「あ〜、生き返る〜」
水を張った浴槽に身を沈めて龍麻はしみじみとその心地良さを堪能していた。
その横では葵が冷たいシャワーを浴びている。
エアコンのない自分の部屋で、全開にした窓にかけられた風鈴の音とよく冷やした麦茶、
フル稼働させた扇風機で気休め程度の涼をとりつつ勉強を――ほとんど葵に教えてもらったようなものだが――
終わらせたのはつい先ほどの事だ。
ただ勉強するだけなら冷房の効いた図書館などに行くという手もあったが、
涼しさを求める気持ちよりもその後の展開に対する淡い期待と濃い下心が勝ってしまった。
かくして、真夏の蒸し暑い部屋の中、ほんのりと香ってくる葵の制汗スプレーの匂いや時折ちらりと見える白い首筋に
もともと崩壊寸前だった龍麻の理性は勉強を終える頃には完全に蕩けて崩れ落ち、
面倒ごとが片付いたと見るや考えるより先に葵を押し倒していた。
「え…! ちょっと、龍麻ッ…」
突然のことに驚き、じたばたと暴れる葵を簡単に押さえつけ、
龍麻は夏服の赤い胸紐を手早く解いてボタンを外していく。
様々なものが一気に弾け飛んでしまった頭の中にはもはや【犯】の一文字しかない。
「待って…待ッ…制服、皺に…うぅ」
なおもはかない抵抗を続ける葵にのしかかり、唇を奪う。
あらわになった柔らかな乳房をゆっくりと揉みしだきながら口内を蹂躙し、
唇を開放して次の標的である胸元へ吸い付いた。
「だめ…!」
暑さのせいだけでなく葵の白い肌が上気し、抗議の声にも艶が混ざり始める。
繰り返し吸いつき、いくつかの赤い痕をつけ――龍麻はぐったりと力尽きた。
「…暑い…」
このうだるような暑さにはさしもの龍麻も敵わなかった。
「いくらなんでも無茶よ…」
呆れたように言いながらも優しく受け止めてくれる葵の豊かな胸に顔を埋め、
これはこれで幸せかもしれないなどと思っていた矢先、葵が再び口を開いた。
「ねえ、お風呂を借りてもいいかしら?」
それを聞いた瞬間、龍麻の頭の中に再びよからぬ考えが浮かんでいた。
浴室からくぐもった声とシャワーの音が響いてくる。
「やっ…、どうし、て…」
葵が濡れた壁に両手をつき、身をよじらせて羞恥に耐えている。
「だって暑い中わざわざ勉強に付き合ってもらったんだし、このくらいはお返ししないと」
文字通り水で頭を冷やして落ち着きを取り戻した龍麻は、
葵の背後から手を伸ばし、すっかり硬く尖った薄桃色の乳首や柔らかな乳房を重点的に愛撫していた。
「それに最近物騒なことが多すぎて癒しが欲しいし」
「だからっ、て…、急にこんな所で…嫌ぁ…ああッ…!」
「大丈夫大丈夫、ここなら汚れてもすぐ洗い流せるし声も意外と聞こえないし涼しいし」
軽口を叩きながら優しくつまんでいた二つの頂を同時に軽くひねると、葵の声と身体が跳ね上がる。
すでに屹立しているものを、女性特有のまろやかかつ見事なラインを描く臀部に擦り付けてやると、葵は全身を震わせた。
葵と身体を重ねるようになってかなりの時間が経つ。
それゆえに、一度彼女の身体に欲望の火がついてしまえばあとは燃え尽きるまで止まらないことを龍麻はよく知っていた。
加えて、強く出られると嫌と言えない性格。
断って相手に嫌な思いをさせるくらいなら――あえて自惚れるなら好きな男に嫌われたくない――という思いから来るのだろうが、
本当に嫌ならハッキリと拒絶すればいいのだとごくわずかな苛立ちも覚える。
もっともそれは長らく周りからの期待に応えようとして彼女自身が心の一部を押し殺してきた結果なのだろうし、
ならばせめて自分と一緒にいる時くらいは自己犠牲めいたそれを取り払って、
もっと自然体でいてほしいと思わせるのもまた事実だった。
「…は、ぁあ…ッ」
胸の重みをしっかりと確かめるように、下から両手を差し入れて揉みしだく。
与えられる快感にうっすらと紅潮した首筋や肩に口づけ、舌を這わせる。
葵の肌に触れるたび、龍麻は小さい頃に食べたマシュマロを思い出す。
しかし彼女の身体はそれよりもはるかに白くて、柔らかくて、甘かった。
立つこともままならなくなりつつある葵を支えてやりながら、龍麻はその下腹部に手を伸ばした。
震えている足を少しずつ開かせて秘唇をなぞり始める。
「せっかく洗ったのに、もうこんなに汚れてるよ」
「…、……!」
身体を密着させ、熱く滴る蜜を指に絡めながら耳元で意地悪く囁いてやると、葵が口元を押さえたまま
過剰なまでの反応を示しているのが伝わってくる。
一度は冷えた体も、あっという間に火照り始めていた。
「ここ、弱いよね」
秘唇を嬲っていた指を移動させ、膨らんだ肉芽に触れると葵の身体はさらに大きく痙攣した。
「あッ…、そこ、やめ…」
熱に浮かされながらも慌てて首を横に振り、少しでも逃れようと身をよじってはいるが
すでに力も抜け切っていて、龍麻の動きを遮れるようなものではなかった。
本人は動きを押さえているつもりであろう手も、実際にはただ添えているだけだ。
「あァ――――!!」
傷つけないように慎重に陰核の包皮を剥き、指で挟んで扱き続けてやると葵の喉からかすれた悲鳴が迸った。
全身をがくがくと震えさせ、後頭部を龍麻の肩に押しつけるようにして快感に溺れている。
しばらくしてぐったりともたれかかってきた葵の身体を抱き止めてやる。
「気持ちよかった?」
「…………」
まだぼうっとしている葵に声を掛けてみたが、よほど恥ずかしかったのか、両手で顔を覆ったまま背けてしまう。
こんな様子を見られるのは自分だけなのだと思うと、改めて嬉しくなる。
葵と結ばれたのはあくまでも自分達の意思で、≪宿星≫のおかげだなどとは微塵も思っていないが、
彼女と知り合うきっかけになった事にだけは感謝してもよかった。
「葵」
「…?」
「可愛い」
脱力したままの身体をぐっと抱きしめて、そう告げる。
「ずるいわ、龍麻…」
「なんで?」
「こんなタイミングで言うなんて」
「じゃあずるいついでにもう一ついい?」
「もう…本当に仕方ないんだから」
慈愛あふれる苦笑と共に、葵の唇が龍麻の唇を塞いだ。
龍麻が椅子に腰掛けると、葵がおずおずとその上にまたがった。
両肩に置かれた葵の手に力がこもる。わずかに震えているのは快感のためだけではないだろう。
「葵、やっぱり無理しなくても」
たまには葵からと自分で要求してみたものの、やや苦しそうなその様子を見ていると
非常に申し訳ない気分になってくる。
「う…くッ…」
とはいえその表情と声がまた非常に悩ましく艶めいているので、もっと見ていたいとも思ってしまう。
「大丈夫…最後まで、させて…?」
しかし龍麻が葛藤している間に葵はゆっくりと腰を落とし、
こらえ続けて張りつめきった肉茎がずぶずぶと音を立てて秘唇に埋没していく。
そんな彼女の姿に、龍麻のものにはますます血流が集まっていく。
「は…あ…あぁ…」
やがて収まり切ったのを感じたのか、葵がため息とも喘ぎとも取れる声を上げ、
再び龍麻の体に身を預けた。
その背と腰に手を添えて引き寄せ、身体を密着させる。
葵もそれに応えるように、龍麻にすがりついた。
「ん…」
まるではじめから決められていた一連の動作のように、ごく自然に唇が重なる。
汗ばんだ肌どうしが触れ合うだけでも不思議と心地良かったが、押しつけられて柔らかく潰れた乳房の感触もたまらない。
さらに、極上と表現する他ない媚肉は、下手をすればほんの数往復で果ててしまいそうなほどの圧倒的な愉悦を龍麻に与えてくる。
「うあッ、あぅ…ん…」
しばしその感触を愉しんでいたが、こらえきれずに律動を始めるとすぐさま甘い嬌声が響く。
幾度も身体を重ねるうちにすっかり龍麻の形に馴染んだ葵の膣内は、
決して放すまいとでも言いたげに龍麻自身に絡みつき、動きに合わせて熱く蠢いている。
「い、いッ…ん、…あ、ふ…」
耳元で聞こえる甘い声と、下腹部から響く卑猥な音。
一つになった身体が奏でる淫らな合奏が、互いを煽り昂ぶらせていく。
本能に任せて媚肉を思うさま貪りたくなるのをこらえ、あえて龍麻は動きを止めた。
「やっ、いや…もっと…! ……ッ!?」
熱に浮かされて思わず口走ってしまった己の言葉に慌てたのか、葵ははっと我に返って口を塞いだ。
「もっと…何?」
龍麻は葵の柔らかな耳朶を食みながら尋ねた。
自分で動かさせる…というのもちらりと脳裏をかすめたが、さすがにそこまでさせるのは躊躇われたので
それならせめて葵に求めさせてやろうと考えを変える。付け加えるなら、龍麻の理性も限界に近かった。
正面から葵を見つめてやると、恍惚と潤んだ瞳と唇がかすかに動いた。
どうしてそんな意地悪をするのだと言いたげだが、あえて無言のまま笑顔を向ける。
ほんのわずかな逡巡の後、葵は諦めたように龍麻の肩に顔を埋めて小さく呟いた。
「…お願い…もっと、気持ち良くして…」
「それじゃ、遠慮なく」
心の中で響く勝鬨之祝詠に合わせて踊り出したい気分を抑え、龍麻はようやく待ち望んでいた動きを再開した。
両手で尻肉を鷲掴みにし、情け容赦なく突き上げる。
「ひッ…、ああぁ…あっ…はぁっ…」
葵が背を反らせ、濡れた黒髪を振り乱しながら喘ぐと、汗とも水滴とも分からなくなった雫が飛び散る。
突き上げられるたびに目の前でたぷたぷと上下に揺れる豊かな乳房につられて
思わず尖った乳首を口に含むと、葵は無意識のうちにか、ねだるようにそれを押しつけた。
「いい、いいの、龍麻ァァ…!」
普段は清楚で落ち着いているだけに、全てをさらけ出して喘いでいる葵の姿は凄絶なまでに扇情的だった。
深く浅く、緩急をつけて貫き、滅茶苦茶に掻き回す。もう何も考えられなかった。
背筋がぞくぞくと震えて限界が近いことを告げる。
それは葵も同じらしく、強くしがみついてくる。腰に当たっている葵の踵もさらなる興奮を促した。
「ぐッ…うぅっ…」
「ぁ、あああぁぁん…!!」
低い呻きと共に胎内に精を放つと、ほぼ同時に達した葵もひときわ高い声を上げる。
欲望の残滓を余さず吐き出し、心地よい倦怠感に包まれながら、龍麻はもう一度葵の身体をしっかりと抱きすくめた。
――――護ってみせるさ。
愛しい女も、仲間も、この街も。
護りたいものがあれば、どこまでも強くなれる。いや、なってみせる。
己の拳を見つめながら龍麻は改めて決意を固めた。
しかし数日後、うっかり流しっ放しだったシャワーのために
金銭的な意味で撃沈し頭を抱える羽目になったのはまた別の話である。