ホーム > 負け犬の遠吠え > 2002年04月

 
He is gone, fuckin' gone...gone far、and I still love him deadly here...alone - 2002/04/26(Fri)
 Layneが逝った。
 かの、偉大なAliceInChainsの、フロントマンであり、かつバンドが活動休止を余儀なくされた原因の彼が、逝った。シアトルの自分のアパートで、多分ヘロインの過剰摂取、34歳。発見された時は、恐らく死後2週間。この4月半ばの夏めいた陽気のせいで、死体が腐り始め、その異臭を、隣人が警察に通報したらしい。
 あまりに、彼らしい、まさにヤク中の死に様。
 恐らく、ベッドのマットレスとテーブルくらいしかないアパートの中だったろうと思う。電話もあったかどうか、あやしい。多分、周囲の人間が無理矢理持たせた携帯電話くらいが、彼の持ち物だったんじゃないだろうか。それも、ろくに使いもしなかったに違いない。番号を教えることもしなかったろうし、かける相手は、薬の売人かヤク中仲間だけだったろうし、どうせ。
 こんな死に方を、あまりに惨めだと人は言うのかもしれない。こいつも、そう思った、最初の一瞬。でも、もしかすると、と考え直した。もしかすると、こういう風に死にたかったのかもしれない。誰にも邪魔されず、孤独なほど静かに、ほんとうに、比喩ではなく、体を腐らせて、床の染みくらいになって、消えたかったのかもしれない。
 少なくとも、誰かに撲り殺されたとか、強姦されて絞め殺されたとか、撃ち殺されたとか、そういう死に方じゃなくて良かったって言ったら、Layneは怒るだろうか。
 お疲れさん、とLayneに言いたい。肩を叩いて、にっこり笑いかけたい。もういいから、苦しまなくていいから、こういう風に終わらせなきゃならなかったのは、もちろん残念だけど、でも、それでも必死に、世界と折り合おうとした結果だから。
 ありがとう、とLayneに伝えたい。生まれてくれて、歌ってくれて、詞を書いてくれて、絵を描いてくれて、なんとか必死に、苦痛だらけのこの世の中に、留まろうとしてくれて、ありがとう。34年という、永遠より長かったろう人生を、死にながら、それでも生きてくれたことに、心の底から感謝してる。

 去年の夏頃、死ぬための準備をした。
 ほかの人が扱いに困るだろうものを、分けて箱に詰め、唯一こんなことを頼めそうな友人に、身分証明証なんかと一緒に預ってもらう約束をした。
 自分の名前で登録してある、電気やガスの請求書を、全部同居人の名前に変えて、身の回りの物は、全部いろんな場所に引き取ってもらう手続きをした。
 銀行の口座を閉じるための準備をして、手元にある、自分の有り金全部、親と同居人で分けられるように、書類を残した。
 親には、しばらく姿を消すので心配しないようにと電話して、親しい友人ふたりにだけ、とりあえず死ぬつもりなのを伝えた。ひとりにはもちろん止められ、もうひとりには、あんまり苦しまない方法にしてほしいと言われた。
 人と世間話をしながら、ふと目で、首を吊るのに良さそうな場所を探す、そういう状態がもう、限界に来ていて、とりあえず街を出て、誰も自分のことを知らないところで、首でも吊るつもりだった。
 最後まで迷ったのが、身分証明書を持って行くかどうか。身元が分からない方が、自分には好都合だけど、でも探す方には迷惑なのがわかっていたから。でも、ほんとうは、身元不明の浮浪者か何かとして、名無しの死体として処理されたかった。もし、死ねるなら。
 結局家出4日目に、家に戻った。意志薄弱。鬱が終わって、突然死ぬ気が失せた。
 また死に損なった、という気分と、結局まだ、死ぬ時じゃないんだと思う自分。
 死ぬ気になったのも、死のうとしたのも、別に初めてでもない。もう今では、自分はこういう人間なんだと、自覚することに決めた。
 背が高いとか、太ってるとか、そういうレベルで、死にたがりの人間なのだと、自分のことを自覚することにした。だから、死にたくなっても、もううろたえない。ただ、そういう気分の時なんだと、そう思うことにしようと、思う。ただ、それだけのこと。

 Layneも、基本的にはそういう人間だったんだと思う。
 生まれながらの気狂いで、精神的にひどく虚弱な、親と食事をするのに、ヘロインが必要な、そういう人。なぜ自分が、この世に生まれて来たのか理解できずに、生まれて来たのも、生きているのも間違いとしか感じられなかったんだと、思う。
 それを気の毒だとは、思わない。そう生まれついてしまっただけのことで、例えば肌の色を変えられないように、自分で変えてしまえるものでもないから。
 彼を、ことさら不幸な存在だとは思わない。彼には彼なりの幸せな瞬間があったろうし、だからこそ、あんなに痛々しいほど、必死に、世界と折り合いをつけようとしていたのだろうから。たとえそれが、薬に頼ったものだとしても。
 あれは、彼ができる精一杯だったんだと、思う。
 PanteraのPhilは、薬なんて、やめようと思えばやめられるって、今回のことについてコメントしてたけど、でもそれは、Philが、基本的には精神的に健康な人だから、言えることだと思う。
 Layneと同じ立場になって、こいつはそんなこと、とても言えない。彼の、はたから見れば悲惨としか言いようのない人生は、別に誰のせいでもなく、Layneのせいだとも思わない。ただ彼は、そうなるように生まれて来て、そうなるように死んだだけだって、そういう風に言うのはまずいんだろうか?

 思えば、もうJar Of Fliesを出した段階で、Layneの生命力は尽きてたんじゃないかと思う。あれが、彼が生まれて生き続けた理由の、いちばん最後の部分じゃなかったのかと、思う。
 今なら、それ以後の、彼のあまりの影の薄さと痛々しさの理由が分かる。あの時すでに、Layneはもう死んでたんだと思う。体はここに残っても、心はもう、とっくに飛び去ってたんだと思う。
 今回のことは、単に体を、心がもうとっくに飛び去った処へ送り込むだけの、手続きだったんだろうと、そう思う。
 死ぬ理由がなければ、多分人は死なないものなんだろうけれど、生きる理由を見つけられないなら、それは即人生を苦痛だらけにする。
 生きたい理由を探し回って、疲れ果てて、結局見つからず、そうやって苦しむことも恐らく人生なのだろうけれど、でもLayneはもう、充分苦しんだと、思う。だから、死んで楽になれるなら、そういう選択も、ある。
 あんまりにも、らし過ぎる死に様で、それが、悲しくも痛々しくもある、けれど。
 眠るように死んだんだよね? 死ぬ時まで苦しんだなんて、出来れば思いたくないから。

 1億円あったらどうする?って、そういう文章を書かされたことがある。
 シアトルにアパートを買って、そこで好きな音楽を聴きながら、薬のやり過ぎで死にたいって書いた。極めて、正直に。
 提出先に、呼び出しくらってお説教されたけどさ。10年後の、あんたの死に方を書いたつもりはなかったんだけどね、Layneちゃん。

 死ぬのは怖くない。苦痛は怖いけれど、死そのものは、怖くない。明日死んでも、特に悔いはない。
 Alice In Chainsの来日ツアーをすべて見たこいつにとっては、人生の最大究極イベントは、もう終わってしまってるから。
 積極的に死ぬ気は、今はないけれど、でも、明日人生が終わるなら、それはただそういうこと、というだけの話。
 こいつも多分、あんまりLayneと大差ない死に方をするんじゃないかと、思う。
 身元不明の浮浪者の死体として処理されるのが理想だって言ったら、こいつの生命保険受取人の同居人は、一体どんな顔するんだろう。

 今夜8時、Layneを悼んで、キャンドルに灯をともす、らしい。こいつもそうするつもりで、いる。センチメンタルで下らないことかもしれないし、Layneは案外、空の上から、そんなことするない、って、顔しかめるかもしれないけど、でも、他に何も、彼に対する気持ちを表す術を、思いつかないから。
 8時を待って、キャンドルに灯をともして、多分玄関の外で、Linkin Parkでも聞きながら、煙草でも吸おう。
 来日の時、大阪で、Are you OK?と訊いたこいつに、You're meと、歌うように言ったLayneの声でも思い出しながら、Layneのことを想おう。
 彼が逝った時、どんな音楽が、彼の頭の中で流れてたんだろう。

 自分の半分が逝った。ひどく空っぽで、悲しいとか悔しいとか辛いとか痛いとか、あまり区別のよくつかない感情が、混沌と、空になったこいつの中を満たしてる。
 こいつが今あんまり幸せだと感じられない分、Layneが幸せだといいな。
 こいつもその内、そっちに行くだろうからさ。その時は、Jerryに対する歪んだ愛について、一緒に語ろうね。

 Layneはきっと、猫を飼うべきだったんだろう。
 あの愛すべき、手の掛かる、優しい毛並みの生き物とでも一緒に暮らすべきだったんだろう。そうすればきっと、おっと、猫を置いて先に死ねねえなって、こいつと同じにそんな風に思えたかもしれないね。
 でもきっと、何はどうあれ、Layneにとってはこれで良かったのかな。こんな、結末でも。
 今度は一緒に猫を飼おうよ。あーたと同じ瞳の色の猫を。

 Layne Baby、Layneちゃん、愛してるよ。心の底から。今度は一緒に、野垂れ死にしようね。


Layne Baby, my missing better half, my life was to look for you and to find you.
I don't have words to describe how happy I had been since I found you and Alice In Chains.
Now you're gone with a part of me, the part of myself has been gone with you.
I'm dead here with you.
Your life was filled with pain, and you have left the pain behind.
I will keep the pain.
The pain you were never able to get rid of.
How are you feeling now?
Are you smiling at us?
I love you and miss you dearly, deeply and deadly.
Your death could have been a reason to get rid of myself...no, maybe not.
I will stay here a little bit more to remember you.
Your great music, your sincere words, your sweet smile and your painful life.
Your pain is over now. Over now.
I love you, Layne Baby. I will miss you until the day I die.
See you sometime somewhere again. Love ya.


- Tor News v1.43 -