ぴくの〜ほかんこ

物語

【ぴくし〜のーと】 【ほかんこいちらん】 【みんなの感想】

連載[922] 冒険を夢見た少女…カントー編

鈴音 #1★2006.10/23(月)18:33
第一章  私の名前はフラウ

「お母さん、おはよ…」
「あら、おはよう。眠そうね…もう少し寝たら?」
「いい。大丈夫。」

今日は私の誕生日。
13歳の誕生日。

本当は嬉しい日のはずなのに。本当は楽しい日のはずなのに。
祝ってくれる人と言ったらお母さんぐらい。
お父さんはこのところ毎日残業でまともに家に帰ってこないし。

しかも、この町マサラタウンには学校が無いから、友達といったら
お隣の家のナナミねえさんと、その弟のクロードだけ。

なんか、かったるい…。
正直、なんにもない日々がつまんないよ…
せっかく10歳以上の健康な人間だっていうのに、危険だからって
ポケモントレーナーにはならせてくれないし…。

もういいや。深く考えるのはキライ。
いつもみたいに、町外れで昼寝でもしよっと。

「遅くならないようにするのよ。間違っても町外れの草むらには
入らないようにしなさいね。凶暴なポケモンが出るから。」

私が玄関のドアを閉めると同時に、そんな声が聞こえた。
何でもかんでも凶暴って決めつけちゃいけないと思うけど。

今日という今日は我慢できない。
私、ポケモンたちに会いに行く!
きっと、友達になれるはずだもの!

…ところが。
こっそり行こうと思ってたのに、見つかっちゃった。
しかも、ナナミねえさんに。

「あら、フラウちゃん? そんなに急いでどこに行くの?」
「あ、ナナミねえさん。ううん、ちょっとね。」
「…町外れの草むらに行くんでしょう?」
「え…?」

ぎくっ。なんで分かったの…!?

「隠しても無駄。私はフラウちゃんの事は何でもお見通しなんだから。
ポケモンたちに会いたいんだよね? フラウちゃん、そういう性格だし。
でもね…野生のポケモンは本当に危険なものなの…。
私、友達のフラウちゃんにはそんな危険な目に会って欲しくないな。」

でも、それじゃあどうしろと…

「ふふっ、そんな悲しそうな顔しないでよ。一人が危険なら…
誰かがもう一人そばにいればいいじゃない。強いポケモンを持った人が。」

誰かが一緒に…?

「ううん、別に人間じゃなくても…そうだなぁ。
ポケモンそのものを持つってのもいいんじゃない?」
「でもそれじゃポケモントレーナーじゃない。私のお母さん、私が
ポケモントレーナーになるの嫌がってるみたいで…。」

小さい頃から聞かされてた。
『ポケモントレーナーなんかになったら怪物に食べられちゃうわよ』『ポケモンを持ったらいつかそのポケモンに裏切りに会うわよ』
なんでお母さんがこんなにポケモンを毛嫌いしてるかは分からない。
きっと昔、何かあったんだろうとは思うけど。

「大丈夫。きっと分かってくれるわよ。さあ。ポケモンならきっと
おじいちゃんが何匹か持ってるはず。研究所はこっちよ。」
「え!? ちょ、ちょっと、ナナミねえさーん!」

そうか。ねえさんとクロードは、この町でポケモンの研究をしている
オーキド博士の孫だったんだった。

「で、でも本当にいいの? 博士の大切なポケモンなんでしょ?」
「そこまで思い入れはない、わりとつい最近捕まえたポケモンらしい
から、たぶん譲ってくれると思うけどなぁ。」

…ちょっと不安になりながらも、私は研究所に入っていった。
でもちょっとドキドキしてた。
最初のポケモンかぁ…どんな子なんだろうなぁ…。

『つづく』
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鈴音 #2★2006.10/24(火)14:48
第二章  博士の夢をかなえるために

「おじいちゃん! ちょっといいかしら?」

ナナミさんは、そっと研究所のドアを開けた。
するといきなり、少し陽気な声が私達の耳に飛び込んできた!

「おお、ナナミ! それにフラウちゃんか! 丁度良い。今呼ぼうと
してたんじゃよ。」

その声は他ならぬ、オーキド博士の声だった。
私を呼ぼうとしてた? 何なのかな…

「おじいちゃん、フラウちゃんに用があったの?」
「いや…そのことはクロードが来てから話そう。」

げっ。やっぱり来るのかぁ。あいつ、小生意気で自慢屋でちょっと
ニガテなんだよね。

「クロードねぇ・・。あいつ、フラウちゃんに迷惑かけなきゃ
いいんだけど。」
「大丈夫大丈夫。迷惑なんかじゃ…あるけど。」
「あっはっはっは!」

あぁ、おかしい。
でもなんか、こう・・クロードの事を話してるときって楽しいかも。
何なんだろ。あんなに嫌な奴なのに。
あ、もしかして、性格悪い人が人の悪口言って楽しむのと同じ原理!?
何か複雑だなぁ…

「お、ナナミ。フラウちゃん。クロードが来たようじゃぞ。」

そうこう考えてる間にアイツ来ちゃった。またあの自慢話聞くのか。
イヤだなぁ…

「話って何だ、じーさん…って、おわっ!? フラウ居たのか?
あんまり地味な服着てるから気付かなかったぜ!」

…あーあ。また始まったよ。

「ちょっ、クロード! フラウちゃんに失礼じゃない!」
「何だ、ねーちゃんも居たの。ま、フラウと似たような趣味してるから
気付かなくて当然か。」

…いちいちムカツク奴だな、ほんとに。
ナナミさんもちょっとキレかけた顔してるよ。やばいってクロード。

「えー、コホン。お取り込み中のところ悪いが、本題に入らせてもらってもかまわんかね?」

ちょっぴりほっとかれてた博士が割り込んで来た。
はた、と我に帰るねえさんと、少しつまらなそうな顔をするクロード。
そして、ちょっとほっとした私。
クロードを止めてくれてありがとね。オーキド博士。

「えー、早速だが、クロード。フラウ。・・そして出来ればナナミ。
頼む。ポケモン集めの旅に出て欲しいのじゃ…。」

「…」
「…」
「…」

ねえさんもクロードも私も目が点。単刀直入すぎてよく分からない。

「あ、あのー、博士?それは一体どういう…」
「現在、世界には100種類以上のポケモンが存在している。」
「…」
「わしは、その百数十種類ものポケモンの記録を全て保存できる機械を
今日!ようやく完成させたのじゃ!」
「っ…おじいちゃん! なんてムチャを!」

ナナミねえさんが絶句した。博士は相当、体が弱っているらしい。

「なに、心配はいらないよ。・・それでな。わしはその機械を
ポケモン図鑑と名づけたのじゃ。ポケモンを捕まえるだけで詳細が
書き込まれていくハイテク図鑑なのじゃ!」

博士は自慢げに言った。
私は正直に「すごい…」と驚きと感心と尊敬の声を漏らした。
それを聞くと博士はさらに得意げに語り始めた。

「わしはいつかこのような機械を作ってみたいと夢見ておった。
そしてその夢がついに叶ったのじゃ。…しかし…」

博士はそこまで言うと、急に元気を無くして、呟くように話の続きを
話すのだった。

「流石に、全てのポケモンのデータを収集して図鑑に収める事までは
わしの力では無理のようじゃ。…そこでだ。」

「俺達の出番ってわけだな?」

クロードが言った。頷く博士。

「頼む。3人の中で1人だけでもいい。どうかわしの夢を叶えてくれ!
なるべく、わしがこの生涯を閉じる前に…。」

しばらくの沈黙。――そして、口が勝手に動いた。声が勝手に出た。

「私、やります。」

同時に…

「おじいちゃん。私…やってみるわ!」
「俺、やる! まかせておけって!」

博士の表情が明るくなった。

「ありがとう…!」

そう言って、私達に1個ずつ赤い板を渡した。

「これは?」 私が訪ねると博士は「ポケモン図鑑じゃ」と答えた。

「これが…ポケモン図鑑…!」
「マジかよ…これ、じーちゃんが一人で作ったのか!?」
「おじいちゃん…もう無理はしないで…」
「フフフ。わかっとるよナナミ。これで最後じゃ。…あと・・」

博士は、テーブルの上からモンスターボールを三つ、持って来た。

「わしのポケモンじゃ。せっかくじゃから好きなのを持って行け。」

…一瞬、自分の耳を疑った。ポケモンをくれる…?
ポケモン、もらえるの? 私が?
やばい。めちゃくちゃ嬉しい…!

…でも。どれにしようか…
私の人生を変えるポケモンなんだから。慎重に・・慎重に選ばなきゃ。
どう…する!?

『つづく』
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鈴音 #3★2006.10/23(月)18:23
第三章  待ちに待ったパートナー ニックネームはアーク!

「フラウちゃん、先に選んでいいわよ。」
「さっさとしろよな!」
「ねえさん・・クロード・・」
「おっと、勘違いすんなよ。今日はお前の誕生日だからな。特別さ。」
「…なんだ。覚えててくれたんだ。」

やばい。嬉しすぎてどうにかなっちゃいそう。
憧れていたポケモントレーナーになれた上に、「あの」オーキド博士の
ポケモンがもらえるんだもん!
最高の、超サイコーの誕生日プレゼントだよおぉ!

「一番左のポケモンがフシギダネじゃ。特殊攻撃力が伸びやすいぞ。」

博士の声で我に帰った私。慌ててそのボールを覗き込む。
・・うん。背負ってるタネが大きくてちょっと怖いけど、可愛いや。

「真ん中はゼニガメじゃ。甲羅もあって防御力抜群じゃぞ!」

これも見てみよう。うう、亀はちょっとニガテなんだよなぁ…
あっ、でも可愛いじゃん。やっぱ普通の亀とポケモンは違うよね。

「…そして右がヒトカゲじゃ。炎技がとても強力なんじゃぞ。」

・・あのー。トカゲと聞いた瞬間見るのも嫌になったんですけど。

「お、なんじゃ。トカゲにトラウマでもおありかな?」
「は、はい。昔、ホウエン地方に旅行に行ったときに、キモリに。」
「噛み付かれたのよね…かわいそうに。」

うう、そうなの。
それ以来、どうもトカゲポケモンが怖くなっちゃって。

「そうか・・じゃあヒトカゲは無理じゃな。」

博士はそう言い、前々からヒトカゲを欲しがっていたというクロードに
ボールを手渡そうとした。

「あぁ! ちょ、ちょっと待って下さい。やっぱり見るぐらいは
しておきたいです!」

慌ててそれを止める私。クロードは少しつまらなそうな顔をしたが。
・・まあそんなのはとりあえず無視して、私は恐る恐るボールを覗き
込んだ。

一瞬、目を疑った。

「ちょっ…これがトカゲ!?」

可 愛 す ぎ る ! !

なんと。私はそのトカゲポケモン…ヒトカゲに、見事ハートを
射抜かれてしまったのであった。

「は、は、はかせ…! こ、こ、このこのこの子…!」
「どうじゃ、気に入ったか?」

気に入ったなんてもんじゃありません! 一目惚れです!

「この子くださぁいっ!!」
「げっ!」

後ろでクロードが情けない声を出したが、やっぱり無視。

「ヒトカゲじゃな。よし、いいぞ。今日からこいつはキミのパートナー
じゃ!」
「や、やったぁ! ありがとうございます!」

うん。トカゲが苦手なのには変わらないけど、でも嬉しい。
もう一度。もう一度言うよ。
最高の誕生日プレゼントだぁぁ!!

「ニックネームもつけてあげるんじゃぞ。」
「あ、そっか。うーん…。」

何が良いだろう。この子かっこいいから…オスかな。
性格は勇敢か冷静あたりだろうな。そんな目をしてるもん。

「じゃあ…アーク! アークがいいです!」

私は、とっさに思いついたかっこいい名前をそのまま使う事にした。

「アークか。いい名前じゃのう。」
「ちっ・・フラウの奴、ヒトカゲ取りやがって…」
「なによ。今日はアイツの誕生日なんだから何を取られても文句は
言わないぜ。って言ってたの、クロードじゃない!」
「う、うるせー! ねーちゃん、いっつもそういう細かい事ばっかり!」

あはは。クロードらしい。

「あれ? でも、そしたらクロードはどの子を選ぶの? ナナミねえさんは?」
「チキショウ! もうやけくそだ! 俺はコイツッ!」
「じゃあ私はこの子ね。うふふ。」

そう言って、2人が取ったポケモンは…

『つづく』
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鈴音 #4★2006.10/23(月)19:23
第四章  これからの道・そして最初のバトル(前編)

「俺はゼニガメだ。きっとヒトカゲより強いぜ!」
「タイプ相性のことを考えると、そうかもしれないけど・・。
・・あ、ちなみに私はフシギダネよ。」

さっきまでブーブーいってたクロードもやっと立ち直ったみたい。
ボールの中のポケモンも嬉しそうにしてる。もうすぐ外に出れるって、分かったのかな。

「もちろん、ニックネームはつけるんじゃろ? ナナミ、クロード。」

博士が聞いた。頷く二人。

「そうだな・・。ウィスパァなんてどうだ? カッコイイだろ!」
「私、この子にダージリンってつけようと思うわ。ほら、あの紅茶のやつよ。」

へぇー・・ウィスパァにダージリンかぁ・・
って! 私のよりカッコよくないですか!?
うー、私も5文字にしておきゃよかったなぁ。アーウィンとかさ。

「どうしたフラウ? 変な顔になってるぜ。」
「・・あんたね。それが女の子に対して言う言葉?」
「わりーな。俺、正直者だから。」
「・・」

マジギレ5秒前。・・冗談だって。

「まあ、それはいいとして。博士! まずはどうすればいいですか?」
「そうじゃのう。とりあえずは、北のトキワシティに行くといいぞ。」
「トキワシティ・・?」
「あの町の近くには大きい森がある。そこに行けば、ある程度の虫ポケモンは捕まえられるじゃろうな。」

・・そうか。森か。ふーん・・。
・・虫?

「虫!? 虫ってあれですか! インセクトですか!」

私が聞くと。

「それ以外に何があると言うんじゃ。」
「フラウ、お前って馬鹿?」
「こ、こら、クロード。」

・・これだもの。
いや、それぐらいは分かるけどさ・・
 
「1メートル以上の芋虫」とかも居るわけですか?

・・っと、これは流石に怖くて聞けなかったんだけどね・・

「ふむ。ま、そういうわけじゃ。女性には辛いかもしれんが、図鑑完成
の為じゃ。頑張ってくれ」
「説明は終わったのか? じーさん。」
「うむ。全部話したよ。後はすべてお前達に任せる。頼んだぞ!」

うぐぅ・・
こりゃもう、覚悟を決めるしかなさそうだ。
まずはトキワシティだね・・よし!

「女、フラウ! いっきまーす!」

私は図鑑とアークの入ったモンスターボールをぎゅっと抱きしめ、研究所をあとに・・しようとしたんだけど。

「おい、フラウ。待てよ!」

ぎく。
イヤ〜な予感。

「行く前に俺と一回、ポケモンバトルしようぜ?」

・・やっぱり。
森に行く前にも、乗り越えなきゃいけない試練があるみたいです。

『つづく』
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鈴音 #5★2006.10/24(火)14:47
第五章  これからの道・そして最初のバトル(後編)

「クロード! あんた、いくらフラウちゃんに迷惑かけたら気が済むの!?」
「ねーちゃんは黙っててくれよ! 行け、ウィスパァ!!」

ねえさんの説得にも聞く耳をもたないクロード。
彼のボールからウィスパァ(ゼニガメ)が飛び出したのと同時に、私も
アークを出していた。

「フラウちゃんまで…!」
「まあまあ、いいじゃないかナナミ。お互いの実力を試すよいチャンスじゃ。」

この勝負、負けられないよ!

「お、割と好戦的だな。うれしいぜ!」
「ふふん! アークの強さ、全身で感じ取るといいわ!」

地面を蹴り、宙に舞ったアークとウィスパァ。
赤と青、ふたつの色が研究所中を駆け回り、互いに戦い合った。
時には引っ掻き合い、時には噛み付き合い、時には体当たりで両者とも吹き飛んだ。
しかし。
さっき出会ったばかりだというのに、私の言う事を忠実に聞いてくれるアークと、たまにクロードの命令にそむくウィスパァでは、やはり差があるようだった。
最後にアークの睨みつける&引っ掻く攻撃が決まり、ウィスパァは
倒れたのだ。

私の…勝ちだった!

「んが…! んな、バカな! 俺の方がバトルに関する知識、あるはずなのに…!」

正直、信じられなかった。・・でも…
悔しそうなクロードと、目を回して倒れているウィスパァが、確かに
そこにいた。

「勝った…の? 私が・・?」
「そうじゃよ。しかし、いきなりでクロードに勝つとはなかなかじゃな。」

博士も感心している。

「まったくもう、フラウちゃんったら! 研究所がメチャクチャじゃない!」

ナナミねえさん。こう言ってるけど、結構嬉しそうな表情だ。
そっかー…。私、本当に勝ったんだ。アークと一緒に勝ったんだ!

「ちっ…まぁ、いいぜ! 一回ぐらい負けたって。大切なのは
最初の戦いよりも最後の戦いだからな!」
「んー? それ、なんて捨て台詞?」

少し調子に乗った私は、軽い冗談のつもりで言ってみた。
しかし、それも今のクロードにはかなり効いたみたいで、あいつは
無言でそのまま研究所を出て行ってしまった…。

「言いすぎたかな?」
「ううん、あの子、最近調子に乗ってきてるから、いい薬よ。」
「そっか。」

ま、それならいいんだ。私もさっさと出発しようっと。
・・。
…。
…ん!?

「し、しまったぁ!!」
「ど、どうしたんじゃ!? フラウちゃん!」
「どうしたの!」

ポケモン貰って、舞い上がってて、大切な事を忘れてた。
お母さんを説得しなきゃいけないんだった…。

「・・お母さん…」

ひょっとして、クロードと戦う事以上の試練かもしれない・・。
私は少し緊張しながら、しばらくそこへ突っ立っていた…。

『つづく』
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鈴音 #6☆2007.08/22(水)12:51
第六章 お母さんの過去

「うぅ〜…」
「大丈夫よフラウちゃん。 自分の気持ちをちゃんと伝えれば納得してくれるはずよ。」
「そうだといいんだけどね。 でもお母さん頑固だから。」

ポケモンを手にして一時間。
私とナナミ姉さんは、今だ私の家の玄関の前で上の会話を繰り返していた。
でも流石にこのままじゃ進展もくそもない。
・・私は決心した。

「…いや、ねえさんの言うとおりよ。 私、行って来る!!」
「よし! 頑張ってね!」

ねえさんの声援をありがたく受け取り、私はドアを開けた。

家の中にはちゃんと、食器を洗っているお母さんがいた。

緊張で心臓をバクバク言わせながら、私は「ただいま」と言う。

「あら、おかえり。 遅かったじゃない。」
「ご、ごめん。 …あのさ…」
「何?」


「…私、ポケモントレーナーになるから。」


場の空気が凍りついた。
でも、私の心は熱くて熱くて、今にも爆発してしまいそうだった。

お母さんでもまだ一度も見た事の無いような、真剣な目で前を見据える。

「…駄目に決まってるじゃない。 何度言ったら気が済むの?」

聞き慣れた言葉が返ってくるとともに、お母さんがこっちを向いた。
そんな返答が返って来るのは最初っから分かっていた。
問題は、ここから。

「じゃあ見せてあげるよ。 出てきて、アーク!」

腰につけていたモンスターボールを頭の上に掲げ、私は最初の相棒の名前を呼んだ!!

『バシュゥンッ!!』

ポケモンがボールから出るときの音がし、私と母さんの目の前にアークが現れた。
私はボールのボタンは押してない。 アークの名前を呼んだだけだ。
すでにアークは、私に懐いているんだと博士は言ってくれた。

「カゲッ!」
「きゃ、きゃああぁぁっ!!」
「!?」

可愛く一声鳴いたアークを見て、お母さんが叫んだ。
アークもただ単に愛想を振りまこうとしただけらしく、そんなお母さんを見て驚いている。

「お、お母さん!? しっかりして!」
「嫌、嫌ぁ…ポケモンを近づけないで…!」
「ご、ごめんねアーク! ボールに戻って!」

私はアークをボールに戻すと、お母さんに駆け寄った。

「どうしたの、何があったの…!?」
「う…フラウ、ごめん。 昔の事を・・思い出したの。」
「むかし…? お母さん、昔何かあったの?」

どんなに私が聞いても、お母さんはそれ以上は教えてくれなかった。
そう言えば、お母さんはトレーナーになりたいと言った私を叱る時、いつも…

『裏切り』

という単語を使っていた気がする。
もしかして…
お母さんの過去に、ポケモン嫌いの原因があるの…?
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[922]

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