「ぅ………うあああぁああああぁん………っ!!……っ!!…ッッ!!!」

振り乱す頭、その勢いでバイザーが夥しい水滴…涙で濡れる。
まだヘリとは距離があるが…やや下、背後からフィズに浴びせられる光……
陽光に曝された吸血鬼の気分だ。羞恥が全身を焼いていく。
反射的に光学迷彩を作動させようとして…落下の警告が表示される。

(ああっ…!? ダッ、ダメぇっ!)

即座に光学迷彩の作動をキャンセルする志由。
羞恥心に急かされた心が警告表示にふっと冷まされる。
下には群集がいるのだ、今ここで重力に囚われてしまえば彼らのど真ん中に降り立つことになってしまう。
いや、降り立つことができれば御の字だ。
何せ今の自分はパワーアシストの付いたブーツを履いていない。
つまり、着地時の大怪我は免れないのだ。

(だいじょうぶ…見られてない……だって、一瞬だった…っ!)

自分に言い聞かせるように震える志由。
既にサーチライトは怪盗少女の姿を映してはいない。
そう、ライトに照らされたのは一瞬のこと、ヘリはまだまだ遠い。
自分の姿は見られていないはずだ。
それはあまりにも希望的な観測だった。
だが、丸裸で空中を遊覧、しかも媚薬に犯されている。
そんな状況では冷静な判断などできるはずもない。
むしろ光学迷彩のキャンセルをすることができたこと自体が僥倖だったのだ。
しかし、この選択が、『光学迷彩をキャンセルする』という選択が少女を不幸へと導くことになる。

「え、ぁ…っ!?」

カッ!
光の一条が今度はハッキリと気球とフィズを捉える。
それだけではない、二条、三条…集まってきたヘリからはなたれるライトの光。
それらが狙うのはただ一つ、姿を隠すこともできずに空に浮かぶ怪盗の姿。
サーチライトはその名前のごとくフィズの姿を発見し、追尾する。
ここにきて志由は自らの予想…希望が裏切られたことに気がついた。

「あ、あぁぁぁぁっ!? こ、こう――んぐっ!」

完璧に居場所を察知された。
それがわかった今、今度は躊躇などできない。
志由は悲鳴混じりに光学迷彩を作動させようとし、瞬間、口と視界を奪われた。


(なっ、なにっ? なんなのぉっ…!? え、こ、これっ…私のぉ…っ?)

突然の出来事に志由はうろたえることしかできない。
だが、僅かに覗く視界から見ることができたそれは見覚えのある布地。
白い、フリルのついたそれは…どういう偶然で飛ばされてきたのか、自分が先程まで身に着けていたブラジャーだったのだ。

「んむっ、あんく…!」

近づいてくるヘリの風圧で顔にへばり付いて離れないブラ。
当然、そんな状態で光学迷彩の作動などできるはずもなく、志由はただ顔を苦しそうに振る。
その甲斐あってか、目からは布地が離れるが、口からはなかなか離れてくれない。
両手が塞がっている以上、口が自由にならなければバイザーの機能は使えないのだ。
ババババババババ………
だが、四苦八苦する少女を更に追い詰める音が耳に届く。
ヘリがゆっくりとフィズを包囲するような陣形を取り始めたのだ。
近づけば風圧で気球を吹き飛ばしてしまい、フィズを逃がしてしまいかねない。
だからこそ包囲陣を敷き、落下を待っているのだろうが…それは志由にとっては最悪の展開。
第一発見のヘリが警察だったのか、幸いにもヘリの中にマスコミ関係はいないようだ。
しかし、このままではそういった者達の乗るヘリが近寄ってくるのも時間の問題。
そうなってしまえば、生まれたままの姿が映され、撮られてしまう。
とにかくこの場を離れたい、光から逃げたい。
その一念で志由はあがくが…焦れば焦るほど事態は悪化していく。

(やだ…やだよぉ…見られてるぅ…絶対、見られてるよぉ…)

高空のため、ヘリの人員はともかく下にいる観衆たちからはまだ詳細は見えないだろう。
だが、全方位からサーチライトに照らされている存在、目立たないわけがない。
現にフィズの真下では観衆たちがざわざわと騒ぎ始めている。
その視線は夜空に収束する光の中心に集まっていく。

(み、見ないでぇ…こんな恥ずかしいかっこう…見ないでぇっ!)

イヤイヤと頭を振るが肌に張り付くように感じる視線は一向に消える様子はない。
それどころか、他人の視線を感じた少女の身体は視姦されることに興奮を感じたのか…
おなかの奥を熱く火照らせ、股間へと向けて分泌物を流し込んでいく。
志由はその感覚に思わずほぅっと息を吐き、そして見てしまった。
バイザーの機能によって拡大された観衆の群。
その中に、双眼鏡を構える男の姿があることを…
その瞬間、志由は頭をこれ以上ないというほどに仰け反らせ、強引に張り付くブラを引き離す。
そして、叫ぶ…自分の姿を隠すための唯一の手段を。


途端に重力に捕われ…ぐんぐん落下していくフィズ。
気球のおかげで自由落下ほどの速度はないが流石にパラシュートほどは減速しない。
パワーアシストの付いたブーツさえ履いていれば無傷で済むだろうが…
今の志由では良くても骨折ぐらいしてしまうであろう速度。
だが…そんな事を考えられる心理状態ではない。

(見られた…私のはだか、全部見られちゃったぁ…っ)

高空とはいえ、ライトに照らされた状態だ。
双眼鏡ならばその姿を捉えることなど容易に違いない。
あるいは、覗き込まれるよりも光学迷彩の作動のほうが早かったかもしれないが…
そもそも、遠くを見るための器具を持っていたのがあの男一人とは限らないのだ。
今度こそ幻影相手ではない、強敵と戦い、その結果の被害でもない。
ただの一般人、ギャラリーに裸を晒したのだ。それも屋外で…

(こんなの……こんなの…………っ
 ……へんたい…だよ……わたし………変態…?!………やああぁ………ッ!)

落ちていく肉体と同様に堕ちていく精神……
相乗効果で志由の心に襲い掛かる絶望。
激しすぎる動悸も追い撃ちをかける。
興奮に応じてアドレナリンや様々なモノが分泌される。…伴って愛液も……
落下の風が容赦なく全身を嬲るせいもある。
もう志由は尿意と性衝動を押さえることだけで精一杯…ほかには何も出来ない。
気球のコントロールも…このまま落ちゆく先を思うことも……
…バイザーの生命保護優先プログラムのことを考える余裕も当然なかった。
漢との戦いでもそうであったように…フィズ=志由が自覚出来ない攻撃を受けても
…例えば遠距離からの精密狙撃などでもエアバリアは自動作動する。
同様に…負傷を避ける為に再び自動的に重力軽減に電力を回すのも当然なのだ。
それを避ける為には予めコマンド入力しておく必要があった…。
地上から30mほど…負傷しない速度まで減速できる限界高度で…それは起こった。
既に地上の観客のほとんどがフィズの姿を認め、いきなり落下を始めた気球に気付凝視、ざわめき始めたころだ。
バイザーに重力軽減発動予告のウインドウが表示された。
ひたすらに耐えるだけの志由は…理解するのに時間を要した。

(え………?  なに………?
 ………うそ…………うそ…………うそおおぉ…………っ!!)

反射、瞬時に咄嗟に両手で胸を隠し身を丸めるのと同時に重力軽減発動…光学迷彩消失…

「…こ、こうがくめいさいっ!………光学迷彩ぃいっ!!」


トサッと軽い落下音の直後にフィズの絶叫が響く。
幸い…と言っていいのかどうか…
フィズの落下先には観客がいて、その体がクッションになった。
でなければ気球を手放してしまった志由は重力軽減していても
相当なダメージを受けたはず…気絶していたかも知れない。
だが気絶しなかったことで…地獄の羞恥を…味あわなければならなかった。
胎児のように体を丸めた全裸の少女が突如空中に現れて落下するまで3〜4秒……
落下する気球の前振りを含め多くの人間が見上げていた。
全裸ゆえにその少女がフィズかどうか…バイザーまで視認出来たのは数人だったが…
皆、フィズを見るために集まっていたのだ。状況から考えてもフィズと決めてかかる。
さらに落着後の叫び…上を見ていなかった者にまで存在を報しめてしまった。
今や現場は阿鼻叫喚…馬が居れば目を抜かれただろう。
男女を問わず皆が皆、騒がしく周囲を探索している。
フィズが落着した場所を中心に人はどんどん集まる……
特にトラップで使用された立体映像の男たちと同類のような者達はカメラを手に血眼だ。

(ぁ…! そ、そんなぁ…っ!?)

叫びながらも無意識に地を蹴った志由は落着地点から数m離れたベンチの上まで跳躍…
しようとしたが、僅かに距離が足りないことを跳躍の段階で悟ってしまう。
着地点があと30cmもズレていたらあるいはベンチに届いたかもしれない。
しかし光学迷彩のキャンセルから端を発した時間ロス、それが志由の明暗を分けてしまう。
フィズを捜して激しく流動する人の波。
志由はその中に飲まれてしまったのだ。

「いてっ、な、なんだ!?」
「おい、な、なんかここにいるぞ!?」
「何!? それって、もしかしてフィズじゃないのか!?」
「マジかよ! 逃がすな!」

見えない何かにぶつかった者は手探りでその正体を探り始める。
消えられることこそフィズの証明…どこかを掴めれば離さない。
恐怖に襲われた志由は再度の跳躍を図るが、既に重力軽減の効果のないフィズはただの女の子に過ぎない。
当然、本気で自分を捕まえようとする男たちにあがらえるはずもなく…あっさりと腕をつかまれてしまう。
見えない何かを掴んだ男はそれをはなさない。
更に、騒ぎを聞きつけた他の観客たちが我も我もと志由の身体へと群がり、次々と小柄な身体を押さえ込んでいく。

(やだぁ…やだぁっ! はなしてぇっ! 触らないでよぉ…っ!!)

押さえ込まれながらも悲鳴を上げなかったのは奇跡といっても良い。
崩壊しかかっていた精神を辛うじてつなぎとめるのは正体がバレる恐怖に他ならない。
しかし、声を出さないからといって男たちが手を放してくれるわけでもなく…
見えないことをいいことに、複数の手が穢れない少女の身体を蹂躙しはじめる。


引き倒された身体に伸ばされた手は志由の頭を、肩を、膝を確認するかのように捕獲していく。
それらの部分だけならばまだ我慢ができた。
だが、その手が敏感な部分…胸のふくらみや太もも、股間へと伸びてくる。

(あッ! そんなところを触っちゃダメぇっ! 今は、今はそこだめなのぉっ!)

少女特有の初々しい膨らみが、その頂点で起立しているピンクのつぼみが触られる。
それだけでも今の志由には大変な衝撃だというのに、無遠慮な手は下半身にまで侵攻。
尿意をこらえるために閉じられた足が、その少し上にあるお腹がさわさわと撫でられるように固定されていく。
途端にショックで一時的に忘れていた性感と尿意がぶり返す。
びくびくと身体が勝手に跳ね、限界が間近だということを示していく。

(も、もう限界…っ! それに、で、電力も…ぉ…っ!?)

バイザーの電力は既に枯渇寸前だった。
このままでは観客たちに姿を見せることになってしまう。
ここまでなのか…絶望が志由の思考を覆い始め、そして。

「………あっ」

気の抜けたような声が志由の口から漏れ、同時に緊張から解放された尿道がその入り口を一気に開放する。
ぷしゅ!……チョロ、チョロロ……シャアアアアァァ……
最初はゆっくりと、そして徐々に大きく少女の股間から金色の飛沫が空に橋をかける。

「うわっ、な、なんだ!?」

しかしその瞬間、千載一遇のチャンスが訪れた。
見えない何かから飛び出る液体…尿に驚いた観衆たちが志由を押さえる手を放したのだ。
ぼやける視界の中、志由はかろうじてその光景を理解し、震える身体に活を入れる。

(いっ、いまぁ…っ!)

よろよろと立ち上がった志由は放尿の快感と羞恥心に身を焦がしながらも何とか足を動かす。
未だ放出し続ける尿は足を流れ、不快感を伝えてくる。
放尿の快感でオーガズム一歩手前まで追い込まれた身体。
だが、この場から逃げ出したい、見られたくない、触られたくない…その少女の怯えがここに来て実を結ぶ。
動揺する観客の間をぬうようにして、志由は駆ける。
とにかく人のいないところへ。
しかし、そんな少女の願いを嘲笑うかのように電力切れの警告音が響く。
光学迷彩の解除。
その事実を志由の脳が認識したその刹那、警告音に振り向いた数人の人間が突如現れた全裸の少女に気がつく。


「おい、あれ!」
「女の子…? しかも裸だ!」
(ひぃっ…!)

露わになった姿にこれ以上ないほどの羞恥心を覚える。
だが、尿を撒き散らしながらも志由の足は止まることを許されない。
止まれば…待っているのは絶望なのだ。
恥ずかしさに閉じそうになる目を必死に開け、志由はただひた走る。

「あぅんっ…」

しかし、足は動いても尿は貯蓄されていた量を放出すれば自然と止まる。
やがて、尿の放出が止まり、その閉門の刹那の快楽に志由はぴくんっと痙攣し、一瞬動きを止めてしまう。
だがそれは致命的な間であった。
少女の小柄な身体が何者かの手にふわりと宙に持ち上げられる。

「ひゃ…え…っ!?」

荷物のように抱えられ、混乱にわたわたと視線をめぐらせる志由。
と同時に今度こそは逃れられないという絶望が襲い掛かる。
だが、フィズ発見、そして捕獲の声は上がらなかった。
フィズを探す人々の声が徐々に遠ざかっていく。
周りを見回せば、バリケードのように数人の男たちが自分の姿を隠していた。
この人たちは一体…?
そう疑問に思う志由の中に一筋の光明が差し込んでくる。

(ひょっとしたら…この人たちは私を逃がしてくれる…?)

フィズは世界でも人気を集める可憐な怪盗だ。
そんな存在がピンチというならば、身を張って助けようとする人間がいてもおかしくはない。
人の善意を信じる志由にとってその思いつきは正に希望だった。
だが、志由は疑うべきだった。
フィズとしていままで目の当たりにした数々の悪意。
そう、人間とは善意よりも悪意をもつ存在のほうが圧倒的に多いのだということを思い出すべきだったのだ。
この場で暴れても逃げ出すことはできなかったのは間違いない。
しかしそうすれば少なくとも駆けつけてくる警改人間によって捕まえられ、手荒な扱いは受けなかっただろう。
だが志由は希望ゆえに自分を抱える存在に身を任せてしまった。
その場ではそれが最善だと信じて…この後待ち受ける運命を知る由もなく。
そしてその代償は、すぐに支払わされることになる。
そう…志由を抱える男の歪んだ笑みの奥に隠されている欲望の対象として。


「きゃんっ…!」

ドサッ!
人ゴミから少し離れた茂みの中に運ばれた志由は突然地面に降ろされて悲鳴を上げた。
まるで荷物のような扱いに憤慨し、抗議をしようとし…そして固まる。
自分を抱えていた男が、その周りを固めていた男たちが一斉に自分を取り囲んできたのだ。

(この人たち……な、なんなのぉっ?)

流石にこんな状況になっては男たちの目的が自分の救出ではないということはわかる。
欲望にギラつく視線、荒い吐息…それは『漢』のものとは違う、粘っこい暗い情欲。
よく見てみれば彼らから感じる印象は立体映像の変態男たちに近いものがあった。
身の危険を感じた志由は彼らから離れようと足を動かすが、既に包囲は完成している。
そうなってしまっては少女にできることといえば彼らの視線から身を守る…
つまり、身体を丸めることくらいしかできない。
だが、男たちはむしろ志由の恥じらいの仕草がツボに入ったのか、やんややんやと手を叩く。

「な、なあ、この女の子が…フィズたんでいいんだよな?」
「ああ、間違いない。髪型とか違うけど…このバイザー、それに声が同じだ!」
「で、でもなんで裸なんだ?」
「ばっか、決まってるじゃんか。美術館の中でトラップにかかったんだよ!
 女怪盗が脱衣トラップにあってすっぽんぽんになるってのはお約束じゃないか!」
「確かにww でもまさか生で本物を見ることになるとは」
「俺たちの日ごろの行いがよかったんじゃね? お、おい、ちゃんと見張ってろよ!」
「わかってる。誰かが来たらおしまいだもんな。でもちゃんあとで交代してくれよ!」

自分をジロジロと見つめる男たちの会話に志由は青褪める。
この人たちは自分がフィズであることを認識している…否定することは簡単だが、信じてもらえるとは思えない。
縮こまっているためか、背丈やスタイルが違うことには気がつかれていないようだ。
だが、だからといって全てを晒すわけにもいかない。
またそうしたからといって彼らが勘違いを認め立ち去ってくれるわけがない。
状況は絶望的…『漢』の時とは桁違いの嫌悪感、そして羞恥心…
バイザーは電力が切れ、頼みのピーチからは連絡もない。
今の志由はただの無力な一人の少女にすぎないのだ。
それでも、微かに残っていた勇気を振り絞り少女はフィズとして叫んだ。

「…わ、私を解放しなさい! 今なら、今なら許してあげるから…っ」
「おいおい、何いってんの? 状況わかってる? 逃がすわけないじゃん」
「そうそう、誰も捕まえたことがない世紀の大怪盗『Fizz』が目の前にいるんだよ?」
「僕たちが警察の代わりに取調べしてあげるよww」
「そうそう、隅々までねww」
「ひっ…」


男たちの舐めつけるような視線と口調に志由は顔を引きつらせる。
だが、それでも志由は気丈に解放を叫ぶ…所詮彼らは一般人。
あの『漢』と比べれば脅威でもなんでもない。
数々の警官や罠と渡り合ってきたフィズとして…彼らにおびえる姿など見せるわけにはいかない。
けれど、それも所詮は束の間の強がりに過ぎない。
男たちすれば震えて縮こまっている少女から怒鳴られたところでなんの恐怖があろうか。
一人の男が寄ってくるとデジカメのモニターを志由に見えるように開く。

「へへっ、フィズたん…これを見てみなよ」
「え、あ…こ、これは…!?」
「そう、さっきのフィズたんの恥ずかし〜い姿、ちゃんと撮っておいたんだ!」

嬉しそうにモニターを切り替えていく細身の男…
身体を丸めて落下する姿。
小便をたらしながら駆ける姿。
そして…男に抱えられておしりを無防備にさらけ出しているフィズの姿が次々に映し出されていく。

「や、やあっ! 消して、消してぇっ!」
「や〜だよ♪ こんなお宝映像、消せるわけないじゃんww」
「帰ったら早速『NEETちゃん寝る』にアップしないとなww」
「こんな画像、僕たちだけで楽しむには勿体ないもんね」
「そ、そんなぁ…」

男たちの無体な言葉に瞳を潤ませる志由…だがそれは彼らの加虐心をそそる行為でしかない。
見るだけだった男たちが、ゆっくりと近寄り、包囲を狭め始める。

「さぁて、それじゃあ尋問を開始しま〜す。ちゃんと証拠映像は残しとけよ?」
「OKOK、ちゃんとカメラは回ってる。まずは身体検査だな。何かを隠し持ってたら大変だ」
「おいおい、すっぽんぽんで隠し持つも何もないんじゃねww」
「いや、わからんよ。なんせフィズたんだもんな、用心にこしとくことないさ」
「だな。よし、皆…フィズたんを押さえるんだ!」
「い、いや…っ! こないで、こない、でぇ…」

迫り来る男たちの手に懸命に志由は抵抗する。
だが多勢に無勢…あっという間に少女の小さな身体は四肢を押さえられ、身動き取れなくされてしまう。
未だ身体は丸まったままなので胸や股間といった大事な部分は視線に晒されていない。
だが、それが晒されるのも時間の問題…志由の心臓が緊張に跳ねる。
そして恐れていた瞬間がやってくる…男たちが少女の手足を開こうと力を込めてきたのだ。

「やぁんっ! やだ、やだぁぁぁっ! やめて、やめてよぉっ…!」
「だが断る! うへへ…夢みたいだ。パンツですら誰も見たことがないフィズたんの身体…」
「全部見ちゃうことができるなんてな」
「でもどうせならコスチュームから全部脱がしたかったと思わね?」
「思う思う。どんな下着つけてたか、知りたかったのにな〜」
「聞いてみればいいんじゃね?」


お嬢さん、パンツの色は何色かな?
そんな下卑た言葉に志由は耳を貸さない…いや、貸す余裕などなかった。
渾身の力を込めているのに身体を開かれていく恐怖…そして感じる視線の圧力。
だが、意に反して少女の身体は熱く火照り、全てをさらけ出すのを待ち望んでいるよう…
そして僅かな均衡の後、フィズの手足は大の字に開かれてしまう。

「あ…あああ…っ」
「うひょっ! は、裸だ! フィズたんの裸っ!」
「マジかよ、これ夢じゃね?」
「けど意外に胸はちっちゃいな。毛もあんまりはえてないし」
「着痩せってレベルじゃねーぞww」
「きっとパットとかつけてたんだよ…おっぱいにコンプレックス持ってる美少女…ハァハァ」
「やべ、俺もう我慢できねっ」

ついに視線の元に晒されるフィズの…志由の幼い裸体。
ふくらみかけの小さな胸が、極薄の陰毛とその下の可憐なひだが余すところなく公開される。
男たちは次々とズボンから勃起した肉棒を取り出すと我も我もとばかりにしごき始める。
それは美術館での立体映像の男たちと同じ行為…
だが、今は状況が違う。
男たちは紛れもなく生身の人間で、直接肌に触れていて…志由は丸裸なのだ。
想像を絶する恥辱に気を失いかける志由。
いっそ気絶してしまえれば楽だったのかもしれない。
しかし霞のかかりかけた少女の意識は太ももを触られることで強引に引き戻される。

「ひゃんっ…?」
「うっひょー、可愛い声っ。フィズたんは喘ぎ声も可憐だ!」
「はいはい動かないでねぇ〜、今拭いてあげますからね〜」

フィズの両足をM字に抱えあげた男がティッシュで志由の太ももを撫でるように拭いていく。
どうやら、先程の小便の後始末をしてくれているようだ。
無論、志由に感謝の気持ちなど起こるはずもなく…
まるで幼児のような扱いを受けたことと、敏感な部分を触られる恥辱に顔を赤らめる。
思わず抗議の声を上げかけるが…口から出たのは快感を示す喘ぎ声だった。

「んはぁう…っ」
「うはww 声色っぽ過ぎww」
「感じてるんだろ。淫乱モードって奴かww」
「ち、ちが…ぁうっ…はぁ…んっ!」
「おい、濡れてきたぞ! マジで感じてるんだ!」
「うは、ホントだww なんかあそこがヒクヒクしてるし…イキそうなんじゃね?」
「チャンスだ! フィズたんのアクメ顔ゲットできる!?」
「いや、いやぁ…やめてよぉ…それ以上、しないれぇ…!」


フィズとしてはおろか、桃木志由としても誰にも見せたことのない決定的な瞬間。
それが見られようと、撮影されようとしている。
激しい嫌悪感と羞恥心…だが少女の肉体はえもしれぬ背徳感に焦がされていく。
感じまい、反応しまいと意識するほどに感度が増し、高みへと追い詰められる。
そして湿ったティッシュの感触が足の付け根に達した正にその時…志由の脳裏に閃光が走った。

「ん…っッ! 〜〜〜〜〜〜〜ッッ!!………ぁ…きゃあああああぁあ……っ……っッ!!!」

押さえつけられている小さな身体が壊れた自動人形のようにビクビクと跳ね踊る。
股間からは僅かに残っていた尿と愛液がブレンドされた液体が霧吹きのように放出され、再び太ももを汚す。
と同時にカメラのフラッシュが幾度もたかれ、少女の恥態が収められていく。

「イッた! フィズがイッたぞ!」
「こ、これ、潮吹きってやつだよね? 初めて見たww」
「フィズたん感じすぎww」
「あ……あ…ん、ぅ…っ…ぁはぁ…」

液体を噴出し終えた志由は股間からトロトロと零れ落ちる液を呆然と見つめる。
男たちが何かを言っているが聞き取ることができない。
わかるのはただ一つ…自分が達してしまったということ。
初めての性的絶頂を…醜い男たちの手によって導かれてしまったということ。
不思議と悔しさや恥ずかしさは湧いてこない。
むしろ最初に感じたのは悦楽の瞬間の歓喜…女の本能だった。
落ち着いてくれば壮絶な後悔が襲ってくることだろう。
だが、今の志由の精神状態はそんなことを考えられる状態ではない。
ただただ、ひくひくとわななき続ける自分の性器を見つめるだけ。
目はトロンと垂れ下がり、頬は上気して口からは喘ぎ混じりの吐息…
それは見た目の幼さにも関わらず一人の立派な女の表情だ。
自然、男たちの視線はその顔へと集まり…誰かがいぶかしげに口を開く。

「おい…フィズたんの顔、どっかでみたことないか?」
(え…?)

ドクンッ!
絶頂の余韻から忘我に至ろうとしていた志由の心臓がその言葉に跳ねる。
機能を停止しようとしていた思考が強引に引き戻され…理解する。
理性ではなく本能が聞きとめたその言葉は、最も恐れていた一言だ。
今のフィズはバイザー以外は何も身に着けていない。
ウィッグ、シークレットシューズ、グローブ…そしてコスチュームに下着。
『Fizz』としての外見に必要なそれらがない現状、少女の外見は限りなく『桃木志由』なのだ。
唯一の装飾品であるインカムのバイザーも半透明であるため完全に顔を隠すには至らない。
はっきりいって見た目の95%は『桃木志由』の状態…
男たちがそれに気がつかなかったのは単に『Fizz』と『桃木志由』が同一人物ではないという思い込みに過ぎない。
だが、バイザーのみでここまで接近して顔を凝視されてはそれも限界で…


「うん? 確かに見覚えがあるような…」
「あ、僕も僕も」
(……ぁあ…っ、き、気がつかないでぇ…)

絶頂の余韻も肌寒さも羞恥心も忘れて志由は祈る。
『Fizz』の正体がバレるというのは最大の禁忌だ。
そうなってしまえば、二度と『Fizz』になることはおろか、桃木志由としても活動できなくなってしまう。
いや、それだけではない…今まで撮られた映像も考えれば、日の下を歩くことすら…
しかし…そんな少女の願いも次の言葉で打ち砕かれる。

「ていうかこれ取っちゃえばいいんじゃね?」
「ちょ、お前孔明かww」
「ふぃ、フィズたんの素顔…見ちゃってもいいのかな?」
「こ、これはwktkせざるをえない…!」
「じゃ、じゃあ…!」
「ひぁぅっ…だ、だめぇ…っ! それだけは…それだけは…ダメなんだから…だから…っ」
「嫌がるフィズたん…テラカワイスwww」
「でも取っちゃうもんねwww」
「やぁ……っ、お願い、許してえぇ…バイザーだけは…素顔は…ああ、ああっ、やらぁっ…!!」

伸びてくる手をかわそうとくなくなと頭を振る。
だが四肢を拘束されている状態ではそれも儚い抵抗でしかなく…インカムはゆっくりと引き離されていく。
隠されていたフィズの目元が、瞳が、睫がその下から現れだす。
そして…ついに『Fizz』最後の衣装が引き剥がされ、怪盗は素の身体を全て暴かれた。

「え…こ、この娘、アイドルの桃木志由だよ!?」
「本当だ! 僕ファンだから見間違えないし、間違いないよ!」
「てことは…フィズたんの正体は志由たんだったってことか?」
「ちょww アイドルが美少女怪盗ってそれなんてエロゲ?」

男たちは互いの顔と志由の顔を見ながら驚愕の事実に興奮する。
だが、その事実は次第に彼らにより一層の興奮を与えることになる。
何せ彼らのような人種にとっては桃木志由はリアルの女神だ。
それが目の前に裸で自分たち押さえつけられている…自分たちの手で感じている…
これほどの幸運と興奮があるだろうか。

「マジか…あの志由たんが裸で僕の目の前に…水着姿だって見たことないのに…」
「おいおい、志由たんじゃなくてフィズたんだろ?」
「好きなほうで呼べばいいんじゃね? とにかく、撮りまくれ! こんなチャンス、もう二度とない!」
「ひぁ…! や、やめてぇ…撮らないでぇ! 見ないでぇ…っ」

手がふさがれている以上、顔を隠すことは叶わない。
せめて、と顔をそらすもそれだけで隠れるはずもなく…志由の顔が、生まれたままの桃木志由が機器に記録されていく。


「も、もう見てるだけじゃ我慢できない! 俺は触る!」
「馬鹿! フィズたんを…志由たんをお前の汚い手で汚す気か!?」
「しかしそれが一番興奮するのも確かなわけで…」
「なら挿入しなけりゃいいんじゃね?」
「うむ、処女さえ守ればセーフだよな!」

少女を一種の偶像として見ていた男たちからすれば志由を犯すなどというのは論外だ。
アイドルは清らかだからこそアイドルであり…それを汚していいのは妄想の中だけ。
だが、目の前にご馳走があるというのに黙ってみるだけというのも耐えられない。
ゆえに彼らは妥協としてペッティングまではOKという結論を出す。
志由が処女かどうかは…彼らの決め付けに過ぎないが、これで操が汚されることはなくなった。
無論、志由は処女であり、そのこと自体にはほっとするが…それはなんの慰めにもならない。
餓えた狼と化した男たちの欲望の指と舌が次々と志由の肌へと伸び、侵食を開始する。

「あ…! やぁん…っ、うっ、はぁ…ッ!」
「うは、スベスベの肌っ!」
「おっぱい、ぷにぷにしてる! 乳首もちっちゃくて可愛いな」
「おま〇こ、なんかヒクヒクしてる…」
「や、やらぁ…さわら…さわらない、やぁぁう…れぇ…」

無遠慮な男たちの手に志由は翻弄されるがままだった。
ただでさえ媚薬ガス…そして絶頂直後と身体がこれ以上なく敏感になっているところに、無数の感触。
例え彼らの愛撫がつたないものでも、今の志由の身体には劇薬だ。
あまりの快感に息継ぎすら難しくなり、志由の口がパクパクと開く。
だがそれでも欲望の手は動きを止めず、少女の身体の隅々までを開拓するべく縦横無尽に駆け回る。
胸や股間といった敏感な部分は勿論、耳、うなじ、ふくらはぎ、指先、首筋、へそ…
露出しているありとあらゆる肌が蹂躙されていく。

「ひあぁぁぁぁぁ! ひぁっ! はうぅぅぅぅぅっ……!」

性経験のない志由の身体は間も空けずに二度目の絶頂へと押し上げられる。
しかししつこいまでの愛撫はそれでも止まない。
出遅れてしまい、志由の身体にありつけなかった男たちが肉棒をしごいているのが視界の隅に見える。
落ち着く間もなくやってくる快感に志由はもはや狂う寸前だ。

「こらぁっ!! そこで何をしている!?」

だが、志由の精神が崩壊しようとしていたその瞬間…野太い男の声が男たちを一喝する。
その声に慄いた男たちはショックで映像を収めた機材を落としてしまう。
彼らはそれを拾うことすらも忘れてダッと散り散りに駆け出す。
残されたのは虚ろな眼で地面に仰向けに倒れている志由のみ…

「志由!? しっかりして、志由!?」

野太い男の声が可愛らしい、聞きなれた相棒の声に変化したことに忘我の境で気がついたのか…
志由はどこか安心した表情で、ゆっくりと意識を失っていった。