「監禁と、暴行傷害! それが中村の容疑です! 暴行傷害はともかく、監禁は現行犯で行けます!」
「ああ、屋敷の敷地内に監禁だからな、言い逃れはできない!」
そう、屋敷内を走りながら叫び合う大山と涼人。
その走っている廊下には、気絶した警備員風の服装をした男がそこかしこに転がっていて。
その1人1人を確保するために警官隊を置いて行き、22人いた警官隊が、今では大山と涼人の2人だった。
「もう『レインボーキャット』は宝物庫に着いているはずです! 恐らく、中村もそこに!」
「急げば、二人纏めて逮捕出来るか!?」
「可能、かもしれません!」
そう言って、涼人は大山と一緒に宝物庫に飛び込み……、
そして、それを見た。
「食ら、えええええっ!」
「―――っ!」
凄まじい速度で交錯する中村とレインボーキャット。
その直後、レインボーキャットの左肩から血が噴き出して、レインボーキャットは膝を着き、
……次の瞬間、中村は仰向けに倒れた。
「はぁ……、はぁ……っ!」
荒い息を吐きながら、レインボーキャットは男の首にかかっていた『暁の羽』を奪い取り、
……その次の瞬間、大山と涼人がいる事に気付いた。
「っ!」
「逃がすか、―――っ!?」
慌てて身を翻したレインボーキャットを涼人は追いかけようとして、
……何故か急に凍り付いた。
それを幸いとして、レインボーキャットは窓をぶち破って庭に飛び降りるが、涼人はそれにすら気付かずに。
「……ま……さか……」
レインボーキャットが身を翻した瞬間、右手首に見えたブレスレット。
それに、白い花のような何かが見えた。ただそれだけ。
「……里緒……さん、なのか……?」
だが、それだけでも、涼人が疑いを抱くのには充分だった。
「里緒! 大丈夫ですの!?」
「……ごめん、ちょっとドジっちゃった」
血が滴り落ちる左肩を押さえながら戻って来た里緒に、一美は悲鳴を上げる。
メイドに急いで救急箱を持って来させると、一美は応急処置を始めた。
「ありがと、ね。一美」
「こんな怪我をなさるなんて……、一体何がありましたの?」
肩の手当てをしながらそう聞いて来る一美に、里緒は真剣な表情になって、口を開いた。
「……一美、動いたみたいだよ、『組織』が」
「っ! それは本当ですの!?」
そう言った里緒に、一美は声を上げる。
そんな一美に、里緒は頷いて、言った。
「今回、ね、ゴリラのおじさんとも、涼人君とも、最後にちょっと顔を合わせただけなんだ。
警察の人が締め出されてて、警備員みたいな人はいたんだけど、その警備員、何て言ったと思う?
……『最近俺達に兵糧攻め仕掛けてるのはお前か!』だって」
そう言った里緒に、一美は笑みを浮かべる。
「……ようやく、終わりが見えてきましたわね……」
「ふえ?」
そう呟くように言った一美に、里緒は首を傾げる。
そんな里緒に、一美は微笑みを浮かべたまま、口を開いた。
「あの『組織は、いままでどんな攻撃が来ても、その攻撃を受けた部分を切り捨てて生き延びて来ているらしいのですわ。
それが、動いた。つまり、切り捨てる部分がなくなったと考えていいのですわ。
と、言う事は、『組織』は今苦しい状況に立たされていると見るべきですわね。
それに、動いてくれれば動いてくれるだけ警察もしっぽが掴みやすくなる、と言う事ですわ」
そう言い切った一美に、里緒も表情を明るくした。
一方、警察病院では。
「まずは、あなたのお名前を教えていただけませんか?」
そう言った涼人に、その女性はおどおどとしたまま……、
爆弾を投下した。
「……あやめ……です。夏目 あやめと言います」
「なつ……っ!?」
「?」
その言葉を聞くなり、驚愕の表情を浮かべる涼人に、あやめはきょとんとする。
と、涼人はぶんぶん首を振って何とか立ち直ると、続けて口を開いた。
「す、すいません。それで……、どれくらい前からあそこにいたんですか?」
「……7年前、から……」
そう言われ、涼人はまた少し引き攣る。
しかし、もう一度立ち直ると、脇に控えていた警官の方を振り向き、言った。
「署に連絡して、7年前の事件、洗い出すようにと伝えてください」
「分かりました」
そう言って出て行く警官を見送ると、涼人はあやめに向き直り、携帯電話を取り出す。
その行動にきょとん、とするあやめを見て、涼人は口を開いた。
「最後に1つ質問です。……娘さん、いらっしゃいますか?」
「え!? ええ。多分、今17歳かと」
そう答えたあやめに、涼人は苦笑に近い笑みを浮かべて、言う。
「……その娘さんの名前、里緒って言いませんか?」
「!?」
その涼人の言葉を聞き、あやめは驚いたような表情で硬直した。
「……全く、携帯使える病室にして、正解だったね、これじゃ……。
えっと、小原さんでもスケープゴートに使えば、ばれないかな……?」
そう呟いて、涼人は携帯をかけ始めた。
「きゃっ!?」
手当てが終わり、里緒がキャットシーフの衣装から着替えていると。
突然携帯から着信メロディが流れ出し、里緒は飛び上がった。
「は、はい! 夏目です!」
『あ、里緒さん、高原です』
電話に出ると、かけてきたのは涼人で。
「り、涼人君!? な、ななななな、何か用!?」
もしやばれたのかと、里緒がこれ以上無い程慌てて聞くと、涼人は不思議そうな声で答えた。
『いや、ね。父さんの警察の後輩に小原さんって人がいるんだけど……、
さっきその人から電話がかかって来てね。里緒さんに伝えて欲しい事があるんだって』
「小原……さん?」
聞き覚えの無い人の名に、里緒が首を傾げていると。
『いい? 言うよ。『夏目 あやめと言う女性を保護しました、警察病院にいます』だって』
「―――っ!?」
そう涼人に言われ、里緒は言葉を失った。
『確かに、伝えたよ。……里緒さん?』
「……あ、う、うん、ありがとう! それじゃあね!」
心配するようにかけられた涼人の声に、里緒は我に返ると電話を切り、……その場に崩れ落ちた。
「……お母さん……、お母さん……っ!」
そのまま、しばらくの間、里緒は泣き崩れていた。