飯店日誌

1月11日
 ミルクばっかり飲んでいるのは、体に悪い。たまには何か別のものを試した方がいいと思って、イワンに何かないかと考える。

 赤ん坊に酒はまずい。フランソワーズに鼻をつままれる。却下。
 ヘビの生き血はどうだろう。眠れなくなって困るだろうか。でも困った時にはいつも寝ている困った赤ん坊にはいいかもしれない。でも哺乳瓶を洗うのが大変だと、フランソワーズに怒られるかもしれない。却下。
 フカヒレのスープ。この間みんなに振舞ったら、「ナマグサイ」と文句を言っていたから、意地でも食べさせない。却下。
 ワンタンスープ。熱すぎると文句を言っていた。わがままな赤ん坊だ。却下。
 北京ダックの肉を細かく裂いて、離乳食は作れないだろうか。味見の最中に全部失くなってしまいそうだから、無理かもしれない。却下。

 頭痛がして来たので、お茶をいれてくることにする。

 ロシア料理を習った方が早いかもしれない。
 早くイワンが大きくなって、味見をしてくれないかと思った。
 ロシア料理でも、ツバメの巣を使ったりするのだろうか。今度、中国語のロシア料理の本でも探してみよう。材料は、また008と002に運んで来てもらえばいい。
 とりあえず、イワンのミルクに精力剤を混ぜてみることにして、今夜は寝ることにする。ロシア料理の食材の件を、002たちに相談するのを忘れないようにしよう。

 追記。グレートが割った皿の代金を、給料から引いておくこと。

2月22日
 教えても教えても、覚えない人間というのがいる。
 意欲は買うが、どうしようもないものはどうしようもない。

 どうやったら左手の指先を切れるのだろう。左利きのくせに。
 餃子にトマトケチャップをかけようとするのはやめてほしい。
 だから何度もにんにくは焦がすなと言ったのに。
 おろし金を使いながら、"爪が削れちまったぜ"と見せに来なくてもいい。と言うか爪を切れ。
 洗剤で野菜を洗うというのは一体いつどこで誰に習ったんだ。
 カップラーメンをすすりながら店へ顔を出すな。
 そのりっぱな鼻を切り落としてスープのだしに使ってやろうかと言ったら、"りっぱな鼻はお互いさまだろ!"と言われた。目上の人間に対する態度もなってない。
 スープのだしに使ってもらえるだけありがたいと思(ペンで丁寧に塗り潰した跡)

 でも、いつも笑っている。いつも、店の中を明るくしてくれている。
 料理の才能も、皿洗いの才能もなさそうだが、客商売にはぴったりだ。ウエイターを任せられないのが残念で仕方ない。
 本当に残念だ。

 何より、作った料理をほんとうにうまそうに食べてくれる。行儀がいいかどうかはともかく、何を出しても、うまいうまいとたいらげてくれる。
 料理人には何よりの誉め言葉だ。
 これが、彼のりっぱな才能なのだろう。
 言葉にして言ったことはないけれど、いつも感謝している。新しいメニューを思いつくたび、うまいと言って食べてくれるだろうかと、彼の顔が必ず浮かぶ。
 彼が仲間で、ほんとうに良かったと思う。

 追記。週末、マムシ肉の広東風レアステーキの試食を頼むのを忘れないように。

3月3日
 日本では今日は女の子のお祝いの日らしい。ジョーがごそごそとフランソワーズに何やら渡していた。若いってことはいいことだなと、自分の腹を見ながら思う。少し痩せた方がいいと、真剣に考えるようになった。何しろ高いところへ手を伸ばすのに息が切れる。階段を上がるのに息が切れる。グレートとジェットにいつも笑われる。このままでは中国4千年の歴史を背負ったサイボーグとしての面目がない。ギルモア博士にやっぱり相談した方がいいのだろうか。しかし、いきなり痩せてかっこよくなってモテ始めたらグレートがやきもちを焼くかもしれない。男の嫉妬ほど恐ろしいものはないと、グレートが常々言っている。大事な友人を失いたくはない。一体どうしたらいいんだろうか。フランソワーズに相談してみるといいかもしれない。フランソワーズならきっと、男の嫉妬について、的確なアドバイスをくれることだろう。そういえば、ジョーはやきもちと言うのを焼いたりはしないのだろうか。大事な恋人が、他の男に心を動かされたりしたら、やっぱりジョーでも怒るのだろう。ジョーが怒ると怖いが、自分も負けてはいないと思う。うっかり痩せてかっこよくなってしまってフランソワーズに好きだと言われてしまっても、それは自分のせいではないから、ジョーに後ろめたく思う必要はない。正々堂々と胸を張ってフランソワーズの気持ちを受け取ればいい。結婚の贈り物はやっぱり宝石がいいのだろうか。若い女の子だから、派手な指輪がいいだろうか。瞳の色と同じ青の石がいいような気もするが、自分としては大きめの翡翠がいいと思う。でもやっぱり男としてフランソワーズの気持ちを尊重すべきだろう。青の石に、フランソワーズの髪の色に合わせて金、これもやっぱりフランソワーズに選んでもらった方がいいかもしれない。ワタシのことをこんなに大事に思ってくれてて、とよけいに好きになられたら男らしく受け止めるべきだろう。でも、それでジョーに決闘を申し込まれたらどうしたらいいだろう。ジェットに相談した方がいいだろうか。ギルモア博士に頼んで加速装置をつけてもらった方がいいかもしれない。それともハインリヒに加勢を頼もうか。いや、ハインリヒは決闘の作法なんか知らないかもしれない。決闘の作法だと、ジェロニモの方が詳しいかもしれない。でもジェロニモは"おれ、たたかう、しない"と言って、助けてくれないかもしれない。ピュンマは助けてくれるだろうか。"ジョーになんかかないっこない"と言われそうな気がする。やっぱり男らしく、ひとりで戦うしかないのか。もしジョーに敗れたら、フランソワーズは泣いてくれるだろうか。墓の前で、"あなた以外の人なんか、もう一生愛せない"と言ってくれるだろうか。みんなで泣きながら、"張大人そっくりのサイボーグをまた作って下さい!"とギルモア博士を困らせるのだろうか。何だか泣けて来たので、そろそろお昼にしよう。腹が減っては戦さはできない。やっぱりこの腹はずっとこのままでいいだろう。でないととんでもないことになるかもしれないから。
 みんなのためにも、今日の昼には北京ダックの残りを片付けてしまうことにしよう。

追記。フランソワーズのために、カエル肉とチンゲン菜の炒め物の作り方を見つけておくこと。

4月4日
 フランソワーズが嫌がったので、カエル肉とチンゲン菜の炒め物の試食をハインリヒに頼むことにした。
 「女の子にこんなもの食わせようったって、そりゃ無理だろう。」
 こんなものとはどういうことだ。せっかく必死で探したレシピで、味だってなかなかのものだと思うのに。
 チキンみたいでうまいと、それでもきれいにたいらげてくれた。
 店で食事をすると、ハインリヒはいつも自分で皿を下げる。好き嫌いもないのか、下げる皿はいつも空になっている。
 食べる音もあまり立てず、ぺちゃくちゃうるさいおしゃべりもなく、普段は思わないけれど、こんな時には、案外育ちがいいのかもと思う。
 昔はトカゲを平気で食べていたけれど、本人に言わせると、"サイボーグにされたヤケだった"ということらしい。どういう意味だと聞いても、別にと首を振ってそれ以上のことは言わない。それでも、思い出すような顔つきで、"あのトカゲも、なかなか悪くなかった"と言う。
 あのトカゲが悪くなかったのではなくて、料理した人間の腕が良かったのだと言って欲しい。ここらの思慮がまだまだ足りないのは若い証拠だろう。
 そう言えば、いろんなところでいろんなものを料理したけれど、好き嫌いをはっきり表す数名と違って、ハインリヒは出されたものには口出ししない。毒入りでもない限りは、黙って食べる。うまいうまいとわざわざ言わないところが物足りないけれど、料理のプロとして、そういう態度はありがたく受け取るべきだと思う。
 もっとも、ごく個人的にはもっといろいろと感謝されてもいいと思うのだがどうだろう。

 皿を下げたついでに、シンクの中にあった皿まで全部洗ってくれたらしい。
 そういえば、どこでどんな食事をする時でも、ごちそうさまと言うのを忘れない男でもある。どんな両親にどんな風に育てられたのだろうかとちょっと思う。
 出会えることがあったなら、良い息子さんですねと伝えたいと、そんな不可能なことを思っているのは内緒だ。
 こんな息子が欲しかったかもしれないと、思っていることも内緒だ。

追記。厨房のラジオのチャンネルを勝手に変えて、うるさいジャズを流しっぱなしにしないように言っておくこと。

5月5日
 真っ白になったナプキンとテーブルクロスが届いた。フランソワーズが洗ってくれたのを、ジェロニモが届けてくれた。
 ナプキンは、テーブルに置くために全部折りたたまなければならない。いろいろと複雑なやり方があるが、面倒くさいので簡単な折り方にしてある。
 三角に折って、両端を持ち上げてずらして重ね、三角形の先端と3つ並ぶように、子どもの紙遊びの、チューリップみたいに見えるようにして出来上がり。それでも、何百枚も折るとなると骨が折れる。
 今日はジェロニモが手伝ってくれた。
 あの大きな手で、案外器用に細かいことをやってくれる。ジェロニモもまた、極端に口数の少ない男で、出された料理にうまいと言うことも滅多になく微笑むこともあまりない。それでもうまいと思っているのはきちんと態度に表れていて、どうしてだか餃子がお気に入りらしい。
 ナプキンをたたむのは、そういえば餃子の皮で具を包むのに似ていると今思った。
 疲れたから休憩しようと言っても、すぐには手を休めないので、お茶を運んで無理矢理手を止めさせる。甘い菓子を振舞うと、ほんの少しだけ口元がほころぶのがわかる。餃子を出せばもっと喜んでくれるのはわかっているが、残念ながら今日は餃子の作り置きがなかった。
 餃子を作るのも、手伝ってくれるのはジェロニモだった。大きな手に小さな皮が申し訳ない気がする。けれど黙って手伝ってくれるのはジェロニモだけだったし、案外と皮の扱いが難しいのか、破らずにうまく包めるのもジェロニモだけだ。
 今度きちんと感謝の意を示すことにしよう。
 丸いテーブルに向かい合って黙々とナプキンをたたむのも、ジェロニモとだと気兼ねがないのはどうしてだろうか。
 何かしゃべっていないと落ち着かないと思うのに、ジェロニモと一緒の時は黙っていても気づまりではない。不思議な男だ。
 くるみ餡の饅頭を、今度大きめに作ることにしよう。手伝いに来てもらうのではなく、お茶に誘ってみよう。何なら、新しくできた飲茶のレストランの味見に一緒に行ってもらうのもいいかもしれない。
 何だか楽しみだ。今日は早く寝よう。明日もまた忙しい。

追記。グレートに特大餃子の皮を頼んでおくこと。

7月7日
 人生というのは不思議なものだと思う。まさかサイボーグに改造されて、同じくサイボーグにされたのんだくれのイギリス人と中華料理の店を持つ羽目になるなんて思ってもみなかった。
 イギリスはロンドンには、小さな中華街というのか、中華通りがあるそうだ。"おまえさんのが一番だけども"と言ってくれるのは、共同経営者の案外お世辞というわけでもないらしい。
 料理は、するよりしてもらう方が得意で、厨房の役にはあまり立たないが、役者のサービス精神でフロアを任せれば天下一品だ。
 口下手で無口な自分に比べると、軽薄とも思えそうなくらいにおしゃべりだが、そのおしゃべりがウエイターとしては非常に役に立っている。人間、どこで当てにされるかわからないという良い例だ。
 おまけに、サイボーグの変身能力で、必要とあらば可愛い中国娘にも、見目良い青年にもなれる。が、この間女の子に化けてチャイナドレスを着ろと言ったら、"おれは客寄せパンダじゃねえ!"とひどく憤慨していた。
 何を言っているのだろう。パンダになれと言ったわけではないし、大体パンダの方が人は集まるに決まっているではないか。
 しかしパンダに化けてもらって、店の前で見世物になってもらうのも悪くないかもしれない。その時は厳重に断酒を言い渡しておくこと。
 パンダというのは料理するとうまいのだろうか。いやまさかグレートを料理するわけにはいかない。大体サイボーグがうまいわけがない。けれどそれに挑戦するのも料理人の心意気というものだろうか。それともやっぱり人の道を踏み外す行為なのだろうか。けれど時には人の道を踏み外してこそ得られるものもある。友情と料理人としての誇りとどっちを取るべきなのだろう。不可能と思える食材に挑戦することも、時には必要なのではないだろうか。そう言ったらグレートは、"大事な親友のためなら、この腕や足の1本や2本"と、こちらの心意気に応えてくれるだろうか。しかしあの足はあまりうまそうではない。見た目と味は関係ないとは言え、どうせなら見た目も美味なものを料理してみたい。やはりサイボーグやパンダは、後回しにした方が良さそうだ。いつかのために、アイデアだけは書きとめておこう。

 最近、料理用酒の減りが早い。ハゲ頭のねずみのせいではないかとにらんでいる。特大のねずみ取りを仕掛けることにしよう。うまく捕まえたら、新しい料理の材料にならないか考えてみよう。
 と、冷蔵庫の扉にメモを貼っておくことにする。
 大事な友であり、大事な共同経営者をクビにするには忍びない。
 だが、もう少し熱心に働いてくれてもいいのではないかとも思う。やっぱりパンダに化けてもらうことを考えよう。

追記。ジェロニモに、パンダ用の大きなオリを作ってもらうこと。

8月8日
 ヘビの刺身に挑戦すると言っていたら、ピュンマが、"ヘビは生臭いから、生はやめた方がいい"と言って来た。プロの料理人にアドバイスなど、片腹痛いと聞き流そうと思ったら、"ヘビの血は、体が温まるから血抜きするだけなのはもったいないよ"と付け加えられてしまった。
 トカゲや、ヘビの卵は料理して出したことはあるけれど、ヘビの血を飲ませたことがあったかなと考えても思い出せず、そうしたら、"食料は現地調達が基本だからね"とにっこり微笑まれてしまった(その笑顔にちょっとだけ見惚れたのは内緒だ)。
 さすが歴戦の勇士、戦場での食料についても一家言あるらしい。
 主に虫の野草の料理の仕方について、いろいろと語ってくれたのだが、どうも大半は材料の調達がいちばん問題になりそうだった。しかしプロの料理人としては、いかなる食材にも挑戦する気概が必要ということで、全部メモを取らせてもらった。いつか役に立つ日も来るだろう。
 ヘビの刺身を今は諦めたので、ステーキはどうだと訊いてみた。少し考えてから、"ガラガラヘビがおいしいらしいけど、毒の処理が大変だから素人には無理じゃないか"と失礼な答えを返してきた。
 中国4千年の歴史を背負った最強の料理人サイボーグをつかまえて、素人とは何事、素人とは。
 正月の料理に、ガラガラヘビとイナゴのスープを加えることに決めた。料理人の誇りにかけて、全員にうまいと言わせてみせる。
 素材は新鮮さが命、大晦日の辺りに捕まえてくればいいだろう。イナゴは一体どのくらいいるだろうか。全員に行き渡るとなると、100匹は欲しい。どうせなら、スープのダシを取る分と、具の分は別々がいいかもしれない。
 ガラガラヘビはジェロニモに獲って来てもらおう。イナゴはやっぱりジョーだろうか。試しに作ってみて、試食はジェットとグレートに頼もう。スープなら、フランソワーズが何か盛り付けのアイデアを考えてくれるかもしれない。
 ガラガラヘビの血は、謹んでピュンマに進呈する。
 毒はハインリヒにあげよう。何か武器に使えるかもしれない。
 ヘビの皮は、剥いだ後でイワンのおもちゃになる。
 ところで、ガラガラヘビの頭は、やっぱり長寿の願いとしてギルモア博士のものだろうか。それともやっぱり、アイデア提供者として、ピュンマの皿に入れるべきだろうか。
 正月までもう少し間があるので、ゆっくり考えることにする。
 持つべきものは仲間だと、今日改めて思った。

追記。うまいイナゴとガラガラヘビの見分け方をピュンマに訊いておくこと。

9月9日
 フランソワーズと食事に行きたいので、良いレストランを紹介してくれないかとジョーが言って来た。
 自分のところではダメなのかと言いたい気分をぐっとこらえ、ジェットとピュンマと一緒に行ったことのある、イタリア料理の店を紹介しておいた。
 車の運転をするならワインを飲み過ぎないようにとついでに注意したら、"ボクは飲まないよ。フランはうわばみだけどね"と、いつものようににっこりと笑った。
 ジョーの笑顔を見るたびに、なるほど、女の子たち(フランソワーズもだ)はこの笑顔で恋に落ちてしまうのだなと納得する。男が見ても、時々惚れ惚れするようないい笑顔だ。
 両親を知らない孤児で、施設で育ったというのに、そんな暗さはどこにも見当たらない。それはきっと、仲間がいるせいなのだろうなと、自分のことを省みて思う。
 極めて個人的には、ギルモア博士が我々の親のようなものだと思えば、ジョー(だけではなくて、他の若い仲間たち)にとって親なのは、自分かもしれないと胸を張りたい気分になる。
 親なら最年長のグレートであるべきなのかもしれないが、あの男は年の割りに頼りない。その点自分なら、常にどっしりと構えて、見た目も中身も貫禄は十分だろう。
 ジョーみたいな男に、親代わりとして頼られるのは非常に照れるけれど、これも年長者の務めとして、これからもしっかりジョー(と他の若い仲間達)を見守って行きたいと思う。
 しかし、ジョーの親だと言うのなら、似ているところがあって然るべきだろう。髪の生え際やあごの形は、実はそっくりなのではないかと思うのだが、やっぱりあの笑顔がそっくりだと言われてみたい。
 今度フランソワーズに尋いてみることにしよう。
 しかし、大人の貫禄と魅力に、あの笑顔の威力が加わってしまっては、世の中のすべての女性に惚れられてしまうかもしれない。その場合はどうやって断ったらいいのだろうか。ジョーが教えてくれるだろうか。相手を傷つけないように、優しい言葉で、しかしきっぱりと、自分には、世界を救う最強の料理人としての使命があるのだと、頼りにしてくれている、絶対に見捨てられない仲間がいるのだと、だから、恋にかまけている場合ではないのだと、誠心誠意精一杯力いっぱい断るしかないだろう。絶望の余り、命を絶とうとする女性まで出てくるかもしれない。そうなっては一大事だ。自分を大事にするようにと、これもまた精一杯説得しなければ。死んでしまっては、おいしいものも食べられないと、腕を奮った料理を食べさせるのがいちばんかもしれない。
 世界最高のシェフというのも、なかなか大変なものなのだ。
 そう考えると、モテ過ぎるというのも考えものだ。やっぱり今のままで、適度にかっこいいというのが一番なのだと思う。
 これからも、ジョーの親として決して目立たないように、良く出来た息子をそっと見守ることにしよう。
 ところでそうなると、ジョーも親孝行をし返してくれても良いのではないだろうか。今度一度、ゆっくり説教をさせてもらうことにする。親として、息子を正しい道に導くことこそ、大事な役目ではないか。あの笑顔に見惚れて本題を忘れないように、掌にしっかりメモしておこう。戒め。

追記。父の日というのが一体何なのか、イワンに訊いておくこと。

戻る