鮮明




 まるで、すべての色を背負っているように、世界をいきなり明るくする。
 緋色の髪と、もちろん、それに負けないほど、明るい声。
 目を引きつけられ、もう、そこから、視線を外せない。
 まるで、白と黒の写真に、誰かがきれいな色を塗ったような、そんな感覚。
 いつの頃からか、その鮮やかさに、魅かれ始めていた。



 黒をまとって、白く浮き上がる。
 水色の瞳に、銀色の髪。青白い膚に、鋼鉄の右腕。
 色の薄い唇を、いつも皮肉にねじ曲げる。
 死神と言われても、眉ひとつ動かさない。
 破壊の天使と、誰かが、小声で言った。



 たとえば、戦場で、そこに色はあるべきではなく、あるのはただ、流れる血の、赤い色だけだった。
 そこをいつも、まるで赤い旋風のように、駆けてゆく。
 誰よりも速く、誰よりも長く。
 必死に笑いながら、それでも、淡い緑色の瞳には、隠せない悲しみが浮かんでいた。
 誰か、それに、気づいたのだろうか。



 黒にも、さまざまな色合いがあることを、語らずに、教えてくれた。
 深い黒、平坦な黒、艶のある黒、黒々と、吸い込まれそうな、黒。
 まとうのはいつも、深い黒。まるで、それ自体が、悲しみの表現であるかのように。
 喪服の代わりかと訊いたら、黙って、銀色に色の変わった瞳が見返した。
 涙の色に、どこか似ていた。



 腕を伸ばして、色を抱き取る。黒で、包む。
 それでも、あふれる色を殺せず、世界は次第に、闇を失ってゆく。
 明るい赤、オレンジ、黄色、淡い緑、色があふれ、こぼれ、何もかもを、染めてゆく。
 その色の洪水の中で、微笑む。顔いっぱいに。
 屈託のないその笑顔は、夏の日の、明るい太陽のようだ。



 死と隣り合わせの日常で、黒はあまりにも、平凡な色にも関わらず、するりと、その膚に馴染ませる。
 沈むはずの黒を身に着け、それなのに、まるで、輪郭を際立たせるように、その姿が浮き上がる。
 静かに、重く、その深い闇色の中に浮かんで、強く世界に刻み込まれる。
 ふと目を引かれ、視線を当て、それから、凝視する。
 まるで、その線のひとつびとつを、記憶しようとするかのように。



 世界は、白と黒に満ちている。悲しみの色に、満たされている。
 黒い希望はなく、白い夢もない。
 未来は、常に、色に満たされているべきものだった。
 失った色を、掌に見る。生身ですらない、鋼の掌。
 流れてゆく、色の河が、そこに見える。



 黒に触れる。冷たさに、指が震える。
 交じり合わせる体温は、一体何色なのだろう。
 紅く、その白い膚が染まる。
 色を生み出して、熱を重ねる。
 銀の瞳に、緋が映った。



 緋い髪に、指先を差し込む。冷たい鉛色に、火の色が絡む。
 夜の闇は、青々と黒く、優しく眠る、まぶたの裏の色に似ている。
 赤く包まれ、黒の中に浮かび、白く横たわる。蜜色の海に、ふたりで漂う。
 長い腕と、薄い胸。抱き寄せながら、その下に、昔あった、骨の白さをふと思う。
 血の赤さを、懐かしいと思いながら、その緋い髪に、また口づけた。



 色の河が、ぶつかりあう。
 まるで汗を交じり合わせるように、熱を合わせ、色をつくる。
 この色に、染めてしまいたい。
 名前さえない、この、世界にひとつきりの、この瞬間きりの色に、染まってしまいたい。
 ふたりが生んだ、色に、ふたりで、染まりたい。



 闇と破壊をつかさどる。
 冷笑と自嘲をまとって、黒い空気を裂く。
 白は死んだ者の色。黒は生きる者の色。生気のない白い膚を、黒で包む。
 死神と呼ばれ、争う世界を睥睨する。
 まれには、抱えたひざに頭を垂れ、闇の色に疲れて怯える。



 空を飛ぶ、青く、高く。
 地上に一点、深く、黒く。
 愛しさを込めて、そこへ向かって落ちる。
 闇を払うために、闘い続ける。それぞれのやり方で。
 世界は色を取り戻す。





 色のあふれる世界を、信じよう。
 希望を、夢を、信じよう。
 夜はいつか、朝を迎える。終わらない夜はない。
 夜明けの鮮やかさに目を細め、その色に、また出逢おう。
 闇の中で、目を閉じる。明日の色を夢見ながら。明るく鮮やかな、あふれる色に包まれる、明日という日を夢に見る。





お世話になりっぱなしです、Kiyaさまへ。
苦情はメールでも掲示板でも。傾聴いたしますです。
色のセンスがないってのを、常に失念してるトリ頭です。あうあう(泣)。

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