。

――とある地方のポケモン図鑑によると、スリーパーが子どもに催眠術をかけて何処か遠くで連れ去る事件があったらしく、最近ではカントー地方の外れに存在するナナシマの内の3の島で、きのみの森で迷子になっていた少女に襲い掛かろうとした事件もあったそうな。
これらの事件だけでなく、他にも少女に催眠術をかけて襲い掛かろうとしたの事件が多発し、それ以来スリーパーは民間人からは「ロリコン催眠術師」こと「ロリーパー」と呼ばれるようになったという。――

「ワケありのポケモン」の「ワケ」を知ったのは、ブレンダンを捕まえたすぐ後のことだった。
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アウストラロピテクス #13★2007.02/04(日)00:21
「ごぼっ ごぼぼっ!ごぼっ ごぼぼっ!アナタ起きてよぉ、もう8時なのよぉ!」

えらく目覚めの悪い朝だと思ったら、昨日パルパークの新設キャンペーンで貰った、
「ヒードラン型目覚まし時計(♀タイプ)」だった。
一応♀タイプだけあって、アナウンスの声はまるで新妻みたく色っぽいのだが、その声がが無骨で大ゴッツイ巨体で無駄に重いコイツから発せられているので、どうしても野郎の野太い声に脳内変換されてしまう。
しかも、この悪趣味な目覚まし時計、プレ○テ3並のデカさと重さと温度はさることながら、セットした時刻になると時刻をアナウンスをしつつ「カベや てんじょうを はいまわる」ので、周りの音や振動の反響がハンパない。
引越しおばさんもビックリの騒音である。

「ガショーン!ガショーン!ガション!ガション!ガションガションガショガショウガショガショショショショ…」

「うっせええぇぇ!つかスピード上げてんじゃねぇぇ!」

冷静に考えると何ともマッドでクレイジーな行動と思われるかもしれないが、朝っぱらで少々機嫌が悪かったというのも手伝って、あまりのガショガショ音の煩さに頭に来た俺は思わずコイツの脚を掴み、そのまま床へ叩きつけた。

「ガッショオォォーン!!」

ヒードラン型目覚まし時計は盛大にマグマストームを吹いた。
動かなくなった。

合掌。


#13 腐ってもミツハニー♂


『おやおや旦那様、朝からご乱心ですか?』
頭の中にテレパシーで語りかけてきたのは…、昨日俺がパルパークで捕まえたスリーパーのブレンダンだ。ちなみにこいつは普段から殆ど眠らないらしい。
ブレンダンはカントー地方のクチバ警察という所から送られてきた、一種のワケありポケモンである。
「ロリコン催眠術師ロリーパー」とうたわれるだけあって、こいつが何故警察に一時期保管されていた詳しい理由を知るのが自分でも恐ろしい。
まあ、話し方は紳士的だし、昨夜ここから脱走してなにかやらかしたということもなさそうなので、ある意味物凄く危険なポケモンの類ではなさそうだ。
「(ん、ちょっとな。それよりブレンダン、お前は催眠術とか超能力とかが得意なんだよな)」
『左様でございます。今、旦那様とこうして交信が出来るのも、一種の超能力のお陰なのです』
「(ふーん。で、ブレンダン、テレパシー以外にも何か面白い超能力とかあるのか?)」
『はい、軽い物体の浮遊させたり、瞬間移動したり、見えないものが見えたりする能力などがありますよ』
最後の奴は超能力じゃなくて霊力じゃないのか?
「(まあ色々あるみたいだけど、もっと面白いやつとか無いかな。例えば、ポケモンと会話できたり、さ)」
流石に少し俺は無茶な考えだとは思ったが、一応気になったのだ。
『…ありますよ』
「(…マジか?)」
ブレンダンの答えに俺は驚きを隠せなかった。
前からダスター達を始めとするポケモンと会話してみたい気持ちもあったが、第一それが不可能なものだとずっと思ってきたからだ。
『ええ、チャネリング、と言えばよろしいでしょうか』
だからそれ霊力だって。
『本来なら人間とポケモンを会話できるようになる術を人間にかけるには、色々と準備が必要なのですが…、ここは手っ取り早くいきたいので、少し後ろを向いてかがんでもらえませんか?』
「(ああ、分かった)」
一体何をする気だろうか。俺は背後を気にしつつも、ブレンダンの言うとおりに背を向けてかがんだままじっとしていた。
と、その時だ。

「ズゴッ」

「ぐはっ」

頭突きのような鈍い衝撃が俺の後頭部に走り、俺は思わず断末魔を上げて前方に倒れてしまった。
「大丈夫ですか?」
大丈夫じゃねーよ、と突っ込みたくなったが、何だか頭が軽くなったような気がする。
そういや今ブレンダンが発した言葉はテレパシーではない、紛れも無い肉声である。
「…聞こえるかブレンダン、ちゃんと伝わっているか?」
「はい、伝わっていますよ」
やっぱり会話が出来るようになっている。すげぇなコイツは。
「今のは“しねんのずつき”です。これであなたはポケモンと喋れるようになったはずですよ」
“しねんのずつき”…ねぇ。ムズカシイ計算でもしながら頭突きでもするってか?そりゃジダンもビックリだな。

さて、俺は今の頭突きでダスター、ハーネット、レーニョとも会話が出来るのかが気になるところだ。
早速、ヒードラン型目覚まし時計の暴動(まあ俺の分も入っているのだが)でもしぶとく起きないくらい寝相の悪い3匹を起こそうと、試しに話しかけてみる。
「おいお前ら、起きろ」
さーて、最初に反応してくれるのはどいつだろうか。
「ん…その声は…、まさか御主人か?」
俺の声に真っ先に反応したのはダスターだった。
「ぷひっ」
ダスターは驚きの余り、小さく屁を漏らす。
「相変わらず臭ぇなお前は」
「ははっ、俺はスカンプーだからね。でも俺、こうして御主人と会話出来るなんて夢みたいだよ」
ダスターは目を輝かせている。やっぱりいいね、こうやって言葉のキャッチボールが出来るって。

「うーん…、もしかしてマスター?アタシ、マスターと話しているの?」
次に反応してくれたのはレーニョだった。
「マスター」だって。俺のこと可愛い呼び方してくれるじゃないか。女の子にそんな呼ばれ方しちゃうと照れちゃうぜ俺。
「アタシ嬉しいわ。これで何でもマスターとお話することができるのね☆」
「嬉しいこと言ってくれるじゃないか。これからもよろしく頼むぜ」
「ええ」
さて、俺がレーニョのことを可愛がっていると、横からダスターがこっそりと呟いた。
「…こいつ、御主人にはニャースを被ったみたいになってるみたいだけど、俺と、特にハーネットにはオニみたいな接し方なんだよ」
…それって上手いこと性格を使い分けているのか?女って怖ぇ。

「おい、さっさと起きろやハチ公」
…さっきからハーネットに語りかけても全く起きようとしないので、ちょっとがさつな呼び方になっている。
ちなみにここで言う「ハチ公」という呼び方と、渋谷のわんこの銅像とは一切関係ない。
「うーんむにゃむにゃ…俺は究極完全態ドミツハニー…」
何だよこの寝言は。
てかお前、あの108匹の内の1匹なのか?そんな設定作ったらお前消されるぞ。
「おんみょうだんを喰らえ〜」
ふざけた寝言をかましているので、俺は思いっきり太陽の光にハーネットをかざして起こしてやった。
「うおっまぶしっ!」
ハーネットが目を覚ます。
「やっと起きたか。どうだ、俺の声が聞こえるか?」
さて、どんな反応をしてくるやら…。
「な…御主人!まさかユンゲラーになっちまったのか?」
「は?」
予想外の反応である。いや、ポケモン同士だったら会話も出来るんだろうけど…。
「いやいやハーネット、俺が人間のままだってことくらい見りゃ分かるだろうが。」
「…あれ?まさか御主人か?」
「そのまさかだ」
「うへ、マジかよ。これでもう御主人のグチとか堂々と言えねぇじゃん…(ボソ)」
え。
「まったく御主人にゃ味覚ってのが無いのかね、腐りかけじゃないノメルなんて食えるかよ(ボソ)」
ちょ、おま…今何て…
「あ、御主人、これからも色々と頼むぜ!」

「旦那様、ポケモンとの会話はいかがですか?」
ブレンダンがそう訊いたので、俺は迷わずこう言った。


腐ったポケモンに効く超能力はないか?
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ぴくの〜ほかんこ