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2013/6/25 009(54)、vtms追加

飽 #54

人工皮膚が擦り切れるほど抱き合ったと思うのに、触れるたびに湧くいとおしさ。
いっそ皮膚を剥いで、装甲の内側の部品とコードの絡まる様すら見てみたい。眺めて、同じ形の部品を見つけて、きっとそしてまた恋に落ちる。
重なるのは、大きさの違う人工心臓の、白い循環液が人工血管を巡る、同じ音。

◆ 鮮やかな傷跡 #54

シャツをただめくり上げて、そこに現れる傷跡に触れる。
掌を重ね、指先を滑らせ、それから唇で覆って、舌先を這わせる。
血の味も粘膜の感触もないのに、傷ついた瞬間を知りたくて、そうやって触れる。
そこだけ感触の変わってしまった皮膚の、出来上がった傷跡に重ねて刻む、自分の気配。

◆ 恋人のキス #54

お決まりの挨拶は握手だ。もう少し親しくなれば、肩や背中に腕を回す。挨拶で交わすキスは、できれば人目のない時に。
そうして、ふたりきりになれれば、どんな触れ合い方も遠慮がない。
唇を開いて、舌先を差し出して交わす接吻。口づけの深ささえまだ秘密のまま、人知れず教え合う、唇の柔らかさ。

茶色の瞳 #74

熱い湯の中で踊る葉が、深い緋の香りを立てる。
カップに注げば、まるでルビーのような、ミルクを注ぐのもそのまま飲んでしまうのも、どちらも惜しいような色に目を奪われる。
礼の代わりに視線を送れば、はしばみ色の瞳に出会う。その色もまた、何か稀少な宝石のようだ。
見惚れる間に、紅茶が冷める。

◆ お気に召すまま #74

ラジオから流れる音に、踊ろうと誘われて、伸ばされた腕に右腕を返す。鉛色の指先を気にしながら、リードされるまま、足を動かす。
少し低い肩に、寄せる頬。まるで眠気を誘うようなリズムに、自然に体が近寄る。
不思議と絡まらない足に、けれど体に回す掌には力をこめて、抱き合うよりも親(ちか)しく踊る。

◆ あなたのいない朝 #あらし74

幾度数えてもまだ慣れない、ひとり目覚める朝。ベッドの薄寒い広さから目を背けても、動かない空気に目を凝らすのを止められない。
自分の選んだネクタイの、生彩のない艶は、まるで自分の顔色を写したようだ。
惑う右手は空のまま、そこに乗せる想い出の増えることのない、色褪せるばかりの日々。

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大好きなあなたのこと #承花

回し飲みの水のボトルの口を、拭わないまま手渡された。躊躇いの後でひと口飲んで、返したら、気にした風もなくそのまま口をつける。
気にしなくていいんだと、生まれて初めて思った。初めての友達に浮かれていたのは、果たして僕だけだったろうか。
問わないまま、君が友達以上になる。

◆ 放課後の約束 #承花

図書館で本を借りた後は、ゆっくりと屋上へ行く。君は先に来て、もう何本目かの煙草を吸っている。
君の傍に坐って本を開き、煙草の匂いにむせながら、借りて来たばかりの本を読む。
ページをめくる音、煙草の先の焦げる音、校庭では野球部の声、合唱部のピアノの音、気配の合間に盗む、淡い短いキス。

◆ 好きの理由 #承花

濃い深緑の瞳。全身に針を立てたような風体。煙草の匂い。わかりにくく優しいところ。案外ときれいな字。爪の形。指の腹の柔らかさ。唇の輪郭。名前の音。意外と保守的な点。
足元にあった花を踏まないように避けたら、同じように君も、背中を丸めて花を避けた。
今日またひとつ、君を好きな理由が増えた。

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寂 #フィアキリ

話す相手もいない。ゆく先も知れずにさまよう間に、唇の動かし方も忘れてしまう。言葉と音がすぐには結びつかなくなったことに、ひとりでいれば気づかない。
夢で会えた夜に、呼ぼうとしたその名のために、唇さえ動かないまま目覚めた朝、頬を濡らす夜露にまぎれて、ほんの少し声を上げて泣いた。

◆ 緊 #シャッキリ

平然と裸になったくせに、始めた後で、まるで小さな生き物のように震え始めた。
不慣れはお互いさまだと思いながら、壊れ物の扱いのつもりで、慄え続ける肩をそっと抱き寄せる。
吐く息の間隔を合わせて、張りつめて強張った背中をなだめるように撫でる仕草が、幼子にするそれと同じとは気づけなかった。

◆ 空を宿す瞳 #シャッキリ

宇宙へ続く、果てなく高い空。見上げて、雲の向こうを透かして、その青に目を細めて、見えるはずもない友人(とも)たちの行方をたどる。
空の色を写していた瞳。その瞳に映っていた小さな、現実味のない自分の姿。伸ばした手は、空回ったままだ。
今度こそ離さないと、定かではない未来の漂う、どこまでも青い空。

◆ やましい微熱 #シャッキリ

秘密めかすつもりはなくても、ひそまる声と気配。
触れ得ざる者へ触れる掌の熱さが、凍らせてしまった心の端を溶かす。
失くしたものは還らない。それでも止まらず続く命を重ねて、忘れないために息と熱を交わす。
熱砂の地獄でも谷の底の暗闇でも、孤(ひと)りでないと確かめるために、その首にしがみつく。

◆ 喘ぐ純粋 #キリコ

女に触れたことはない。柔らかい、あの躯に埋もれたことがない。
ひとの肌はただあたたかく、触れれば必ず安らげる。重ねる平たい胸は、誰のも同じに鼓動を刻む。
開く口、喉、躯、どれも大した違いはなく、粘膜の湿りに区別もない。
愛とは重ならない体温。求められているのだと言う、心地良い錯覚。

◆ 糸切り歯 #シャッキリ

翌朝目覚めて、腕に残る噛み跡に気づく。赤く血の滲んだそこに、ひときわ深い跡。
牙のようだと思ってから、野生の獣を連想する。滅多と人には懐かない、険しい目の獣。
平たく開いた躯の、あたたかな腹に触れる。それは服従ではなく、許容の仕草だった。
抱き合って視線が重なれば、ふと和むその目。

◆ この手でいいなら #バイキリ

ムーザに八つ当たりはよせと言ったら、抑えていたらしい怒りを爆発させて、後はお定まりの小競り合いだ。
数回殴らせた後で、泣き出したその肩を抱き寄せた。
殴って来たのは左手だけだった。
「バイマン。」
右手のない男の名を呼んで、その手に触れると、血の通わないその手は、キリコの掌を握り返して来た。

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