その時
「計算上ではこの辺りに逃げてきたはずだ…。」
聞き覚えのある声だ。何者かが倉庫に入ってきたらしい。
「な、南條刑事!?」
彼女にとっては最悪の展開であった。
倉庫から入ってきたのは南條守道その人だったのだ!
「確かにこの辺りに逃げた筈…。」
息を切らして走って来た南條は肩で息をしながら辺りを見回した。
「ぃゃ…だめ…こ、来ないで…。」
小さい喘ぎ声をあげながら後ずさる少女。だが…
「ん…?誰ですそこに居るのは!」
こんな状態で隠れられる訳も無かった。
あっという間に見つかり、詰め寄られてしまう。
「ハッ…?」
南條は息を飲んだ。
なにしろ目の前には制服を着た少女が着衣を乱され
泣き顔でうめきながら横たわっているのだ。
どうみてもただごとではない。一瞬思考回路がパニックを起こしかけたがすぐに冷静になり状況をつぶさに観察する。
目の前には着衣を乱され泣き顔の少女…人気の無い倉庫…これは間違いなく性犯罪に巻き込まれたに違いない。
彼はそう結論付けた。
「なんということだ…怖がる事はありません。私は警察官です。あの、お名前は…?」
「つ…月島櫻(つきしまさくら)…です。」
少女は途切れ途切れに答えた。南條が血眼になって追っている「血塗れの怪盗」ブラッディレイの正体であるという
身の上を考えれば偽名で誤魔化すべきだったのだろうが今の少女…もとい、櫻にはそこまでの余裕が無かった。
「とにかくこのままにはしておけない。こんな子に酷い真似を…
連絡しようにも携帯電話が無いのでは…。といって放って置くというのもなあ…。」
慌てる南條。彼はブラッディレイともみ合う最中に携帯を落してしまったらしい。
「はぁ…はぁ…あぁん!」
彼がモタモタしている間にも櫻の体に食い込んだ媚薬は彼女を苛み続けた。
このままでは、不味い…。もし調べられでもすれば自分がブラッディレイである事がバレてしまうかもしれない。
劣情に流されつつも桜は焦っていた。しかし、その焦りすら
今の彼女には快感を加速させる材料にしかならなかったのである。
その時…
「きゅうんっ!?はあ…はあ…。」
心臓がトクンと鳴り、視界が一瞬赤く染まった。同時に息が荒くなり
目が一瞬見開かれ、次いで素の彼女とも、ブラッディレイの時の彼女とも違う淫蕩な目つきへと変わっていく。
今まで恐怖の対象だった南條が彼女の中で内に渦巻く欲望をぶつける対象へと変わった瞬間であった。ぺろりと
唇を舐めるとやっくりと体を起こす。櫻達吸血鬼はもともと欲望を理性で抑える事が基本的に出来ないようになっている。
吸血鬼という種族の性格上嫌がる相手に無理やり襲い掛かって血を吸うなんて事も多々ある訳で
そんな状況で理性なんてものは
邪魔にしかならないからだ。しかし今の場合はちと様子が違った。
すなわち同じ欲望でも今彼女が南條にぶつけようとしているのは
血を吸いたいという欲ではなく性欲なのである。
「あの、答えづらければ別にかまわないのですが、誰に…何をされてしまったのですか?うっ…?」
「別に…何もされていないわよ。で・も。これからあなたに滅茶苦茶にされちゃうかも。くふぅ…ん…」
櫻の方に向き直った南條をいきなり押し倒し、顔を近づける!
ちゅう…ちゅぷ…ちゅっ…。
いきなり唇を奪う濃厚な、ただ相手をほしいままにする口付け。南條は唐突な行動に何の反応も返す事が出来ない。
「ふぅっ…。」
次いで、自分の体に注入された媚薬の成分を多分に含んだ甘い吐息を吹き付ける櫻。
「ああっ…」
南條の思考回路に靄がかかり、代わりに本能が燃え上がり始めた。下半身に凄まじい勢いで血が流れ込むのが判る。
「こんなになってる…。」
櫻がズボンの上から岐立をすっ…となぞった。唇を離すと体を後ろへずらし、股の間に蹲るような態勢になり
ちぃぃぃぃい…。
淫らな微笑みを浮かべながらファスナーを咥えて下へ降ろす。
そしてそこからまるで白魚を思わせる細い腕をそっと入れると、なにやら弄りだし始めた。
程なくして本人の意思を無視して巨大化し、そそりたったペニスが顔を出す。
「な、なにを…や、やめてくだ…。」
きゅっ…
「大きい…それに、熱い」
ペニスを掴むとしゅりしゅりと擦りだす櫻。
南條はその心地よい刺激に身じろぎ一つ出来ない。
「はあ…はああああ…あ…あなた…一体何を…ううぅ」
にちゅっ…にちゅっ…にちゃ…。こすこす。
「ふふ…汁が出てきましたよ。…変な臭い…。」
ちゅっ…。
「ああっ!」
櫻が南條のペニスに口付けた。途端に彼の体が快感に耐え切れず、跳ね上がる。
ちゅう…じゅぷっ…ちゅっ…。
そのままペニスにしゃぶりつき、喉の奥で擦ったかと思うと、舌の先でなぞったりと間断無く攻め続ける。
無論桜はこんな行為については経験が殆ど無いから拙くもあるがそれでもかなりの刺激だ。
「ああっ…ああっ…あっ!」
ドプッ!
たまらず白濁液を噴出させてしまう南條。
「いっぱい出た…熱くって、トロトロしてるの…。もっと…もっとぉ…」
「うう…うう…」
顔を紅潮させて向かってくる櫻に対抗できずされるがままになる南條。
それから数十分が経過し…。
「もっと…もっとぉ…。」
顔中精液まみれにしながらなおも南條にのしかかる桜。
もはや何回射精させられたか数え切れなかった。
「まだ挿れてもいないのに萎えちゃやですよぉ〜。」
「や…やめろ…やめろ…ブラッディレイ…。つかまえてやる…」
「!!」
突然南條の口から漏れた言葉に体を震わせる櫻。南條にしてみればこれは単なるうわ言で
桜の正体をブラッディレイだと見破っての事ではない。
だがそれでも櫻にとっては正気に立ち返るに十分な衝撃だった。
瞳に徐々に光が戻っていき、そして…。
「きゃあああああああああっ!?なんなのよこれえっ!」
叫び声とともになかば白目を剥いている南條を置き去りにして櫻は去っていった。
その頃…雑踏の影…剣崎雅人がよろよろと歩いていた。彼の行く手には古びた廃工場が有る。
「また…逃げられちまったか。何やってんだろう。俺…。みんなを食わせなきゃならないのに、
食わせてもらってばっかりで…。」
翌日…月曜日の午後五時ごろ。
「何浮かない顔してんのよ櫻。私立大学に推薦で行ける事になってる癖にそんな顔してるとそれこそみんなに殺されるわよ!」
「あ…ごめんね榛名。」
「なによ…ひょっとして本当に調子悪いとか?」
「あ…いや、そうじゃないんだけど…。」
大岩区でも有数の進学校「県立緑川高校」から一斉に生徒が吐き出されていく。
その中に卒業を間近に控えたこの高校の三年生・月島櫻の姿もあった。
彼女の傍らで賑やかに喋っているのは彼女の親友の「相模榛名(さがみはるな)」である。
昨日家に逃げ帰ってきてから彼女は一睡も出来ていなかったのだ。
自分の正体が南條にばれてしまったのではないか?それに自分からあんな事をしてしまうなんて…。
とても寝るどころの話ではない。思えばあの時怪盗を志して以来こんな事は始めてだ。あれは数年前…。
元々吸血鬼としてそれほど秀でた一族ではなかった…というよりも。
その能力をかなり薄れさせしまっていた下級な種族の家系に生まれはしたが
幸せに暮らしていた彼女が突如として親を失ったのだ。とある爆発事故…いや、正確には事故ではない。
なぜならばこれは仕組まれたものだったのだ。発端は外宇宙より数十年前に
齎された隕石だった。その隕石には不思議な力があった。
手の加えようによってはこの世の何にも勝る動力源にも、人間の遺伝子を
組み替える特殊な波動を発生させる装置にも。
あるいは核にも劣らない破壊力を持つ爆弾にも化ける。彼女の親はその隕石を
吸血鬼という種の進歩と自分達の地位の向上に
利用しようとし、同じく隕石を利用して世界掌握をもくろむ
「組織」に抹殺された。そしてその組織は「何か」の
エネルギー源としてその隕石を使う事を考え、一メートルほどの
塊だった隕石を何十個にも分解し、よりエネルギー源として適した宝石状の物質に作り変えた。
それが「クリスタル」なのである。
櫻は父親が残した、「クリスタル」の破片を加工した「吸血鬼としての血を
極限まで活性化するシステム」を使い、
自分の姿形を変えて組織がその拠点をおく日本の各地に保管されたクリスタルを盗むという形で
組織の活動を妨害し始めた。
つまりその姿形をかえた姿が“血塗れの怪盗”ブラッディレイという訳だ。
「はあ…。」
いつからか彼女を追い始めたあの若い刑事…それが南條だった。
しかしまさか彼とこんな事になってしまうなんて思っても見なかった。
一体自分はどうなってしまうのだろうか?そう考えると櫻は泣きたくなった。
しかしこの時彼女以上に悩んでいたのが…。
「はあ…」
大岩署で脂汗をかきまくっている南條であった。
自分がまさかあんな事をしてしまうなんて。これでは獣以下ではないか。
実際の所彼に責任は余り無いのだがそれでも彼は猛烈に自分を攻めた。
まあこういう犯罪の場合得てして男の方に責任があるものだし
こう思い込むのは仕方ないのだろうが。実際彼は自分を責めるあまり
自殺まで考えるほど追い込まれていたのだ。
「おい博也!何故お父さんの電話になかなか出ないんだ!」
「しつこいなあ…おたく少し考えすぎなんじゃないの?俺は俺。おたくはおたくさ…。父子関係なんて関係ないねぇ。」
傍らでは大岩署の刑事課を取り仕切る徹将課長が現在不仲にある息子「最刃博也(さいばひろや)」と
電話で口論をしている。
徹将は腰がどうも引き気味で反対に博也は高圧的だ。
「なんてことを言うんだ!」
「正直な気持ちを言ったまでさ。丁度いい機会だからはっきり言おう。俺はもう人生の安定だとか高収入だとか
に拘って生きてくのは御免だ。来る日も来る日もやれテストだ模試だと息つく暇もありゃしない。俺はもう御免なんだよ!」
「待て!切るな博也!おいロディマスコンボイ!切るな〜!」
「親父の癖に息子を学校の仇名で呼ぶんじゃねえよ!プツッ」
にべもなく電話が切られ、頭を抱える徹将。鬼の課長と呼ばれる面影まるでナシだ。
さらに隣の部屋からは
「KA☆WA☆RE!ヘッドマ・ス・ターーーーーッ!KI☆RA☆ME☆KE!ヘッドマ・ス・ターーーーッ!」
付けっぱなしになっているテレビにこれまた流されっぱなしになっている大昔のテレビアニメのビデオが
五月蝿くがなりたてていた。どうやらOP曲らしい。
それらはよりいっそう南條を欝な気分にさせていた。
「はあ…。」
彼は力なくため息をついた。