無駄な物の一切が無いシンプルな部屋で白岐幽花は目を閉じていた。
まだ日は高いが風は強く、静かな部屋に音を運んできている。
普段は人の声の絶えない賑やかな女子寮も冬休みとなれば話は別だ。
多くの、というよりほぼ全ての生徒が帰省し残っているのは帰る場所の無い者ぐらいだった。
学園の秘密であり秘宝そのものであった白岐幽花や、その髪に顔を埋めている葉佩九龍のような。
「ふぅ……」
白岐の常識外れに伸びた髪に顔を埋め、恍惚とした表情を浮かべていた九龍は
二十三分四十秒ぶりに髪越しでない空気を吸うと満足げにため息を吐いた。
それから、その髪を掌にすくいあげた。
美しい髪というのは極めて高い価値を持つ。
只単に金になるという事もあるし、持ち主を彩る最高の宝石にもなり得るからだ。
思わず値を付けようとした自分に、九龍は心の中で唾を吐いた。
「どうしたの?」
髪を指ですくったまま動かなくなった九龍に、白岐は可笑しそうに問いかけた。
「……見惚れてたんだ。こんなに綺麗な髪、初めて見たからな」
「ふふ、ありがとう……で、いいのかしら?
褒めてくれてるのよね?」
「お世辞じゃないから礼を言われる事じゃない」
そう言って九龍はアサルトベストのポケットから鋏を一つ取り出した。
「美しいとか綺麗とか言われるのは慣れてるけど、九龍さんに言って貰えるとやっぱり嬉しいわ」
幽花の頬がほんの僅かに赤らんだ。しかし、背後にいた九龍は気付きもせず、鋏の刃を美しい黒髪にあてがった。
金属の冷たさを雰囲気で感じたのか幽花が体を強張らせた。
「やるぞ」
野太く通る声が幽花に覚悟を求める。
「ええ………お願い!」
幽花が目を閉じるのとほぼ同時に、ザクリと黒髪に刃が入った。
解き放たれた糸状の黒曜石が重力に従って音を立てる。
慎重かつ大胆な九龍の鋏の振る舞いは無情にも思える程だったが、
幽花が己の足で立って生きていくには必要な事だった。
だからこそ、幽花はこの役目を九龍に頼んだのだ。
九龍が終わった旨を告げると、幽花はゆっくりと目を開き立ち上がった。
「………軽いわ。とても」
九龍は何も答えなかった。だが、表情には安堵と共に喜色が見て取れた。
「ふふ、なんだかおかしいわ。こんなに軽いなんて。
走る事だって出来そうだもの」
「出来るさ。体育にだって出られる」
「うふふ、本当にそうだわ」
軽く興奮した様子でくるりと回る幽花に九龍は笑みを返す。
「どうしよう。私、やりたい事がいっぱいあるわ。
どれからやったらいいのかしら」
「全部やればいいさ。目に付いた簡単に出来るやつからでもな」
九龍が穏やかにそう言うと、幽花は目をしばたかせてからにっこりと笑った。
上気させた頬で息を弾ませて笑う白岐幽花というのは想像の外の光景で、
九龍は目を奪われた。
「ありがとう、九龍さん」
「あ、いや、まぁ……仕事として受けただけだ。
礼を言われる事じゃない」
「そうね、だけど、言うのは自由でしょう?言いたいんだもの」
「そうだな……」
九龍は鋏をしまうと、上機嫌で短くなった髪を触っている幽花に近づいた。
「明日にでも姿見を贈るよ。
今までのように自分に無頓着なままでいるつもりは無いんだろう?」
「ふふ、ありがとう。
これはお礼を言ってもいい事よね」
「まあ、そうだな」
照れ隠しにむっつりと答えた九龍に幽花が微笑む。
「報酬の話をさせてもらっていいか」
「ええ、もちろん。何でも言って」
「まず、切った髪の毛。あれを一房貰う」
漆塗りの箱に収められた髪に二人ともが目を見やる。
「売ったりはしない」
言い訳のように付け足した九龍を幽花が見つめた。
「それは九龍さんの自由だと思うけど……そんなのでいいの?
髪を切って貰って、その髪を報酬だと言って渡すなんてとても傲慢じゃないかしら」
「そんな事は無い。それにもう一つ貰いたい物があるんだ」
そう言って九龍は幽花の方へ歩み寄った。
そして、腕さえ伸ばせば抱き合えるような、友達の関係では有り得ない距離で視線を交し合う。
「白岐のパンツ……それも今着ている奴をくれ」
幽花の目が音を立てそうな勢いで見開かれた。
「パンツ……!?」
「ああ、八千穂に頼まれてな。白岐の身に着けてる物が欲しいってな」
「それなら何もパンツじゃなくてもいいと思うわ」
「あいつが一番喜ぶのはパンツだろうと思ってな」
幽花の表情が少し物憂げなものに変わる。
「それはそうでしょうけど……」
「きっとお前のパンツでオナニーするよ」
「でしょうね」
今度は九龍が驚く番だった。
「知ってたのか」
「ええ、よく声が聞こえるもの。隣の部屋だから」
それが嫌なのか、ただパンツをやるのが嫌なのか幽花の表情は冴えない。
だが、九龍は諦めなかった。
「いいだろ、俺もお前のパンツ欲しいんだ」
言い切った九龍は幽花の頬に手を伸ばし、そっと撫でた。
「一時的に預かるだけだが、俺も欲しかったんだ。お前のパンツが」
「九龍さん……」
頬を撫でていた九龍の手はそのまま幽花の首の後ろへとまわされた。
幽花は逃げなかった。
「ん……」
幽花は女性にしては背が高い方だが、それでも九龍には及ばない。
唇を合わせるには踵を上げなければならなかった。
ちゅくちゅくと舌を舐めあう音が静かな部屋の中を満たしていく。
九龍の手が幽花の小ぶりな尻を掴んでも、強く抱き寄せられても二人の口付けは終わらなかった。
「幽花……」
銀飴の橋で繋がった唇が陵辱されたせいで満足に動かず、
幽花は返事の代わりに熱を帯びた瞳で見つめ返した。
「お前が欲しい」
九龍は言葉とは裏腹に揉んでいた尻を離し、幽花の身体自体も解放した。
「いいか?」
この問いは白岐幽花に投げられたものだった。
学園の秘密を握る者ではなく、遺跡の鍵でもない、何の宿命も背負っていない少女に。
幽花は全くに自由な選択を喜び、九龍の胸に飛び込んだ。
「九龍さん……私、心臓が破裂しそうだわ」
「生きてるって感じがするだろ?」
「……ええ!」
再び抱き合った二人は口を繋ぎ、求め合った。
幽花の手は九龍の背中を抱き、九龍の手は幽花のスカートのホックを外した。
軽い音がしてスカートの花が床に咲く。
セーラー服の上だけを着た倒錯的な姿にされた幽花は怯えたよう腰を引いた。
だが九龍はそれに構う事なく、露になった秘宝へと手を伸ばした。
「あ……ゃ…」
いきなり触られて幽花の尻に力が入る。
逃れるように身を寄せてくる幽花の柔さを愉しみながら、九龍はパンツの湿った部分を執拗に撫でた。
「くぅ…ん…」
口付けとは違う場所から似た音がする。
それを奏で、そして聞かされる幽花は顔を赤らめ身をよじった。
漏れる声が乱れ、途切れる。
九龍の指がパンツの上から陰核を探り当てて来た所で幽花はもう何も考えられなくなり、
気がつけば縋り付いて身を震わせていた。
放心状態でベッドに横たえられた幽花は、
九龍の手にある物を見て自分の下半身が外気に晒されている事に気付いた。
反射的に取り返そうとして避けられる。
じゅっくりと湿ったそれを九龍が顔に当てるのを見て、小さく悲鳴を上げた。
「これが幽花の臭いか……」
くんくんとわざとらしく鼻を鳴らす九龍を見る幽花の目にはうっすらと涙が浮かんでいた。
だが、九龍はそれを嬉しそうに見るだけで一向にパンツから顔を離さなかった。
「やぁっ……やめて、九龍さん…」
「はぁ……すごく良い臭いがするぞ。お前も嗅ぐか?」
小さく嫌々するように首を振る幽花を九龍は口付けで黙らせ押し倒す。
その間も少女の下着を離さず、更には自分のズボンまで脱いでしまう。
「いくぞ」
ようやくパンツを離し脇に置いたかと思うとそう宣言した。
意味が分からずぼんやりとしていた幽花は両脚を持ち上げられて、シーツを掴んだ。
「〜〜〜っ!」
九龍が侵入を果たした時、幽花は声にならない声を上げた。
ぐいぐいと容赦なく貫いてくる熱の塊に身体が内側から焼かれるような感覚を覚えていた。
「大丈夫か?」
九龍がそう聞いてきたのはすっかり押し込んでしまった後だった。
その為、幽花はすぐに答える事が出来ず、かすれた声で返事をしたのは少し経ってからだった。
「ええ……なんとか大丈夫みたい」
涙ぐんだまま答えた幽花は、圧し掛かっている九龍が顔を歪めている事に気がついた。
「九龍さん……」
自分は気持ちよくないのだろうか、と不安に駆られたが幽花はそれを聞く事が出来なかった。
身体的に苦しくもあったが、それ以上に怖かったからだ。
「だめだ……我慢できん!」
「ぅあぁっ…!」
そう言ったかと思うと九龍は幽花を布団に押さえつけたまま、腰を動かしだした。
肉を裂かれる激痛と満孔の喜びに翻弄される中、幽花は九龍の背中に爪を立てて縋り付いた。
「出るっ!」
「あああっっ」
幽花は自分の中で九龍のものが形を変えていくのをはっきりと感じた。
遺伝子の塊が注がれるのも。
「あんまり気持ちよかったからもう出ちまった。
少し早すぎたかな」
九龍はそう言って微笑んだ。
それで、幽花は九龍が自分の為に素早く終わってくれたのだと悟った。
「九龍さん……九龍さんさえ良かったら……その、もう一度」
幽花の言葉のその先は九龍の口の中に消えていった。
幽花の精一杯の勇気は全く完全な形で九龍に届いていた。
セーラー服を脱がされながら、まだ引き抜かれていなかった九龍のものが変化するのを感じる。
立てなくなるまで行われたそれからの行為の中で、
幽花は九龍のあの歪んだ表情はただ単に気持ち良い時の顔だと思い知ったのだった。