とある日の鬼哭村、深夜の事。
離れで眠っていた雹は、人の気配を感じて目を覚ました。
(…このような時刻に、一体誰なのじゃ…比良坂か? それとも…)
上体を起こし、様子を伺う。
念の為ちらりと横を確認すると、ガンリュウを操る糸はいつもと同じく、すぐ傍にある。
気配は徐々に雹の寝床まで近づいてきていた。
「誰じゃ?」
雹が声をかけるのとほぼ同時に、人影が滑るように部屋に入ってきた。
「…龍様?」
入ってきたのは、緋勇龍斗だった。
「龍様、このような時間に一体…」
龍斗は雹の問いかけには答えず、雹の隣に腰を下ろした。
反射的に身を引こうとした雹の腕を捕らえて引き寄せ、そのまま口づける。
「んんッ…た、龍様、何を…」
雹は、龍斗が何をしようとしているのかを悟り、何とか逃れようと身を捩る。
しかし龍斗の腕は、雹をしっかりと抱えたまま少しも動かない。
「龍様、やめてたもれ…お願いじゃ…」
龍斗は雹の訴えなど聞こえていないかのように、雹を布団の上に横たえた。
雹の寝間着をそっとはだけて手を差し入れ、首筋に舌を這わせる。
その瞬間、雹の頭に以前幕府に村を滅ぼされた時の光景が甦った。
「…嫌じゃッ、やめて…ッ!!」
次々と斬られていく村人。鈍く光る血塗れの白刃。
燃え上がる村。人々の叫び声、狂ったような哄笑。
自分を押さえつけて、それを上から見下して下卑た笑いを浮かべていた幕府の連中。
それらに触発されて、雹は龍斗を思い切り突き飛ばした。
「…龍様、済まぬ…」
思いがけない出来事に尻餅をついた龍斗に詫びる。
「駄目なのじゃ…。龍様が奴等と違う事は頭で分かっておる。でも駄目なのじゃ…」
雹の目から、涙が溢れた。
「どうしても、あの時の事が頭から離れぬ…、どうしても、思い出してしまう…。怖いのじゃ、龍様…」
そう言って、泣き出した雹を龍斗はそっと抱きしめ、子供をあやすように手触りの良い黒髪を撫でた。
「………」
耳元で、優しい言葉を囁く。
暫くして、落ち着いた雹が口を開いた。
「龍様…もう一度、その…わらわを抱いては…くれまいか…。」
少し驚いたような顔をする龍斗に、雹は赤面しながら続けた。
「怖いからと言って、いつまでも逃げ続けるわけには行かぬ…。
それに、折角来てくれた龍様にも申し訳が立たぬし…それに龍様となら…その…。」
龍斗はそんな雹を見て少し笑うと、雹の頬を両手で包むとさっきよりも深く口づけた。
「んっ…うぅ…」
雹の口から、絡んだ唾液と吐息が漏れる。
龍斗は壊れ物を扱うかのように丁寧に、優しく雹の身体に触れていった。
元々白い雹の身体が徐々に薄桃色に染まっていく。
雹は何かに耐えているかのように、顔をそむけて布団を握り締めている。
白い布団の上に、雹の長い黒髪が波打つ水のように広がった。
「あぁッ…た、龍様…」
龍斗の手が下腹部に伸びた時、雹は堪え切れずに声を上げた。
龍斗は、雹の秘部が十分潤っていることを確認すると、己自身をあてがい、一気に貫いた。
「……ッ!」
雹の身体がびくり、と反り返った。
龍斗は雹の身体をもっと貪りたいと思う欲求を抑えて、ゆっくりと身体を前後させる。
部屋に淫靡な音と声が響く。
「あ…はあッ…あぅッ…」
雹は、ふと何かを掴もうとするかのように片手を上げた。
龍斗はその手を捕らえて、指を口に含んで弄ぶ。
「うぅッ…龍様…わ、わらわはもう…ふぁっ…」
その雹の声を聞き、龍斗は律動を早めた。
龍斗と雹の手が繋がり、雹のか細い足が布団を擦る。
「ああ…龍様、龍様ッ…!」
雹のひときわ高い嬌声と共に、龍斗は雹の中に精を放った。
それと同時に、雹は意識を手放した。
それから暫くして雹が目を覚ますと、龍斗が自分を抱きしめたままあどけない寝顔で眠っていた。
雹は、その胸に顔を埋めると、自分の腕も龍斗の背中に絡めて呟いた。
「…龍様…ありがとう…」
雹はそのまま、再び穏やかな眠りに身を任せた。