prologue...

 年末年始を日本で過ごす事にしたジェットとアルベルト。 ギルモア邸に滞在していたものの、ジョーとフランソワーズは年越しスキーに出かけ、ギルモア博士はコズミ博士と大晦日から年越しで温泉に出かけることに。
 なのに、二人っきり? と思う間もなく、コズミ博士のお相手とイワンの子守に、アルベルトが温泉へ連れ去られてしまいます。
 ジェットはむなしくお留守番。 新年は二人でと思っていたのに・・・。
 そして、今日はやっと4人が帰ってきた1月3日。今度はコズミ邸で改めてお正月をと呼ばれてたものの、当然ジェットはお断り。アルベルトを捕まえて、ギルモア博士とイワンへ行ってらっしゃーい!
 よっしゃ、これでふたりきり! 今夜は誰も帰ってきまませんから、ね・・・

 

 

 

 

 博士とイワンを車でコズミ博士の元へ送り、ギルモア邸に帰ってきたジェットだったが、リビングにいたはずだったハインリヒの姿はどこにもなかった。
 何だよ、と舌を打って、肩をすくめる。それでも、楽しみが少しばかり先に伸びて、その方が、もっと後で楽しめると思えば、悪い気分ではなかった。
 また新しい年だと、思って、くるりと肩を回し、広いギルモア邸の中を、ハインリヒを探すために、ジェットは長い足を、持て余すように前に滑り出した。
 まずは、キッチンを覗く。
 階段を上がる気配はなかったから、上にはいないはずだ。とすれば、コーヒーを淹れに行ったか、何か摘むものを漁りに行ったか……。
 かくれんぼをしているような気分になって、ジェットはふっと微笑んだ。素足の立てる音が木の廊下に響く。それを自分で意識できるほどにギルモア邸は静まりかえっている。
 キッチンの中にハインリヒの姿は見あたらない。予想が外れるのもまた悪くはない。さっきまで居たような痕跡を残してはいるのだが。
”遊んでるのか?”キッチンの入り口でジェットは腕を組み、にやりと笑った。
「ったく…いつまでオレを振り回せば気がすむんだかね、あのお姫さんは」
 そこでキッチンを見回したジェットは、シンクの脇に栓抜を見つけた。普段はがさつな振る舞いが多いが、こんな時には鼻が効くのだ。
「ははーん、オレって探偵になれるかもね」
 迷わずキッチンから廊下へ出て、とあるドアを開ける。そしてジェットは真暗なその階段を、明かりをわざとつけずにそっと降りていった。
 地下にあるのは、ワインセーラーだ…。
 耳を澄ますと、中からかすかな音が聞こえる。ゆっくりと、迷いながら歩く靴音と、それから、何かの詰まった瓶を取り上げる、くぐもったガラスの触れ合う音。
 何度かその音が繰り返され、ようやく納得の行くものを見つけたらしい、満足そうな呟きがドア越しに聞こえてきた。
「お気に入りは見つかったのかよ、アル」
 なるべく驚かせないように、気をつけて声をかけてからドアを開けたのに、ハインリヒは驚いたように振り返った。
「脅かすな」
 憮然とした口調で返し、しっかりとワインを抱え込んでいるのが可笑しい。持つよとジェツトが手を出せば、大事そうに胸に抱えられて、差し出した手が空振りして少し唇を尖らせる。
「・・・これは、美味い」
 はあ? 意味が分からず思わず見つめ返してしまえば、ハインリヒも言が足りなかったかといい足した。
「この年のこの地方のワインは美味いから、お前と飲みたいから、落としたくない」
 言い訳を連ねるその憮然とした態度が何処か可愛くて、ジェットは笑った。笑って、こっそりキッチンから持ち出して後ろに隠していた二つのグラスをハインリヒの前に掲げ、栓抜きをポケットから出して見せた。
「了解。姫君。何処で飲む?」
 姫君、と呼ばれたのにハインリヒは少し唇を尖らせ、ジェットの手からグラスを引っ手繰るように奪おうとしたが、その拍子にひとつを取り落としてしまった。薄いワイングラスがパリン、と二人の足元に砕け散る。
「あーあ」
 ジェットが破片を拾おうとするのを制し、ハインリヒはドアを開けた。
「片付けは後だっていい。・・・上の、テラスに・・・」
 行かないか?という誘いは、階段の上へ立てた見せた人差し指で示す。
 もし逆に、自分がグラスを割っていたなら、カンカンに怒って片付けろ! と怒鳴るのがいつものことなのに、いったいどうしたことだろうとジェットは内心驚き戸惑いながらも、黙ってハインリヒが階段を上るその後についていった。
 空気は冷たいけれど、風のない日だった。
テラスへ出た途端、ワインのボトルを押しつけられ、開けろと、目顔で促される。ジェットが、栓抜きとコルクと格闘するそのかたわらで、ハインリヒが、ワイングラスを片手に持ったままで、煙草に火をつけた。膝の間にボトルを挟んで、コルクを壊さないように気をつけながら、栓抜きをねじ入れ、それから、丁寧に、ゆっくりと抜いた。
 ぽんと、弾んだ音がして、冷たい空気の中に、ワインの香りが立つ。それに、一瞬目を細め、煙草の煙越しに、静かにたたずむハインリヒを眺めていた。
「オレにも、吸わせろよ。」
 目を細めたままそう言うと、ハインリヒが、煙草を口にしたまま、1歩近づいて来る。見慣れた、鉛色の指が、煙草を取り、そうして、ジェットの口元に運んでくれた。
 見つめ合って、それから、ジェットは、喉を伸ばして、鉛色の指に挟まれたままの煙草に、唇を近づけた。空気よりも、唇にかすかに触れた指の腹が、冷たい。
 煙草を口の端に咥えたまま、ひとつ残ったグラスにワインを注ぐ。深い紅の液体が、丸いグラスの底で小さな波を作る。
 カチン、とグラスを合わせる代わりに指先で弾いて、それをハインリヒの口元に差し出した。ハインリヒは本当に珍しいくらい素直に薄いグラスに口をつける。そのままゆっくり傾ける。
 赤い酒がハインリヒの唇を濡らすのを、じっと見つめていると、彼は右手でグラスをよけ、それから、ジェットの咥えた煙草を取り返した。
「何?」
 囁く間もなくハインリヒの唇がそっと近付いてきて、耳の傍で、ごくりとそれを嚥下する音が聞こえた。
「美味いぜ」
 まだワインには一度も口も付けていないのに、かっ、と全身が熱くなるのを感じ、ジェットはそれを誤魔化すかのようにハインリヒの手からワイングラスを奪い取るとグラスに残っていたワインをぐいっとひと息にあおる。グラスを口へ傾けた時の勢いが強すぎたのか、口元から流れた一筋を手首で拭おうと上げた腕を、鉛色の右手に掴まれた。
「独り占めするつもりか?」
「何をだよ……?」
「ワインに決まっているだろう」
 ハインリヒの唇がジェットの口から零れた滴を拭うべく素早く近づいて柔らかな舌でそっと舐め取って行った。
そんな事をした後でもアルベルトはジェットのすぐ前から一ミリたりとも離れようとはせず、焦らすかのようなゆっくりとした動きで、固まるジェットに視線を合わせていった。
 テラスの薄明かりに、ハインリヒの唇が艶めいて見える。さらにハインリヒは瓶から酒をあおり、煙草を手から落としてジェットの頬をなでた。
「いつもの、アンタらしくないぜ…?」
 それでも無言のまま、薄く白い唇がジェットのそれに寄せられる。
 どちらからともなく、むさぼるように合わせられた唇の端から、流れ落ちる、赤。
 流れ落ちる酒がハインリヒの白い喉をすべり落ち、汚していく。鈍色の指がジェットのシャツの胸元を掴み、冷たい唇がその喉に喰らいつくような仕草で口付けを落とした。
「アル…っあ…どうしたんだよ、今夜は?」
 ジェットは激しい疼きを感じて、ハインリヒの腰を抱き寄せた。いつもなら抗う素振りの一つも見せるハインリヒの腕が、ジェットのベルトにかかる…。
「何かヘンだぜ、今日のアンタ」
 ジェットの言葉に、ハインリヒは目を伏せると、小さく「酔っただけだ…」と呟いた。むろん、それが言い訳にしか過ぎないのは、ジェットも承知だ。たった一口のワインで、ハインリヒが酔うわけが無い。
「何かあったのかよ」
「何かなきゃ…こうしちゃいけないのか?」
 バックルからベルトを引き抜こうとするハインリヒの手を、ジェットはそっと押さえた。
「そういうアンタも悪くないけど、ここはやめておこうぜ。ここじゃ…アンタに怪我させちまいそうだ」
 テラスの木の床を指差して、ジェットは笑った。
「そのかわり、アンタの好きな所、どこへでも連れて行ってやるよ」
 手を押さえられて、ハインリヒは少しむっとしたような顔で見上げたが、好きな所という単語と、落ちて来た短いキスに、少しだけその機嫌を直した。
「・・・風呂」
 ぼそっと呟かれた言葉に、ジェットは一瞬その場所の確定に戸惑い、それから、思い当たって真っ赤になった。
「あんた何考えてんだよ!」
 人目がないとは言え、思わず声を上げてしまえば、返される声もまた高い。
「気にいらないのか!?」
 逆切れなのは明白で、その証拠に、シャツを掴む手は離されない。
「いや。ごめん。驚いただけ」
 下手に出て謝り、それじゃ、と遠慮なくジェットはハインリヒを抱き上げた。そして、形ばかり抵抗される中ワインのボトルを取り上げて、少し広めの、この屋敷の風呂場へと足を向けた。
 静かな屋敷の廊下にコツコツ、と足音がひとつだけ響く。誰もいないのはわかっているのに息を潜めて、ジェットはワインを抱えたハインリヒを両手で抱いたままバスルームの扉へ向かう。両手がふさがっているジェットに代わりハインリヒがドアノブを回し、ジェットが肩先でドアを押して日本風に作られた脱衣場へ入った。
 いつもならフランソワーズがちゃんと支度をしてくれているのだが、今日は自分で湯船に湯を張らなければいけないので、ちょっと待ってろよ、とハインリヒに小声で言って下ろそうとする。
 下ろそうとするが、ハインリヒが首筋に回した手を緩めないのでジェットは困惑する。
「湯入れてくるだけだからさ」
 ハインリヒはそれでも腕を緩めず、もうすこし火照りかけたようなジェットの耳元にささやく。
「別にバスタブじゃなくても構わない」
 ジェットが言葉の意味を捉えかねて戸惑う隙に、ハインリヒは無理やり腕を伸ばすと、ジェットの肩越しに風呂場への引き戸を開けた。
ええい、もうどうにでもなれ、とジェットはそのまま扉の向こうへと踏み出した。
 タイルの冷たさに驚く間もなく、ハインリヒはさっきまでとは裏腹にジェットの手を解くように降りると、そのまま目の前の長身を壁に押し付けるようにして、胸と腰をあわせた。
 壁に、背中がぶつかると同時に、唇が乱暴に重なって来て、かすかに、歯のぶつかる音がした。いつもとは違う手順に、虚勢は張っていてももう、足元が危うい。そのまま、壁を滑るように、タイルの上に引きずり下ろされ、うっすらと、ワインの匂いのする呼吸の下に組み伏せられる。
 湯船の傍に、倒れて、のしかかられて、ジェットの胸に片手を滑らせながら、もう一方の手が伸びて、蛇口をひねった。熱い湯が、タイルを濡らしながら、ほとばしる。流れ、髪を濡らし、シャツを濡らす。にやっと、上で、ハインリヒが笑った。
「・・・濡れちまう。」
「うるさい。」
「フランソワーズに、どうやって言い訳するつもりだよ。」
「黙ってろ。」
 シャツの胸元をつかまれ、引き寄せるより早く、唇にまた、覆われた。言葉を飲み込んで、それから、絡む舌を、素直に差し出した。
流れる湯の音にまぎれて、ハインリヒの腕が動く。
 そうするために、必要なだけを剥き出しにして、そして、ハインリヒは、自分から、ジェットを導いて、躯を繋げた。その中は、喉を通るワインの熱さに、似ていた。
 息を飲んで、唇を噛んで、上で動く、ハインリヒを見ている。時々重なる視線が、熱っぽく絡んで、水の音が混じり、その音に、煽られる。
 ジェットは、わざと、濡れた手で、ハインリヒの首筋に触れた。
アル、と呼ぼうとして、やめた。やめて、そうして、唇を震わせた。
「・・・アルベルト・・・。」
 肩を、大きく揺すって、ハインリヒが、口を大きく開ける。
 ジェットと、音はなく、その唇が叫んだのを、聞いた。
 体の芯の方がぎゅうっと何かに掴まれるような感じがして、ジェットは思わず唇を引き結んだ。
 そうして衝動を一度堪えると、ゆっくりと唇を持ち上げ、
「焦るなよ」
 と、笑ってみせた。
 ハインリヒも応えるように唇の端に笑みを引っ掛けて、それからゆっくりと腰を揺らし始めた。
 は…、と小さく息を吐いて、ジェットも腰を浮かせる。ハインリヒの腰に手を添えて、リズムを合わせるように突き上げる。
 ハインリヒは、濡れて、張り付いたシャツの上からジェットの薄い胸に指を這わせた。
 僅かな吐息も、この浴室では大きく反響する。
 あ、あ、とリズムに合わせて零れた声はジェットのもので、それを聞いてハインリヒは細い腰を捉えた腿にぎゅっと力を込めた。
 ジェットが絞り出した甘い声は、一つになってから抑えがちだったハインリヒの欲情を少しずつ、少しずつ煽り立てていた。高ぶった神経は抑制から遠く離れ、アルベルトを、ジェットを翻弄し始めている。
 このまま快楽への階段をもっと上っていきたい…そんな欲求に駆られハインリヒはジェットの胸に這わせていた自分の指先を腹の辺りへ滑らせた。腰まで辿り着くとすでに膨張しきっている己自身に思わず手を添えた。
 透明な液体が止めどなく溢れ出る先端に目がいくと、アルベルトはそこでふと我に返り、顔を上げ、横たわっているジェットと目が合った。
「……遠慮すんなよ」
 躊躇っていた鉛の右手に、ジェットの手がそっと添えられきつく握りしめられた途端、突き上げる腰の動きに合わせ強制的に自分の手をも揺さぶられ、アルベルトはそこで初めて躊躇いもなく、我を忘れて喘いだ。
「アル、いつも独りの時は、どうしてる? 今みたいにこうやって…」
「黙れっ…っん、ああっ」
 先端から溢れ出る熱い滴りを指先で撫でるように慰めて、ジェットは突き上げた。
 したたる汗がハインリヒの頬を流れ、ジェットの胸に落ちる。
「オレのこと、思い出してくれてる? なぁ…?」
 ぶつかりあうような卑猥な音が浴室に響いて、ことさら耳を打つ。
 さらに熱を帯びたハインリヒ自身を、腰の動きに合わせてしごく。
 その先端の亀裂を滑る指先で撫で上げてやりながら、ジェットは快楽の波が背筋を駆け上がるのを止めることが出来なかった。
「へへっ…やべぇって」
 一度腰を引き、ジェットはハインリヒから身体を離した。
「あ……っ…」
 悲鳴にも似た吐息が、ハインリヒの唇から漏れた。
「いや…だ……まだ……」
 すがるように体がジェットを追いかける。
「大丈夫、やめないから…」
 ジェットは、ハインリヒの体を抱き上げたまま、バズタブに身を沈めた。意外なほど熱い湯の感触に、自分達の体が冷えていた事に、ジェットはようやく気がつく。
「続き、しようぜ」
 ジェットは自分の腹の上にまたがるようにハインリヒを座らせると、腕を引いた。
「挿れるときの顔、もっと見せてよ、アル…」
 湯気で上気した訳でなく、ハインリヒの顔が一瞬で朱に染まる。
 腰に手を添えて、促してやれば、朱を刷いた顔と目元で少しきつく見つめられ、ふっと伏せられた。
「駄目、見せて」
 甘えるように言って、顎に指をかけて上を向かせれば、潤んだ瞳に出会った。眼差しで促して、腰に添えていた手で促せば、湯の中に沈む身体。
 纏わりついていた暖かい水の感触とは違う熱が触れ合って、少し躊躇うようにされた後、隙間なく繋がり、のみ込まれる。
 僅かに目を閉じて交わる感覚に意識を向けているハインリヒの表情を眺め、覚える熱い襞の感覚を受け取って、ジェットは熱く息を吐いた。
 もっと見たくて、待ちきれなくて下から突き上げれば、こらえきれずに声を上げて仰け反る身体を抱きとめ、ジェットは水面を揺らした。
 揺れる暖かい水の中、すぐにしがみついてきたハインリヒが、ジェットの動きにあわせて耳元で声を上げる。
 煽られる感覚。
 揺れて揺れて、時々上がる水音が、絶え間ない息遣いと喘ぎ声の間に入り込んで、濡れて落ちる。
 痩せた首にしがみついて、合わせて大きく動くハインリヒが、激しく首を振って、髪に飛んだ水滴を打ち払った。
「あぁー、ジェット!」
 名を呼んでしがみつき、その感覚だけを追い求めて動く二人の間に、割り込むような水音と飛沫。顔にかかるそれを払うかのように、ハインリヒが大きく身体を打ち振るわせた。
「ああ! アル!」
 押し込めたような声に、かぶさる嬌声。
 水音。
 一際高い声を上げて頂を極めるハインリヒの中で、ジェットも情欲を解き放った。
 揺れる、暖かい水。
 狭い空間に響く乱れた呼吸音。乱れた水面がおさまるってようやく、ふたりは身を捩った。
 二つの乱れた吐息の隙間で、まだかすかに揺れている水が、肌の隙間から浮かび上がる白濁をゆっくりと散らしていく。静かに、ゆっくりと、水面を曇らせていく。
 ジェットは肩先にもたせかけられた愛しい恋人の額をそっと指先でなでてやり、汗と水とに濡れて乱れた前髪を直す。
 そのやさしい感触にうっとりと目を閉じたハインリヒは、ジェットのうなじに回した指先を這わせ、濡れた赤い髪を指先に絡めた。
 軽く引っ張るように、気を引くように触れられるのに、ジェットはハインリヒの頬に沿わせていた手をそっとあごに滑らせ、顔を上向かせた。
 ハインリヒはさっきまでの自分の嬌態を省みているのか、すこし嫌がりながらも、微笑んでくる空色の瞳を、まだ潤んだままの双眸で見つめ返す。
 今日はいったいどうしちまったのさ、ハニー?とおどけて聞こうとしたが、指先に触れる頬と耳たぶの熱さにふと気をとられて、言葉を失った。
 そのまま、まぶたに唇を寄せ、頬骨の上に、鼻先に、あごに、耳元に、ついばむような口付けを落としていく。
 首筋に回されていた指先が、絡めていた自分の髪を離して、きゅっとまた力をこめてくるのに頬を緩めながら、目を閉じて、最後に落とされるであろう唇へのキスを待っているような、まるで少女じみた、この男の普段の振る舞いからは誰も想像できないような表情をゆっくりと楽しむ。
 腕の中で乱れに乱れて、あられもない声をあげるときの顔も好きだけど、こんな顔を見ることができるのが一番幸せだと、ジェットは思った。
 だんだん冷めてぬるくなっていくみだらな水の中で、微かに体温を上げながら、頬を寄せて互いの体温を確かめ合いながら、どんな甘くていやらしくて激しい交わりよりも心地よいかもしれないその温度を、何より愛しく思った。

 

 

 

 

 

入り口 / 企画top