ぴくの〜ほかんこ

物語

【ぴくし〜のーと】 【ほかんこいちらん】 【みんなの感想】

[928] 求めるものは

belief #1☆2006.11/08(水)21:26
プロローグ


――ケイ。今、幸せ?

彼女は、虚ろな目をを開き、少年を見つめて問う。
少年、ケイは、彼女の手を握り、俯いたまま半ベソをかき…
そして、首を横に振った。

――リナの面倒ちゃんと看ること。
  危ないことは出来るだけ避ける…って言っても無理かな。あんた無鉄砲だから。
  何よりも…私の後をすぐに追ってこない事。
  行くのなら、これを守って…行き…な…さい

彼女は病院のまっ白なベッドの上で、息を引き取った。
ケイは、まだ暖かい彼女の手を握ったまま、少しも動かず、俯いていた。

――俺、行くよ。

ケイは温度を失い始めた手を離し、拳を握り、歯を食いしばって呟いた。
大事な物を2度も奪った、灰色の悪魔を倒す。
それだけがケイの足を動かした。
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belief #2★2006.11/09(木)21:15
「非難した町民はコガネジムに居ますから。
 負傷者はトレーナースクールに。アカネさんもそこに居るので、後は彼女の指示で動いてください。
 んでは!ちょっと知らせなきゃならない事があるんで、失礼します。」

ケイはメモを読みながら一気に話し終えると、腰に1つだけ付いたモンスターボールのスイッチを押す。
白い光が象ったのは、赤い炎を尾に灯す、リザードンだった。

「カントーの防衛本部のアパ…!?痛い!ちょ、痛い!痛い!止めて!背中に乗せて!」

 第一話

ケイの首根っこを片手で強引に鷲掴みにして、ふわりと宙に浮き、目的地の方向を見定めるリザードン。

「痛いっつってんだろ!痛いんだよ!痛い!痛いです!ごめんなさい!すいませんもうしません!」

何故か謝り始めたケイを横目で見てから、一気にスピードを上げて目的地へ向かう。
風を切り、障害物を紙一重でかわし、時には一気に上昇するこの飛行はさぞ楽しい事だろう。
首根っこを掴まれて風を顔面に受けて唇がダバダバしてなければ。

―ヤマブキシティ 防衛軍宿舎

「ズデイル、びざじぶりだな。げんぎが?」

「…どうしたのその顔。」

ステイル…とケイは言おうとしたがズデイルとしか発音できなかった。
まぁ、ズデイルと呼ばれた少年は、苦笑いしながら目が別々の方向に向いており、口もだらしなく開いたケイを見ていた。

「いあ、ぢょっどジェッドゴーズダーに。」

「はいはい。
 …まぁ、用件は判ってるよ。もう防衛軍に話はつけてある。」

「手が早いなズデイル。ざずが。
 あじだの朝にはじゅっばづするから。ジズグどリナは無理なんだろ?」

「今はホウエンだからね。ちょっと。
 まぁ、今日はゆっくり寝て。その顔と濁音喋り治して。明日準備が出来次第行こう。」

部屋に戻ろうとするステイルをボーっと見送りながら、ケイは手を暖めようとこすりながら呟いた。

「寒いから春になってから出発を…」

それが聞こえたステイルは、ケイに無言のブーイングを送ってドアを閉めた。

「じょ、冗談だよ。
 …敵は討つさ。出来る限り早く。」

ケイは再び呟くと、所々割れた部屋番号の札をチラリと見て、中に入った。

1人住まいには妙に広い部屋に似合わない赤のカーペット。部屋の隅にあるテレビ、ベッド、冷蔵庫、パソコン、テーブル。
必要最低限の物しか存在しない部屋は、妙にケイの気分を落ち着かせた。
シャワーも浴びずにベッドに倒れこんだ。
義母の最期を看取って、泣いて、応援の手配をして、首根っこ掴まれてフライトして泣いて、まだ16歳の少年には少々辛すぎる1日だっただろう。
数分と経たないうちに、彼は眠りについた。
朝には、6年前のあの日と同じ、2人で旅立つことになる。
背負ったものは、夢ではなく復讐だったけれど。
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belief #3☆2006.11/09(木)22:08
「ケイ!起きてよ!11時!もう昼だよ!」

ステイルがドアをグーで殴りながら叫ぶ。
昼前とはいえ、さぞ近所迷惑だっただろう。しかし彼にはやむをえなかったから仕方ない。

「うっせぇな、起きてるよ…殴るぞ。」

ドアが開いたと思ったら、毛布に包まったままキャタピーのように動く目が半開きの頭ボサボサのケイが現れる。
そんな奴に「殴るぞ」と言われ、ステイルは呆然とするしかなかった。

 第二話

「しかし男二人ってのもなぁ…ムサいなぁ…
 12の頃はなんてこと無かったのに。」

「いや、僕らも精神的に大人になったんじゃない?
 なんていうか、恋したいです的な。まぁその内シズクとリナちゃんが帰ってくるはずだし。」

「ん…じゃあもうしばらくこのムサいコンビか。早いとこ女性陣の登場を願いたいな。
 ってもあの2人じゃなぁ。うるさいだけかもなぁ。」

この後も「ムサい」を連発するケイに、ステイルは苦笑いを浮かべて返していた。
ケイのやる事成す事を優しい口調で真っ向から否定するのが彼の得意技だが、それをしないと言う事は少なからず彼も同じ事を感じているのだろう。

「ところで、今日の朝から考えてたんだけどさ。」

「ケイ、起きてたの?」

「二度寝した。まぁそれは置いといて。
 カントー、ジョウト、ホウエン。この全ての街の中でほぼ確実に安全なのはだな。
 カントーではここヤマブキシティ、ポケモンリーグ本部があるセキエイ高原。
 ジョウトでは、少々気が進まないがコガネシティ、シロガネ山。
 ホウエンでは、ポケモンリーグ本部、バトルフロンティア。」

「コガネ以外は、かなり強い人が集まる所だね…
 確かに、いくら化け物じみた強さがあっても、数十人も集まるあそこでは少々無理があるだろうね。」

「まぁ、連中も馬鹿じゃないだろう。
 そんで、逆に危険な場所を言っとく。
 シロガネ山以外の各地の洞窟、タマムシシティ、カナズミシティを筆頭とした大都市。これらを潰せば地方全体の機能が一気に落ちる。現にコガネの落ちたジョウトはかなりヤバい状況だ。
 そして、特にヤバいのがチャンピオンロードだ。
 ある程度、自分の存在を脅かすまでに成長しかけたトレーナーがウジャウジャ居る。それを一網打尽に出来るんだからな。」

「へぇ…ちょっとは考えたんだね。それで二度寝するのはいただけないけど。」

確かに、彼にしてはちょっとは考えただろう。
確実に安全なのは、全てのトレーナーの中でもトップクラスの実力を持つ者が多数集まる場所。
そして、既に餌食となった場所。
この「安全地帯」を割り出すだけで、彼らの旅の安全性は飛躍的に上昇する。
闇雲に街から街へと移り、そこで鉢合わせて命からがらの目に遭う可能性だってかなりあったのだ。

「まずカントーで情報を集めようか…いいよね。
 拠点とするならこのヤマブキとセキエイ高原。幸い人が多いから、情報はあると思う。」

「空は…飛んじゃ駄目だよな。」

「…早朝なら大丈夫じゃないかな。ただし、リザードンは目立つから僕のカイリューを使おう。」

「っつぅことは…今日はここで情報収集となるわけか。気張ってくぞぉ。」

「おぉー。」

やる気の無い喝を入れた2人が向かったのは、どこからどう見てもレストランだった。
ケイ曰く、色んな情報が集まり、尚且つ腹も膨れる最強最高至高の場所。らしいが、却下されて向かったのは、ヤマブキジムだった。

「ナツメさん元気でやってるかな?」

「さぁな。また占いでどっか行ってるんじゃねぇか?その辺の路地に居たりして。居眠りしてたりして。」

ケイの中では、ジムリーダーであるナツメは職務放棄気味で副業までやってるとんでもない人らしい。

「…そうか!ヤマブキジムにはアレがあったのか…」

「!!…まぁ大丈夫じゃね?前来た時は一応生きてたし。」

「ケイがゴキブリだからだよ。普通1週間水筒1本では無理だから。
 ジムトレーナーさんが居なくなった後焚き木でご飯作って食べたのがどれだけ後ろめたかったことか。」

「リナのサーナイトが居ればなぁ…『サーナイト、テレポート!』」

高い声色を真似したが、所詮は声変わりもとっくに過ぎた男の声。不気味以外の何物でもなかった。
が、ケイの物真似はヤマブキシティのジムに到着するまでずっと続くのだった。

巨大な建物。数十とも数百とも言われる部屋と、その4倍のワープパネルが内部に組み込まれた、ハイテクな建物。
出来た当時からかなり巨大だったそうだが、ラジオを聴くとたびたび増築しているらしい。
生きて帰る。建物に入るのにも関わらず、それだけを信念に2人は中へと足を踏み込んだ。
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[928]

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