ウサベルトせんせェとジェットくん
Act 5
今日はウサベルトせんせェ、キャベツの葉っぱをかじりながら授業中。
ぱりぱりしゃりしゃり音がする。動くせんせェの口元とほっぺたが、かわいい。
そんな眺めを楽しみながら、でもオレ、落ち込み中。
せんせェにキスしちゃって、それから、走って逃げちゃって、オレ、どうしよう。こわくて、せんせェの顔もまっすぐ見れない。
せんせェは、何を思ってるんだか、別にオレに話しかけるでもなく、オレを授業中に指すわけでもなく、もしかして、オレって、ムシされてるのかな、これって。
ウサベルトせんせェ、きっと怒ってるんだ。教師に、生徒が何をするって。オレ、全然せんせェ怒らすつもりなんかじゃなかったのに、ただ、オレ、せんせェのことが好きで、せんせェがちょーかわいくて、それでつい・・・。
でも、そんなの、いいわけだよな。
板書中のせんせェの尻尾が、ぴくぴく動く。いいなあ、触りたいなあ。かわいいなあ、せんせェ。
ウサベルトせんせェは、すでに丸いキャベツを半分以上食べて、それでもまだ、ばりばりと葉をむしって、しゃりしゃり食べてる。
ふーん、せんせェって、にんじんとキャベツが好きなんだ。リンゴはどうかな。今度、ウサギが好きなもの、調べてみようっと。
まったく、ジェットにキスされてから、尻尾がぴくぴく止まらない。発情期に入っちゃったじゃないか。
時期外れの発情期は、始末が悪い。何しろ、相手がいない。ああ、困った。
発情期に入ると、匂いに敏感になって、食べ物の趣味が変わったりする。今日も、朝からいつものにんじんジュースを飲もうと思ったら、匂いが鼻について、一口も飲めなかった。
それで、仕方なく、今日はキャベツに切り替え。キャベツはジュースが作れないから、困るのに。ぶつぶつ。
しゃりしゃりしゃり。でもおいしい。
ああ、授業中なのに、また尻尾がぴくぴくする。発情期は、まったく始末に負えない。どうしようかな、相手を見つけるのがいちばん手っ取り早いけれど、一体どこに相手がいるんだか。
こんな時期に発情期なんて。大学では、季節外れの発情期に対応する方法なんて、ちっとも教えてくれなかったから、ほんとうに、どうしていいのかわからない。ああ、面倒くさい。
周囲に仲間の匂いはしないし、大体最後の発情期は、あの事故の前で、あれから一度も、こんなふうになったことはなかった。一体、ほんとうに、どうしたんだろう。たかが、生徒のキスされたくらいで。情けない。
おっと、授業中だ。しゃりしゃり。おっと、発情期だ。しゃりしゃりしゃりしゃり。まったく面倒くさい。しゃりしゃりしゃりしゃりしゃりしゃり。
授業が終わって、みんなが教室を出て行った後、いきなりウサベルトせんせェに呼び止められた。
「はっきりしておいた方が、君のためだろうから。」
せんせェはそう言って、突然、オレの肩に手をかけると、すいと伸び上がって、それから、オレにキスをした。
もちろんオレは、飛び上がるどころか、心臓が止まるくらい驚いて、体が硬直して、動けなくなった。
せんせェが、ウサベルトせんせェが、オレにキスしたっ!
・・・・・・・そのキスは、今度は、キャベツの味がした。
キャベツは別に好きじゃないけど、せんせェのキスは、好きだ。
せんせェは、唇を離して、まっすぐ立って、俺を見上げて、
「背が、高いんだな。」
と、ぽそりと言った。
どうしてだか、せんせェのほっぺたが、赤かった。
ウサベルトせんせェは、不意にぴんと両耳を伸ばして、少しだけ胸を反らすようにして、それからオレに、もう行っていい、と言った。
オレは、ウサベルトせんせェ、またあした、と言って、教室を出て行った。
もしオレに、ウサベルトせんせェみたいな尻尾があったら、ふるふるしてたに違いない。
オレは廊下に出てから、ようやく息を吐き出して、それから、心の中で、大声で叫んだ
やっぴィィィィィィィィィィィィィィィィィっ!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!
それから、いつものように、トイレに向かって駆け出した。
どうやら、彼も発情期らしいし、この際、あまりえり好みはしてられない。とにかく、この発情期をなんとかしなければ。
考えてみれば、背も高いし、発情してるなら、もう大人のはずだし、少しばかり知能指数に問題はあるかもしれないけれど、別に男同士で子どもが出来るわけでもなし、結果を心配しなくていいなら、どうやら特に障害はなさそうだ。
種族が違うとどうなるのか、そんなこと、大学では教えてくれなかったから、少しばかりの冒険だけれど、発情期同士、これは一緒に解決するのが得策だな。
ふん、子どものくせに、あんなに背が高いなんて生意気だ。体ばっかり大きくても、勉強できなきゃ後で困るぞ。
アンドレア・ドウォーキンは、こういう関係について、何か書いてたろうか。今度調べてみよう。
耳と尻尾がぴくぴくする。困った発情期だ。
でも、男同士で、どうやるんだろう。彼はやり方を知ってるんだろうか。多分知ってるんだろう。今時の子どもは、いろんなことを知ってるらしいから。
考えてみると、大学で習ったことなんて、ちっとも役に立たないな。それとも、選んだ大学が悪かったんだろうか。だから大学院へ行きたいと行ったのに、ギルモア博士が、いや、早く世間に出て、人に慣れなさいと言うから・・・。
ああ、また発情期だ。尻尾がムズムズする。
交尾のための巣作りは、どうやるんだったかな。これも大学じゃ教えてくれなかったな・・・まったく。
残りのキャベツを食べて、それからゆっくり考えよう。しゃりしゃりしゃり。
明日はにんじんが食べられるかな。しゃりしゃりしゃり。
まったく発情期なんて。しゃりしゃりしゃり。
しゃりしゃりしゃりしゃりしゃりしゃり。リンゴでもいいかな、明日は。しゃりしゃりしゃり。
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