「……『組織』の公表、『レインボーキャット』の被害にあった盗難品が全て博物館に寄付……」
「そして、捜査本部から『レインボーキャット』の目的公表、か……。
この1週間は、『レインボーキャット』で報道が埋め尽くされましたね……」
そう呟き合う大山と小原。
すると、それを見ていた東川が2人に声を掛けた。
「……そう言えば……、高原君は何処に行った?」
「ああ、涼人なら、高校の文化祭ですよ」
「コスプレ喫茶、でしたっけ? それやるって言ってましたよ」
そう大山と小原に返され、東川は考え込む。
そして、にやりと笑って、口を開いた。
「……そうか。それじゃあ……行ってみるか! その文化祭に」
そう言われ、大山と小原は顔を見合わせ……、
にやり、と互いに笑みを浮かべた。
「……行くか」
「……行きますか」
そう言って、3人は席を立った。
……今日は、高校の文化祭の日。
……そして、対レインボーキャット対策本部の解散の日。
そして、それが意味する事は、涼人が日本にいる目的が消えたと言う事で。
「東川本部長。フランスから電報が……?」
やって来た事務員が、東川がいない事に首を傾げながら机の上に置いた電報。
そこには、フランス語でこう書かれていた。
高原涼人を、ICPOに返してくれと……。
「い、いらっしゃいませ、ご主人様……。ご注文がお決まりになりましたら、お呼びください……」
そう真っ赤になって言うと、そそくさと逃げ出した里緒。
それを見て、一美ははあ、と溜息を吐くと、里緒に対して口を開いた。
「……里緒……、もう少し何とかなりませんこと? あれと比べると露出は無いに等しいでしょう?」
「そ、それでも恥ずかしいよ……」
そう言う里緒が来ているのは、レインボーキャットと同じ全身タイツ。
本物より大分薄い生地のそのタイツの上に、メイド服のようにフリルが大量に付いていて。
「……さすがにアレ並に上手くやれとは言いませんけれど、もう少し何とか……」
そう言った一美が見詰める先には、
「いらっしゃいませ、My mistress. ご注文がお決まりになりましたら、何なりとお申し付けください」
そう言って頭を下げる執事姿の涼人がいた。
あのあと自分が警官だと言う事をクラス全員にばらし、警官姿じゃ仮装にならないと言い。
ならばと一美が作って来た執事の衣装が、神クラスに良く似合っていて。
「あーあ。あのお客さん、目からハートマークが飛んでますわよ……」
そう一美は呟いて、里緒の方を見やる。
すると、里緒は膨れっ面をしていて。
「……嫉妬ですの?」
「!?」
そう一美が耳元で囁いてやると、里緒は飛び上がる。
そのまま真っ赤になって、里緒はわたわた慌て出した。
「え、あの、ち、違、これは、その……」
「あらあら、もう恋人同士なんですし、恥ずかしがらなくてもいいんですのよ?」
そう、慌てふためく里緒を一美が思い切りからかっていると、
「……げっ!」
そう涼人の声がして、一美と里緒はそちらを振り向いた。
するとそこには、
「お、おいおい涼人。何て格好してるんだ」
「まあ……似合ってはいるけどね」
「そう……だな」
「お、大山のおじさん、小原さん、東川本部長まで……」
戸惑った風情の大山、小原、東川が立っていた。
「少しいいかね? 高原君」
「え……っと、いいですか!? 一美さん!」
そう東川に言われ、涼人は一美のいる方を振り向く。
一美が手で丸のサインを作ると、涼人は東川の方を振り向いた。
「……それで……、何ですか?」
そう涼人が聞くと、東川は口を開く。
「……今日、『レ』……いや、あの猫の対策本部が正式に解散になる」
「っ! そうですか……」
一般人がわんさかいる中で固有名詞を使うのを躊躇ったのか、一応伏せて言った東川。
それでも涼人は東川が何を言ったかに気付いて頷き……、
「……じゃあ、僕はそろそろパリに戻らなきゃいけませんね」
……そう、呟き、その瞬間、クラスの生徒達は全員凍り付いた。
「……そう、だな。元々あの猫対策にICPOから借りたんだからな」
「淋しくなるね……」
そう大山と小原も続け、小原は苦笑する。
「でもまあ、短い間とは言え、結構楽しめたでしょ? 青春」
「それはもう。……今も、楽しんでる最中ですよ!」
そう言って、涼人はにっこりと笑った。
その夜。
夜道を1人歩きながら、里緒は泣きそうになって呟く。
「……涼人君……」
文化祭の打ち上げで、話題となったのはやはり涼人の事で。
生徒の1人が放った「いつ帰るのか?」と言う質問の、涼人の答えが耳にこびりついていて。
「……あさっての、朝一……」
『もう、『帰って来い』って連絡が来てるらしいし』
とあっけらかん、と答えた涼人。
それは、物理的距離での里緒との別れを意味していて。
「パリなんて……遠すぎるよぉ……」
ぐすぐすと泣き続ける里緒。
しかも、
「見送りにも、行けないなんて……」
あさって、となると火曜日。
文化祭の翌日は代休があるが、火曜日となると代休明けで。
『見送りには、来ないでください。学校もありますし……、
何よりも、見送りに来てもらって、それで決心を鈍らせたくは無いので……』
そう言って苦笑していた涼人の姿が、頭から離れなくて。
「涼人……君……」
そのまま里緒が泣き続けていると。
「!?」
急に後ろから羽交い締めにされて、口にハンカチを押し付けられる。
しばらくの間里緒は手足をばたつかせていたが、やがて、ぐったりと動かなくなった……。