部活が終わった後、僕はひとり居残り練習をしていた。
誰も居なくなった弓道場で黙々と矢を射つ。
数をこなしたからといってすぐ上達することじゃないということは分かっている。
それでも、今日はとにかく矢を射ちたい気分だった。
最近、どうも先輩達に差をつけられている気がするんだ。
僕だってそれなりに上達している実感はあるんだけど・・・・・・・。
「ふぅ・・・・・・」
どうも集中できていない。
的の方を見てまたため息をついた、射った矢はそれなりに当たってはいるが酷くまばらだ。
やっぱり、半端な気持ちで射った矢は半端にしか当たらない。
今日はこれ以上やっても無駄かもしれないな・・・・・。
「もう帰ろうかな」
そう呟いた時、ふと入り口の方から声が聞こえてきた。
「いたいた、なんだ、ここにいたのか」
「まだ道着着てるぜ」
「へっ、そいつはいい、楽しめそうだ」
声のする方に目を向けると、数人の男子達が弓道場に入ってくるのが見えた。
男子達はまっすぐに僕の方に向かって歩いてくる。
よく見ると男子部の先輩達だ、先輩達は僕のすぐ近くで立ち止まった。
「よう桜井、ひとり残って練習か?」
「・・・・・はい。でも、そろそろ帰ろうと思っていたところです」
僕は、目を合わせないようにそう答えると道具を片付ける用意に入った。
先輩の中にも尊敬できる先輩と尊敬できない先輩がいる。
ここにいる先輩達は僕の中は後者に属する先輩達だった。
「なんだよ、そんな急いで帰ることねぇだろ」
そう言いながら、先輩の一人が僕の腕を掴んだ。
「放してください!」
「そんな邪険にすんなって。せっかくだから特別に個人指導してやるよ。手取り足取りな」
そう言った先輩は含み笑いをしていた。それにつられるように他の先輩達も小さく笑っている。
その笑いに嫌な気配を感じた。
僕は顔を上げて僕の腕を掴んでいる先輩に目を向けた。
「っ・・・・・・?」
背筋に寒気が走った。
先輩はいやらしい笑みを浮かべてボクを・・・・・ボクの体を見ている。
他の先輩達を見ると、みな似たような笑みを浮かべている。
容赦ない視線がボクの体中を這い回っていた。
「やっ・・・・・」
視線の圧力に押されるようにボクは後ずさろうとした。
でも、ボクの腕を掴んでいる手がそれを許さなかった。
「おっと、せっかく教えてやるって言ってんだから、もうちょっと付き合えよ」
「は、放してっ!」
「人の厚意は素直に受け取るもんだぜ」
他の先輩たちがいつの間にかボクを取り囲んでいた。
もう、逃げ場がなかった。