ウサベルトせんせェとジェットくん
Act 12
前編
なんだろう、これは。シーツだタオルだ、そんなものが、部屋のすみに積み上げてある。
手を引かれて、そこに押し倒された。
う、ウサベルトせんせェ、そんな、ダイタンなこと! オレ、初めてだからもうちょっとゆっくり!
ウサベルトせんせェが、まずてぶくろを外して、それから、くるっとうしろを向いて、オレに、背中のボタンを外すように促した。
ボタンは、思ったより数が少なかったけど、それでもオレは悪戦苦闘。
ひとつ外すたび、背中が見える。背骨と、肩甲骨と、色の薄い、皮膚。
肩を剥き出しにして、ウサベルトせんせェの、機械の方の肩に、オレはそっとキスした。
ボタンを全部外してから、まだ、尻尾がそこについてることを確認する。これってやっぱり、服の付属品じゃないんだなあ。
尻尾を、そっと触る。ウサベルトせんせェの背中が、ぴくんと揺れた。
目の前の、まっすぐな背骨の線を、オレはゆっくりと、唇でなぞった。
ジェットの背が高すぎて、やっぱり巣の大きさが足りない。床に膝がはみ出して痛い。
遺伝子的に、体の大きさは重要だけれど、大きすぎるのも問題だ。
どうしてこういうことを、大学では教えてくれないんだろう。いずれ、恩師のギルモア博士に訊いてみよう。
ジェットに服を脱がせてもらって、それから、好きにさせた。
ふーん、こんなふうにするのか。
尻尾をつかまれる。耳も一緒にぴくぴくする。むずむずむずむずむずむずむずむず。
機械の掌で触ったら、冷たくて、ジェットはいやがるだろうか。
そう思ったら、ちょっと悲しくなって、耳が少し、たらんと垂れた。
たれて揺れた耳に、ジェットがまた、キスする。
目を閉じて、ジェットの腕を引いて、巣の上に、ゆっくりと体を横たえた。
上着を脱いで、シャツも脱いで、オレたちふたりとも、とりあえず裸。
部屋の中は薄暗くて、あんまりよくウサベルトせんせェが見えないんだけど、でも、肩のところと右の胸の、金属と普通の皮膚の境い目くらいはうっすら見える。
ウサベルトせんせェの左の胸に、おそるおそるさわった。
あったかい。ちょっと指を動かしたら、ウサベルトせんせェの耳が、ぴくぴくしたのが見えた。
それから、ウサベルトせんせェの、機械の方の掌が、オレの肩に回った。
夏の暑い盛りに、こんなことをする気にはとてもなれないけれど、冬の寒い時なら、暖かくていいかもしれない。
次の発情期の時には、もっと大きな巣をつくろう。ジェットはまた、その頃には、もっと背が伸びてるかもしれない。
それとももう、次なんてないんだろうか。
ジェットが子どもを生んだら、どうしよう。生徒を妊娠させたら、やっぱりクビだろうか。
・・・・・・ジェットの子ども。赤いふさふさの毛並み。きっと生意気で、手に負えないかもしれない。ジェットに、躾なんてできるんだろうか。
それより何より、勉強勉強!
コンドームを忘れずに。
あせらずゆっくり。
相手が痛がったら、すぐにやめて、もっとゆっくり再挑戦。
むりなことは、絶対に、やらない。
今日がだめでも明日がある!
初めてのキミへなんて本に書いてあった、いろんな言葉が頭に浮かぶ。
ウサベルトせんせェの尻尾に、またそっとさわった。
なんだか、変なところに、ジェットの手が伸びる。
どうするか、わかってるらしいので、もう任せることにする。
また、ジェットにキスされた。
リンゴが食べたいと思いながら、でも、今はジェットの方がいいとも思う。
これで発情期が終わったら、楽になれると思いながら、終わってしまったら、ジェットとキスすることもなくなるのかと、ちょっとだけ淋しくなった。
耳と尻尾が一緒にぴくぴくして、ふるふるして、それから、どうしてだか、右肩の、腕の付け根のところが、むずむずした。
ジェットを、その腕で、少し強く抱きしめた。
ゆっくりゆっくりゆっくりゆっくり。
そろそろそろそろそろそろそろそろ。
そっとそっとそっとそっとそっとそっとそっとそっと。
もうちょっともうちょっともうちょっともうちょっともうちょっともうちょっともうちょっともうちょっと。
あせるなあせるなあせるなあせるなあせるなあせるなあせるなあせるなあせるなあせるなあせるなあせるな、オレ!
まてまてまてまてまてまてまてまてまてまてまてまてまてまてまてまて!
・・・・・・あれ?
☆ ☆ ☆ ☆ ☆ ☆ ☆ ☆ ☆ ☆ ☆ ☆ ☆ ☆ ☆ ☆ ☆ ☆ ☆ ☆ ☆
後編
痛い! 痛かった!
思わず暴れた。じたばたじたばた。
でも、あっけなく終わって、まだ痛かったけれど、とりあえず、終わった。
終わった・・・・・・のか?
痛みで暴れるウサベルトせんせェを、押さえつけようとして、思わず首に咬みついた。ほんのちょっぴり。
猫って、交尾の時に、相手の首を噛んで、おとなしくさせるって、そんなこと、いつか聞いたような記憶が・・・。
咬みついたオレの首に、ウサベルトせんせェが噛みついて来て、オレたちふたり、首を噛み合いながら、声も出なかった。
オレだって痛かったよ、ウサベルトせんせェ!
じんじんじん、何だか体が変だ。
むずむずむず、爪先に力が入らない。
ふるふるふる、耳がかすかにふるえてる。
ぴくぴくぴく、尻尾の辺りがなんだか熱い。
首に、きっとあとが残ってるんだろうな。どうしよう、どう、フランねーちゃんに言い訳しよう。
バスケの練習中にぶつかっちゃってさー。ははは。
教室で、上から蛍光灯が落ちて来ちゃってさー。ははは。
学校で、ちょっとケンカしちゃってさー。ははは。
ウサベルトせんせェに、初めての最中に、咬みつかれちゃってさー。ははは。
何だか、急に、腹が立ったような気がして、思わずジェットの髪を引っ張った。
ジェットがなんだよ、と唇をとがらせて、それから、またキスした。
誰かと、こうして抱き合うのは、きっときらいじゃない。
ジェットならもっといいと、思った。
まだ、発情期が終わってないんだろうか。
このままずっと、ウサベルトせんせェと一緒にいたいなあ。
一緒にいられたらいいなあ。
世界の終わりに、一緒に逃げようね、ウサベルトせんせェ。一緒なら、きっと何にもこわくないよ。
オレ、ウサベルトせんせェのこと、まだよく知らないけど、でも、ウサベルトせんせェのこと、誰よりも好きだと思うよ。
・・・・・・だから、また、してもいい?
リンゴが床に転がったままだ。早く冷蔵庫に入れないと。
大体、勉強もまだすんでないじゃないか。早く起きないと。でも・・・・・・体がだるい。めんどうくさい。
なんだか、このまま一生発情期なような気がしてきた。どうしてだろう。
ジェットの腕が、腰に回る。こら、どこにさわってるんだ、痛いだろう。
そう思いながら、ジェットの背中を抱き寄せた。ジェットの子どもの躾くらいできるさと、思いながら、目を閉じた。
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