研究所の裏庭。

「このAK101型アサルトライフルを見て見ろよ。簡単に整備できてタフで無駄の無い名銃だ。すげえだろ。」

黒光りするイズマッシュ・AK101型小銃を仲間に見せ付けて言う見せ付ける組織の戦闘員。

「それ言うならこのL85だってイギリス軍が採用したライフルだぜ?あれ…。弾倉が上手くはまらねえぞ。」

その同僚が同じく整備していたイギリス軍の「L85」型小銃を見せ付けようとするが
そんな彼の手の中でしっかりとはめ込まれていたはずのL85の弾倉は力なく地面に落ちた。

「ちょwwwwL85って欠陥品だろw。ロシアで作られたこのAK101は例えどんな
極寒の地でも使える代物。そんな欠陥品なんかと比べられるかい。」

それを見て哂う戦闘員。(L85はイギリス軍に1985年に配備されて以来様々なトラブルを起こし使い物にならないと酷評されている。)
そして改めて彼がAK101の自慢を再開し始めようとしたその時!

ピキッ…。

「なぬっ…?」

唐突に彼が手にしていたAK101はまるで液体窒素をかけられたバナナよろしく凍りついてしまったではないか。
さらに、特に意識していなかった彼らにもそれと判る勢いで気温がグングンと下がっていく。
それに気が付いた時には既に彼らの体は言う事を聞かなくなっていた。

「一体なにが…あ…あ…。」

どさりという音とともに倒れ伏し、真っ青な顔で動かなくなる戦闘員達。

「ほんのちょっと熱を奪ってあげただけでこの様、か…。呆気ないものね…。」
累々と折り重なって倒れる戦闘員達の真ん中にアイスヴィーナスがゆっくりと降り立った。
そして研究所内部。
フッ…。

「電気が消えたぞ。」

突然部屋の電気が消え、いきりたつ戦闘員達。

「怪盗が現れる時は電気が消えるのがお約束ってモンだ。全員配置に付け!」

北側が手下にハッパをかけた。が…。


「…悪りぃ。PSP充電しようとしたらブレーカー落ちちった。」

部屋の隅から遠慮がちな声があがった。

「研究施設なのに携帯ゲームの充電でブレーカー落ちるってどんだけだよ。」
「施設代がだいぶケチられているからなあ…。しわ寄せが電気代の許容量に…」

そんな野次があちらこちらから飛ぶ。

「さっさとブレーカーを戻せ!」

堀内新がイラ付いた口調で言ったが…その時!

「うわっ…?ブレーカーが凍り付いていやがる。」

戦闘員が頓狂な声を挙げた。そして次の瞬間…。

「ぐえっ…。」

鈍い音と何かが床に転がる音。そして突然何処からか差し込む青白い光。
その光が照らし出す先には

「奴だ!アイスヴィーナスだっ!」

拓が叫んだ。

「ご名答!でも…気づくのが遅い!」

アイスヴィーナスは叫ぶと脇へ飛びのいた。
その瞬間雨あられと戦闘員達が手にするAK101から放たれた5.56ミリ弾が彼女の居た場所へと降り注ぐ。
炸裂音とともに辺りに白煙が立ち込めた。

「何んだっ?」
「はあああっっ!」

思わず顔をしかめる拓。
見ればアイスミラージュの手にはどこから取り出したのかちょうど“雪の結晶”を立体化したような物が握られている。
そのうちの一個が目にも留まらない速さで必死に彼女を狙い撃とうとしている戦闘員の足元へアンダースローで
投げ込まれた。と、白い煙を出して破裂。

「うううっ…」

戦闘員がうめき声とともに真っ青な顔で倒れ伏す。

「何っ?」
「それは破裂すると周囲の熱を根こそぎ奪っちゃう私からのプレゼントよ。
せいぜい暖かくしておいてあげなさい。衰弱死でもされたらさすがに心苦しいしね。」


ウインクしながら言うアイスヴィーナスと

「おのれ…なんて残虐な兵器だ!間違いなく“STARTU”条約に違反しているぞ!この戦犯め!」

AK101をぶっ放しながら叫ぶ拓。

「戦略兵器削減条約とどういう関係があるのよ。というかライフルを問答無用でぶっ放してる人がそれを言う?」
「おのれ!ネガベイター1には近づけさせるな」

ライフルの射線を軽口を叩きながら軽く交わし、巨大な広間の中央に鎮座した「ネガベイター1」へと悠々と
歩み寄ると、ネガベイターの車体に接続されている端末に収まっている“クリスタル”を易々と
盗み取るアイスヴィーナス。

「あんな簡単に盗まれていいのか?」
「勿論よくはないさ。まあ俺に任せておけ。全て予測通りだ…ポチっとな。」

鼻息荒くAK101のマガジンを交換しつつ叫ぶ北側。
しかしこのときまでモーションを起こさなかった堀内新は余裕しゃくしゃくな顔で言ってのけると
手元のスイッチを押した。

「何?」

突然の物音にいぶかるアイスヴィーナス。
ふと上を見れば…

「きゃっ!?」

金属…恐らくは鉄で出来た長い棒や一辺あたり2メートルはあろうかという巨大な
板が吹き抜けになっている建物の天井から雨あられと降ってくるではないか。
思わず目を瞑るアイスヴィーナス。

「おい!あれでは死んでしまうじゃないか!」
「いいから黙って見てな!」

次々と轟音とともに落下する鉄棒&鉄板。
辺りに床下の素材が散乱し、立ち込めた。アイスヴィーナスもこれでは助かるまい。
数瞬ののちには無惨に圧死した姿が晒されるだろうと誰もが確信した。が…。

「うおおおおおっ!?」

暗闇の中から現れたのは檻の中に囚われたアイスヴィーナス。


なんと落下しつつ無数の鉄板と鉄棒が組みあがって檻と化し、彼女を捕縛したというわけだ。

「組織のテクノロジーを舐めて貰っては困るわいや!!」
「なんで急に明石弁なんだよ堀内。しかしこれは優れものだな。」

ガッツポーズで叫ぶ堀内を嗜めつつ素直に驚く北側。

「これはとある組織の協力者の世界的なコレクターでチャムリーとかいう奴から貰った物でな。
まあムカつく爺だが面白い玩具だ。変形金剛の世界ではこれでも控えめな代物だけどな。」

「ボス。警察が来てますが。どうやら嗅ぎ付けられたようです。」

済ました顔で言う堀内に部下が耳打ちした。

「何?ニセの住所を教えたはずなのに…。まあいい、俺と北側が行くからお前ここでこいつを見張ってろ。
残りの奴は伸びてる奴をどっか適当なところに連れていって水でもぶっかけてやれ。」

舌打ちしてそういい残すと早くも部屋を後にし始める堀内。

「しかし…そうするとこいつを見張ってるのが俺一人になりますが?」
「牢屋に入ってるのを見張るくらい犬だって出来るだろうが!十分くらいで戻る。」

背中ごしにそう言うと堀内はそそくさと部屋を後にした。

「捕まえる時はあんなに熱中してた癖に飽きっぽいんだから…。」

ライフルを押し付けられてため息を付く戦闘員。

「県立高校の入試の時にインフルエンザにかかりさえせず
滑り止めの私立高校に提出する願書をドブに落とさなければ
中卒扱いされてこんな阿漕な組織に入る事も無かったのに。いやそもそも…」

両手を後頭部に持っていきながら彼は呟きはじめた。

「ねえ、そこのあなた…。」
「やっぱり一年遅れでもいいから高校に入っておくべきだった。
とーちゃんと喧嘩して家出したのも軽率だったな。あれからもう3年か…。」
「ねえってばあ…。」

艶っぽい声に振り向く戦闘員。

「な、何だお前!おい、大人しくしてろ!」

檻の中から流し目を送るアイスヴィーナスにライフルを突きつける戦闘員。



「そろそろここから出して欲しいんですけど。」
「…な、何を言ってるんだお前!自分の立場がわかってるのか!」

戦闘員はおびえ気味に叫んだ。

「出してくれないの〜?だったらいいけどね。さてと…取り出したりますは何の変哲も無い氷の塊。
しかしこうして…」

何処からか取り出した氷の塊を弄びつつ檻の鍵穴へと持っていくアイスヴィーナス。

「ほんのちょっとしたおまじないを唱えると…ほら、あっというまに水滴になっちゃいました。」

彼女の指の先でみるみるうちに氷が溶け、水の塊になった。とこうなればもはや形を保っていられず
物理的な常識から言っても重力に従って床へと零れ落ちるはずだ。ところが直径数センチほどの球体となった
水の塊はまるで飼いならされた小鳥の如くアイスヴィーナスの手から離れない。常識を超えた身体能力を
発揮し、ほんのちょっとした暗がりさえあればそれを介して完全な
隠密行動をとることが出来るブラッディレイと同じくどうやらこのアイスヴィーナスにも
何か超自然的な力が味方しているらしかった。

「さて皆様ご存知の通り水には形がありません。そこで
こうやって鍵穴に流し込んでそして改めて固体である氷の姿に戻すと…。」

女怪盗の言葉に従うように水の球体は鍵穴に流れ込み、再び音もなく凍りついた。

「ほらこの通り。どんな複雑な鍵だろうと合鍵が作れちゃう訳です。」
「な…。」

戦闘員が何のモーションもとれない間にアイスヴィーナスは檻を脱出してみせたのだ…。
反射的にAK101を構える戦闘員。しかし…。

「あれ?撃っていいの?それで撃ったら暴発しちゃうんじゃないのかな〜。」
「銃口が…そんな…一体何がどうなって…。」

AK101の銃口は氷によって完全に塞がれていた。

「そんな…一体どうなって…はっ?い…いな…あっ!」

銃口から視線を戻した時、彼の視界から怪盗の姿は消えていた。
跡形も無く…。
いや、消えた訳ではなかった。

「うあっ…」

ふいに背中にかんじる柔らかいものとすべすべした布…豊満な乳房と怪盗のコスチュームの感触。



「……今からでも遅くないから、あなた、組織を抜けなさい。さっきの話と
今の私に対しての反応を見る限りあなたは悪い人には向いて無いわよ。おねーさんとのお・や・く・そ・く♪・いいわね?」

背後から戦闘員を抱きすくめて息がかかるほどの距離で妖艶に囁くアイスヴィーナス。
まだ高校生とさして変わらない年の戦闘員は顔を赤くして、無言でコクコクと人形のように頷いた。

「そう…いい子ね。それじゃ、おやすみ。」

首筋に体温を奪う口付けを施し、戦闘員が気を失うのを見届けるとアイスヴィーナスは
端末に接続されたままのクリスタルを奪い取ると
去っていった。
少し経って、研究所の周辺の空き地。

「あーあ。何だかなあ。」

お目当てのものは手に入ったのにアイスヴィーナスは不満そうな顔をしていた。
いつもならこうして仕事を終えれば平時の「厳格な非常勤な剣道の講師」という
仮面を被って暮らしているフラストレーションを纏めて吹き飛ばせるほどにスッキリするのに
今日に限ってなんともいえぬ欲求不満が残っていたのだ。

「あっ!」

ハタと気が付いた。いつもいつも自分にしつこいほど追いすがってくるあのミュータントの
少年が今日に限っていないのだ。

「ちぇー…。」

原因に気が付くとなおさら体がウズウズする。相手をしている時は意識していなかったが
自分はあの少年にひょっとすると惹かれていたのだろうか。

「…オナニーでもしてっちゃおうかなあ。」

すぐ近くにある人気の無い公園を見回してとんでもない事をさらりと呟くアイスヴィーナス。
しかもこの時点でみちみち不良がかった中学生でも現れたら逆レイプしてやろうとまで考えているのだから恐ろしい。
まあ彼女の「出自」を考えればこういう発言もせんない事なのだが。
そのとき!

「これでバイトは…全部終了か。」

疲れきった声で何者かが空き地の中に入ってきた。
すかさず身を隠すアイスヴィーナスだったが
その何者かこそ彼女を苛む欲求不満の原因…剣崎雅人ではないか。
彼は仲間が掛け持ちしていたバイトをへとへとになりつつこなし、やっと戻ってきて
一息つこうとしていたところだったのだ。

「…そ、そこに居る奴…誰だ!出て来い!」


彼がアイスヴィーナスの気配に気づいたそのとき!

「出てこいも糞もっ…。」
「なっ…お前はアイスヴィーナス!」

予期せぬ相手に動揺したという要因もあればこそ媚薬が装填された毒針を向けられる暇もなく
アイスヴィーナスは彼の懐に飛びこみ、押し倒した。もう、我慢の限界だった。

「一体何処に行ってた訳?。あなたがいなかったおかげで私はっ…。」
「な、何言ってるんだ。俺がいないならむしろ仕事がはかどるだろうが。
今日は都合が悪かったんだよ。」

目を潤ませて言う面くらいながら言い返す雅人。
「…君、何も判っていないのね。ま、いいわ。そっちが飽くまで私を
懸賞金の対象として見ていないというのなら私にも考えがあるから。
あなたが悪いんだからねっ!」
「何言っ…うむっ?」

ちゅう…れろ、ちゅっちゅっ…。

突然の熱いディープキス。甘い息が雅人の肺に流れ込んだ。

「硬くなってるわよ…。」

雅人の股間をなぞり上げて言うアイスヴィーナス。

「ぷはっ…お前、何のつも…。」

顔を真っ赤にして言う雅人。

「こういうつもりよ。ふふっ…あなたもミュータントと呼ばれるくらいなら私が
普通の人間じゃあないって事ぐらいには気が付いてたわよね?
出自を明かすと対策立てられちゃうからなるべく教えないようにしてるんだけど
特別に教えてあげちゃう。私はね…雪女の母親と、セイレーンの父親から生まれた…
ハイブリッドなのよ。女ったらしのパパにまるで愛想の無いママだったし
夫婦仲もはっきいってあんまりよろしくなかったけどいろいろと
面白い力をもらえたのよね…。たとえば…」

ちゅっ…

「ううっ…?力が抜ける。」

再び、今度は軽めのキス。雅人は体から力が抜けていく感触を覚えた。

「これは雪女の能力でね…対象から精力や熱を抜き取って動けなくしちゃうって訳。そして私はセイレーンの血も入ってるのよね。
セイレーンって知ってるでしょう?海の中に漁師とか船乗りを引き擦り込んでえっちな悪戯をする淫魔みたいな妖怪。
ふふっ…だから私は、こうして君を動けなくした後好きに出来ちゃうって訳。それこそ煮るなり、焼くなり、ね…。」

言い終わるなりすっかり大人しくなった雅人のズボンのジッパーを引きずりおろし、怒張しつつあるペニスを口に含む。


「ああっ…?」

雅人の表情が彼が時々行う拙い自慰など
比べるべくもない淫魔の口淫によってもたらされる快楽に歪む。

「ふむっ…はむっ…ちゅるんっ。あははっ…もう、カチカチ…。」
「お、お前…何で俺にいきなりこんな事を。」

快楽に喘ぎつつなんとか疑問を口にする雅人。

「まだそれを言う〜?鈍感なんだからっ…。そんなコには…。」

ペニスから口を離して膨らませ、雅人を睨むアイスヴィーナス。

「お仕置きっ…。」
「ううううっ…!?」

しゅっ…しゅっ…にちゃっ。
幹の部分は力強く、敏感な亀頭は緩やかにと
緩急を付けて雅人のペニスを扱きあげる!
その手腕に当の彼は翻弄されるばっかりだ。

「あははっ…とりあえず一回イッておこうか。はむっ…」

れろれろ…ちゅううっ…れろれろっ。
改めてペニスに口を近づけると裏筋を2、3度舐めあげ、
一気にバキュームフェラを加えるアイスヴィーナス。
女怪盗の熾烈かつ凄まじい性技に雅人はまるで対抗できなかった。
物凄い勢いで熱いものがこみ上げてくるのを感じる。

「う…ああっ!」

どくっどくっ…どくん!

「あはぁ…いっぱい射精(で)たぁ…。」
白い精液が迸り、女怪盗の白い肌と水色の髪を汚した。

「うぁ…はぁ…。」

初めての他人の手を借りての射精と猛烈な快感に呆然とする雅人。


顔中に付いた精液を舐め取ると、改めて雅人の唇を奪うアイスヴィーナス。

「どうしたの…まだ“本番”はこれからだよ…。」

耳元で囁いたそのとき。

「ちぇっ…。」

耳障りなパトカーのサイレンの音が響いてくる。
恐らくは彼女を追ってきたものだろう。

「どうやらこれでお預けみたいね…。正直まだ物足りないんだけどなあ…。よーし、じゃあこうしましょう?
私を捕まえたら…今の続きをしてあげる。だから…これからは何が有っても私と…その…
私と…と、とにかくっ!ちゃんと出てきてくれなきゃ嫌だからね!
君は私の事を賞金首くらいにしか思って無くても…私は結構本気なんだからっ…!」

未だにボーッしている雅人に徐々に大きくなるサイレンの音をバックにそういい残すと
アイスヴィーナスはいずこかへと去っていった。

「漫画じゃあるまいし…全く悪いジョークだよ…。てか本気って何のこったい。」

やっと我に返った雅人はそれを見送りつつ蟲惑的な女怪盗の肉体の感触と
ごく短時間だったがこれまでの彼の人生と呼ぶにはあまりにおこがましい
ものの中でも間違いなく至上最高であり、初めて味わった快楽に思いを馳せつつひとりごちた。