4月1日午前3時
   朝香家の家宝をいただきに参ります。

                 怪盗ラヴィ






 怪盗ラヴィからの予告状が送られたのはたった5時間前の3月31日の午後10時という時間だった。
これを受けて、マスコミ各社は急遽朝刊の一面記事を差し替える準備をし始めた。怪盗ラヴィが
盗みが成功させるか失敗するかは、いまや日本国民の注目の的となっていたのだった。
 加えて、朝香家といえば旧皇族の家柄。すばらしい建物や調度品は、都の美術館として展示
されていることでも知られている。その朝香家の家宝を盗み出すとあって、22時台のニュースでは
怪盗ラヴィの今までの活躍を復習していた。






「お兄ちゃん。やっぱりラヴィのとこに行っちゃうの?」
 気まずいのか、急いで制服に袖を通しながら小さく「ああ」と答えたのは、まだ若い刑事だった。
「毎年0時に誕生日祝ってくれてたじゃん」
 駄々をこねているのは、10歳は年が離れていそうな少女。4月1日に生まれ、卯月の“卯”と十二支
の“卯”をかけて“うさこ”と名付けれらた。その名付け親は既に他界し、今では兄と一緒に暮らして
いる。しかし、最近では兄も忙しいらしく帰ってこれない日も度々あった。
それでも誕生日だけは毎年祝ってくれていたのに……。
「ごめんよ。帰ってきたら一緒にケーキを食べよう」
 あたしの頭をなでながらそう言うと、お兄ちゃんは急いで家を飛び出した。

「いつもいつもラヴィのことばかり。……お兄ちゃんのバカ」






 午前2時40分。雨がしとしとと降る港区白金台の美術館。緊迫な空気に包まれる旧白金御料地の
森で配置につくのは数多くの警官たち。その中にうさこの兄も含まれた。
 それを遠くから眺めるのは一人の少女。きわどい格好に身を包んだ怪盗ラヴィ――ではない。
年相応の格好のうさこだった。
「あたしよりラヴィの方が大事なお兄ちゃんなんか風邪ひいちゃえばいいんだ」
 そう呟くと、盗みに入ることなくうさこは踵を返した。






『怪盗ラヴィ エイプリルフールか!?』
 でかでかとそう書かれた新聞を机に置くと、うさこは風邪で寝込んでいる兄の部屋に向かった。
4月に入ったとはいえ、夜はまだ冷える。加えて昨夜の雨だ。雨合羽を着ながら、ラヴィが来るかも
しれないと朝まで警備していたのだから風邪をひくのもしょうがないというものだ。

「ほんと……バカなんだから」
 そう呟いて、タオルを代えていると意識を取り戻したらしい。
「ん……うさこ。……お誕生日おめで、とう……」



「…………バカはあたしだ」



「ごめんなさい」



涙がこぼれそうなのを隠しながら、うさこは自分の部屋に戻るのだった。