えるる | #1★2006.12/05(火)17:41 |
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1: 木陰にて トキワの森。 カントー地方トキワシティの北に位置し、面積及びポケモン生息数はウバメやトウカ、ハクタイなどと並ぶかなりの規模を誇る。 基本的に大型のポケモンはいないが、トレーナーから脱走したり捨てられた卵から孵ったりした本来この地方にはいないはずのポケモンも多数生息しているとみられる。 近年研究が進んだといっても、住人(住ポケモン)の猛反対により森の奥はまだまだ謎が多いので、これからの研究に期待する。 ──という自然番組の締めの言葉を聞いて、シュントはパチンとおしえテレビの電源を消した。 「だ、そうだ。何か異議があるか? ライコ」 「ライコちゃんはこういう説明番組じゃなくて、バラエティとかが見たいの!」 夏のある日、トキワの森。 ツタの下がった木の影で、少年とライチュウがレジャーシートに転がりながら涼んでいた。 少年──シュントは14、15歳と見られる外見に、ジャージにTシャツという姿。ライチュウは♀で、どうやらライコという名らしい。 「全く。俺は秘密基地に寝泊りしてる身分なんだぞ。テレビが見たきゃポケモンセンターに行け。うちはビンボーなんだよ。火のクルマなんだよ」 「でもこのミニテレビ買う余裕はあったんでしょ!」 「これは拾ったものだ。不法投棄されてた所をシュント様の華麗なるドライバー裁きで奇跡的に復活したんだよ」 「ドライバーも何も電池替えただけじゃん!」 「さて、そろそろ昼だし飯食うか」 「無視されたー!」 どっこいしょ、とおっさんくさい声を出して、シュントは立ち上がる。 彼はセキチクシティ出身のトレーナーだが、数年前この地方にはいないアブソルというポケモン──しかもツノが頭の左側にある突然変異なヤツ──を見て以来、正確には近くで寝ていたので撫でてみたときから数々の不幸に襲われて今はこのような秘密基地ライフを送るはめになっている。 そのアブソルの目は頭部の白い部分に隠れていて見えなかったのだが、過去となった今では確かに触ったときに殺気にも似たドス黒いオーラを放った気がするような気がしないでも無いかもしれなくもない。 それ以来シュントにとってアブソルはちょっとトラウマである。 「今日のメニューはそうだな……めんどくさいからそうめんな」 「シュン兄、記憶回路ちゃんと動いてる?もうなんか毎日お昼ご飯がそうめんだよ?」 「まだたった三日しか連続してないだろ。低カロリーでいいじゃん。ビタミンは木の実で摂取しろ」 「シュン兄、ライコちゃんはこんな適当なトレーナーに捕まってしまったことを後悔してるよ」 「そっすか」 溶けたようにべたっと地面に張り付くライコを避けながら、シュントは木のツタに手を掛けてそれを上る。 ここが、シュントとライコの秘密基地(と書いてマイホームと読む)だ。 そして何だか熱気でもあっとする基地の中のミニ冷蔵庫に辿り着き、中からタッパーに入った麺と麺つゆの入ったペットボトルを取り出す。薬味は無いがカビも生えて無いのでOK。まだ食える。 冷蔵庫の扉を閉め、お椀と箸を取ったところで足元に何かが落ちていることに気がついた。 どうやら回覧板のようである。 「ん?こんなん来てたのか」 シュントはそれを足で器用に持ち上げ、そうめんタッパーと一緒に手に持つ。 回覧板は木製のやたら古いもので、「トキワの森第八班」の文字の後に何度も書き直されたらしい名簿が書いてある。ライコ(これはライコ名義なのだ)は12番目で、15名の名が書いてあるうちのいくつがポケモンでいくつが人間なのかはわからない。 ライコの前後には「ヤタ」「レント」と書いてあるが、シュントはこれが回ってくるところもライコが回すところも見たことが無い。 ……ちょっとしたミステリーである。 そうめんセットと回覧板を持ったまま何とかツタを下り、ライコ(液体)に冷たい麺つゆのペットボトルをくっつけて固体に戻してから隣に座った。 そして回覧板を開く。 「あ、それライコちゃんまだ読んでないー」 すかさずライコが回覧板をひったくった。 「何すんだよ」 「これはライコちゃんに来てるのです」 そう言って黙々と読み始めた。 紙を捲る手が止まった。 そしてライコは回覧板を閉じた。 「読み終わった」 「早っ!?」 「スリに注意だって」 「そこしか読んでないだろ!」 「ここより後は古代アルフ語で書かれているから読めないの」 「もっとマトモな嘘をつけ!」 「ここより後はインクがにじんでて読めないの」 「……」 何なんだ。 「午後にレントのとこに回しとこう。ささ、そうめん準備してー」 「自分で準備しろよ」 時刻は12時と30分。 夏のお昼時だった。 そういえば、シュントにはあの回覧板を読んだ記憶が無いような気がする。 「なあ、その回覧板俺にも見せ」「ダメ」 即答で断られた。 このままいくと電撃を喰らいそうな気がしたのでシュントは大人しくその場を退き、そうめんを啜った。 ……さて、午後は何をしよう。 |
えるる | #2☆2006.12/09(土)19:35 |
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2: 暇人の午後 シュントは暇人である。 超暇人である。 スーパーフリーヒューマン(?)である。 ということで、昼ごはんを食べた後、本日の午後も彼は暇をもて余していた。 ざっと考えたが、結局予定は無かった。 「あーづーいー……」 ライコは何やら回覧板を回しに行ってしまったので、今ここにはシュント一人しかいない。 しかもいくら森の中とはいえ今は真夏、暑さで動く気力が無い。 うだー、と唸りながら寝返りを打ち、うつぶせになった。 あ、地面が冷たくて気持ちいい。 「って俺ポケモンかよ……」 そして首の角度を変えて前を見たとき、何やら人の足首が見えた。 ドキッとしてシュントは素早く跳ね起きた。 目が合った。 「えっと……こんにちは」 少し年下っぽい男の子だった。 一瞬女の子かと思った。 腰にボールがついていて、変わった感じの靴を履いている。髪も目も、青が混じっているようだ。 にしても、寝ていたところを見られたって……道から外れてるからこんなとこ誰も来ないはずなのに……。 頭の上に乗っていた♀のチルットが、ぱかりと口を開けた。 「アハハ!この人寝てた!キャハハ!」 「……」 何かむかつくチルットだった。 第一印象最悪だ。 ちなみにカントー人のシュントがチルットを実際に見るのは、これが初めてである。 「ステキだね!森の中でお昼寝!アハハ!」 「……」 チルットの下、目に「どうにかしやがれ」のメッセージをのせてシュントはトレーナーの方を見た。 どうやら通じたようで、そのトレーナーはやれやれといった様子でぺちっとチルットを叩く。 「はい黙ってねアヤヒ。すみませんでしたお兄さん」 そしてぺこりと頭を下げた。そして顔を上げ、続ける。 「えっと、お兄さん。僕ちょっと迷っちゃって……トキワに出るにはどっちに行けばいいんですか?」 手にはタウンマップが握られている。 ここは道から外れてはいるがそんなに離れているわけではないし、道が分からないということは無いはずだった。 「……トキワ?もうすぐそこだけど」 「いえ、わかってるんですが、抜けられないんです」 「は?」 「さっきから頑張ってるんですが、同じところをぐるぐるするばかりで……やっと違うとこに出て、人を見つけたんです」 「あー、はい」 心当たりのある現象だった。 「それはあれだ、ゴーストポケモンにからかわれたんだろ。別の道に出たってことはもう迷わないと思うぜ」 「え……」 トレーナーの顔が一気に面白いくらい蒼白になった。心なしか周囲の気温が少し下がった気がする。 そして少年はカタカタと震え出し、「あ、ありガとうごザいマす……」と変な発音で呟いた。目がヤバイ。 その頭の上でチルット──アヤヒがけらけらと笑いながら言った。 「アハハ!ヒタキはね、ゴーストポケモンがキライなの!キャハハ!」 「そ……そうなんデす……」 ヒタキと呼ばれた少年は何か危ない表情で人形の如くギギッと動き、「アヤヒ、行こウか……」とどこも見ないで呟いた。誰に言ってるんだ。 そこでシュントは思った。 何だこの危ない人。 何だこの怪しい人。 一体どんなトラウマ抱えてんだよ。 ギギッガガッカタカタッと何やら妙な音を立てて動くヒタキを見て、思わずシュントは声をかけてしまった。 「えっと……送ってこっか?」 途端に顔に血の気が戻り、ヒタキはくるっとこちらを向いた(ギギッとか変な音はしなかった)。そしてぱぁっと笑顔になり、言った。 「あ、ああ、ありがとうございます!アヤヒは頼りにならなくて!」 「いやお前今自分のポケモンに酷いこと言わなかったか!?」 「はっ!?」 ヒタキはしまったとばかりに口を塞ぎ、こほんと咳払いを一つした。 「……すみません、言い直します。アヤヒはその、何ていうか、ザコいので」 「もっと酷くなった!何だこいつ!」 「アハハ!いいもん事実だもん!……くすん」 それを聞いてアヤヒのもこもこの羽が少ししぼんだ。 ……何かこいつ、可哀相だ。 まさかこいつに同情することになるとは。 気を取り直して、とヒタキがぱん、と手を打った。 「僕はヒタキっていいます。こっちはアヤヒ。トキワに住んでて、今日はニビに行ってました」 「道案内よろしくね!アハハ!」 シュントの午後の用事ができた瞬間だった。 |
えるる | #3☆2006.12/26(火)13:58 |
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3: 相棒の午後 種族はライチュウ名はライコ。 面倒見がよく、人望に厚い。 一応お年頃な女の子、ファッションと恋バナに興味あり。 欲しいものはカッコイイ彼氏(種族問わず)とマイルーム。 ややぽっちゃり体型なのを気にしているが、おやつのポテチはやめられない。 シュントのことはイマドキのダメなワカモノだと思っている。 ──シュントが道案内をしているとき、ライコは森の中を回覧板を抱えて歩いていた。 人間たちの通る道からはかなり外れ、人が来ることなんていうのは100%無い、特徴的なものは何も無いところ。 ライコはその一点で立ち止まると、キョロキョロとあたりを見回して誰もいないことを確認し、近くの木の根元に積んであった枯れ草をごそごそと動かす。 草をどけると、そこには人が一人屈んで通れるほどの穴が開いていた。 「右よし、左よし、前よし、後ろよし、誰もいない。おっけー」 そう呟くとライコはその穴に潜り込んで草を元に戻し、尻尾と背中で回覧板を持って四足で走り始める。土がつかないように姿勢を屈めて、たったったったと快速スピードで駆けていく。 10秒ほど走ると、出口が見えた。 その瞬間、ライコの足元でカチッと何やら罠っぽい音がした。 「ひゃっ!?」 そしてライコの足は意識に逆らってものすごいスピードでびゅんっと滑り、トンネルをあっという間に走りぬけ、 「え、ええぇ!?何コレ!?」 出口に排出された。 ライコはそのまま5メートルくらい滑り、木に激突する寸前で体を翻し、止まった。 ……危なかった。 「何だったんだろう今の……」 「とばしトラップ、ってやつだよ」 ライコがぶつかりそうになった木の後ろから、声がした。 はっと振り向くとそこには一匹の♂のピカチュウがいた。 「シンオウからのおみやげっていって、ソナチネが持ってきたんだ。使い捨てらしいけど、あっちでは地下通路にたくさん仕掛けてあるんだってさ」 「レント!」 ライコはそう叫ぶとピカチュウ──レントに走っていき、回覧板を構え、 殴った。 綺麗にカドが入った。 「……ッ!」 「トンネルにそんなものを仕掛けないでよ!マリオカートの黄色と赤のシマシマのアレかと思ったじゃん!」 痛みに悶えて転がったレントは一瞬で跳ね起き、 「黄色と赤のシマシマ!?何、それって今のボクのこと!?」 即座に返した。 「確かに今のレントは回覧板が突き刺さった流血で黄色と赤のシマシマだけどそうじゃなくてあれだよほら……ダストシュート?」 「きっとそれは踏むとスピードアップするアレのことを指してるんだろうけどそれはダストシュートじゃない!ダッシュボードだ!た多分!」 「奪取ボード!?」 「違う!」 「ダッシュ→走る、ボード→板、走る板!?」 「何かそれスケボーみたいだ!」 ともかく、とレントが回覧板を手に持って言った。 「これを届けに来てくれんだろうけどライコ、ちょうどよかった」 「何?」 レントは真面目な顔になって、言った。 「僕たちの救助隊に、依頼が来てる」 ライコとレントはトキワに一つしかない救助隊に属している。 救助隊ポケモン専門のなんでも屋のようなもので、主に人探しや救助、配達などを行っている。 ちなみにこのチーム「トッカータ」は中型のチームで、属するのは約30名。しかし他の地方にも散っているのでトキワにいるのは約10名前後である。 リーダーはジョウトの方にいるらしいが、二人とも長らく会っていない。 「別に依頼はよくあるじゃん」 「そうなんだけど、今回は特殊なんだ。しかも2つ。んでもって今みんな忙しいから、ライコに頼みたい」 「よし、引き受けた」 「早っ!まだ内容言ってないよ!?」 「いいよどうせヒマだし」 「……」 レントはしばらく考えるような間を置いた。 結果、どうやらライコに頼むことにしたらしい。 「本当はこの依頼を受けたいって人がいたんだけど、一人じゃ心配だったからダメもとでライコに頼んだんだけど……。カコナ、こっち来て」 「カコナ?」 聞いたことの無い名前だった。 レントの手招きのする方向、木の陰から現れたのは──一匹の、チコリータだった。 女の子。 何やらガチガチに緊張していた。 「こ、ここっ、こんばんは」 今は昼間である。 「そんなにカチカチしなくていいよ?ライコちゃん別に気にしないし」 「は、はいっ」 そう言って歩き寄ってきたが、右足と右手(右前足)を同時に出していた。 ガチンガチンだった。 「……この間行き倒れてたのを僕が拾ったんだけど、彼女、いろいろ事情があるんだ。ライコ、一緒に行動してあげて」 「事情?」 「まあ、そのうち本人から聞いてよ。依頼内容も彼女に聞けばいいし」 「まあ、いいけど」 もともと面倒見のいいライコはあっさり承諾した。 そしてカコナに右手を差し出す。 「あたしはライコ。よろしくね」 「は、はいっ」 カコナも右手を差し出した。 「……いや、右と右じゃ握手できないよ」 「あ、す、すみませんっ」 今度こそカコナは差し出されたライコの手をおずおずと握り、握手をした。 何だか、先輩と後輩みたいな関係だった。 |
えるる | #4☆2007.01/29(月)07:25 |
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4: 暇人の午後2 「えっと、僕はホウエン出身なんですよ」 「へー。俺はセキチク生まれだからな、実はチルットとか見るのも初めてだ」 森の木漏れ日の下を、シュントとヒタキが歩いていた。アヤヒはずっと頭に乗られていたヒタキの首が痛くなってきたからという理由でボールに収められて、ヒップバッグの中にいる。 シュントの秘密基地を離れてから、一行は驚く程すんなり道に出ることができた。 あとは道なりに歩くだけだが、言い出したシュントが帰るわけにもいかないので最後まで見送る他無い。 ……めんどくさっ。 「えっとですねー、僕はホウエンのトクサネシティって島にいたんですよ。ロケットでちょっと有名なとこです」 「うーん、知らないな」 今の話題はヒタキの出身地について。 「やっぱカントーの人は知らないんですか……。まあ小さい島ですからね。トクサネの名物はアレです」 「何だアレって」 「アレですよ、アレ。知らないんですか?」 「知らねえよ」 「僕も忘れました」 「こいつ故郷を忘れてやがる!」 何て奴だ! 「あ、そうだ」 ふとヒタキがごそごそとヒップバッグから何かを出した。 「これ、いります?」 握られていたそれは、小さな扇子だった。 開くとホウオウの柄が描かれていて、かなり高級感漂うカンジの一品。 「……いや、俺がもらっても使わないし」 「というか、せっかく道案内してくれるのにタダというのも悪いかと。ちょっと壊れてたんですが、直しておきました。僕、手先器用なので」 そう言いつつヒタキはニコニコしながらシュントのズボンのポケットにそれを強引に押し込んだ。 「まあぶっちゃけ僕が持て余してるだけなんですけど」 「要らないだけじゃねえかよ!」 そんな事を言っている間に道はだんだん広くなってきた。そろそろ出口だ。 「えっと、僕そろそろこの辺出発するんですが、あまりあちこち見てなかったので実はまだピカチュウとか見てないです」 ヒタキが言った。 「ほー、ピカチュウか。ライチュウならうちにいるぞ。ライコとかいう適当極まりない名前の奴が」 「へえ、今度会ってみたいですね」 ちなみにライコの名づけ親はシュントである。 彼はどうやら自分のポケモンに自分でも分かるほど適当極まりない名前を付けたようだ。 「ライチュウか……いいなー」 ぽつりと呟いたとき、ぱっと周りが明るくなった。 外に出たのだ。 「え?出られた!?」 ヒタキは本気で驚いた様子だった。 「わ、わわ、アヤヒ、出られたよ!」 そしてわたわたとヒップバッグを前に持ってきて開けて、アヤヒの入ったボールを出した。 「そうだね!」 ボールの中でアヤヒが言った。 「あわわ、あ、あ、りあがとうざごいます!」 「入れ替わってる!?」 「いえ、本当に……僕一人では出られなかったと思います」 「いや、そんな事は無いと思うけど」 「えっと、お礼はさっきの扇子なんですが……あと、いいことを教えてあげます。ニビの方の街中に妙な骨董屋があるんですが、そこの間貸しの料金がめっちゃ安いので行ってみるといいかもしれません」 まあ、僕はあそこに住もうとは思いませんが。 そう言ってヒタキは服のポケットから何やら小さなタイヤを4つ取り出し、それを靴の裏にカチッとはめて、踵をとんとん鳴らした。 そしてぺこりと頭を下げた。 「ではシュントさん、本当にいろいろありがとうございました。……でも、防犯には気をつけたほうがいいですよ。油断しすぎです」 ヒタキは最後に妙なことを言ってすっと道の上を滑ったかと思うと、あっという間に見えなくなってしまった。 ……あれ、ローラースケートだったのか。 「ダッシュシューズじゃ無いんだな……」 ていうか、あんな靴初めて見た。 「折角ここまで来たし、ジュースでも買って帰ろうかな」 そう呟いてシュントは近くの自販機に向かい、ポケットから財布を出す。そのとき一緒にヒタキからもらった扇子が出てきた。 黒い側面には金で羽が描かれている。開くとさっきも見たように鮮やかなホウホウ。 ……よし、売ろう。 そう考えてシュントはそれをポケットに戻した。 そこでふと、シュントは違和感に気づく。 ポケットから出した財布。重さはそんなに変わらない。 財布をパチンと開ける。 雑多に詰め込んでいたバスカードやポイントカード、古いテレホンカードなどが根こそぎ消失していた。 ライコのセリフが思い出される。 ──「スリに注意だって」。 ……。 ……。 ……。 えー。 これはどう考えたって。 扇子をポケットに突っ込んだときの。 「ヒタキの仕業だよな……」 どうやら彼は、本当に手先が器用であるらしかった。 |
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