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(大体)140字以内で選択お題@EGREL その2
>> 009 > 54 / 24 * JoJo > 承花 / ウェザ承 * vtms > ペキリ / シャッキリ

2016/5/7 009(54)追加

雷鳴 / 54

あれは雷の雲だと指差されて、森を抜ける前にはもう追いつかれてしまった。
遠い雷の心配をしながら、雨宿りに選んだ木の葉陰で、寄せた肩の湿ったぬくもりにふと頬に血が上がる。
雨の走る地面の、ふたりきりの足元は乾いたまま、降る間はこうしていられるのだとふと思って、まだ止むなと、呟き。

○ 今、一番愛しい / 54

思わず手を伸ばして、触れたいと思うものはいくつかあった。 それでも、触れようとするその指先が震えて、触れる勇気の必要なほど、いとおしいと思った者はいなかった。
触れればきっと心臓が止まる。そんな予感がある。その予感すら甘く、恋と言う字面すら足りず、自分の命よりもいとおしい、人。

孤独を慰む / 54

朽ち果てても土には還れない身を、横たえて錆び果ててこぼれる破片の、混じればどちらがもう誰とも分からずに、それがかつて我らであったものの成れの果てと知られないまま、磨き上げれば顔を映すようだった銀色の右腕の、その掌だったそれへ、載せられたのは刺青の跡のかすかに残る人工皮膚の切れ端。

○ 茶色の瞳 / 54

見下ろされて、ふた色濃さを増す茶色の瞳。それが癖か、まるで目を凝らすようにこちらを見つめて来るのに、受け止め続けることができず、すっと視線をそらす。
その目に射殺(いころ)されそうだからだと、言い訳する片頬が熱い。
額を触れ合わせる近さなら、唇でその目も塞いで、声も呼吸も奪ってしまえばいい。

割れたクッキー / 24

欲しい?と、砂糖のかたまりのようなクッキーを差し出して来て、いらんと首を振る前にそれを割る。
大きい方を手渡して来るのに、仕方なく受け取って口に入れた。
予想通りの甘さに脳天まで痺れて、それでも黙ってじゃりじゃり食べた。
見ていたのはクッキーではないと、一生言ってはやらない。

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放課後の約束 / 承花

廊下の真ん中で、肩先をこすらせるように通り過ぎて、瞳の端で目配せし合うのは誰にも見つからないように。
ざわめく放課後の、誰もいない屋上でようやくふたりきり、まだ触れ合うのは指先だけで。
煙草の匂いが髪にに移る。図書館の埃の匂いが帽子に移る。知らずにふたり、同じ匂いを分け合っている。

○ 下駄箱ロマンス / 承花

上履きから靴に履き替えて、それでもそこに立ち止まったまま、様々靴の並んだ棚の間で、声をひそめて話をする。
他愛もない戯れ言の、何気ない合間にふと視線が合って、唇の動きが止まる。
誰も来ない。多分。
薄暗い棚の谷間に肩を縮めて、丸める背と伸ばす背と、靴の爪先はいつの間にか立っていた。

接吻 / ウェザ承

背伸びをするキスは、想像したこともなかった。
7cm先の目線、濃い深緑の瞳の見る世界を垣間見るための、わずかな爪先立ち。
行き交う呼吸で湿るのは唇だけではなく、その潤いに呼び覚まされる遠い記憶には、まだ痛む胸がある。
新たな恋が傷を覆う。再生される皮膚の下で、重なる鼓動がふたつ。

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歌を待つ人 / ペキリ

自分を武器だと言うくせに、触れれば音を立てる様は、よくできた楽器のようだ。
その時だけは円く響く声。吐息の交じるそれの、律動へ知らず引き込まれてゆく。
同じ音は二度とない。あらゆる動きが音を鳴らし、旋律を生み、その場限りの即興曲を紡ぎ出す。
恥知らずのクレッシェンドで、割れた薄闇。

○ 弔いを待つ人 / ペキリ

その手で殺してくれ。首に掛かる手と指の、残した跡の熱さをまだ憶えている。
愛し方を知らず、愛され方も知らず、求めるものの形さえ見えずに、背を向けられるならいっそ憎まれたいと、冷え凍る胸の中で思った。
その手に奪われてゆく命の、最後の一瞬が焼きつくのが、その冷たい青い瞳ならいい。

○ さよならのたびに / ペキリ

またとは言わない別れのたび、明日の知れない身を思い知る。
戦いが終わったところで、それに安住もできないのだと、口に出さずに知っている。
明日がないからこそ、互いにすがりつくように抱き合って、ほどく腕を惜しんで、ないかもしれない明日を無言で誓う。
明日には繋がらない、ふたりの今日。

○ 治らずの恋 / ペキリ

胸が痛むのは、一体どうすれば治るのだろう。
眠れない夜を酒に紛らわすのは、一体どれほど続くのだろう。
身内をすべて占められて、呼吸すら自力ではできない気分になるのは、なぜなのだろう。
微風に揺れる青い花を見るだけで、世界が時を止める。
止まった時の中で唯一色を持つ、"あなた"。

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肩越しの宇宙/ シャッキリ

あそこへ旅立つのだと空を見上げ、瞬く星よりもどこかの遠くを見つめていた青い瞳の色を、今も憶えている。
望む世界は見つかったのか、そこへはたどり着けたのか、地上に縫いつけられたまま、あの日と同じ色の空をひとり見上げる。
行かないでくれと、言えなかった言葉を、今も飲み込んだまま。

○ さよならのたびに / シャッキリ

また会えると、なぜか知っている。
行き続ける道の先で、交わるそこでまた会えるのだと、なぜか知っている。
折る指の足りなくなる年月の間、変わり続け、そして同じままの世界の果てで、ふと風に交じる気配を捉えて、同じ空気を吸い、同じ空を見上げているのだと知る。
また会えると、心が震えた。

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