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ブレイカー | #1★2007.01/07(日)21:47 |
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プロローグ 俺にはヌケとテッカという相棒が居る。 ちょっとした旅行気分でシンオウ地方に訪れたわけなんだが…。 まさかあんなことになるとは思わなかった。 ミオシティ ポケモンセンター内 「もういくつ寝るとクリスマス。短冊に願い事を書いてクリスマスツリーに飾る。そうすれば織姫様とサンタさんが願いを叶えてくれるでしょう(ニコッ☆)」 何かいろいろとごっちゃにになっているが、気にしたら負けかなと思っている。 短冊を持ってムチャクチャな発言をするこのヌケニンがヌケだ。 何故か倒れてもすぐに復活するゾンビのようなヌケニンである。 おまけにやたら強いときたもんだ、よほどのことじゃないかぎりバトルには出さないつもりでいる。 「なんかいろいろごっちゃになってねーか…?」 ヌケにツッコむこのテッカニンがテッカだ。 速い、以上。 それ以外に語ることがない…強いて言うなら「ハエ」という単語に過敏な反応をするとことか。 「うるせえっ! さっさとこの短冊に願い事書けよハエがッ!」 なんでハエという単語に過敏な反応をするかというと…答えはヌケがテッカのことを「ハエ」と呼ぶからである。 何故「ハエ」かは分からないが、多分「ハエははえー」というダジャレからだろう。 ちなみに今ヌケが持っていた短冊をテッカに向かって投げつけたわけだが、短冊は紙である。 つまり、投げつけた短冊はヌケの目の前でひらひら落ちていくだけだった。 「なんでキレてんだよっつーか、俺はハエじゃねえッ!」 ヌケの意味不明な発言に対してテッカがキレる。 そこに更なるヌケの追い討ちが来て…よくわからん口論に発展する。 毎回そんなパターンの漫才(!?)をしているのだが…今回は何かが違った。 明日「りゅうせいぐん」が大量に落ちてくるのではないかと心配してしまうくらいヌケの様子がおかしい。 「お前がハエかミツハニーかっていう話はどうでもいいとしてだな」 いつもならこれよりもっとヒドイ発言を投げかけるはずなのだが…。 「ハエでもミツハニーでもねえから」 「だからそんなことはいいっていってんだろ」 いつもはっちゃけているヌケだが、今回は真面目な感じだった。 そう、何故か「真面目」な感じなのだ。 ヌケニンだから表情は変わらない、抜け殻だしな。 しかし、こう、なんだ、喋り方とか声が「いつもと違う」のである、あと雰囲気とか。 「今度のクリスマスさあ、オイラ『旦那』んところで世話になるんだが…おめーらも来るか?」 旦那? 旦那って誰だ? ヌケはヌケニンだから性別はないが、一応精神面では確実に♂である。 だから居るとしたら「奥さん」だろう。 しかし、こいつに女が居る気配なんか一切ない、抜け殻だし。 オイラはモテるだのなんだのほざいてるときがあるが、そりゃ真っ赤な嘘だ。 「言っておくがマイダリーンって意味の『旦那』じゃねえぞ」 あ、そうだったんだ。 何を妙な勘違いをしていたんだ俺は。 「いや、それはわかってんけどよ…旦那って誰だよ」 テッカがヌケに訊く。 しかし、いつはっちゃけるか分からないのだこのヌケニン。 「知るかッ!」 「ハァ!?」 このとおりだ。 人…いや、テッカが真面目に訊いてるというのに「知るか」なんて叫ぶし。 今この場で「旦那」という存在を知っているのはお前だけなんだからさ。 テッカがハァ?って言いたくなるのも無理はない。 というか俺も言いたかった。 「まー冗談は置いといてだな…旦那はオイラが過去に世話になったお方だ」 過去って…。 こいつが関わった相手なら、テッカも知っているはずである。 だが、テッカは知らない。 どういうことだろうか。 「あー、過去って前世での話だぜ、話すと長くなるからあまり語りたくはねーけど」 ああ、なるほど…ヌケが前世で世話になったねえ…さすがゴーストポケモンだ、前世の記憶を覚えているとは。 ヌケニンと言えばテッカニンの抜け殻に魂が宿ったとされるポケモンだ。 前世の記憶をはっきりと覚えている、というのも頷ける話だ。 そこらのはっきりとした意識を持つ幽霊が宿ったのかもしれないし。 で、そうなるとこいつの前世がどうだったかとかいろいろ気になるが、それは「旦那」とやらに会ったとき訊いてみることにしよう。 「その旦那ってどういう奴なんだ?」 テッカが再び訊くが、また「知るかッ!」なんて言われるとたまったもんじゃない。 「どーいう奴…って、奴とか言うんじゃねえっ!」 どうやらヌケは「旦那」という存在を相当慕っているらしい、このキレ方からしてそれを察することができる。 …のだが、ヌケの場合、本気でキレてるのかふざけてキレてるのか分からんのでやっぱり微妙だ。 「まーハエの無礼な発言は置いといてと」 「ハエじゃねえつってんだろ!」 いちいち反応するからいけないと思うんだ。 いつもならキレたテッカに更なる追い討ちをかけるヌケだが、今回はやっぱりそれを無視した。 虫だけに虫を無視する虫、なんちゃって。 …。 …。 …。 …ごめん。 「ギラティナ ってポケモン知ってるか?」 ギラ…? なんだそれ、某竜退治RPGに出てくる新しい呪文か何かか? 「知らねーなら知らねーでいいんだけどさ。多分ここの図書館で少しくれー知ることできると思うからよ、行こうぜ!」 ヌケにそう言われ、俺とテッカとヌケはポケモンセンターを後にした。 言い忘れたが俺はブレ。 さすらいのインチキアイテム商人…とだけ言っておこう。 |
ブレイカー | #2★2006.12/16(土)13:56 |
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12月10日 その1 というわけで、今俺とヌケとテッカのバカトリオは図書館の中に居る。 図書館の中でもギャーギャー騒ぐと思ったのだが、意外なことに静かだった。 一応PTA…じゃない、TPOは弁えているようである。 でもまあ、さっきは非常にうるさかったわけだが。 さっきとは、移動中のこと、つまり時間をちょっと遡ることになるのだが。 突然ヌケがテッカに「コーラと醤油とラー油とシャンプーの違いについて」というワケわからん話をしたことがきっかけだった。 内容がカオスなうえに、ヌケニンが熱く真面目に淡々と語っている、なんとシュールな光景だろうか。 これだけでも目立つっていうのに、 「いいか、コーラと醤油は色が似ているが味は違う。醤油とラー油はなんとなく名前が似ている。シャンプーはなんとなく選んだだけだ」 ↑みたいな言葉を大声で喋っていくせいで、町の人々の視線は俺達バカトリオの方にしか向いてなかった。 それがイヤだったためテッカが「喋るな」「おい聞いてんのか」「切り刻むぞ」などとヌケの熱論を止めようとしていたが、すべて無視されていた。 最終的にテッカがブチギレて「つばめがえし」を10発はお見舞いしたんじゃないだろうか、それでやっとヌケの暴走は止まったわけだ。 …しかし、ヌケが「オイラが一生懸命コーラとラムネとチョココロネとカレーうどんの違いについて語ってたのになんてことすんだこのハエ!」と叫んで、その場で大乱闘スマッシュブラザーズ。 なんか語っていた内容が全然違ってるぞ、おい。 止める気なんて起きなかった。 だけど途中で現れた金色で長い髪を持つ黒服を着た美人な女性が止めに入ってきてくれたおかげで、やっとケンカが終わってくれた。 ヌケが「貴方は野に美しく可憐に咲く花畑の中に、ポツンと一つだけ咲いた黒いバラだ…そしてそれを摘むのはこのオイラ…」とかほざいていたような記憶がある。 女性は女性で大人の女性だったので、笑顔で「面白い例えね」なんて言っていた。 いいんですよ、「あんたバカァ?」って言っちゃって。 そういえばよく見るとこの女性、ブラッキーの耳みたいな髪飾りつけてるな、どうでもいいけど。 ヌケとテッカのケンカを止めてくれた(つっても、「やめなさい」くらいしか言ってないけど)女性に、感謝と謝罪とお別れの挨拶をして俺達は図書館へと入った。 ヌケ曰く、ギラティナというポケモンは通常のポケモンではないらしい。 「ルギア」や「レックウザ」のような強すぎる力を持ち、何かの象徴とされるポケモン…そう、神と呼ばれるポケモンと同等らしい。 そうなると、ゴーストポケモンか虫ポケモン達の親玉なんだろうか。 案内板があったので、それを見るとどうやら三階に神話やら昔話の書かれた本があるみたいだったので、俺達は三階へと向かった。 そして今に至るわけである。 しかし、どこにギラティナというポケモンが書かれた本があるんだろうか。 「おい、テッカ」 俺が本を探しているとき、別の本棚で本を探していたテッカに、これまた別の本棚で本を探していたヌケが喋りかけてきた。 もちろん、小声でだが。 以下の会話もすべて小声である。 小声だが図書館内は静かなのでばっちり聞えてしまう。 「なんだ?」 「ちょっとさ、聞いてほしいことあるんだ…」 また変なこと喋るんじゃないだろうな。 「なんだよ、本探してるってのに」 お前さっき大変な目にあったこと忘れたのかよテッカ。 「新ジャンル『素直ツンデレ』ってのを考えたんだが」 …。 なんだそれ…。 「もういい、喋るな、黙ってろ、本探せ」 テッカもその発言で次からどんな展開になるか予想できたようである、ヌケを止めようとしたが… 「というかさ、『ツンデレ』の意味みんな間違えてると思うんだよ」 黙れよ、小声と言えど図書館の中で変なこと語ってんじゃねえよ。 図書館の中は静かだから、小声でもやっぱり声は聞えてしまう。 他の客とかこっち見てクスクスッ笑ってるしさ。 「ツンデレっていうのはな、『いつもはツンツンしてるけど突然二人きりになるとデレデレしてしまう』なんだよ」 「黙れよ変態抜け殻が」 テッカ、無駄だ。 こいつが一回語りだすとほぼ止まらないというのは何百回も経験しているはずだろう。 「だが最近のツンデレキャラと呼ばれる連中はだな、これに該当しないわけだ」 「おい、それ以上喋るな」 しかしテッカも学習能力がないなぁ、と思う。 お前無視すりゃいいものを…。 「あれらはツンデレじゃないんだ、『ツンテレ』と言ったほうが正しい。ツンテレってのは『照れ隠しでツンツンした態度を取ってしまう』って意味だ」 それならテレツンのほうがいいんじゃ…。 というかもうツンデレもツンテレも一緒でいいだろ、わざわざ分別するほどのことでもないと思うんだけど。 「人の話を聞けバカ」 テッカ、お前人間じゃなくてテッカニンだろうが。 心の中でツッコミ入れるのも大変なんだぞ。 「つまりだな、素直シュールが最高に萌えるってわけだ」 お前自身なんじゃねえか、それって…。 素直かどうかは別として、シュールすぎるんだが…。 「おい、これでもうくだらねえ語りは終わりなんだろうな」 ヌケのワケわからん結論を聞いて、テッカは少し安心したようだ。 本当に終わったかどうか、ヌケに訊ねてみた。 「で、素直ツンデレっていうのはな、『べ、別にあんたことなんて好きなんだからねっ!』って照れ隠しでツンツンした態度を取りながら素直に思いを告白するっていうな…」 終わってなかった。 「そんなことどーでもいいんだよバーローがッ!」 「起承転結」のなってないヌケに対し、遂にテッカがプッツンしてしまった。 「他のお客様のご迷惑になりますので、静かにしてもらえますでしょうか?」 すぐさま図書館の従業員がテッカのところへと歩いてきて、注意をした。 ヌケなんて無視すりゃあいいものを…。 「…てめえのせいで怒られたじゃねえか」 「うわっ、自分が悪いのに人のせいにすんのかよ、サイテー」 お前は人ではなくヌケニンだろう。 「ふざけんじゃねえよ…」 「いや、そんなことよりさあ、旦那のことについて載ってる本見つけたんだけど」 「さっさとそれを言えよバカッ!」 またテッカがバカでかい声で叫んだ。 「お客様、図書館の中では静かにしてください!」 ほーら、また叱られたよ。 落ち着けっての。 ヌケはヌケでそれを見てケラケラ笑ってるしさ。 「見つけたならさっさと読もうぜ…」 俺がテッカとヌケのところまで近づき、机のある場所に誘った。 「これなんだけど」 机に座っている俺の目の前で、ヌケが背中をこちらに向ける。 まさか魂を吸い取る気か?と思ったが、違う。 背中にある巨大な穴から本がポンと出てきたのだ。 不思議な体してんなこいつ…。 その本は「シンオウむかしばなし」というタイトルの本であった。 「この話なんだけどよ」 ヌケがパラパラ本をめくって、ギラティナについて書かれているであろうページで止める。 「読んでみろ」 言われたとおり、読んでみた。 声に出しちゃまずいので、黙読でだ。 「シンオウむかしばなし その1 うみや かわで つかまえた ポケモンを たべたあとの ホネを きれいに きれいにして ていねいに みずのなかに おくる そうすると ポケモンは ふたたび にくたいを つけて この せかいに もどってくるのだ 」 …。 ギラティナという名前は一切書かれていない。 「本当にこれなのかよ」 俺がヌケに訊く。 「それだって。オイラも旦那に転生先選ばれたんだし」 転生…ああ、そうかそうか、そういう意味か。 水の中に入れられたホネが、肉体をつけて再びこの世界に戻ってくるっていうのは、転生の別の表現としても見られる。 となると、ギラティナというポケモンは…ゴーストタイプのポケモンなのだろうか、イメージ的にそんな感じするけど。 「でも旦那もひでーよなぁ、ハエの抜け殻を転生先に選ぶなんてよー、いやがらせにも程があるぜ。ケッケッケッケッ!」 テッカのほうを向いて、バカにしたような笑い声をあげる。 もちろん小さい声でだ。 「ハエじゃねえつってんだろーがッ!」 お前はお前でまた大声出してんじゃねーよ。 「お客様!」 「すみません」 今度はこいつらのトレーナーである俺が叱られてしまった。 まあ慣れてるからどうってことないぜ。 しかしだな。 これだけではどんなポケモンか分からない。 まず、姿がどんななのかとか、どこで目撃されたとか、そういった情報がないと探しようがない。 「じゃあ旦那んところ行くか」 本を戻しにいったヌケがこちらに戻ってきて、そう俺とテッカに言った。 いや、旦那んところ行くかと言われましても…どこに居るか知ってるのかこいつは。 「ヌケ、お前その旦那が居る場所知ってるのか?」 俺が訊くと、ヌケが自信満々にこう言った。 「オイラの霊感をナメんなYO?」 勘頼りかよ。 |
ブレイカー | #3☆2006.12/17(日)17:24 |
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12月10日 その2 図書館を出て、再びポケモンセンターへと向かった俺達。 しかし何故か今居るのはミオシティにある喫茶店だった。 やっぱりその間もアレだった、ヌケとテッカがケンカをしていた。 今度は「納豆に何を入れるかについて」だったが、これまたカオスな内容だったのだ。 納豆にコーラ入れるとマズイとか、そんなのやる前から分かってます。 しかし今回は大乱闘スマッシュブラザーズにならずに済んだ。 というのも、またあの美人な女性が止めに入ったからだ。 まあ「やめなさい」という一喝だけだったけど。 一応お礼を言って、ポケモンセンターへと向かおうとしたが、女性が止めてきた。 「少し気になるから、一緒にお茶でもどう?」 逆ナンパ? ま、まさか俺のような冴えない男がこんな美人に誘われるとは…。 ということで、今喫茶店に居るわけなんだが。 気になるというのは、どうやら俺でなくヌケらしい。 やっぱりな…そうだろうと思ったけど少し残念だ…。 まさか図書館行く前に言われたヌケの謎の口説き文句を聞いて、惚れてしまったんじゃないだろうな。 「私の名前はシロナ。神話のことについて調べているちょっと変わった女よ」 「あ、俺の名前はブレです。…えーと、なんて言えばいいんだ…一応アイテム売りです、はい」 どうもこういう美人と話すのは苦手だ、緊張する。 「フッ、シロナ…ステキな名前ですな(ニコッ☆)」 逆にヌケはこんな感じだ。 なんでこいつはこんなに女好きなんだろうか…しかも種族問わずに。 「このヌケニンくんのお名前は?」 本人に直接訊けばいいのに、なんで俺に訊くんだよ。 まあいいや、答えておこう。 「ヌケです」 「バカです」 「アレキサンダーです」 …。 ヌケと答えたのは俺だ。 バカと答えたのはテッカだ。 アレキサンダーと答えたのはヌケ本人だ。 お前らもう喋るな。 「ヌケくんね…よろしく」 ニコッと微笑み、ヌケに握手を求めた。 まあヌケは手はなく、ツメそのものだから握手できないんだけれども一応ね。 「おっと、オイラの手を握る前にちょっと…」 そう言って、ヌケは自分のツメを念入りに拭きはじめた。 なんだろうか、なんとなく分かるが。 「さっきこの汚いハエを触ってしまいましてね…そんなツメでお美しい貴女の手に触れるわけにはいきませぬ…(キラリーン☆)」 ああ、やっぱりそうだったか。 「てめえッ! 俺はハエでもねーし汚くねーぞッ!」 そんなこと言われたテッカはやはりキレる。 シロナという女性はクスクス笑ってるし。 笑ってないで止めてください。 「フッ、体がハエなら頭の中身もハエだな…」 お前はさっきから何を演じているんだヌケ。 またそんなこと言うとテッカが、 「だからハエじゃねえッ! いい加減にしねーとタマネギん中に入ってるハンバーグみてーにすんぞっ!」 ほらまたキレた。 それにタマネギとハンバーグが逆だぞ、それを言うなら「ハンバーグの中に入ってるタマネギ」だろ。 こんな例え方できる頭あるってのに、なんで無視できないんだか…。 「まあまあ落ち着いて」 シロナという女性が…いや、もうこの呼び方やめよう。 シロナさんがテッカの怒りを鎮める。 怒っているといえど理性を失うまで至っていないので、テッカはそれを聞いて大人しくなった。 「で、シロナ。オイラに何の用かな?」 お前何呼び捨てしてんだよ、まだ何かに演じきっているしさ。 「うん、ちょっとポケモンセンターでキミが”ギラティナ”って言ったものだから」 こんな抜け殻如きに呼び捨てされたシロナさんは、笑顔で答えてくれた、ああ、やっぱり大人だ。 って、この人ポケモンセンターに居たのか。 まさか跡つけてたんじゃないだろうな…。 「ほぉ、オイラ達の会話を盗み聞きしていたと。悪い小猫ちゃんだ…フッ、どうやっていぢめちゃおうか迷ってしまう…(キラリン☆)」 今すぐ帰れ。 そんな言葉が出るくらいむかつくんだが…。 別に盗み聞きしてたわけじゃないだろ…お前の声でかいんだから聞きたくなくても聞えてしまう。 「盗み聞きしたわけじゃないんだけどね。ちょっと耳に入ってきたものだから」 「おっと、そうだったのか。それはそれは申し訳ない勘違いをしてしまった…まったくオイラは罪な男だぜ…フッ」 もうこいつは無視しておこう…。 「それでね、ギラティナというポケモンについて書かれた本を持っているんだけど…」 笑顔だったシロナさんが、表情を崩して真面目な顔になった。 どうしたんだろうか、疑問に思っていると持っていた大きめのバッグから一冊の本を取り出し、テーブルの上に置いた。 「…これっすか」 俺が訊くと、シロナさんが「ええ」と返事。 本の大きさは図鑑並みで、それなりに厚かった。 非常に古いものなのか、様々な箇所がボロボロになっていた。 タイトルの文字は全て消えてしまっている。 「おばあちゃんが持っていた本なの。今は私が貰って私のものだけど…どうぞお読みになって」 コーヒーをすすったあと、シロナさんが言った。 俺も頼んだコーヒー(ただしミルク)を全部飲み干して、本の中身を言われたとおり遠慮なく見ることにした。 パラパラめくって見てみると、中もやっぱり古さを感じさせた。 しかし、読めないわけではない。 本の中に、表紙にも書いてあったと思われるタイトルを見つけた。 ほら、よく一番先頭に書かれてるじゃないっすか。 「”私が見た神話”…か」 内容はというと…これはなかなかすごい。 筆者が今までに見たことのある伝説のポケモン達の特徴や出会った場所、そのときの感想などが書かれている。 それだけでなく、そのポケモンの姿をスケッチしたものまであったのだ。 ホウオウ、ルギア、ライコウ、エンテイ、スイクン…ジョウト地方で語り継がれている伝説のポケモン達もバッチリ載っている。 「おい、そこで止めろ!」 パラパラ本をめくりながら内容を見ているところ、突然ヌケが真面目な声で叫んだ。 どうやら今俺がめくった場所に何か興味があったらしい。 「なんだ?」 「これが旦那だよ」 そこに描かれている絵は…なんだこれ。 多分深い霧の中で見つけたのだろうか、まずはそれが第一印象。 その深い霧の奥に、コウモリのような翼を持つ巨大怪獣のようなシルエット。 頭の部分にはツノがあるのだろうか。 赤く光っているのは位置からして目だろうか。 ポケモンそのものをスケッチしたわけでなく、その場所の風景そのものをスケッチしている絵であった。 「こんだけで分かるのかよ」 俺がヌケに訊いた。 「この翼といい、でっけー体。それで見つかった場所も、ほれ」 ヌケが本に書かれている一つの文に指…というかツメを指した。 「 私がシンオウ地方のリッシ湖のほとり周辺を歩いているときだった。 突然、方向感覚を失ってしまい、霧の深い場所へと潜ってしまった。 しばらく歩いていると、やがて見つけたのは一つの泉。 そこで私は彼を見たのだ、深い霧の奥に居る彼を。 」 …。 リッシ湖…リッシ湖というと、確か…。 タウンマップで確認しようとして、タウンマップを出そうとしたとき。 「リッシ湖はトバリシティとノモセシティの間にあるわ」 シロナさんが教えてくれたので、わざわざ出す必要がなくなった。 いや、でもどのへんにあるか確認したかったのでやっぱり出すことにする。 「…どっちも遠いな」 ミオシティからではどちらも到着するのにかなりの時間が必要である。 まあヌケの勘に頼って行くよりかはマシなんだけどさ。 「これでヌケくんの探しているポケモンの居場所が分かったわね」 笑顔でそう言いながら、シロナさんは見せてくれた本を再びバッグの中へと閉まった。 しかし…。 「あのー、なんで俺ら…というかヌケにそんな好意を…」 さっきから思っていたんだが、なんでヌケなんかに協力するんだろうか。 単なる暇つぶしか? シロナさんは俺の問いにこう答えた。 「なんとなく直感なんだけどね、ヌケくんとギラティナというポケモンの絆がとても強いように思えるの。だからよ」 直感で言われてもですね…。 「あ、そうそう。もう一つ気になってることあるんですが」 「何?」 俺が気になっていること…それは。 シロナさんの頭についているブラッキーの耳のような飾りを指して、こう言った。 「それなんっすか?」 シロナさんはそのブラッキーの耳のような髪飾りを触りながら、笑顔で答えた。 「かわいいでしょ?」 いや、何かってこっちは訊いてるんですが…。 |
ブレイカー | #4★2006.12/18(月)01:09 |
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12月11日 その1 シロナさんと別れたあと、俺達は今度こそポケモンセンターへと戻っていった。 外は夕焼け小焼け。 「どうする?」 ポケモンセンターに戻ると、ヌケが俺に訊いてきた。 どうするも何も、今から出発するか、それとも今日はとりあえず休んで明日出発、のどっちかであろう。 しかし、すぐ出発するわけにもいかない。 いろいろ準備が必要だしな。 「今日は準備することとかあるしさ、明日から出発しようぜ」 「おう、わかった」 「あいよー」 こうして俺はショップへとアイテムなどを買いに行った。 戻ってきたとき、またヌケとテッカがケンカしていたが…。 翌日。 「コケコッコー!」 ムックルが鳴く。 いや、ちょっと待て。 なんでムックルが「コケコッコー!」なんて鳴くんだよ。 早朝からツッコミを入れることになるとは…。 「今何時だ?」 テッカが俺に訊いてきたので、俺は何故か持っていたポケッチを確認した。 「…五時半ちょいだな」 ずいぶんと早く起きたものだ。 「ん?」 そういえば何か違和感があった。 いつもなら朝っぱらからギャーギャー騒がしいあの抜け殻が妙に大人しかったからだ。 「おい、ヌケ。元気ねーな」 テッカがそんなヌケに話しかけた。 「…テッカ、実は夜寝れなかったんだ」 やけに元気のない声で喋る。 お前はゴーストタイプだから夜眠らなくてもほとんど大丈夫なのでは、と思ったが、ゴーストポケモンもやっぱり眠らなきゃ疲れてしまうものなのか。 「なんで寝れなかったんだよ」 「ちょっとさ、悩み事があって…」 こんなノーテンキな奴に悩みなんかあったのか…。 どうせ「汚いハエが最近うるさくてさ…」とかそんな感じの悩みだろう。 そう思っていたが、やはりヌケはヌケだった。 「悩みってなんだ?」 「…なんでさ、ロックマンってトゲに触れただけでティウンティウンティウンってはじけるんだろ…って…」 …。 「はぁ…いろいろ考えてみたんだけどさ…どれもしっくりこねーんだ…」 んなことで夜眠れなくなるほど悩んでんじゃねえよ。 ゲームの世界の話だぞ、少しは理不尽なことあるだろ。 それを真剣に悩むとは…。 「…」 テッカも呆れてしまっている。 「大体さ、ステージの一番初めに降り立つところにトゲ設置すりゃあロックマンってボスのところにいけねーじゃん。なんで設置しねーんだろーなー。オイラならステージ全部にトゲ設置するYO」 ゲームになんねえだろ、それじゃあ。 まったく朝から頭の頭痛が痛いな…。 あ、なんか日本語が変だが気にしないでくれ。 「あれだろ、運悪くトゲが爆破指令のスイッチか何かに刺さったんだろ…」 俺がテキトーに言ってみる。 「おまえ頭いいなぁっ!」 …ある意味羨ましいよ、単純な頭持ってて。 今の季節は冬。 時間帯は朝。 そしてシンオウ地方。 非常に寒い、カントー地方もこの時期の朝は寒いが、やはり北国だ、カントーなんか比ではない。 辺りはまだ暗い、お天道様がまだ見えていないからだ。 昨日の昼は船のエンジン音や、船乗りやポケモントレーナー達の談笑などで賑やかだったこの町も、今じゃ海の波の音しか聞えない。 まさしく海の波音に包まれた静寂の町。 …うん、今の表現はなかなかよかったかもしれん。 なんて思っているうちに、ミオシティと218番道路を繋ぐゲートをくぐることになった。 ゲートをくぐり、218番道路に到着。 そのうちコトブキシティに到着するんだろうなぁとわくわくしながら歩いていく。 しかし、しばらく歩いていたらとんでもない事実に直面した。 「…うっわ、マジか」 なんと行き止まり。 正しく言えば「水面を渡らないとコトブキシティまで行けない」のだ。 水面を移動できるポケモンを持っていれば行き止まりではない。 …しかし、俺にはそんなポケモンはいない。 今居るのはヌケニンとテッカニンだ。 こいつらは浮いてたり飛べたりするから、こんな場所楽に通れるだろう。 しかし、俺は飛ぶこともできなければ泳ぐこともできない。 いや、泳げるけど寒いし、そんな長い距離泳げない。 「くっそー、ミオシティに戻ってパソコンからポケモンを…」 「その必要はねえぞ!」 ヌケが叫ぶ。 その必要はない? 何故だ? 「オイラ、実は召喚士だったんだ…」 …悪霊のか? 「今から”海竜王ナマイアサン”を召喚するZE!」 誰だよそれ、すごい強そうなんだけど。 「出でよナマイアサン!」 ヌケが天に向けて祈るようなポーズを取ると、空に大量の黒雲が発生し始めた。 黒雲が集まると、雷鳴が轟き始めた。 おお、こりゃ本格的だな。 ピシャーンと雷が俺の目の前の水面に落ちる。 「…?」 雷の落ちた場所には誰も居ない。 いや、居た。 水中に居るようだ。 だんだんと水中のシルエットが大きくなっていく。 …しかし、シルエットを見るかぎりとても竜の姿をしていないような…むしろ魚。 そう思っていると、ついに海竜王ナマイアサンと呼ばれる者が現れた。 「…何用か」 …。 うん、確かに威厳のある声。 海竜王と呼ばれてもおかしくない声だ。 だが、目の前に現れたのはただのナマズンだった。 いや、額の「w」みたいなマークがなく、代わりに「海竜王」とか書いてあるので、ただのナマズンではないようだが…。 「これがナマイアサンか…?」 「ああ、七つの海の支配者にして全ての海洋類の王者、”海竜王ナマイアサン”様だ」 いや、それってルギアなんじゃないの…? 「さあ、何の用ぢゃ。用がなければ帰っちゃうぞ」 あれ、さっきの威厳が少しなくなってません? 「この人間を乗せてあっちまで送ってほしいんだ」 ヌケが向こう岸を指す。 それを聞いたナマイアサンと呼ばれるナマズンは、「承知した」と言って俺に背を向けた。 「さあ、早く乗るのぢゃ!」 「あ、はい」 言われたとおり、俺はナマイアサンに乗った。 「40秒で行くぜ!」 そう言い、ナマイアサンはものすごいスピードで水中を泳いでいった。 俺は振り落とされそうになった。 そして風が猛烈に寒かった。 向こう岸に辿り着いた。 なんでだろう、助かった気がしないんだが…。 「サンキュー、ナマイアサン!」 ヌケが礼を言ったが、お前はナマイアサンに乗ってないじゃないか。 俺が礼を言うべきなんだろうけど、どうも言う気がしない。 「また困ったことがあればわしを呼べぃ! さらばぢゃ!」 そう言って、ナマイアサンは水中へと潜っていった。 「冷たっ!」 「おい、もうちょい静かに潜れよっ!」 そのとき勢いよく潜ったもんだから、俺とテッカはその際発生した水しぶきを大量に浴びてしまった。 ヌケはヌケで、シャドーボールを傘の形に変えてガードしてたし。 いつ見ても器用だなーこいつ…。 さて、早くコトブキシティへと向かおう。 コトブキシティはシンオウ地方の中でも屈指の都会。 どうやらテレビ局とか世界中の人達とポケモンを交換する施設があるらしい。 だからいろいろ見学したいんだが…その前に温まりたい。 俺は早足で歩いて、コトブキシティへと向かった。 ちなみにヌケとテッカはもう既に俺の側に居ない。 多分今頃コトブキシティに到着してるだろう、いいよな飛べるって。 「人間が来たぜ」 「ほ、ほんとだ!」 「お姉ちゃんが言ったとおりにやるんだ、そうすれば人間なんてイチコロだぜ!」 「よし…僕行ってくるよ!」 「頑張れよユメヤ!」 なんだか不気味な気配が…。 |
ブレイカー | #5☆2006.12/23(土)00:27 |
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12月11日 その2 俺が道を歩いていると、先ほどから感じていた不気味な気配が徐々にだが、大きくなってきているような気がした。 まあどうせすぐ町に着くし、走ってヌケに助けを求めればどうってことないぜ。 さて、あのゲートを抜ければコトブキシティだ。 そのときだった。 「ばぁ〜!」 「うおっ!?」 俺の目の前に帽子のような頭を持つ紫色のポケモンが現れたのだ。 突然の出来事だったため、俺はかなり驚いて腰を抜かした。 「う〜ら〜め〜し〜や〜!」 …しかし、よく見てみると…こいつはあれじゃないか、ムウマージ。 ムウマに「やみのいし」を使うことにより進化する、そう、あのムウマージ。 その魔女っぽい姿からしてファンの多いムウマージだ。 最初はびっくりしたが、かわいい見た目のせいで恐ろしさが半減、そして吐く台詞のやる気の無さによって更に恐ろしさ半減。 だって、この見た目で全然恨めしく思ってない感じで「うらめしや」なんて言われても…正直ナデナデしてあげたい。 「チョコレートやるからそこをどいてくれ」 俺はバッグの中からチョコレートを出した。 まあこんな手でどいてくれるほどお子様じゃないと思うが…。 「え、くれるの?」 おい、マジかよお前。 目を輝かせて俺に訊いてきたので、俺は「うん」と返事をしてチョコレートをムウマージに渡した。 まあこれ、結構前に話題になった「カカオ99%」なんだけどな。 その苦さで苦しむといい、フッフッフッ。 「どうもありがとう! お姉ちゃん、チョコ貰ったよ!」 お姉ちゃん? すると、ボ〜っと突然何かがそのムウマージの目の前に現れた。 「お前何してんだよっ!」 現れたのは同族のムウマージ。 やたら気が強そうだ。 「ご、ごめんよ…」 「やれやれ、これだからお子様は…」 ♀かこいつ、その割にはやたら口が悪いな…性別であまりそういうこと判断したくはないけど。 弟と思われるムウマージのお説教がすぐに終わると、今度は俺の方を向いた。 「何ボーッと見てんだよ」 「別にボーッと見てたわけじゃ…」 「ふんっ、今からあんたに本当の恐怖ってものを見せてやる。心臓が口から飛び出て空中で踊るくらい恐ろしいぜ!」 ほー、そいつはすごいな。 どうせこいつも大したことないんだろうな、と思っていたら。 「…ん?」 体が急に重くなった…気がする。 動こうとしても動けない。 どうしたんだ俺。 やたら強気な口調だったムウマージを見ると、目が黒く怪しく光っていた。 「くろいまなざし」で逃げられなくしたってことか…まずいな、油断しちまった。 「ふっふっふっ、あたしの『くろまほー☆』の『ぐらびで☆』の威力はすごいだろ!」 …は? くろまほー、ぐらびで…。 …。 なんかこいつも大したことなさそうだな、ホント…。 「お次は『めらぞおま☆』で攻撃してやるぜ、覚悟しろっ!」 なんですか、火の玉でも投げつけてくるんですか。 というか名前借りるの一つのゲームに絞ってもらえませんかね? そんなことを俺が思っていると、口だけムウマージ(今命名)の体の目の前に、黒い影の塊が球状になって現れた、二つほど。 どっからどーみてもシャドーボールです、本当に以下略。 「くらえっ! 『めらぞおま☆』!!」 二つの出来上がったシャドーボー…じゃない、『めらぞおま☆』とやらを俺目掛けて飛ばしてきた。 いかん、火の玉じゃなくてよかったーなんて思っていたが、シャドーボールも立派な攻撃技。 しかも威力の高い技で、尚且つ二つもあるからかなりのダメージを受けるだろう。 ていうか、なんでこいつの「くろいまなざし」は動きすら封じる力があるんだ…。 仕方がない、素直にダメージを受けよう、俺にはメタグロスのコメットパンチを数発耐える防御力があるからな。 俺は覚悟をし、目を瞑って下を向いた。 ぶちょんぶちょん、とシャドーボール特有の激突音が二回ほど聞えた。 …んだが、俺は何もダメージを受けてない。 「…?」 そっと目を開けてみる。 「なに!?」 「ユメヤッ!」 俺は丁度下を向いていたので、何が原因でシャドーボールが俺にぶつからなかったのか、すぐ分かった。 口だけムウマージも何者かの名前を叫んだ。 「うぅ…」 俺にシャドーボールが当たらなかった理由、そしてその何者かは同一の存在。 先ほどチョコレートを貰って無邪気にはしゃいでいたあのムウマージが俺の足元に倒れこんでいたのだ。 「お前何してんだよ!」 口だけムウマージが倒れているムウマージに怒声を浴びる。 そりゃそうだろうなぁ、せっかく獲物とろうとしたというのに余計な邪魔が入ったんだ。 しかもその余計な邪魔というのが実の弟…。 「…ち、違うんだお姉ちゃん…うぅ、グスッ!」 怒られて泣いてしまったのだろうか、倒れているムウマージの目から涙が溢れ出てくる。 「違うってどーいうことだ!」 口だけムウマージが叫ぶ。 と、そこにだ。 「フッ、教えてやろう…」 どこかで聞いたことのある声が聞えた…。 「誰だ?」 口だけムウマージがキョロキョロとあたりを見回す。 しかし、誰も居ない。 「オイラか? オイラの名前をそんなに知りたいか?」 ああ、やっぱりお前だったか。 「…おい、ムウマージ。あっち見てみろ」 「ん?」 俺がコトブキシティの方向に顔を向け、そして上を見る。 それにつられて口だけムウマージも俺と同じ方向を見た。 そこには一つのビルがあり、ビルには屋上がある。 その屋上に、絶対見たことのある誰かさんがふよふよと浮いていた。 「ヌケ!」 俺はそいつの名前を叫んで呼んだ。 しかし、帰ってきた言葉は違った…。 「オイラはヌケじゃないぜ、兄ちゃん!」 いや、どっからどう見てもヌケだろお前。 つーか、テッカはどうしたテッカは。 「オイラは悪を絶対に許さん!」 悪は許さん…だと? 俺とテッカが「ヌケさんは善ですか?悪ですか?」って誰かに問われたら、口をそろえて「999%悪です」って答えるだろう、こいつはそれほどの外道だ。 何が悪は許さんだよ、偽善者ならぬ偽善ヌケニンめ。 それにこの足元に倒れてるムウマージがなんで俺の盾になったか大体分かる。 ヌケがなんらかの力でこいつを俺の前まで移動させたんだろう、それしかない。 「正義を愛し、悪を憎む…オイラの名前は宇宙忍者ヌケチャマン!」 宇宙忍者って…それなんてバ○タン星人? そういや、バル○ン星人ってセミがモチーフなんだよな、どうでもいいけど。 「…あれ?」 どうした、口だけムウマージ。 ヌケを見てキョトンとしていたが…まさか惚れたんじゃないだろうな? それとも呆れて何も言えないのか? まあ後者だろうな、流石のこのムウマージでもヌケを見りゃ「バカだ」って思うだろ。 「天がお前らを許してもオイラが許さん! いいか、お前らに残された道はただ一つ…そう、それは地獄行き超特急列車の片道切符をオイラから受け取ることだ!」 あーもう分かったから早く助けてくれって、偽りの正義の味方さんよ。 「なんだか懐かしいふいんきだ…」 またこの口だけムウマージは何を言うか…それに「ふいんき」じゃなく「ふんいき」だぞ。 「このヌケチャマン様が居る限り悪には好き勝手させん! 太陽系からリストラされた冥王星に代わって、貴様らにお仕置きしちゃうぞっ☆ とぅあっ!」 どこかで聞いたことのある台詞を叫び、ヌケがビルの屋上からダイブした。 もちろん、こいつは浮くことができるので、ダイブというより「飛んだ」というほうが正しい。 クルクルクルと何十回転して着地…というか、なんだろ、浮いてるか着地とは言わないけど程よい場所まで降りてきてくれた。 しかし。 「…うぇ、今ので酔った…_| ̄|○」 ヌケが地に伏し、気分悪そうにそう言った。 「バカかてめえッ!」 叫んだのは俺だ、助けにきた奴が自滅まがいなことしてるんだからな。 「すまんすまん、今すぐ助けに行くZE」 「あっ!」 ヌケが復活し、こちらに向かってくる途中、口だけムウマージがヌケを見て何か思い出したかのような表情をした。 「あ、あんたは…」 「…あれ?」 口だけムウマージの様子がおかしい。 そしてヌケも口だけムウマージの姿を見て、雰囲気がオバカモードではなくなった。 まさか知り合いというオチじゃないだろうな…。 「…し、師匠…だよな?」 師匠!? ヌケが!? 「そーいうおめーはメイヤじゃねえかッ!」 なんと、本当に知り合いだったとは…。 しかも知り合いってだけならまだ驚かずに済んだけど、師弟関係だったとは…。 …ヌケに弟子なんて居ないはず…これはやっぱり「前世」という言葉を使うことになる関係か。 「相変わらずだな師匠も! 会いたかったぜ〜ほんと♪」 口だけムウマージ…これからメイヤと呼ぼう。 このメイヤの男っぽい口調はヌケの影響だろうな、間違いなく。 メイヤはヌケのところへと素早く移動し、ヌケに抱きついた。 「おい、メイヤ!」 抱きつかれたヌケは、メイヤに向かって怒声を発した。 一体なんなんだろうか、抱きつかれて照れてるのか? それとも、やっぱりこんな奴らにも上下関係というものがあるのだろうか? しかし、答えは斜め上を行きすぎたものであった。 「なんだよ師匠」 メイヤが怪訝そうに訊く。 そして、ヌケはこう言った。 「オイラはスタイルが良くっていいニオイのする美人で優しいお姉さんに抱かれたいんだ…てめえみたいなガキンチョに抱かれたくはねえ…!」 俺はヌケの元へと歩いて、持っていたゴールドスプレーをかけてやった。 ちなみにまだかかっていたメイヤの「くろいまなざし」による呪縛を自分で解いたから動けたのだが、どういう原理で解いたかは自分でも分からない。 |
ブレイカー | #6☆2006.12/23(土)19:03 |
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12月11日 その3 俺とヌケといつの間にか仲間になったメイヤとユメヤの一人と三匹は、コトブキシティへと訪れた。 まあヌケはさっき訪れたばかりだし、このムウマージ姉弟も何度か来たことあるだろうし。 しっかし、でっけー街だなこりゃ。 辺りを見回すとビルビルビルだ。 店もたくさんあり、田舎出身の俺からすればぶったまげる光景だ。 まあタマムシシティやヤマブキシティからすればまだまだだな…と思ってしまう。 「テッカは?」 さっきから気になっていたんだが、テッカはどうしたんだろうか。 俺はヌケに訊いてみた。 「喫茶店に居るZE」 そうか、ならよかった。 てっきり俺はまたヌケがテッカを場外ホームランさせたかと思ってしまった。 場外ホームランが何かって? そのうち分かるよ、うん。 「じゃーさっさとその喫茶店行こう…ずっと外に居るのは嫌だし」 「おう、じゃあオイラについてこい」 ヌケは俺に言われたとおり、素直に喫茶店へと向かっていく。 俺とメイヤとユメヤは、そんなヌケの跡をつけていく。 「さ、さっきブレさんから貰ったチョコ食べてもいいのかな?」 ユメヤがメイヤに訊く。 メイヤは「勝手にしなよ」と一言。 それを訊いたユメヤは笑顔になって、チョコにかぶりついた。 「!!」 あ、そうか、これカカオ99%だったな、ごめんよユメヤ。 ユメヤの今にも泣きそうな顔は、既に泣き顔へと変化していた。 そんなに不味かったか…。 「う…うぅ…うわ〜ん!」 遂に泣き出してしまったユメヤ。 その隣に居るメイヤは泣き出すユメヤを見てから、すぐに俺を睨みつけた。 やべ、また「めらぞおま☆」をやられてしまう。 「お前ユメヤに何渡した!」 「すまん、まさか泣くとは思わなくて…」 「そんなことはどーでもいいんだよっ! あたしは「ユメヤに何を渡した」か訊いてるんだっ!」 「チョコレートです…」 なんで俺はムウマージ相手に敬語になって頭ペコペコ下げてるんだ…。 「チョコレートなのは分かるんだよ、何のチョコレートだこれは!」 うーむ、このままだと「めらぞおま☆」でなく「ざらきいま☆」とかやられそうだ、こうなれば…! 「…メチャクチャ美味しいチョコレートなんすよ」 「は!?」 メイヤは怪訝な表情で強気に言葉を返す。 「あまりの美味しさにユメヤが泣き出しちゃったんじゃないんすかね?」 「…」 表情はそのままで、俺をじーっと見るメイヤ。 疑ってるのか?まあそりゃそうか…。 「…あたしがこのチョコ食べてみる。それで美味ければ謝るよ」 まずいぞ、これは。 カカオ99%を美味いなんて言う人間はそんなに居ない、こいつはポケモンだが。 つまりだ、十中八九は不味いと言うはず。 やばいぜ、俺の人生終わったかもしれん。 メイヤはユメヤが落としたカカオ99%のチョコを拾って、一口それを食べた。 つーか、道路に落ちたもん洗わずに食うなよ…お下品な。 「…う、うめえ!」 …ぇ。 …。 …? …。 …♪ …た、助かった…orz 「ホントうめえよこれ! ごめんなー、ご主人、疑っちゃって!」 陽気にそんなこと言いつつ、ムシャムシャとカカオ99%を食べていくメイヤ。 いやー、こいつの舌に苦さ耐性あってよかったー。 「パンパカパーン!な〜まどぅ〜ん!」 「うおっ!」 「な、なんだよっ!」 「ウワアァアァァアァアァアァンッ!」 突然ヌケがとんでもなく大きい奇声をあげて俺達に突撃してきた。 しかも背後には無数の魑魅魍魎の幻影を発生させて。 そんなこと突然やられたもんだから俺とメイヤはびっくりしてその場で腰を落としてしまう。 ユメヤにおいては、泣き出して何処かへと逃げてしまった。 まあ泣き出して、というか、さっきから泣いてたけどな。 「び、びっくりさせんなよ…」 俺がヌケに言う。 「ごめん(笑)」 笑いながら謝るなっての…。 おまけにさっきの馬鹿でかい奇声のせいで、人だかりができてるしさ…ああ、恥ずかしい。 「師匠も相変わらずだなー!」 腰を落としたメイヤが再び浮き、ヌケの体をバシバシ叩きながら言う。 「べ、別に褒めてもらっても嬉しくなんかないんだからねっ!(照)」 お前はお前でなんでツンデレ化してんだよ。 しかも褒め言葉ではない言葉に対してだ。 いや、こんなことしてる場合じゃないぞ。 早くこの人だかりから抜けたいぜ、なんか写真撮ってる連中も居るしよ。 「すみません、そこどいてください…」 頭をペコペコ下げつつ、そう言いながら人だかりから抜け出していく。 そして抜けたあとは猛ダッシュで逃げる。 よし、脱出成功Σd ちなみにヌケとメイヤは「ボケしか居ない漫才」を今頃やっているはずだ、あいつらに「恥ずかしい」という感情はないのだろうか。 「…そういえば」 先ほど大泣きして逃げ出してしまったユメヤは何処へ行ってしまったのやら。 ちょっと探してみよう、どうせヌケとメイヤはあのまま数時間は漫才やってるだろうしな。 広い街なので探すのに一苦労する。 それに朝早いってのに何だこの人の数は。 おい、そこのカップル、早朝からイチャイチャしてんじゃねえぞ。 くそ、ユメヤじゃなくてイチャイチャしてるカップルばかり見つけてしまう。 そんなこんなでウロチョロしてると、そろそろ街から出てしまうラインまで来てしまった。 ここを抜けると203番道路か…まさかこっちまでは来ていないだろう。 そう思いつつも、ひょっこり歩いていってみる。 …歩いていって良かったと思った。 そこにユメヤが居たのだ、ただしユメヤ一人ではない。 青いボディ、胸から腹にかけて広がる鮮やかなオレンジ色の肌。 一部分についている鋭いトゲトゲ、そしてなんでも切り裂きそうな爪。 腕と背中にはヒレのようなものがついている。 背中のヒレには切れ込みがあった。 尻尾も特徴的な形をしている。 頭の左右にハンマーのような形をした独特なモノがついていた。 そして見るからに凶悪そうな顔…俺はこいつを知っている。 ガブリアスだ、りくザメポケモンフカマルの最終進化形態のドラゴンポケモン。 音速のスピードで飛ぶことができ、狙った獲物は逃さない。 そんなガブリアスと一緒にユメヤは居たのだ。 まさかこんな強力なポケモンが野生で居たとは…。 それに捕まってしまったユメヤも運が悪すぎる。 「…ご、ごめんなさいぃ〜!」 大泣きしながら謝るユメヤだが、ガブリアスは相当頭に血が昇っているようだった。 目が血走っていたからな、つーかこんなすごそうな奴に何をしたんだユメヤは。 「ごめんで済むと思ってんのかコラァッ!」 「うわぁ〜ん!」 ユメヤに向かって怒鳴るガブリアス。 勿論それを聞いたユメヤは再び大泣き。 そして怒鳴られてないのにびびる俺。 って、なにしてんだよ俺。 今ユメヤを助けられるのは俺しかいないんだ。 俺はメタグロスのコメットパンチに耐えられる防御力がある、ガブリアスの攻撃にもきっと耐えられるはずだ。 多少のダメージくらいなんともないぜ、ファイト俺。 頑張れ俺! 今助けにいくぜ、ユメヤ! 「お、お、お、お、お、お!」 バッと勇敢に颯爽にガブリアスとユメヤの目の前に現れ、とりあえず何か言おうとしたが…恐くて何も言えなかった。 何してんだ俺…orz 「お? 『お』がどうしたんじゃボケェッ!」 「ひえぇ、ごめんさぁいorz」 今度は俺がガブリアスに怒鳴られた、なにしてんだ本当にorz 「なんじゃお前、このムウマージのトレーナーか?」 じりじりと俺のほうに近づきながら、ガブリアスが訊いてきた。 「あ、は、は、は、はい!」 「そうかそうか、ならトレーナーのお前に責任取ってもらおうかのぉ」 「ちょwww」 「文句あんのかコラァッ!」 「あ、ありませんっorz」 かっこわりぃよ俺…いや、でも普通の人間でもびびるぜこれは、だから俺はかっこわるくない! 「どう落とし前つけようかのぉ…八つ裂きか、それとも骨も残らず食われるか…」 待てよ、なんでそんな残酷な仕打ちを俺が受けなきゃならないんだよ。 ちっくしょー、俺には秘策があるんだぜ。 こんなときのために持っていてよかったぜ、フッフッフッ! 「お、おまえそれ以上近づくとこれ撃つぞ!」 俺はポケットから一つのオモチャのような銃を出した。 ほら、あの光って「キュウゥ〜ン」とか音がでる銃あるだろ、あれっぽいのだ。 「なんじゃそりゃ?」 教えてやるよ、地面ドラゴンのマッハ陸ザメさんよ。 「デボンコーポレーションで開発された護身用武器『冷凍ビーム銃』だ!」 実は俺、「ホウエン地方のシルフカンパニー」と呼ばれているあのデボン社の社員なのだ。 まあ俺は技マシン開発チームに居るからこのアイテムとは無縁だったわけだが…一応試作品のものを何故か持っていた。 一発きりしか撃てないが、放たれるれいとうビームの威力はかなりのものであり、ボーマンダやカイリューすら一撃で倒せてしまうほどだ。 つまり、ボーマンダやカイリュー同様、氷タイプの攻撃に滅法弱いガブリアスにこれを放てば倒せるかもしれないということだ。 いやー、「かがくのちからってすげー!」だなホント。 「な、なんじゃとぉ!?」 くっくっく、恐怖するがいい。 俺とユメヤを恐怖させた罪で、今度は貴様にたっぷりと恐怖させてやるぜ、くっくっく。 「じゃあとっととこの場から去るんだな」 今度は俺が逆にじりじりとガブリアスに近づくことになった。 そしてガブリアスも俺が一歩近づくごとに、一歩後退りしていくようになる。 「まー一発きりしか撃てないから安心しとけ。あ、お前一発でも倒れちゃうかな?ハッハッハッ!」 こう自分が有利になるとお調子者になってしまうのが俺の悪いところだ。 まー今回は負ける可能性0だからいいけどね(笑) 「…」 しかし、ガブリアスがピタリと止まった。 どうした、諦めて冷凍ビームを受ける気になったか? 「撃ってみぃやっ!」 さっきの怖気づいた態度とは打って変わってしまい、今度は初対面時と同じような堂々とした態度になってしまった。 「凍っちまいな!」 俺は構わずガブリアスに冷凍ビーム銃を撃った。 おもちゃのような見た目の銃からは、強烈な冷気を帯びた光線が発射される。 さらば、ガブリアス。 優しい旅人に拾われることを俺は願っているぞ…。 しかし。 パリーンと何かが弾ける音がした。 「!?」 冷凍ビームのダメージをガブリアスは受けていた…がピンピンしているではないか。 どういうことだ? 「…よかったわい、ヤチェのみ持ってて(ニコッ☆)」 ヤ、ヤチェ!? さっきまで恐ろしい形相をしていたガブリアスが満面の笑みを浮かべながらそう言った。 ヤチェのみ…そういえば、特定のタイプの技から身を守ってくれる木の実があるっていう話を聞いたことあるが…。 まさか…。 「お前が”一発きり”と言わなければわしはこのまま尻尾を巻いて逃げるところじゃった!」 …。 こ、こいつ頭いいな…orz 持っていたヤチェのみは「氷タイプの技から防ぐ」力を持っていた。 俺の”一発きり”発言を聞き、「一発きりか、それなら一回だけなら耐えられるから大丈夫じゃろ(ニヤリ)」とすぐに思考。 冷凍ビームのダメージをヤチェのみで少し抑え、そして今に至る。 …まずいな(笑) 「さ〜て、どう料理するかのぉ…」 先ほどの満面の笑みは消え、また凶悪な面へと変貌した。 …しかし、俺にはもう一つの武器がある。 「ユメヤ!」 俺は持っていたダークボールをユメヤに投げつけた。 先ほど、自分のポケモンということで一度ユメヤとメイヤをダークボールの中に入れていたのだ。 ユメヤはすんなりとボール内に入る。 そして俺はすぐにそのボールを拾い… 猛ダッシュ! そう、俺のもう一つの武器とは「逃げ足」のことだったのだ。 くっくっく、さらばだガブリアス。 お前とはもう出会うことはなさそうだ。 しかし。 ビューンと耳を劈く音と、すさまじい衝撃波が俺の頭上で発生した。 そしてドスッという音ともに青いボディのドラゴンが逃げてる最中の俺の目の前に現れた。 「…あは、どうも」 「逃げちゃダメじゃぞ♪(ニコッ☆)」 そうだった、こいつ音速で飛べるんだったorz 俺の逃げ足でも音速のスピードなんて出せない…。 今度こそ終わったな…。 そう思った刹那。 「おい、そこの青い奴!」 「あたしらのご主人と可愛い弟にに何してんだ!」 どっかで聞いたことのある声が二つほど聞えた。 まあ正体は大体分かるが…。 |
ブレイカー | #7☆2006.12/25(月)01:08 |
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12月11日 その4 「誰じゃ?」 ガブリアスが上を向いて叫ぶ。 まー俺は声の正体だ誰だか分かるから、どーでもいいんだけど。 俺も上を向く。 そして、やっぱり声の正体である”某二匹”がビルの屋上の上に居たのだ。 「宇宙忍者ヌケチャマン!」 「ぷりてぃーうぃっちメイヤ!」 それぞれ妙な肩書きと一緒に自分の名前をガブリアス向けて大声で言った。 「とぅあっ!」 ヌケがビルの上からダーイブ! 一方、隣に居たメイヤはフッと姿と消す。 ダイブしたヌケはまたくるくるくるくると回転しながら着地…というか、ほどよい場所まで降りてきた。 「今度は酔わなかったぜッ!」 おお、それはよかったな。 そんなことどうでもいいから早く助けてくれ。 「あたしの可愛い弟をいじめてんじゃねえよ!」 「うおっ!」 メイヤはガブリアスの目の前にパッと突然姿を現す。 しかも大声をあげてだ、いくらガブリアスといえどこれは驚いたみたいである。 「なんじゃ…ヌケニンとムウマージかい…ゴミ同然やないか!」 というかさっきから気になってたんだが、お前シンオウ地方出身だろ。 なんで別の地方の方言になってるんだよ。 それともなんだ、そういう言葉を喋る”それ系”の映画とかマンガの見すぎか? 「ゴミ? それは数分後の貴様がなっている姿だぞバブリシャス!」 いや、それガムの名前ですから。 「なんじゃとワレェ! わしはガブリアスじゃ!」 ゴミ発言されたうえに名前を間違えられたもんだから、ガブリアスが激怒してしまう。 「へー、きみガブリアスなんだ。すごいね、帰っていいよ^^」 おい、あんまり挑発するなっての。 「なんじゃとコラァッ!」 かなり頭に来てるみたいだ、やばいぞこれは。 「弱い犬ほどよく吠えるっていうみたいだぜ」 メイヤがそう言うが、それはどちらかというとお前じゃないか? 「貴様もかこのアマァ!」 おいおい、これ以上挑発するなよ。 とばっちり受けるのはお前らじゃないんだよ…。 ガブリアスが俺の方を向き、満面の笑み、でもものすっごい不気味な笑みを浮かべた。 「こいつらもお前のポケモンじゃろ?(ニコッ☆)」 しかし、俺は怖気づかない。 なぜかって? そりゃ、ヌケが居るからだ。 バンギラス相手に勇猛に闘えるヌケニンなんだぜ、こいつならなんとかしてくれる。 「ああ、俺のポケモンだ」 「なら全責任お前にとってもらおうかのぉ!」 じわりじわりと近づいてくるガブリアスだが、ここで俺は叫んだ。 「ヌケ! 暴れろ!」 これでガブリアスとは今度こそおさらばだ…と思ったのだが。 「…ヌケ?」 なんと俺の命令をヌケが聞いていない。 暴れろ、と言えばお構いなしに暴れるあのヌケが…。 どうしたんだろうか、訊こうとした刹那、ヌケが先に口(?)を開く。 「…OK、トム。だがな、オイラじゃなくオイラの手下にここは頼むことにしたよ、ジョニー」 トムでもジョニーでもねえよ俺は。 ていうかお前が闘えよ。 「なんじゃ、そこのヌケニンがわしの相手かぁ!」 俺の方を向いていたガブリアスが、今度はヌケの居る方向に体を向けた。 「オイラじゃねえ、こいつらに世界の未来を託した!」 いや、世界の未来って…そこまで危険な相手じゃないだろ。 そんな発言をしたヌケは、右爪を天に向ける。 「集まれ! 108のミツハニー♂よ!」 ヌケが叫ぶと、どこからともなくブーンという羽音とともに無数のミツハニー達が現れたではないか。 しかも全員♂っぽいようだ。 「ミツハニーじゃと? ザコが何匹居ようと関係ないわい!」 まあミツハニー♂が108匹居ても大したことないしなぁ。 しかしヌケのことだ、きっと何か秘策があるはず…。 「108のミツハニー♂達よ、今こそフュージョンをするときが来たぞ!」 フュージョン? 融合っすか? 「イエッサー、ボス!」 108匹のミツハニー♂達が返事をし、次々に一匹のミツハニー♂のところへと飛んでいく。 そのミツハニー♂は、黒い帽子を被っており、どうやらこの中のリーダー格のようだ。 ミツハニー♂達はがその場にみっしり密集すると、突然激しい光が輝いた。 「な、なんじゃあ!?」 突然の出来事に驚くガブリアス。 光の輝きは数秒で消えた。 そして、先ほど密集していたミツハニー♂達が居たところには…。 「…」 「な。なんじゃ…」 「す、すげえ…!」 上から俺、ガブリアス、メイヤの反応である。 一体何がそこにあったかって? 教えてやる、その場には108のミツハニー♂達が合体した姿があった。 しかし、その見た目がなんともシュールだった。 だって、ミツハニー♂達がただ単に連結した姿だったから。 別のものに形容すれば、それはまさしく「蜂の巣」と言える。 108×3=324の顔がガブリアスの呆気にとられた顔を見ながら微笑んでいたが、数が多いせいか、正直不気味だった。 「これぞ108のミツハニー♂がフュージョンした姿…名付けるとしたら…!」 ヌケの背中の穴からポンポンと書初めなんかに使う長い半紙と、習字セットを出し、パッパッと素早く字を書いた。 そこに書かれた文字を俺らに見せつけ、そして熱くこう叫んだ。 「究 極 完 全 態 ド ミ ツ ハ ニ ー ! !」 …。 どこの蛾のモンスターだよ…。 しかもドミツハニーってなんだよ、意味が分からん。 「か、かっこよすぎるぜ…!」 メイヤはメイヤで目を輝かせながら、ドミツハニーを見ていた。 お前の美的センスはどうかしてるんじゃないか? 「ふははー!すごいぞー!かっこいいぞー!」 ヌケがまた叫んだ。 しかも今度は某社長の迷台詞をだ。 お前、遊○王にハマってんのか? 「究極完全態…ド、ミツハニー…じゃと…なんて強そうなんじゃ…!」 なにびびってんだよ…ミツハニーが108匹ただ単にくっついてるだけだぞ。 ガブリアスといったらかなり強いポケモンだ、テキトーに暴れてればなんとかなるもんじゃないのか? 「手加減はしねーぞ…見せてやれ、お前らの究極奥義『滅びのなんだとー!蜂の巣にするぞー!』をッ!」 なんだよ、「なんだとー!蜂の巣にするぞー!」って。 技名じゃねえよそれ、どちらかというと台詞だろ。 「イエッサー、ボス!」 ドミツハニー…というか、108のミツハニーが返事をし、口から無数の光弾を発射していった。 大体大きさはミツハニーの口よりちょっと小さいくらいのものだが。 「この『滅びのなんだとー!蜂の巣にするぞー!』は光のスピードで発射される…つまり一秒間に一億発の光弾が相手を襲うということだ。そして一つ一つの威力は銀河の星々を軽く打ち砕くほどの破壊力…それが324の顔からそれぞれ放たれるわけだ…!」 ヌケがドミツハニーの究極奥義とやらの説明をし始めた。 …。 つまり一秒間に一億×324=324発の星も砕く光弾を撃つってことか。 …。 なんか一秒間に一発くらいのスピードで撃ってるようにしか見えないんですけど。 しかも標的であるガブリアスに全くダメージ与えてないんですけど。 「なんじゃ、全然痛くも痒くもないわい! はっはっはっ!」 ほら、あんなに笑っちゃってるし。 「あ、あいつ不死身かYO!」 「すげえ、防御力が宇宙だ!」 ヌケとメイヤが驚くが、なんていうか、お前らコントしてる場合じゃねえんだよ。 何が防御力が宇宙だよ、意味わかんねえよこのムウマージ。 流石ヌケの弟子だけあるな…。 ていうか、実際に秒間一億発もの星を砕く光弾を使えるならヌケの言うことなんか今頃聞いてねえぞこのミツハニー達。 「びびって損したわい!」 そう言ってガブリアスは口にエネルギーを溜めた。 エネルギーというか…なんか赤いというかオレンジ色というか…そうだな、炎と言えばいいのか。 溜め終わったあと、口から「大」の形をした火炎をドミツハニー向かって吐き出した。 「だいもんじ」なんか使えたのかこいつ…只者じゃないな。 「バカめー! ドミツハニーは攻撃力32821守備力32821なんだぞー!」 もう誇張しすぎた発言は飽きたよ、ヌケ。 ガブリアスの吐いた「だいもんじ」がドミツハニーに激突した。 すると、ドミツハニーが砕け散った…否、ドミツハニーの融合が解けてしまった…といえばいいのか。 なんか単に攻撃を受けて外れただけなように思えるんだが…。 「うわーん! お母さ〜ん!」 「あっちぃ〜よ!」 「女王様〜!」 「ひえぇ〜!」 「だから俺こんな奴と戦いたくなかったんだ〜!」 「翠星石〜、助けてくれ〜!」 次々と泣き言を言いながらすごいスピードで去っていくミツハニー♂達。 まあ相手が相手だしな…。 そして黒い帽子を被っていたミツハニーくん、きみはいつ某第三ドールのポケモンになったのかね? 「ドミツハニーを容易く倒すとは…想定の範囲外だったZE(汗)」 「強すぎるぜ…あたしらはこんな相手と戦おうとしてたのか…」 いや、何言ってんだお前ら。 いいか、108匹のミツハニー達が合体しようが群れで襲うが、結果は同じだったんだよ。 ミツハニーはキャタピーやビードルとそんなに変わらないはずだ。 それが何匹居ようとガブリアスと戦うのは無謀だ。 つまり「3匹のアリが恐竜に勝てるか?」ならぬ「108匹のアリが恐竜に勝てるか?」である。 「こうなればメイヤ、次はお前に頑張ってもらおう!」 ヌケがメイヤを指さしてそう言った。 つーかお前が闘えよヌケ。 可愛い愛弟子が大変な目に遭ってもいいのかよ。 「でもあたし…勝てる自身ねえよ…」 ちょっと自信なさげに、弱気な発言をメイヤはした。 弱気なメイヤ、なかなか可愛いもんじゃないか。 「バッカモーン!」 メイヤの弱気発言を聞いたヌケが怒鳴りだした。 というかお前がバッカモーンだろうが、抜け殻。 「いいかッ! おめーはオイラの一番弟子だ!」 「分かってるけどぉ…」 「今までオイラがおめーに教えてきたこと…それを全て奴にぶつければ必ず勝てる…!」 何この最終決戦チックな雰囲気の台詞。 別にそれほどの相手でもないだろう…というかヌケが闘えば済むことだろうが。 「…そ、そうだよな…あたしはあっちの世界で超有名な師匠の弟子なんだ…」 あっちの世界で有名って…どこの世界でしょうか? 「よし、あたしが行く!」 先ほどの弱気なメイヤはどこへやら、元気ハツラツオロナミンCないつものメイヤに戻ってしまった。 「やい、そこの陸ザメ!」 そして強気なメイヤにも戻った。 「なんじゃ小娘、そんな八つ裂きにされたいんかボケェ」 ガブリアスがジリジリと寄ってくる。 こいつはジリジリ寄るのが好きなのか? お得意の超スピードで近づいて一撃で仕留められるだろ…。 「お〜にさんこちら! てのなるほうへ〜!」 ジリジリ寄るガブリアスから、それはそれはすごいスピードでメイヤが逃げ出したではないか。 ていうか鬼ごっこじゃねえんだよ。 「あいつ逃げたぞ…」 俺が言葉を漏らすと、隣に居たヌケが「ぬ〜!」とか唸りながらこう言った。 「いや、きっとメイヤはガブリアスから間合いを取ったのだろう。ガブリアスと言えば接近戦はメチャクチャ強いしな。それを瞬時に読むとは…流石オイラの弟子!」 …。 いや、絶対あのムウマージはそんなこと分かってないと思うんだが…。 それに接近戦も何もあのガブリアス、猛スピードで突進してドラゴンクロー、とか、だいもんじを吐く、とか、遠距離戦も得意そうなんだが…。 「へっへーん! あたしは『まほー☆』だけでなく『忍術』も使えるんだぜ!」 忍術とは…まあヌケニンの弟子だしなぁ…。 でもヌケがヌケニンとして生まれる前からこいつら出会ってるし…あまり深く考えないでおくか…。 「そりゃ、まきびし!」 メイヤから無数の黄色い”何か”がガブリアスとメイヤとの間の地面に散らばった。 その”何か”とは…まあそのまんま言おう、『バナナの皮』だ。 …。 おまえ、これ「まきびし」じゃねえよ…。 ある意味で「まきびし」だけどさ…。 「あ、あれは!」 知っているのかヌケ!? 俺から見ればあれはただのバナナの皮なんだけど! 「あれは伝説のトラップ…”グレイテストギャラクシアンデンジャースリップ”…!」 …。 なんでもすごそうな単語つければいいってもんじゃないぞ。 訳してみると「最も偉大なる銀河の危険な滑り」…ってところか。 意味わかんねーっ☆ 「なんじゃこれは…ただのバナナの皮やないか!」 そう言ってガブリアスはメイヤ目掛けてダッシュした…が、そんなことしてねえで飛んで向かえよ! 地面なんか走ったら今撒かれてるバナナで… 「ぬぁっ!」 ほーら、やっぱり予想通りスッテンコロリンした。 しかも見事に後頭部を打ってしまう。 「頭が〜頭がぁ〜!」 バナナの皮で滑り、地面にぶつけた後頭部を抑えて痛がるガブリアス、なんてかっこ悪い姿なんだろうか。 「おのれぇ〜! 許さんぞこのガキ!」 立ち上がり、再びメイヤ目掛けて突進。 しかしまた地面を走ろうとしたせいでスッテンコロリン。 そして再び頭を打って痛がるガブリアス。 …さっき頭打ったせいで少しバカになってしまったのだろうか? 「てめえらドリフのコントもどきなんかしてんじゃねえよっ!」 つい俺は叫んでしまった。 だって、どう見てもふざけてるようにしか見えなかったから。 「おい、ブレ!」 「なんだよヌケ!」 「…あいつらは今、生死を賭けた真剣な勝負をしている…それを『ドリフのコントもどき』なんて言うな!」 …いや、どっからどーみても生死を賭けてないと思うんですが…。 「どうだ! あたしのまきびしは! あっはっはっはっはっはっはっ!」 高笑いするメイヤ、相手が相手だったから通用したと思えよ。 もし頭の良い奴相手だったら今頃お前は倒れているはずだ。 「二度も転ばせおって…!」 いや、あんたが勝手に転んだだけじゃんかよ。 転ぶ原因を作ったのはメイヤだけどさ…こんなバナナの皮トラップに引っ掛かる奴いねえよ…常識的に考えて…。 「…まあ近づかなくてもお前なんかには勝てるからのぉ」 ガブリアスが立ち上がった。 こいつには「だいもんじ」という武器があったな、そういえば。 「ふん、お次は『めてお☆』でもくらってな、ガブリアスさんよっ!」 メイヤがちょっと目を瞑ると、ガブリアスの上から鉄か何かでできた物体が落ちてきた。 しかも五つ。 「ぱっ!ぴっ!ぷっ!ぺっ!ぽっ!」 ガブリアスの頭のてっぺんに、それらは見事に全部落ちてぶつかっていく。 一回ぶつかるごとにガブリアスが奇声を発し、またぶつかったと同時にその物体特有の「ガン」という音が聞えてくる。 地面に落ちるとそれはガンガンガラガラと音を立てる。 その物体の正体は… 金 だ ら い だった。 |
ブレイカー | #8★2006.12/29(金)13:54 |
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12月11日 その5 金だらい5発を連続して頭に受けたガブリアスは、その場で頭をクラクラさせながら突っ立っていた。 結構ダメージがあったのか、あんなもんで…。 「どうやら混乱したよーだな、このままトドメでも刺しちまうか!」 そう言って、メイヤの手元(?)に二つの物体が現れた。 その物体とは、片方は「しゃもじ」片方は「まないた」だった。 …。 それで何をする気だお前? ガブリアスはご飯じゃねえぞ、おい。 「あ、あれは!?」 隣に居るヌケが叫ぶが、もうどうでもいいよ。 どうせ「あれは伝説の武器!」とかほざくんだろ。 「あれは『聖剣エクスシャモジー』と『聖盾エクスマナイター』じゃないか…なんでメイヤがあんなものを持ってるんだ…!」 なんだよ、それ。 なんでも「エクス」なんて単語を頭につければいいってもんじゃねえぞ。 それにどこも剣でも盾でもねえよ。 ただのしゃもじとまないたじゃないか。 「…このガキがぁ、わしを本気で怒らせたようじゃな…!」 さっきまで頭クラクラ状態だったガブリアスの状態が元に戻り、メイヤをとても恐い顔で睨みつけた。 しかし、それに億劫することなく、メイヤは勇敢にガブリアスの懐へと突撃した。 そして、持っているしゃもじで一突き。 全然効くわけねーだろ、と思ったが違った。 「うっ!」 なんとガブリアスを少し吹きとばし、そのガブリアスがしゃもじで突かれた部分を手で押さえたのだ。 しかも苦しそうな声をあげて。 ガブリアスが怯んだスキに、メイヤは次なる攻撃を仕掛けていく。 「おらっ!」 今度はしゃもじで頭を殴ったあと、瞬時にまないたでガブリアスの右の頬を叩いた。 そして見事に倒れるガブリアス。 意外どころじゃない、めちゃくちゃじゃないかメイヤの奴。 「よくもやりおったなぁ〜!」 しかしまだダウンしたわけじゃないガブリアスは、すぐに立ち上がり、ものすごいスピードで突撃。 彼の爪からは炎のように輝くオーラが纏っていた…ドラゴンクローだ。 マッハポケモンらしく、突撃スピードは非常に速かった…が。 「効くかこんなもん!」 「な、なんじゃとぉ!」 なんとガブリアスがあれほどのスピードで突撃してきたのにも関わらず、メイヤはそれを瞬時で見切ってまないたでドラゴンクローをガードしたのだ。 ああ、ヌケとメイヤってお笑いのセンスでの師弟関係と思っていたが…違うんだな。 「スキがアリアリアリアリアリーヴェデルチだぜ、ガブリアスさんっ♪」 「ひゃんっ!」 今度はまないたのかどで頭を殴る。 こりゃいてえな、見てるだけでもその痛さが伝わってくる。 「やるのぉ…^^;」 頭を押さえつつ、ちょっと苦笑いしながらメイヤを見るガブリアスだが、そこにはメイヤの姿はなかった。 「こっちだ!」 「ぎゃっ!」 しゃもじで背中を突かれ、ガブリアスはうつ伏せの状態で倒れてしまった。 倒れている間、メイヤは影分身をし始める。 これで相手の攻撃が更に当たらなくなるだろうという魂胆か。 「わしが笑ってるうt…ぐはっ!」 ガブリアスが起き上がると、メイヤは持っていたまないたをガブリアスに向けて投げた。 まないたはブーメランのようにメイヤのところへ戻ってくる。 というかそんなことしたら分身の意味ねーだろ、本体以外は残像でしかないんだから。 「そこかぁっ!」 やっぱりバレてしまい、今度はガブリアスの口から「大」の文字をした火炎が吐き出された。 「だいもんじ」だ。さて、これをどう受けるかが問題だな。 大の文字の火炎が熾烈な勢いでメイヤの居る方向へと飛んでいく。 いきなりメイヤはしゃもじをグルグル回し始めた。 「え?」 とは俺の声。 なんと回し始めたしゃもじから送られた風により、大文字の火炎が徐々に消え始めて最終的には無くなってしまったのだ。 「なんじゃと…」 いや、俺もなんじゃとって気分だ。 しゃもじとまないただけでここまで強くなれるムウマージなんて見たことも聞いたこともねえよ。 ホントに聖なる武器なんじゃあ…。 「くっそぉ!」 ムキになったガブリアスは、またメイヤ向かってドラゴンクローをかまそうとした。 が、しゃもじでそれをガードされ、ガードしたしゃもじで爪を払い、そのちょっとしたスキに鳩尾あたりにまた一突き入れた。 「ぐおっ…」 「まだだ、おしおきはこれからだぜ!」 「や、やめっ…!」 あぶぶっ!」 再び怯んでしまったガブリアスに対して、メイヤはお構いなしに「まないたおうふくビンタ」をお見舞いしていく。 「ほら!」 まないたおうふくビンタの後、しゃもじを使ってガブリアスの目を突いた。 これは痛いぞ、というかやることが卑怯だなこのムウマージは。 「目がぁ〜! 目がぁ〜!!」 どっかの大佐のように情けない声で叫ぶガブリアス。 やっぱりお構いなしにしゃもじやまないたでポカポカ殴っていくメイヤ。 あいつらの闘いを集中して見てたから気がつかなかったが、いつの間にかギャラリーがたくさん来ているではないか。 「あのムウマージかわいー」とか「ムウマージがんばれー!ガブリアスもがんばれー!」とか、いろんな声が聞えてくる。 しっかし、シュールな光景だ。 しゃもじとまないたでガブリアスを圧倒するムウマージ、これをネタにしないわけがない。 「…マジか」 そう、このコトブキシティにあるテレビ局からカメラマンとレポーターが来ていたのだ。 まあ珍しいどころの問題じゃないしなぁ…。 「あばーんすとらっしゅ☆」 しゃもじの持ち方を変えて、力いっぱいガブリアスを叩くムウマージ。 というか「あばんすとらっしゅ」って…懐かしい人には懐かしいかもなぁ。 その「あばんすとらっしゅ」の威力が強かったのが、ガブリアスがまたもや地に伏せる。 ギャラリー達からは歓声が聞えてくる。 「許さん! とぅあ!」 ガブリアスは立ち上がり、すさまじい殺気ろ怒気を帯びて大ジャ〜ンプ。 あれは「ドランゴンダイブ」という技だったか、これはきついぞ。 しかし、しゃもじとまないたを持っている今のメイヤにはもうそんな攻撃通用するはずがない。 「とぅあ! じゃねえよ!」 ダイビングしてきたガブリアスのアゴの部分目掛けてしゃもじを突き、そして逆に上空へと飛ばしたのだ。 しゃもじアッパーといったところか…それにより思い切り上空へと吹っ飛ばされたガブリアスは別のところにダイブしてしまった。 「頭をまた打ったわい…うぐっ!」 ふらふらしているガブリアスだが、メイヤはまたやっぱり構わずに攻撃。 今度は自らの影を伸ばし、ガブリアスの背後を打った。 「かげうち」だったか…まさかこんな技も使えるとはな…流石ヌケの弟子。 肉体的にも精神的にも社会的にもプライド的にもズタズタにされたガブリアスも、そろそろノックアウトされてもいい気がするが、なかなか倒れる気配がない。 ものすごいタフだ…。 「さ〜て、そろそろ終わりにしてやるよ」 メイヤがしゃもじを頭上に掲げる。 「らいでいん☆」 掲げたしゃもじに「かみなり」をぶつけた。 そのかみなりの電気エネルギーはしゃもじに帯び始めた。 …ん? まてよ、メイヤ。 ガブリアスのタイプが何か分かってないのか? 「いくぜ、あたしの必殺技の中でもけっこーそれなりにつっよい『ぎがぶれいく☆』をお見舞いしてやるー!」 ガブリアスに向かって突っ込み、そして持っているかみなりのエネルギーを持つしゃもじでガブリアスの頭を一刀両断! …かと思われたが。 「…効かんわい」 「…え?」 いや、しゃもじで殴られたダメージは少なからずあると思う。 が、かみなりのダメージは受けるはずがない。 何故かって? ガブリアスのタイプは「じめん・ドラゴン」だ。 そう、じめんタイプは電気タイプの技を受け付けない。 「お前そういや地面タイプ混ざってたっけ…ははっ…」 もう遅いぞメイヤ、今頃気付いても後の祭りだ。 「今度はお前がスキありじゃのぉ、くらえぃ!」 今度こそ当たるに違いないであろうドラゴンクローが放たれた。 この至近距離では避けるのも見切るのも難しいだろう…。 だが。 「ウワァアァァアァアァアァアアァァアァアァアンッ!」 先ほどボール内に入れたユメヤが、勝手にボールの中から抜け出した。 ユメヤはガブリアス向かって、テッカ並みのスピードで激突したのだ! 「ぐおっ!」 ユメヤの激突により大きく吹っ飛ばされるガブリアス。 ドラゴンクローがメイヤに当たる寸前の出来事だった。 というかすごいな、ユメヤの奴。 ガブリアスは吹っ飛ばすほどの力があったとは。 「お姉ちゃんをいじめるな!」 「ユメヤ…」 泣きながらも、大事な姉のために勇気を振り絞ってガブリアスにそう言った。 かっこいいぞ、ユメヤ。 ただの泣き虫じゃなかったんだな。 でもどっかでこーいうシーン見たことあるような…。 「…そうじゃ、元はといえばお前がわしにぶつかったのがいけなかったんじゃ…許さんぞこのガキ!」 先ほどのユメヤの激突攻撃を受けても、まだまだ完全に倒れることはないガブリアスは、完全にプッツンしてしまった。 ガブリアスの体全体から炎のように輝くオーラ…それと同時にドランダイブのときに見せた殺気と怒気まで混じってる。 「げきりん」だ、間違いない。 こんなところで暴れ回られたら大惨事だ。 「しねぃ!」 「ひぇっ!」 ガブリアスがユメヤ向かって突撃しようとしたその刹那だった。 「あたしの可愛いユメヤに変なことすんじゃねえ!」 メイヤが叫んだ。 そして、瞬間的に作ったシャドーボール(しかし大きさは通常の5倍ほどか)を、とてつもないスピードと勢いでガブリアス向かって投げたのだ。 「ななっ!」 あまりのスピードで避けることもガードすることも不可能だったようだ。 シャドーボールが直撃し、叫ばす暇も与えずにガブリアスを遠く彼方へと吹っ飛ばしてしまったのだ。 素晴らしき姉弟と絆。 いいものを見せてもらった。 ギャラリー達からは歓声と拍手が聞えてくる。 「ウワアァアァァッ! おねえちゃ〜ん! 恐かったよ〜!」 姉に抱きつく弟。 「よしよし、もう大丈夫だからな…」 そしてその姉は優しく弟を抱いて、頭をナデナデする。 「感動した!」 隣で何もしてない抜け殻が言う。 なんか目からトマトジュースみたいなのが流れてるんだけど、涙のつもりなんだろうか。 …あれ。 そういえば、なんか忘れてるものがあるような…。 … ガブリアス騒動から約12時間後、すっかり存在を忘れていたテッカと喫茶店で遭遇することになったのは内緒の秘密である。 というかよく待っていられたもんだ。 |
ブレイカー | #9☆2007.01/02(火)17:28 |
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12月12日 その1 「グギュグバァッ!!」 「ガギャギャアッ!!」 さわやかなムックルの朝の挨拶が、まだ暗い朝の空にこだまする。 …って、違う! なんだよ今日のムックルの鳴き声は。 誰の鳴き声だよ、ぐぎゅぐば?がぎゃぎゃ? わけわかんねえよ、まともに鳴いてくれ。 朝からツッコミの激しい俺、みなさんおはようございます。 ただいまのお時間は…えーと、5時半ですね。 ずいぶんと早く起きたもんですよ、HAHAHA。 昨日は晩飯食いにとある喫茶店に行ったら、なんかテッカが居てさ。 ああ、そういやこいつ忘れてたよ(笑)と思ってたら、テッカが発狂してヌケに襲い掛かって…。 もうなんていうかさ、昨日のことはもう思い出したくもない。黒歴史だ。 朝のガブリアス騒動といい、昼のヌケ&メイヤの大暴走といい、夜のクレイジーテッカといい…もうイヤorz そのせいでかなり疲れてるはずなんだが…何故か早く目を覚ましてしまった。 横を見るとメイヤとユメヤは現在熟睡中。 きみたちゴーストタイプだろ、夜は寝なくても平気なはずだ。 ていうかユメヤの寝顔がかわいい、こいつが♀だったら今頃俺はユメヤを襲ってるはずだ、いや、なんでもない。 メイヤもメイヤでなかなか可愛らしい寝顔だった。 そういえば、昨日どっかに吹っ飛んだガブリアスのことだが。 なんかソノオタウン付近まで吹っ飛んでしまっていたらしい、テレビのニュースでやっていた。 「もう悪いことはしません」と泣きながらインタビューを受けていたのが印象的だった。 メイヤは不良ポケモンを更生したことになるわけだ、偉いなぁ…とはあまり思いたくないのは何故だろう。 「おい、ブレ」 小声で俺より早く起きていたヌケが話しかけてくる。 またロックマンについて悩んで寝れなかったんだろうか。 まーこいつ、寝れなくても大丈夫そうだけどな、ゴーストタイプだし。 「なんだよ…」 不機嫌そうに俺が言葉を返す、まあ実際不機嫌だけど。 「ちょっと悩みがあって昨日も寝れなかったんだ…」 また元気のなさそうな声で喋る。 「どうせロックマンのことだろ…」 「いや、違うんだ…」 「じゃあなんだよ…」 「…あのさ、RPGゲームって大抵ラスボスって一人じゃん」 またゲームの中の理不尽について悩んでたのかこいつは。 よく飽きないな…。 「ああ、そうだな」 もうめんどくせーからテキトーに返事をする。 どうせ「なんでラスボスって勇者とかがレベル1のときに襲いに来ないんだろうな」とかそんな感じのことだろう。 答えは「それじゃゲームにならねえ」だ。 よし、そう答えよう。 しかしやはりヌケはヌケだった。 予想外の悩みを持っていたようだこいつは。 「…でさ、主人公側って大抵3人とか4人じゃん。それでたった一人のラスボスに挑む、つまり複数で一人を攻撃する…これリンチじゃね?ラスボスかわいそすぎね?」 …。 …あの。 なんていうのかな。 お 前 は ど う い う 視 点 で ゲ ー ム を や っ て い る ん だ ! ? 「マジありえねーし。血の通った人間のすることじゃねえよ…」 お前が言えることではないだろう。 この前、無数の虫ポケモンとゴーストポケモン達を呼び出して、テッカを袋叩きにした奴はどこのどいつだ。 「それに最近のRPGでは連続攻撃技が多い。一発で大ダメージをたたき出すうえに10回攻撃とかな。しかもその連続攻撃技を持ったキャラが複数居る…そしてラスボス一人に対して集中攻撃…マジチョベリバだべ」 チョベリバとか久しぶりに聞いたなぁ、ってそんなことはどうでもいい。 「それによ、もしPTA会長が『うちのスネちゃまにこんな野蛮なゲームやらせるなんてヒドすぎるザマス!訴えるザマス!』とか言いながら来てさ、RPGゲームが発売されなくなっちゃったー! とかなったらどーする?」 どうするもなにも…って、そういう視点でゲームを見ているのはお前くらいなもんじゃないか? というか「やらせるなんてヒドすぎる」って…別に「やれ!」なんて無理に押し付けてないだろう、ゲーム会社の人達は。 あとだな…まずラスボスがどんなものか知ってるだろ、主人公達より圧倒的に力が強い存在だ。 それを複数で攻撃しても別に悪くないだろ…。 たとえば昨日闘ったガブリアス一体と人間一人では、どう見ても人間一人が負けると分かる。 だが、人間四人だったらどうだろうか? これなら勝てる可能性がでてくる、こういうことだ。 「お前はどういう視点でゲームをやっているんだ…」 俺はもう限界だったので訊く。 ろくな返事は来ないだろうが、一応な。 「オイラは純粋にゲームを楽しみてえんだよ。それなのに何この卑劣さは」 …。 すみません、僕が悪かったです。 そんなに熱く言われるともうどうしようもありません。 「だからさ、オイラ今度から一人でラスボス倒すことにしたんだ…」 ほぉ、それはそれはラスボスさんに優しいですな。 しかし過酷な旅になりますよ…。 …。 テッカは毎日こんな奴を相手にしてたのか…あいつの精神力こそラストボス。 「サシで勝負、これこそ男のマロン」 それを言うなら男のロマン…って、ツッコミ入れる気がしねえなぁ…。 「ん?」 俺がちょっとよそ見をすると、パソコンのところでテッカが寝ていた。 そういえばあいつって自分のホームページ持ってたんだよな…しかも一日1000ヒットの大人気サイトだとか。 テッカニンのくせしてやりやがるぜ、何のサイトかは知らんがどうせ「スピードの彼方へ」とかそんな感じのサイトだろう。 「…あ」 最近メールチェックをしていなかった。 最近つっても2、3日程度だけど。 ノートパソコンをバッグの中から取り出して、スイッチオン。 無線でインターネットに繋ぐことができるので、いつでもどこでもできる…わけでもないが、便利さはデスクトップより上だ。 どこのルータから繋ぐかというと、もちろんこのポケモンセンターのルータからだ。 さーて、あんまりメールとかやらないからどうせ0件だろう。 あってもスパムメールとやらで数十件とかそんなもんだろう。 だが現実は違った。 「…なんだこれ」 俺は目を疑った。 何故かって? そりゃ、メールの件数にだ。 『新着メールが42731件あります』 これだけでも驚きだっつーのに、全てのメールが同じ差出人で、しかも同じタイトルだった。 ああ、全てのメールといってもパッと見50件くらいだから全部が全部ってわけじゃないけど…確実に全部同じっぽい気がする。 タイトルは全部「コロスコロスコロスコロスコロス」と延々に「コロス」と書かれたかなりヤバ気なものである。 差出人は俺が知っている人物…いや、ポケモンからだった。 「ノヴァのヤロー、かなりキてるぜこれ」 隣で覗き見していたヌケがボソリと呟く。 ノヴァとは俺のメタグロスのことである。 ちなみにノヴァじゃなくてノバでもいい、どっちも同じよーなもんだろ。 なんでこいつがこんなに怒っているのか、俺には分かる。 それは…話すと長くなるので単刀直入に言うと ギャンブルで有り金全部スった からである。 いや、もちろん貯金してたので大丈夫だが、そういう問題ではない。 過去に何度か有り金をギャンブルでスって、ノバの奴から怒りのコメットパンチを何十発も食らっている。 今回は…五度目か六度目くらいじゃなかろうか。 俺は痛いのがイヤだ。 だから貯金した金を全部持って、俺はシンオウ地方に向かった、否、逃げたのだ。 もし逃げないでノバに会ったら…多分俺は今頃あの世で閻魔のおっちゃんのところに居るだろう。 しかしだ。 今回は有り金全部スった挙句に貯金も全部持って逃げたわけだ。 もしあいつに見つかったら…多分一瞬のうちに108回輪廻転生する自信がある。 ちょっと「恐いもの見たさ」という好奇心の一種に煽られ、俺はメールの内容を見てみた。 「…」 一面「コロス」の字が。 しかも背景を黒にし、文字色は赤という強烈さ。 マジやんべーっ☆ 「こんだけ送ったってのによ、よくこのメールサーバー無事だったよな!」 さっきまでの暗い雰囲気はどこへやら、ヌケがやたら元気な声で俺の肩をポンポン叩きながら言う。 いや、メールサーバーが無事とかそういうこと心配するんじゃなくてさ、目の前に居るご主人様の命を心配してくれ…。 もしかすると今日中にノバが突撃してくるかもしれないし…あいつの頭脳と勘は恐ろしいものがあるからな。 …。 ま、いいか…。 そのときはそのときだ、俺の逃げ足の速さは天下一品だ。 こうそくいどう?何それ、美味しいの? 時間は過ぎ。 現在の時刻は午前10時前になろうとしているところであった。 今、俺達はこのコトブキシティにある「変わった施設」の目の前に居る。 その施設の名前とは「GTS」だ、何の略か忘れた。 多分「グレート・ティーチャー・サトシ」の略じゃないだろうか。 …。 ごめんなさい。 「全世界の人々とポケモンの交換を行える施設だってよ」 俺がヌケ達に簡単すぎる説明をしてやった。 「かがくのちからってすげー!」 と目を輝かせて叫ぶのはメイヤ。 ああ、確かにすごいな。 もう行くところまで行きすぎた感じがするほどすごいよな。 知識の神に感謝しよう。 「つまり世界中のレディ達がこのオイラに目が釘付けになるってことかな?(キラリーン☆)」 まあこのバカは放っておこう。 「で、でも…」 「どうしたユメヤ」 「…こ、交換するって誰を交換に出すの…?」 …。 いや、涙目になって、しかもそんな悲しそうな声で言われても…。 そこらへんに居るムックルでも捕まえて交換に出す…わけにもいかない、ムックルが可哀想だ。 …待てよ。 俺の手持ちの四匹のうち三匹は平気で戻って来れそうな気がする。 まずヌケとメイヤだが、こいつらの場合はテレポートとか使える。 ゴーストポケモンだからな。 メイヤの場合はテレポートでなく「るうら☆」とかになりそうだが。 もう一匹はテッカだ。 こいつ自慢のスピードなら、たとえホウエンの彼方に送られても一時間もせずに戻ってくることができそうだからな。 まー道を分かっていればの話だけど…。 ユメヤについては…なんかテレポートとか使えそうにないから除外した。 でもだな。 ヌケを交換に出す→交換成立→ヌケがすぐに戻ってくる→ヌケと交換されたポケモンは自分のもの 相手のポケモンを泥棒したと同じことになる。 やめよう、とりあえず見るだけにしよう…。 そう思ってヌケ達と一緒にGTSの中に入ろうとするときだった。 「あ、ちーっす!」 聞き覚えのある声だった。 振り向くと、そこに居たのはあいつだった。 あいつって誰だって? 昨日激闘したあいつだ。 そう、ガブリアスだ。 頭にハチマキ、手には工具セットを持っているところを見ると大工の手伝いでもすることにしたのだろうか。 「あいつを交換にだそうぜ!」 俺やメイヤが何か挨拶でもしようかなと思っていたのだが、一匹のポケモンが閃光のようなスピードで叫んだのだ。 こんなことを言うポケモンなんて一匹くらいなもんだろう。 ヌケ |
ブレイカー | #10☆2007.01/07(日)14:15 |
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12月12日 その2 「な、なにするんすか!」 誰だって驚く、俺だって驚く。 突然ヌケニンが怨念を纏いながら抱きついてきて、 「てめえさっさと来いや!」 なんて叫びながら無理矢理自分を引きずっていく。 皆さんならどうですか?驚きますか? 驚かない?そうですか。 ガブリアスはまさにそれを今やられている最中だったのだ。 「じ、自分が何をしたっていうんすか!?」 昨日のチンピラ口調と打って変わって、今度は体育会系のような口調となっている。 こいつ頭の打ち所が悪すぎて性格変わっちまったんじゃねーか…? 一晩でここまで変わるとは思えないんだが…。 「うるせえ!」 「す、すんません」 おい、何謝ってるんだ。 相手はヌケニンだぞ、いろいろ普通じゃないヌケニンだが少しくらいは怯ませることぐらいできるだろう。 「もうそろそろだぜ、フヒヒッ!」 GTS建物内部に入るまで、ホントにもうそろそろだったそのとき。 「週間少年あべしっ!」 俺の後方から突然風が吹き荒び、それと同時にスパッと斬撃音が数回響いた。 その直後にヌケが変な叫び声(って言えばいいのかすら分からんのだが…)をあげて倒れてしまった。 「おめー何してんだよバカ!」 ヌケの真上で羽ばたいている一匹のテッカニン。 まあ誰だか分かるだろう、テッカだ。 テッカが今、ご自慢の超スピードでヌケに近づき、そして十八番の「つばめがえし」をお見舞いしたのだ。 しかも何発か放っているはず、斬撃音が複数聞えたんだから。 「あざっす!」 テッカに助けてもらったガブリアスは、深くお辞儀をして感謝の気持ちを述べた。 本来ならこれで「はい、おしマイナン♪」である。 しかし、今倒れた抜け殻は「普通」じゃないんだ。 「今のは72点ってところかな、もうちょい手首のスナップをだな…」 「ひぃ!」 「ひゃっ!」 突然ムックル…じゃない、むくりとヌケが起き上がり、そして何事もなかったかのように再びふよふよと浮き始めたではないか。 なんか起き上がって再び浮くまでの間、ぶつぶつとテッカの「つばめがえし」に点数をつけて評価していたが…。 ちなみに驚いている二匹はガブリアスとユメヤである。 そういや、さっきから涙目でうろたえてたなぁユメヤの奴。 「このベルゼバブめ…そんなにオイラの神聖なる儀式を邪魔したいというのか!」 どこが神聖なる儀式だよ。 っつーか、ベルゼバブって…テッカの通じるんだろうか。 「…ベルゼバブってなんだ?」 俺のほうを向いてテッカが訊いてきた。 …まあテッカをブチギレさせて、なるべくヌケをおとなしくしたいからな。 本当のことを言おう。 「ハエの悪魔」 俺がそう言った刹那、 テッカの すがたが いっしゅんにして きえた!▼ 「AHYAHYAHYAHYAHYAHYAHYAHYAHYAHYAHYAHYA!」 なんかものすごい斬撃音とヌケの叫び声(というか笑い声なんだけど…)のハーモニー…というかレクイエムが聞えるのは気のせいでしょうか。 「何がハエの悪魔だ、この抜け殻がぁッ!」 とどめにシザークロスの要領で「つばめがえし」を力いっぱいテッカは放った。 俺にも見えるスピードだったのではない、力を溜めている時間が長かっただけだ、そっから「ああ、そうやるのね」って悟っただけだ。 「はぁはぁはぁはぁ…」 倒れたヌケの体は既にヌケニンとしての形を留めてなかった。 なんてことを…と思ったが…。 「気持ちよかったぜwww」 …。 なんかぐにょぐにょメタモンみたいに動いたのはきのせいだろうか? そのあといつもどおり、何事もなかったかのように復活。 あれほどダメージ受けておいてこいつは…。 「んなことよりよぉ、ハエ」 「俺はハエじゃねえっ!」 「おめー今ハァハァしてただろ。ハエになんかハァハァされたくはねえよ…」 いや、確かにハァハァ言ってたが。 ”そっち側”の意味でのハァハァじゃねえだろ…疲れてハァハァしてるだけであってだな…。 「だからハエじゃねえつってんだろうが抜け殻!」 それよりももっと別のこと否定したほうがいいんじゃないか? 「えー、テッカも師匠のこと好きだったのか?」 メイヤがぼそっと呟く。 わざと言ってるのか、それとも天然なのか。 どっちか分からんが、また誤解を招くようなことを…。 「ハァ!? だれがこんな奴好きになるかッ!」 テッカがメイヤに向かって叫ぶ。 「ツンデレ乙」 テッカの言葉を聞いたヌケの一言。 てかツンデレって…。 「俺はツンデレじゃねえっ!」 「じゃあなんだ、ツンハエ?」 「ふざけんじゃねえぞこのヤロー!」 こういう口論のあとは必ずケンカになる。 まあいつものことだし、すぐに止まるし…。 メイヤもなんかニヤニヤしながら見てるしな…。 ちなみにガブリアスはいつの間にかとんずらしていた。 「大体てめえは俺の抜け殻だろうがッ!」 「だからなんだってんだよーっ!」 「俺のことハエハエ言ってるならてめーは『ハエの抜け殻』だッ!」 「そんなの前から知ってるッ!」 「…な!」 前から知ってるって…。 こいつ、まさかマジで「テッカニン=ハエポケモン」だと思ってたんだろうか…。 「言葉でダメなら体で教えるしかねえな!」 おい、テッカ。 そういう発言はやめろ。 でないと…。 「んもぉ、そういうのは夜にしてよね…うふっv」 …。 ほら、ヌケが別の意味で捉えちゃったじゃないか…。 「きめえんだよてめえ!」 テッカがヌケの胸倉(!?)を爪で掴んだとき。 「や、やめようよぉ…」 弱弱しい声でユメヤが言った。 「あ?」 「ケ、ケンカはやめようよ…」 今にも泣きそうな涙目で、テッカを見つめて、そう訴えるユメヤ。 こ、これは効く。 俺なら絶対やめるよ、うん。 「…ちっ!」 舌打ちしてテッカはヌケから離れた。 毎回毎回バトルするときにスピード出しすぎて「てめえの攻撃は全て見切った!」とほざきつつ、壁や味方に激突して自滅する学習能力のない頭の悪いテッカにでも、やはり良心というものは存在するようだ。 なんか失礼なこと言ってる気するけど、気にするな。 「…おい」 「ん?」 ヌケが誰かを呼んでいる。 ユメヤの顔を見つめているからユメヤを呼んでいるんだろう。 …そういやヌケの奴は良心0な奴だったな…。 「…男のくせにめそめそしてんじゃねえ!」 「えぇ?」 ユメヤに向かって一喝。 突然そんなこと言われたユメヤは勿論驚く。 というか突然なんなんだこいつは。 「お前のような軟弱者がこの先生きのこることができると思うか?」 ガブリアス、テッカ、ときて次はユメヤをターゲットにしやがったなこいつ…。 ちなみに「この先生きのこる」は「このせんせいきのこる」ではないので注意しよう。 ヌケがパッと突然姿を消し、すぐにパッとユメヤの目の前に現れる。 そしてユメヤの胸倉(って言えばいいのかわかんないけど)を掴み、顔を目一杯ユメヤの顔に近づける。 「いつまでも姉ちゃんに頼ってんじゃねえ!」 いいじゃねえか、別に…。 というかメイヤが居なくなってしまったら、ユメヤってその後を追いそうだよなぁ…。 「師匠!」 ただごとではないと感じたか、メイヤがヌケとユメヤの傍へと近寄る。 「あんだお?」 ヌケがメイヤを睨みつける…ってこいつに睨みつけるような目はないが…まあ雰囲気がそんな感じってことだ。 「確かにユメヤは泣き虫で意気地なしで逃げ足しかとりえのないダメな弟だけど…それでもあたしの可愛い弟なんだぜ…だから…」 「お姉ちゃん…」 なんかムチャクチャひっでぇこと言ってるような気がするんだけど、一応ユメヤのことをすごく想ってくれているようだ。 姉による嬉しい言葉(まあ後半だけだけど)を聞いて、ユメヤがちょっとだけ笑顔になる。 しかし、ユメヤはこの直後再び地獄に落とされる羽目に陥ってしまう…。 「だから…だから…是非ともユメヤを素敵な”漢”にしてくれ!」 …。 何いってんだこいつは…。 というか助けてやれよ…大事な弟がこんなヘンテコリンな抜け殻に何かされそうになってんだぞ…。 「お、お姉ちゃん!?」 ほら、ユメヤのこの絶望のどん底に突き落とされたような表情と顔。 「大丈夫、師匠は厳しい人だけどとても優しいから(微笑)」 微笑みながらメイヤは言うが、なんだかこの微笑みが「悪魔の笑顔」に見えて仕方がない。 「いいか、いつまでもあたしに甘えてちゃダメだ。最終的に自分を守れるのは自分しか居ないんだぜ」 仰るとおりでありますが、そういうのは姉であるお前が鍛えてやれよ…。 「っつーわけだ。しばらくオイラはこいつと一緒にどっかで修行することにするぜ」 修行って…。 別にこの付近でもできるようなことだろう。 というかさ、 「クリスマスパーティはどうするんだよ?」 こいつの言う「旦那」のところへと行って、クリスマスパーティをするはずだった。 そのために、24日までにシンオウ各地を探し回り、旦那とやらが居る場所まで行くはずだったのに。 「うるせえ、パーティなんかやってられっか!」 …は? 「なに言ってんだてめえは!」 ヌケがそんなこと言うもんだから、テッカがキレるのは無理もない。 だが。 「今のオイラにはユメヤを漢にするという夢がある。のんきにパーティなんかやってらんねえ。大体旦那になんていつだって会えるし」 …。 ああ、頭の胃痛がフレアドライブください痛い…rz 今の発言でテッカも唖然としちゃってるし…。 ”いつだって会える”じゃねえよ…場所分かってるんなら最初から言えってのおrz 「じゃあな、お前ら。今度会うのは一年後くらいかな?かな?」 「お、お姉ちゃぁ〜ん!」 ヌケは泣き叫ぶユメヤを掴んで何処かへと一瞬で消えてしまった。 …。 今残っているのは唖然としているテッカと、何を考えているのかイマイチ分からんメイヤだけである。 うーん…。 まあ24日までにヌケの言う「旦那」を探さなくてもいいことになったってことは、ゆっくりとシンオウ地方を旅できるってわけだよな。 「…のんびりシンオウ地方でも歩き回るか」 「…そうだな」 「オッケー!」 こうして俺ら一人と二匹の旅が始まることになった。 一方その頃、僕のほうはと言うと…。 周りを見渡すと海があって、上のほうには…歩道橋…ていうのかな、こういうの…? 近くには灯台もあった。 「こ、ここはどこなんですか…?」 僕がヌケさんに訊くと、ヌケさんは爽やかにここが何処だか教えてくれた。 「ここは ナギサシティ たいようが てらす まち」 |
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