ハインさんの誕生日に、何の関係もない駄文・・・。一応オールキャラで健全(え?)ってことで。


たとえばこんな、誕生日



 ジェットとフランソワーズが、目の前でにこにこしている。
 天井近くには、イワンが、ゆりかごに乗って、ふわふわ、事の成り行きを見守っている。
 ハインリヒは、目の前に広げた、奇妙な衣装の前に、絶句していた。
 「・・・これが、何だって?」
 「ジェロニモに頼んだら、作ってくれたのよ、アナタのために。」
 心底楽しそうに、フランソワーズが言った。
 当のフランソワーズは、今、ハインリヒが手にしているのと、似たような素材の、やけに胸元と腿の辺りのあらわなワンピースを着ている。体にぴったりと張りついていて、見つめるのが気恥ずかしいほどだった。
 どうやらそれも、ジェロニモ・ブランドらしい。
 手先が器用なことは知っていたけれど、まさかこんなものまで作れるほどとは思わなかったと、現実逃避のため、そんなことを思う。
 「アンタ用の、新しい防護服みたいなモンだろ。」
 ジェットが、ハインリヒの気を引き立てるように言う。
 そうよね、とフランソワーズが、胸の前で手を合わせて、またうれしそうに、横にいるジェットを見上げる。
 何かが間違っているのだと思いながら、あまりのことに言葉も浮かばず、ハインリヒは、両手で、目の前に広げた衣装の前で、また絶句した。
 真っ赤と黒の、上下ひとつになった、生地の薄いその衣装は、どう見ても、背中が全部開いていて、こともあろうに、胸の前は、丸みを帯びたひし形に、ばっくり割れている。
 腰から下は、きっちりと覆ってくれそうに見えるけれど、身に着ければ、ぴったりと張りついて、ほとんど想像の余地もないほど、体の線をあらわにすることは、間違いなかった。
 間違いないというよりも、想像の余地のないように、わざわざ作ってあるに違いない。
 これを、フランソワーズ---そして、察するに、ジェットも---の頼みで、わざわざ仕立てたジェロニモの気苦労に、ふと、めまいさえ感じて、それから、案外ジェロニモも、これを着けたハインリヒを想像して、あの無表情の下で、笑いをこらえていたのかもしれないと、思って、頭の隅に、マシンガンで蜂の巣にしたいリストの、一番下に、名前を加えておくことにした。そんなことがもし、可能なら。
 「アンタにぴったしのはずだぜ、オレがちゃんと、サイズ覚えてたんだからさ。着て見せてくれよ。」
 ジェットがよけいなことを言う。
 頭上で、イワンがくすくすと笑った。
 「お願い、アタシひとりでこんな格好、恥ずかしくて・・・。」
 フランソワーズが、たいていの男なら、即座に落ちる笑顔で、すがるように言う。
 この笑顔に弱いのは、ハインリヒも例外ではなく、うっとまた黙り込んで、思わず頬を赤らめて、衣装とフランソワーズを、交互に見た。
 「ジョーが、アタシが着たら、きっと似合うからって・・・でも、ひとりでなんて、恥ずかしくて・・・。」
 ジョーか、とやっと合点が行って、短いスカート---ギルモア博士が見たら、卒倒するだろう---のすそをいじっているフランソワーズの、ほんとうに恥ずかしそうな仕草に、一瞬ほだされかける。
 「だったら、アナタがきっと付き合ってくれるって、ジェットが言うから・・・」
 じゃきんと音を立てて、右手のマシンガンの照準を、ためらいもなくジェットに合わせた。
 驚いたジェットが、慌ててフランソワーズの後ろに隠れるのに、まだ照準を外さずに、ハインリヒは、こめかみに青筋を立てた。
 「このくそガキ・・・誕生日のこと、まだ根に持ってやがるな・・・。」
 フランソワーズの肩越しに見える、逆立った赤い髪を狙って、思わずつぶやく。
 2月の、ジェットの誕生日に、これで辞書でも買って英語の勉強をしろと、図書券を渡したハインリヒに、ひどく憤慨していたジェットが、結局、ほんとうに辞書を買ったのか、それとも他のものに化けたのか、そう言えば確かめなかったなと、また頭の隅にメモをする。ついでに、蜂の巣リストのトップに、その名を飾ってやることにした。
 そろそろほんとうに、どこかの情報機関に身売りして、殺しのライセンスを手に入れるべきかもしれないと、ほんの少しだけ、本気で思う。
 「お願い、ジェットを責めないで。ジェットはただ、アタシのことを思って・・・」
 ジェットが上目に、こちらを見ている。
 まさか、フランソワーズの目の前で、ジェットを蜂の巣にするわけにも行かず---膝の、マイクロミサイルをお見舞いしてやりたかった---、ハインリヒは、大きく舌打ちして、しぶしぶ右手を下ろした。
 「きっと、アナタに似合うと思うの。その赤だって、きっと銀色の髪に映えるわ。」
 ウエストから上の部分---実のところ、ほとんど布地はない---の赤は、確かに、防護服よりも、さらに鮮やかな赤で、ハインリヒの、青みがかった白い膚と、柔らかな銀の髪に、よく映えそうだった。
 衣装のデザインそのものはともかく、色合いは確かに、ハインリヒには似合いそうに思える。
 「ダメ・・・・・・?」
 フランソワーズが、切なそうに、青い、大きな瞳を、斜めに、ハインリヒに向けた。
 ふっと、時間が止まる。
 フランソワーズの背中で、ジェットが、小さく息を飲む。
 イワンまでが、じっと、空中から3人の行く末を見守っていた。
 恋をする乙女には、誰も勝てない。衣装を見下ろして、ハインリヒは、水色の瞳を、ゆっくりと一度瞬かせて、ふと、まぶたの裏に浮かんだ面影に、見えない微笑みを、そっと振り向けた。
 こんなところまで来てしまった俺を、ヒルダ、君は、笑ってくれるか。
 ふわりと浮かんだヒルダの横顔が、にっこりと微笑んでいたことを確かめながら、ハインリヒは、ゆっくりと顔を上げた。
 「これっきりだぞ。」
 そう言った途端に、ジェットがガッツポーズを取り、フランソワーズが手を叩いて、うれしそうに、その場で飛び跳ねた。
 自分たちを見下ろすイワンを、こちらから見上げ、ハインリヒは、照れを隠さずに笑いかける。イワンは、フランソワーズのはしゃぎぶりを見下ろして、うれしそうに、微笑んでいた。
 フランソワーズが、涙を浮かべてこちらへ来ると、いきなり、ハインリヒに抱きついた。
 「ありがとう、ほんとにうれしいわ、ハインリヒ。」
 突然受け止めた、触れ慣れない体の重みに、思わずよろけながら、ハインリヒは知らずに頬を染める。
 そんなふたりを、あちら側で、冷やかすように、ジェットが見ている。
 「・・・キミの頼みじゃ、断れないだろう、フランソワーズ。」
 そう言ってから、フランソワーズにはばれないように、上機嫌のジェットを、釘を刺すようににらみつけてやる。
 「さて、じゃあ、準備にかかかろうぜ。」
 視線を逸らして、ごまかすように、早口にそう言うと、どうしてか、ジェットが、妙な目くばせをして、インとにやっと笑い合う。
 そうね、と体を離したフランソワーズの、あらわな胸元に、慌てて横顔を向けたハインリヒは、そんなふたりのことなど、すぐに忘れてしまった。
 部屋を出て行く3人を見送って、後に残されたハインリヒは、手の中の、奇抜な衣装を見下ろして、もしかして、かなり間違った決断をしてしまったのかもしれないと、ちらりと思ったけれど、どうせ一度きりのことだと、フランソワーズのために---そしてフワンソワーズは、ジョーのために---、諦めることにする。
 きちんと着れるかどうか、確かめるために、シャツのボタンに手をかける。
 グレートが、キューティーハニーハインというタイトルで脚本を書き、ピュンマが悪役の練習をし、ジョーがビデオの準備をしていることなど、ハインリヒが知る由もなかった。
 そして、張大人が、そのビデオを、資金稼ぎに売りに出す予定でいることなど、仲間の誰も、預かり知らぬことではあった。


 誕生日、ほんとにおめでとう、アルベルト "キューティー” ハインリヒ。




 コッペイさまへ。こんなに難しいお題を、ほんとうにどうもありがとうございました。にっこり。
 顔を覆って、いやんいやんしてましたが、ひとりでやっても虚しいのと、それ以前に似合わないので、覚悟を決めました。
 ばっくれようかと、何度も思いましたが、やっぱり難しいものに挑戦するって、とっても大事だと思うんです(←棒読み)。
 ここから本音→そんなわけで、今年もハインさんの誕生日にお付き合い下さいまして、ほんとうにどうもありがとうございました!
 去年よりもさらにパワーアップ! コッペイさまのキューティーハインさんが拝めるなら、どんな恥でもかく!と勢い込んでおいて、この体たらくですが、もしかして、ミジンコで鯛を釣りましたか、こいつ。
 らっき〜と言いつつ、捕まる前に退散〜。また遊んでやって下さいませ☆

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