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* ジェロ誕ひとり祭り *

11/26〜12/25 お題で毎日短文更新。日付ずるっこは見逃して下さい。
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選択式お題@loca

423.半分の希望 (54)
手足が吹き飛んでも直せるし、部品を取り替えれば新品同様だ。ごろんと地面に転がって皮肉に笑う彼の耳は、焦げて焼け落ちていた。
どんな形だったかと指先と唇に思い出して、抱きしめられるならそれでいいと思った。

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370.春の過ぎる音 (54)
雪の融ける音が、流れる水の音に変わるのが、彼の地の春の知らせだそうだ。
白茶けた土が、ぬるんだ雨に赤茶色にふっくらと柔らかさを増すのが、この地の春だ。
来年は日本で、散る夜桜を一緒に見上げていよう。

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343.世界の色 (54)
葉陰から降り落ちる陽の光はうっすらと緑色を帯びて、それが銀色の髪に淡い影を落とす。
頭上で重なる葉と同じ形の影の、風に揺れる輪郭が頬の丸みに重なった時、森に溶け込む手前で、その頬へ落とす不意の口づけ。

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185.四角い部屋 (5&1)
空を飛べても、自力で歩くことはできない彼は、箱のような部屋に閉じこもって、尋常ではないその脳を使って、あれこれ思案中らしい。
無限に広がる彼の世界入り込むために、新しいオムツと哺乳瓶を手に立ち上がる。

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194.ここにはいない誰か (54)
右側を見て、左側を見て、ああひとりだと思ってから、目の前に幻を描く。
わずかに傾いだ肩、後姿が淋しそうだと思うのは、その背を守る自分の不遜だ。
自分にだけその背を晒すのだと、そう思うのは傲慢だろうか。

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050.ドアベル
いくつ壊したかわからないから、誰かを訪ねる時はいつもドアを叩く。こちらも、壊さないように、できるだけそっと。
指先で押せば鳴る小さなベル、今ではひとであった時の思い出になって、目の前にあっても遠い。

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087.逃亡計画 (54)
テーブルの角を囲って、ひそかに膝の触れ合う夕食の席。触れ合いの微かさで、今夜の約束を交わす。
森へ行こうと言ってみた。承知の返事の、鋼鉄の膝先が揺れる小さな笑いは、静かな闇の中で聞く声に、少し似ていた。

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099.絵葉書 (54)
彼が仕事へ向かう先の町々から届くハガキ。几帳面に書かれた彼の字から、疲れ具合がわかる時もある。
平凡な写真の、ほとんど変わりのない文面が、けれど優しく伝えて来る、淡々と過ぎてゆく、彼の平和な日常。

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077.エアメール (54)
ペン先を潰さないように気をつけながら、それの当たる紙を破らないように気をつけて、まるで日記のようにその日あったことを書き記す。
海を渡って彼の元へ届く、自分の代わりの便り。 紙に乗るインクに、こもる想い。

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285.朝の片隅で (54)
そっとベッドを抜け出すつもりで、静かに静かに体を起こす。それでも、足を床に着ける頃には、目を覚ました彼が、背中にそっと手を伸ばして来る。
少し冷え始めた背に触れる、まだあたたかい、永遠に硬い彼の右手。

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333.遠くて、遠くて、 (5&6)
天井近くの棚を指して、あの鍋を取ってくれと言うけれど、どれのことかわからない。張大人を抱え上げたのは、その方が早そうだったからだ。
「ウヒョーよく見えるアルね。」
案外弾んだ声の彼に、思わず笑いをこぼす。

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152.取り扱い注意 (5&3)
誰に踏まれたか、折れてしまった細い茎の、小さな花。そっとそこから摘み取って、持ち帰ることにしたのは、フランソワーズのためだった。
この花とイワンへ話しかけている明るい声を想像しながら戻る、いつもの道。

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133.螺旋階段 (54)
彼の住む、古びた建物の、天井だけは高いその部屋へ向かう、ぐるぐると長い階段。手すりに触れて、ゆっくりと上がる。
見上げれば目の回りそうな、その中心に不意に現れてこちらに振られる、彼のあの右手。

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220.嘘さえも優しく (5&3)
「ここから出れるかしら。」
不安げなフランス語に、思わずそのまま答えた。
「いつか。必ず。」
彼女が驚いたようにこちらを見上げて、それから、にっこりと微笑んだ。
優美な言葉で紡ぐ、慰めのための小さな小さな嘘。

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076.雨が降ってる (54)
体が錆びそうだと、気の滅入る声で言って薄暗い空を見上げるから、外に出なくていい良い口実だと言ったら、思いがけず素直な驚きが口元に浮かんだ。
どれひとつ同じではない表情のたび、新しい恋に落ち直している。

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199.風は西向き (54)
葉ずれの音に誘われて、湿らせた指を空(くう)に立てて、風の吹く方へ空を見上げた。
どちらへ向いても、いずれは彼の地へ行き着くのだと、地球の丸さをちょっと笑う。
ひとり立てた笑い声を、吹く風が届けてくれるだろうか。

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207.行き交う人の中に (54)
ふと似た人を見つけて、思わず足を止めて振り返る雑踏の中、人違いとわかっていても、見えなくなるまで見送らずには入られない。
次に会えるのはいつかと、素直に訊きに電話すればいいと、自分の中で声がした。

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241.まだ終わらないで (54)
こちらへ向く瞳が追いすがって、それから、素直な躯が引き止めにかかる。
外しかけた躯を引き戻されて、首に両腕が回って来るのはそれからだ。
もう少しと小さなつぶやきが、やっと唇を動かす。
夜を引き延ばす共犯者。

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066.小さな幸せ
風に混じる緑の香り。淹れ立てのコーヒーを飲んだ後のフランソワーズの笑顔。ぬるめたミルクの温度をイワンが嫌がらなかった時。野良猫が首輪を着けて現れた日。
雨はいつかやみ、明日は必ずやって来ると言うこと。

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059.左利き (54)
彼のその右手を取るために、左手を伸ばす。
握手の仕方は知らないし、倣うことはあえてせずに、生まれの違いを理由にして、左掌の中に彼の右手を取る。
弾をこめれば重さの増すその右手の冷たさすら左掌にいとおしい。

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067.雪の夜には (54)
大きくて重い毛布を分け合って、そこへぬくまる空気を閉じ込めて、耳慣れない雪の降る音に耳を澄ませば、そこへいとしい人の呼吸の音が重なる。
沈黙を分け合える幸福。静寂(しじま)の中に熱く抱き合える、安寧のひと時。

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295.瑠璃色を見た
内側から腐ってしまった干からびた体の、骨の形のはっきりとわかるその手の指にはまった碧い石の色さえ褪せて見えて、またひとり同じ血を分けた仲間が逝ってしまう。
言葉も思い出も分け合えない、孤独の果てを思う。

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124.眠れない夜の歌 (54)
触れ合って眠る不慣れに、目ばかり冴える夜。
体の重さを気にしながら、ふと思いついて肩にもたせかけた耳に、小さく聞こえる心臓の音。
機械の体を厭う彼の、それだけは生身と変わらない音。
彼の寝息の子守歌。

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190.壊してしまおうか (54)
魅かれ合っていて、先のことがわからずに、臆病に肩を引く。抱きしめて口づける、その先を知らない。
なかったことにできればいいのにと、自分の心さえ疎ましい。
それでも、壊して捨てることもできない、この気持ち。

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064.いとしいひと (54)
どこにでもいる精霊の気配と同じに、隔てられても呼吸の気配すら感じる、遠くて近い、今はひとならぬ人。
紡ぐ言葉数の少なさにこっそりと焦れながら、いとしいあなたへ伝えたいすべてを、見つめる瞳にこめる。

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046.35℃ (54)
ふたり一緒にあたたまる夜。胸と背中を合わせて、傷だらけの皮膚と、剥き出しの装甲を重ねて、くるまる毛布の中でぬくまる空気。
触れれば冷たい鉛色の右腕も次第ぬくまって、生身の体温に近づける、ふたりきりの夜。

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036.右へ曲がって (5&1)
いつもは真っ直ぐ進む曲がり角を、イワンの鼻先に飛んで来た蝶に導かれて、今日は右へ曲がる。
強くなる花の匂い、ミルクの匂いと混じるそれに、そっと鼻を鳴らして、抱いたイワンと一緒に目を細める、深い春の気配。

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030.珈琲はいかが? (54)
彼のいる特別な日には、カップもティーポットもあたためて、彼の分の紅茶の葉を少し多めに。
コーヒーはまた明日。彼のために、濃く淹れて、砂糖もクリームも抜きで。
差し出せば、固い響きの「ありがとう。」

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029.隔てるもの
海。陸。山。河。谷。あるいは、地面に引かれた、見えない線。
どれだけ隔てられても、心は繋げられる。見上げる空はいつもひと続きに、太陽も月も、どの空にも上がる。
それを見上げて、皆のためただ頭を垂れる。

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025.冬の似合う人 (54)
雪の中に立つと、そこへまぎれてしまうと思う、逃がさないために抱きしめた、体温のない固い体。
会えない間に、必死に引き寄せておく、夏も冬も胸に抱く、冬の彼の白い白い記憶。
雪に溶け込む彼の、薄い微笑み。

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