「ん・・・んっ・・・んっ・・・・・・うあっ・・・あうっ」
「・・・は・・・」
――薄暗い室内を。
行灯の薄暗い明かりだけが、ぼんやりと照らす中で。
二つの影が絡み合っていた――。
耳に入るものは。
「い・・・いいっ」
艶っぽい喘ぎと。
「・・・・・・ッ」
乱れた呼吸の音だけが――。
「はぁ・・・はぁ・・・・・・た・・・」
「・・・・・・・・」
「・・・龍斗・・・様」
ともすれば溺れてしまいそうな快楽の奔流の中で。
女は一心に男の名を呼んだ。
それが自らを唯一繋ぎとめる枷であるかのように。
男が応えた――。
「美冬――」
美冬は時々。
何故自分がこうも変わってしまったのか、不思議に思う事がある。
それは愛する男にあの念珠を貰った時か。
それとも獣の剣と蔑んでいた、あの剣士に敗れた時からか。
あるいは臥龍館の剣技を一瞬にして、自らのモノとしてみせた破戒僧――彼に弱さを指摘された時だったか。
わからない。
ただ、緋勇龍斗とあの洞穴で共に一夜を過ごし、彼に『女』にしてもらったその瞬間から。
美冬は自らが”戻れない”と悟った。
(もはやこの男(ひと)なしには生きていけない――)
――そう確信した。
そして同時に――。
――龍斗のモノになった自分に、何処か甘い高揚を覚えたのだ。
◇
「う・・・くっ・・・ひ、緋勇殿・・・・・・!」
「・・・ハ、ハァ・・・・・・だ、大丈夫? ・・・美冬さん」
身を引き裂かれる様な激痛。
剣を使う者なればこそ、美冬は痛みにも慣れていた。
しかし、常日頃味わう痛みとは全く別物の、それこそ身体の深奥を突き抜けるような破瓜の痛み――。
流石の美冬も、”その時”は余裕など全くといっていいほどなかった。
だがしかし――苦悶の声を漏らす事はあっても、美冬は一言も”痛い”とは口にしない。
――それでも。
肌を重ねる相手には伝わるもの。
「ねぇ・・・美冬さん。・・・やめようか」
龍斗はそう美冬に提案した。
「え・・・?」
「美冬さん辛そうだしね。此処で無理をする事もないよ。・・・この闘いが終わった後で、もっと暖かい場所で――」
冬山の洞穴。
いくら火を焚き、下には着物を敷いて寝ているとはいえ、やはり居心地がいい場所とはいえなかった。
ぽつりと。
美冬が言葉を紡いだ。
その言葉が聞き取れなかったのか、龍斗が聞き返す。
「・・・うん? 何?」
「駄目だ・・・」
「・・・・・・」
「駄目だッ駄目だッ」
下から龍斗の引き締まった身体に両腕を回すと、美冬は龍斗を拘束するように、そのままその腕に力を込めた。
「み、美冬さん・・・!?」
龍斗が戸惑ったような声を上げる。
(解かってない・・・!このお人は何も解かっていない・・・!!)
心中の苛立ちをぶつけるが如く、荒々しく、美冬は自分から離れようとしていた龍斗を再び引き寄せた。
「・・・・・・美冬さん・・・?」
美冬は無言のまま、決して離すまいとしている。
顔は龍斗の胸に押し付けられ、その表情は伺えなかったが。
龍斗には、なんとはなしに怒っている様に感じられた。
「美冬さん?」
もう一度、おずおずと尋ねる。
「女は・・・」
「はい?」
「女は殿方に抱いてほしいと思う時が――決して離して欲しくないと思う時があるのだ・・・」
「は、はぁ・・・」
「だ、だから・・・私は・・・わ、私にとっては今が・・・・・・」
無言で続きを待つ緋勇。
「――い、今がその時・・・だ。・・・わ、私は・・・今、ひ、緋勇殿に抱いて欲しい・・・」
「・・・・・・・・・」
「ひ、緋勇殿?」
「ハ・・・」
「・・・?」
「ハ・・・あはは・・・あははははっ」
笑い出す龍斗。
「な、何故笑うッ」
美冬が憮然とする。
――それでも、背中に回された腕は離そうとはしなかったが。
「ハ・・・ううん、イヤ御免ね。・・・美冬さんがあんまりに可愛いもんだからさ」
「な・・・!」
「・・・でもさ、本当にいいの? 己(オレ)の男根(コレ)、まだ少ししか入ってないよ?」
「え・・・そう、なのか」
呆然とする美冬。
「うん、だからね。続けるならもう少し我慢してもらう事になると思う。・・・もちろん、己もなるたけ優しくはするつもりだけれど」
ごくり、と。
美冬は唾を飲み込み。
「構わない・・・続けてくれ」
――だがしかし、きっぱりと告げた。
「うん、分かった。――それじゃあ、もう容赦しない。・・・いくよ、美冬さん」
こくりと頷く。
そして、次の瞬間。
――ズン、と。
美冬は灼熱の塊が己が胎内に入ってくるのを感じた。
「ひ・・・ひあ・・・・・・ぐっ・・・ああああっ」
――大きい。
美冬は痛みの中、龍斗の形、大きさを明確に感じていた。
「かっ・・・あっ・・・・・・ひ、緋勇・・・ど・・・」
「つらい?」
痛みに顔をしかめながら、美冬はフルフルと首を横に振った。
「い・・・いいからッ・・・・・・いいから引き裂けッ!」
「・・・・・・・・・!」
龍斗は息を呑んだ。
目の前の愛する人は、痛みに耐えながら龍斗の分身を受け入れてくれている。
にも関わらず、いまだ躊躇する龍斗の背中を押してくれるのだ。
――改めて思う。
(強いな・・・本当に、この人は強い。己とは違う・・・)
「あ・・・んっ・・・ど・・・どうした・・・?」
「イヤ、何でもない。・・・・・・じゃあこのまま一気にいくね?」
「は・・・はァ・・・う、うむ・・・い、いい・・・ぞっ・・・・・・」
「きつかったら、叫んでもいいから」
「・・・は・・・早く・・・・・・貫け・・・っ」
「――うん」
そして――。
美冬は、自分が白い光の洪水に包まれるのを幻視した。
◇
「はぁ・・・はぁ・・・」
一心不乱に腰を打ちつける。
パンッ、パンッ、パンッ。
狭い部屋の中には、荒い息遣いと喘ぎ、にちゅにちゅという卑猥な水音と、リズム良く鳴り響く腰を打ちつける音が混ざり合い、立ち込める濃密な性の匂いとともに渦巻いていた。
「あ・・・あんっ・・・あっ・・・んん〜〜〜〜っ」
「はっ・・・はっ・・・」
「んっ・・・ん・・・いっ、いぁッ・・・・・・あくっ・・・!」
「はぁ・・・あ、熱いな・・・」
龍斗はそう、ぼそりと漏らした。
・・・くちゅ、くちゅ、くちゅ、くちゅ、くちゅ・・・。
言いつつ龍斗は、己と美冬を繋いでいる部分に視線を落とした。
白濁し結合部に付着した泡がにちゃり、と音を立てる。
己が肉棒が美冬の中に出し入れされる様は、龍斗の興奮を更に激しいものにした。
「あ、暑い・・・ですか? はっ・・・あ・・・んんッ・・・す、少し・・・障子を・・・あ、開けますか?」
「いや、いい・・・。門弟達に気づかれたくはないだろ・・・」
「う・・・内弟子たちの・・・寝泊りしているのは・・・・・・あぅ・・・この離れからは離れていますから・・・す、少しくらいなら・・・ああんっ!」
龍斗の腰の突き上げに美冬は大きな鳴き声をあげた。
「や、やっぱり駄目だよ・・・美冬は声が大きい・・・から」
「だ、だって・・・龍斗様のが気持ち良すぎて・・・んっ」
美冬はそれでも。
懸命に快感を噛み殺しているのか、苦しげに眉根を寄せていた。
「そ、それに・・・熱いのは部屋じゃない・・・」
「・・・え・・・?」
「美冬の中、だ」
美冬の顔が一瞬にして、真っ赤に染まる。
「く」
龍斗はほんの少し笑みを浮かべた。
こうして何度、肌を重ねても、美冬は変わらずに初々しい。
龍斗は、美冬の顔が羞恥に染まるのを見るのが、なんともいえず好きだった。
ぎゅう、と。龍斗は美冬に吸い込まれそうな締め付けを感じた。
――恥じらいを覚えると、無意識に緊張して肉棒への締め付けが強くなる。
・・・これも最初の頃からずっと変わらない、美冬の身体の癖だった。
「・・・お腹・・・大分わかるようになってきたね・・・。今夜で、しばらくはお預け・・・かな」
美冬の膨らみ始めた腹部を片手でさすりながら、もう一方の手で龍斗は美冬の足を持ち上げ肩に担いだ。
「おっと」
ぬるり、と。
お互いの汗ですべる足を抱えなおし、再び持ち上げる。
二人は何一つ身につけていない――つまりは裸ではあったが、既に全身が汗で濡れていた。
そして、もう一方の足も担ぐ。
互いの結合部がより密着し、深く繋がる。
美冬は普段、主に正常位を好んだが、興が乗ってくると龍斗にこの体位をねだる事があった。
いつもは凛とした雰囲気を身に纏い、見る者を清冽な空気で圧倒する美冬も。
「あっ・・・あっ・・・あっ・・・ああっ・・・た、龍斗様ァッ」
今は布団に身体を仰向けに横たえ。足を抱え込まれ。肉壷を激しく突き上げられながら――淫らに啼く、唯の『女』だった。
「く・・・・・・で?・・・・ハ、ナシって・・・何だい・・・?」
ぐちゅっぐちゅっ。
「ん、お・・・おおおあぁっ!・・・・あっ・・・あっ・・・」
喘ぐ美冬。
自らの妻を組み伏せ、その肉棒で貫きながら――。
龍斗はそれでも、その甘い拷問から美冬を決して逃がそうとはなかった。
「ね・・・話。・・・あるんでしょ? 何?・・・くっ」
「は、はあっ。・・・お、許し下さい・・・龍斗様・・・。こ、こんな・・・状況、で、は・・・」
息も絶え絶えに言う。
美冬の口の端からは涎がひっきりなしに零れ、布団を濡らしていた。
そして二人の結合部から溢れた愛液は、それ以上に布団をグショグショにしている。
「ねぇ・・・美冬」
龍斗の手がぎゅ、と形のいい乳房をもみしだく。
「くひっ!」
びくり、と美冬の身体が震えた。
「あ・・・いっちゃった? ふふ、相変わらず感じやすいんだね、美冬は」
「あ・・・あ・・・」
美冬は呆然と余韻に浸っていた。
ス、と頬を涙が伝わり落ちる。
「え・・・!? み、美冬? どうしちゃったの!? も、もしかして痛かった・・・!?」
美冬を貫いた姿勢のまま、龍斗は慌てて声をかけた。
「・・・え? 龍斗様?・・・・・・そ、そんな事ありません。ど、どうしたんです? そんなに慌てて」
「だ、だって美冬が泣いたりするから」
「え?」
驚いて美冬が頬をぬぐう。
「ア、アレ? お、おかしいな。・・・な、何故でしょう・・・。別に痛かったという訳ではないのですが・・・」
不思議そうに首を傾げる。
「むしろ逆だったのですが・・・」
「・・・そ、そうなの?」
ほっと安心して美冬の足を肩から降ろすと、龍斗はそのままもたれるように美冬に自身の身体を預けた。
「び――っくりしたぁ・・・」
「え? え? た、龍斗様!?」
今度は美冬が驚く番だった。
こんな龍斗を美冬はあまり見た事がない。
いつも穏やかな笑みを浮かべ、全てを見通したような目をしている。時に子供のような表情を浮かべはしても、基本的にそれが崩れる事はないのが龍斗の印象だ。
「ぷっ」
「美冬?」
「ぷっ・・・くくくく・・・・・・済みません、龍斗様・・・ですが・・・くっくくく・・・」
くつくつと笑う美冬に龍斗は美冬の胸から、顔だけあげて口を尖らせた。
「みーふーゆー」
拗ねた目つきで睨む龍斗。
「く、くく・・・す、すいません・・・龍斗様・・・って、きゃあ、駄目です! 今動くと――あんっ」
途端に美冬が艶っぽい声を上げた。
「ちょ、美冬! 駄目、締め付けるのまっ・・・」
「あっあっ・・・ああ・・・ま、まだ、入ったままなのに・・・」
敏感になっていた美冬の身体は、わずかの刺激にも容易く反応し、それに伴い龍斗の萎えかけていた肉棒が、再び美冬の中で膨張していた。
「・・・あ・・・あ・・・龍斗様のが・・・」
ぴくぴくと身体を震わせながら、美冬は呟いた。
そんな美冬を見て龍斗が微笑む。
「変わらないね。本当に感じやすいや、美冬は」
そして再び、今度は正常位のままで龍斗は小刻みに突き始めた。
「ふ、ふああ・・・そ、そんな龍斗様だって・・・」
悶え始めた美冬からの抵抗は弱い。
粘り気のある液体が、再び二人の太腿や股間をしとどに濡らし始めた。
「憶えてる・・・? あの冬山で過ごした一夜。あの時も美冬は凄い感じてた」
「はっふあ・・・・・・くああっ」
龍斗とて余裕がある訳ではなかった。
先程の交わりのせいで、美冬以上に限界が近づきつつあったのだ。
だが龍斗はそれを、なるべく表情(かお)に出さないようにして、美冬をせめ続ける。
・・・ぐちゅぐちゅ・・・。
両手は美冬のたわわに実った乳房。
痛いほどに張り詰めた肉棒が、美冬の肉壷を抉る。
「最初は・・・く・・・痛がってたけどさ・・・最後にはこうして・・・感じてた」
「だ、駄目だ・・・い、言わないで・・・」
きゅ、と。いつもの如く肉の輪が締め付けられる。
「そうして・・・膣内(なか)で出す事を望んだ・・・”中で出して”、”孕ませて”・・・そう言った」
「はぁ・・・は・・・私は・・・・・・あ、貴方の・・・」
「うん?」
「貴方の子供が・・・貴方との絆が欲しかった・・・」
「うん、知ってる」
そう言うと、龍斗はぐっ、と腰を深く押し込んだ。
「〜〜〜〜〜〜ッッ!!」
声にならない悲鳴が美冬の口から漏れる。
「か・・・かはっ・・・た・・・龍・・・斗・・・」
深奥にまで達した龍斗のモノが、コツコツと美冬の子宮口を擦りあげていた。
「く・・・・・・うっ・・・ハ・・・・」
「美ふ・・・ゆ・・・。己も・・・そろそろ・・・」
そして、龍斗が腰を引き抜こうとする瞬間。
美冬の両足が離さないとでも言うように、龍斗を拘束した。
「み、美冬・・・? ま、不味いよ・・・それは・・・子供・・・・・・に」
「大丈夫・・・! 大丈夫です・・・! お願いですから、このまま・・・!」
美冬がすがるような目を龍斗に向ける。
「・・・そう・・・本当に・・・いいんだね?」
美冬はこくりと頷いた。
「それじゃあ・・・」
そして最後の突き上げを開始する。
その勢いは激しく、美冬の意識は龍斗のひと突き毎に飛びかける。
「あっ・・・イイッ・・・龍斗様・・・・・・そのまま・・・そのまま出してっ!」
「く・・・出る・・・!」
龍斗は呻くと同時、美冬の腰を抱え込み、ぐっぐっと腰を深いところまで送り込んだ。
「〜〜〜〜〜〜〜ッッ!!」
そして美冬の内部では、亀頭が子宮口を押し広げ――。
――どぱっ!
精液が吹き出された。
「あ・・・あ・・・・・・き、気持ちいい・・・」
「・・・く・・・う・・・美冬・・・」
どびゅる、るるるる・・・。
龍斗の剛直からは、間欠泉のように凄まじい勢いで精液が放たれていた。
我慢に我慢を重ねたせいで、その勢いはなかなか止まらない。
「――――」
だが美冬は足を絡めたまま。それを恍惚として受け止めていた。
やがて、射精が止むと、美冬は絡めた足をそっと外した。
龍斗が己の分身を美冬から引き抜く。
と同時、ごぽり、と。
大量の白濁液が美冬の女陰から溢れ出した――。
◇
「――で? 結局、聞きそびれちゃったけど、話って何だったの?」
翌朝、目が覚めて水を浴び身体を清めた後、龍斗は改めて美冬に問うた。
昨夜の――行為の後の胡乱(うろん)な頭では、その事を尋ねる余裕などなかったからだ。
美冬はといえば、龍斗と同様に身を清めた後、道場の朝連に赴く為の準備をしていたところだった。
「ああ、その事で御座いますか」
美冬は大した事ではないという風に微笑んだ。
「先日、雹殿と涼里殿が揃って参られました」
「へぇ・・・珍しい事もあるもんだね」
龍斗は何か嫌な予感がしたが、それを表には出さす、努めて自然に応じた。
「はい、全く以って珍しい。私もそう思いました」
美冬が龍斗が立っている井戸の側に近づいてくる。
手には朝の鍛錬用か、刀が握られていた。
何故、鍛錬に真剣――しかも三尺二寸の陸奥守忠吉が必要なのかは不明ではあったが。
「それで・・・何か用事でもあったの・・・?」
ますます嫌な予感は強まってはいたが、そこは死線を幾度となく潜り抜けた龍斗である。
一見弛緩している様に見せ、その実、さりげなく退路を探しながら。
気づかれぬよう、尚且つ何時でも動けるように身体を緊張させていた。
そんな龍斗の様子に気づいているのか、いないのか。
美冬は柔和な笑みを浮かべたまま、ゆっくりと、しかし近づく足は決して止めない。
「子が・・・」
「子?」
龍斗が尋ねる。
「子が出来たと・・・。二人は申しておりました」
「・・・・・・・・・・・・へぇ。子が」
「ハイ」
「ふーーん・・・・・・って、ええーーーーーーーーーっ!!」
「何を驚いていらっしゃいます?」
「い、いや・・・だってあの二人、は、その・・・」
「独り者に御座います」
「うん・・・」
じりじりと美冬が間合いを詰めてくる。
その分、龍斗はじりじりと下がる。
「何故・・・逃げるのです? ”旦那様”」
「いや・・・何というか本能が身の危険を・・・。で、でも。め、めでたい事なんじゃない?」
「ハイ、めでたいですねぇ。実に」
「そ、そっかぁ・・・情人(いいひと)がいたんだねぇ・・・彼女達にも。ところで、子が出来たのはどちらなんだろう?」
龍斗もいい加減、美冬が何を言いたいのかに気づき始めてはいたが、それでも精一杯抵抗する。
「二人共・・・に御座います」
「そ、そっかぁ・・・二人ともなんだ」
「ですが・・・困った事に父親も同じらしいのです」
「へ、へぇ・・・」
そこで初めて見冬は、陸奥守忠吉をスラリと引き抜いた。
切っ先を下に向けた片手下段の構え。
顔も下に向け、その表情は伺えない・・・が、確実にその顔からは笑みが消えているだろう。
「ち、父親は誰だって?」
龍斗は半分観念しつつも、一縷の希望を託して尋ねた。
「龍斗様、で御座います」
「・・・・・・・・・」
「これは一体どういうことで御座いましょう? ねぇ、”旦那様”」
「・・・ご、御免なさい」
美冬が顔を上げた。
その面にはまるで天女の様な笑みが――。
「――仕置き、つかまつる」
――そう、美冬は云った。
・・・この日、臥龍館周辺に、ある男の悲鳴が響き渡ったのは言うまでもない。
おしまい