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俺得、Type O Negative/"Slow, Deep And Hard"実況レビュー - 2010/03/07(Sun)
アルバム初聞き。そのまま実況してみる。誰得。自分だけ楽しけりゃそれでいい。

Slow, Deep And Hard (1991)

1曲目、Unsuccessfully Coping With The Natural Beauty Of Infidelity。
見た目が小難しい気な超情緒的なタイトル、訳してからリアルでポカーン。要は"よくも浮気しやがったなこのクソアマ"。ざっくばらんに"I Know You're Fucking Someone Else"というタイトルでファンには通じるらしい。
パンキッシュなハードコア。歌うと言うよりは吐き出してる声と、スッタンスッタンスタタタスッタンな典型的この手のDr。歌詞が1フレーズ終わったところで、妙にうにょ〜んダーク系リフ。
ちなみに12分超え。どういう展開するつもりだ。
音作りはわりとシンプルな印象。素直にそれぞれのパート重ねました、的に。
元のリフに戻ったところでGソロ。わりと普通に速弾き(下手だけど)ソロ。そしてベースのソロフレーズが入る。
歌がまた吐き出したところで、アコースティックな展開!! 女の人の喘ぎ声が後ろに聞こえるよママンorz
メロディ展開はドラマティック系プログレ風にしてみました、みたいな。
ダーク展開へ戻る。メロディよりも、コード挿入メインのジャカーンジャカーン、みんなで一緒に。録音のせいか、こいつのPCのせいか、バスドラの音があんまり聞こえない。
また元メロに戻る。そしてメインフレーズの、"I know you're fucking someone else♪"が入る。卑語の繰り返し。歌詞の内容は正直吐きそうなタイプだけど、歌い方が妙に明るいというか、ヤケっぽい感じなので、酔っ払いの表現と思えなくもない。
かと思ったら、一転ハモンドオルガンの音が入って、Peteがまともに歌い出した。
また怒りのこもった声に変わる。オルガンの音は相変わらず。
スネアの音の軽さは気になるけど、それぞれのパートの絡まり具合はいい感じかな。
そして元メロに戻る。また酔っ払いの吐き出し声。I know you're fucking someone elseの繰り返し。このメロディ部分で、この男に同情するのは絶対無理。むしろこの男のなっさけない惨めさがとってもよく表現されててすごい(誉めてる)。
歌メロ終わったところでGソロ。Drがドコドコドコドコ。Gソロはちょっとおぼつかない感じ。若いなあ。
そしてジャカジャン!ときちんと終わったところでなぜか拍手。終了。

2曲目、Der Untermensch。
これはタイトルはドイツ語かな。そう思うせいなのか、イントロがちょっとRammsteinっぽい?
1曲目同様、1曲がいくつかのパートに分かれてる、という作りらしい。
異様にドラマティックなフレーズが続く。
そして一転、またパンキッシュなハードコア。よくある、みんなで叫ぶコーラス。すごい懐かしい感じのハードコアだなあ。初期スラッシュってか、ドイツ辺りのB級バンドを思い出す。
そしてまたベースがうねるドラマティックなメロディーに戻る。
ドス声の後ろで淡々となるキーボード。この奇妙さ加減が妙に耳に残る感じ。コードをじゃーんと弾き鳴らして妙に間の開くところは、Black Sabbathっぽいかな。
Peteの声が若い。歌うというよりは言いたいことをメロディーに乗せて叫んでる感じ。
キーボードの音が前に出て来る。やけに透明感があってきれい。女性的っていうのとは違うけど、こう、鉄屑にきれいな布が掛かってるような、そういう印象。
Dr.は鳴りっ放し。わりと嫌いじゃないなこういう音。1曲目よりスネアが太いかな。
PeteのBの音が妙にうねうねで、どっちかって言うとプログレっぽい感じ。あんまりハードコアな音じゃない。
どうもこの頃すでに、BなのにGみたいな弾き方をしてるみたいで、そういうフレーズにまた戻る。個人的に、PeteのBの音はけっこう印象的だと思う。
非常に、典型的ハードコアの、醜悪系の音なんだけど、後ろに流れるキーボードの繊細な美しさ(でもでしゃばらない)が浮かずに、醜悪さをいい意味で深めてる感じ。この醜悪さが、好きな人間にはたまらない。
この曲も9分orz

3曲目、Xero Tolerance。
何かを切る、電動ノコギリらしい音がイントロ。キーボードの音にかぶさる、Peteが何か言う声。笑う声。
妙に不安をかき立てるリフが少し、その後で相変わらずの歌い叫び開始。Gの音がけっこう入るけど、速弾きするにはちょっと指がもたついてる感じ。
変態リズムが一瞬入る。Into someone I don't knowと繰り返すここの部分がすげえ好きだ。リズムが歯切れがいいと言うにはちょっと足りない感じがむしろ生々しくていい。
そして、ホラー映画ですか?みたいな感じのキーボードが後ろで鳴って、I Kill You Tonightと歌ったところでオルガンの音だけになる。うーん、マジでホラー映画みたい。
不気味さや薄気味悪さは薄い。ただひたすら誰かの怒りが怖い、という感じ。
オルガンが散々出張った後で、突然のパンク展開。ふざけてるとしか思えないメロディーと歌。そして異様にキャッチーなキーボードのフレーズ。そこへ続くKill youの繰り返し。
この展開、ものすごい好きだ。バカバカしさと美しさの対比がまさにバカバカしくてたまらん。
そしてDr,が実はちょっとトリッキーな感じで超好み!
そこからまたホラー映画的メロディーに戻って、わりと普通に重めのメタルという感じの音になる。Peteの声は相変わらず歌い叫び。
突然アコースティックのG。どうも土を掘ってるらしいスコップっぽい音。ああ、なるほど、そういうことか。多分。
FOで終わり。

4曲目、Prelude To Agony。
お葬式?と思うようなイントロ。重くて暗いメロディー。これBの音だよなあ。後ろで何かひきずるかのような声。
比較的普通に重くて暗いメタルなリフ。Voi Vod辺りをちょっと思い出す。
イメージとしては、重いもの(棺とか)を引きずってる、そしてそれがどこかにぶつかって壊れる音がしてる、という絵面。ギーギー言ってるGの音が、割れるガラスの音みたい。
ちょっと明るくなって、音の作り方がまさにBlack Sabbathとかあの辺りを思わせる。
ザカザカザカザカ刻むタイプのメロディー、歌い叫ぶのと、きちんと低くささやくように歌う声が交互に来る。
酔っ払いでブチ切れ中と、ちょっと素面になってでもキレたままイッちゃってる人格の表現なのか?
また地を這う音へ戻り。
ここで初めて、宗教的な匂いが始まる。お葬式で歌ってるみたいな、低い声。鎮魂歌ですって言われたら信じる。これを聞くとやっぱりTONだなあと思う。
ジャカジャカ展開へ。Gのリフが普通にMetalしててちょっと気持ちいい。
ここからいきなりうね〜んBだけの音に落とすorz 急展開orz
DOOMも展開凄くてライブで大変だったけど、TONも憶えてないと一緒に乗れないorz
歌い方は基本酔っ払いの歌い叫びなので、歌詞の内容の困ったちゃんが冗談にぎりぎりなるかもしれない感じ。
しかしうね〜んと入るBの音の不気味さがたまらん。ドラマティックというか、まさしく「曲で物語を語ってます」という感じに。
どよ〜んとしたリフの中でGソロ。メロディーがちゃんと合奏してるのかどうか不明な感じが不安定でいい感じに脳が揺れる。
機械の音と女の人の叫び声。まあ、そういうことなんだろうなこれ。
聞いてると眠くなりそうなおも〜いどよ〜んメロディーが続く。箸休めみたいに、Dr.の音メインになって、Peteさまが叫ぶ。そして唐突に終わる。

5曲目、Glass Walls Of Limbo (Dance Mix)。インスト?
鎖を引きずるような音? 何かを一斉に叩く(ちょっと鋭い)音? 地を這うような何かを訴えてるような声。
歌詞はないメロディーだけを、Peteの低い声がきれいに歌う。これも鎮魂歌とか葬送歌とか、そういう感じ。
これがDance Mixって何の冗談だよorz
しかし7分近くあるので、また何か笑える展開をしてくれるのか。
中世、一種の収容所に閉じ込められて、そこで強制労働をしてる人たち、彼らを思って外の家族たちが泣いてる、それを、武器を持って見張る人たち、というような絵面が浮かぶ。
まさしく映画のサントラみたい。Peteの歌のメロディーは、ちょっと映画のゴッドファーザーを思い出す。
始まったままゆっくりFOで終了。

6曲目、The Misinterpretation Of Silence And It's Disastrous Consequences。
ざーっという、耳障りな雑音。プレイヤーのせいではなくて、これはこういう音をわざと入れたものらしい。
彼ららしい冗談。
1分続くんだぜorz

7曲目、Gravitational Constant: G = 6.67x10-8 cm-3gm-1sec-2。
まず叫びから始まる。別バージョンがこの後にも色々と出る、TONの代表曲のひとつ。
非常に粗い印象。歌い叫びがいっそう酔っ払いっぽい。でもGのソロっぽいフレーズがちょっと可愛らしい。
他のバージョンよりもシンプル。が、半ばで突然きれいな声のコーラスが入って、ちょっとびっくり。
んべべべべべんんべべべべべん、というPeteのBが妙に気持ちいい。
何だろうな、展開の時のメロディーの流れとか音が突然クリアにきれいになるやり方が、ほんとに宗教音楽っぽい。これが気持ちよくてたまらないというわけで。
ライブに比べると、メロディーの運びが美しい。叫ばずに歌ってるので、うっかりどこの女性歌手の歌ですかと一瞬勘違いする。
歌詞をそれなりに叫んでるけど、一応聞き取れるようにきちんと歌ってるので、ちゃんとCrushing Meと聞こえる。
苦悶の声、みたいなのが入る。ちょっと不気味。
また展開。歌い叫んだ後で、地響きコーラスが入る。妙に美しくて困る。
Suicide is self expressionと歌った後で、また地響きコーラス。後ろのDr.のバスドラの入れ方が好き。
キーボードはどんな時も絶対にでしゃばらない。でも後ろで妙に印象的。
コーラスのメロディーは単純だけど、Dr.の手数の多いのがけっこういい音で、こちらの方がむしろいい感じにメロディアス。
そしてゆっくりゆっくりFO。

アルバムのオリジナルはここで終わり。リマスター盤にはボーナストラックでもう1曲。

8曲目、Hey Pete (Pete's Ego Trip Version)。
一応Jimi Hendrixのカバー。GのKennyがVoを半分くらい担当。
さすがジミヘンということなのか、アレンジに気合が入ってると言うか、ちゃんと頑張ってると言うか。
Kennyがメインで歌ってる感じ。歌詞はPeteがちょっと書き換えてて、オリジナルは銃、この曲は斧になってる。そしてオリジナルはただ逃げるけど、こっちでは「天国であの子に会うんだ」で終わる。まさしくTONバージョン。
Gの音がちゃんとMetalしててちょっと笑う。そしてKennyはVoをとてもすごく頑張ってる。その分、Peteの淡々とした普通の声で歌うのが不気味。
ある意味、浮気した恋人を殺した男に声を掛ける友人(Kenny)と、その男(Pete)の対比が、あらゆるところに現れてて、これはようするにそういう演出なんだろうな。
Dr.のアレンジが好き。手数が多くて凝ってるけど、モタつきも突っ走りもないのでメロディーのひとつとしてちゃんと曲にハマってて好みだ。
ちょっと待てよ、「彼女に天国で会うんだ」って歌ってるのKennyに聞こえるんだけどorz あれ? それともこれはそう聞こえるだけでPeteなのかな。ライブ音源あったら今度確かめてみようっと(叫んで歌うPeteらしい。Kennyと声の聞き分けが今ひとつ)。
女性を殺した後で、どうするんだよ?と訊かれてる辺り、後ろのDr.がマーチっぽくスネアを延々叩いてるのは天国(むしろ地獄)への行進ってことか。
オリジナルよりさらに不気味な感じと、Kennyの一生懸命声とPeteの淡々単調声がクセになる感じ。妙に気持ち悪くて気持ちいい。

総評。
まず、若い!青い!粗い! 普通にハードコア。元気に暴れてる感じ。
曲がすでに長い。展開はやや強引に感じることもしばしば。努力は認めたい。背伸びして無理をしてるという印象は薄い。出したい音と本人たちの実力はそれなりにつり合ってるけど、それを完璧に表現するにはちょっとお金が足りない、という感じかな。とにかくひたすら若い、青い、荒々しい、激情の塊まりみたいなアルバム。怖いものなんか何もない、ただひたすら真っ直ぐな情熱。
そういう風に曲を組み立ててるせいだけど、きちんと絵面の浮かぶアレンジはすごいと思う。ここですでにこのドラマティックさ加減は凄すぎる。ってか、なんでハードコアでこんなドラマティックなのww
曲全部が全部まるごと好き!というのはともかくも、どの曲も必ず印象的なフレーズかアレンジがあって、そこへ来るたびに耳がすっと吸い寄せられる。この辺りはJoshの手腕かな。
曲が長くなるとどうしてもダレるし、飽きるし、印象が薄くなる。そこをとにかく何とかしようとしてる努力が見える。緩急激しいのはすでにこの頃から。とりあえずハードコア色が好みの方向でちょっと安堵。
歌うベースというのは珍しくはないけど、Peteは元々自己主張の激しいタイプのBらしくて、全編うねうねうねうね弾きまくってる感じ。この頃から、Bの音はすでにみょーに色っぽい。
Keyはちゃんと存在は主張しつつ、でもそれほど重要な位置を占めているという印象は、まだない。
Dr.はBの音に負けずにけっこう印象が強くて、ハードコアはどこまでもハードコアらしく、Sabbathの時はまたそれらしく、ジミヘンもそつなくこなすぜ、という非常に手堅い、でもきちんと自己表現のできてるDr.という感じ。
独特な個性は薄い気がするけど(主にPeteのせい)、バンドを支えるんだぜ!という部分は非常に頼もしい。
浮気した恋人についての、殺意と憎悪に満ちた内容というコンセプトアルバム(言い切った)。
妙に下品な歌い方、そのくせ荘厳なハモンドオルガンの音、時々入る素面なPeteの声のせいで、嫌悪感が湧くはずのところで笑いがこみ上げる。そしてうっかりうっとりする。
錆びた鉄屑に、ものすごく柔らかそうなきれいな布がたまたま姿良く絡まってます、という感じ。
いかにもファーストらしいアルバム。録音状態はチープだけど、いろいろ精一杯頑張ってる感が微笑ましい。
内容はシリアスだけど、それを本人(たち)は笑い飛ばすためにアルバムにしました、という感じなのかな。どこまでが冗談かは永遠に不明。個人的には、この女性がちょっと気の毒。
 
Type O Negative/"Origin Of The Feces"実況レビュー - 2010/03/08(Mon)
Liveだよん、という設定で録音されたアルバム。観客の声だの中断の様子だの、そういう演出が入ってる。

Origin Of The Feces (1992)

1曲目、I Know You're Fucking Someone Else。
You suckの声援。チケット代のことをPeteがあれこれ言ってる。StupidだのAss Holeだの、観客を煽り続ける。後ろに流れてるのはGlass Walls Of Limboのメロディー部分? 何か機械の音。
うね〜んと曲が始まる。オリジナルはUnsuccessfully Coping With The Natural Beauty Of Infidelityなんだけど、イントロ部分はさらにのろくた〜ん。さて、歌い叫びが始まったよ。
一応似非ライブ設定なので、Dr.がさらに歯切れ良く突っ走る(突っ込むという意味ではなく)。
みんな何かノリ良く演ってるなあ。
なぜか半ばで歌うのをやめて、Peteが妙にきれいな声で(別の曲を)歌い出す。観客のブーイング。そして「Fuck You!」という掛け声。歌うのをやめて「Fuck You, Too」とにこやかに答えるPete。うわあ。
1stの元曲より、わざわざさらにドラマティックに演奏してるなあ。楽しそう。完全に観客(と世間全部)おちょくってますからって感じに。そしてしっかり女性の喘ぎ声(&どうもPeteの喘ぎ声も少し多分orz)も入ってるorz
すいません、これ生で聞いたら赤面するいやまじで。
半ばのコーラス何を叫んでるのかと思ったら、ここで女性に対する卑語の連発かorz
ドスdeath声の歌い叫びの後で、突然普通の声でナルシスティックに歌ってくれるのが何とも。観客全部男(友達)だろうに、この人のこういうサービス精神にはほんとうに感嘆する。
ってかさ、こういう煽りをしておいて、「おれはホモじゃない!おれに近寄るな!」っていうのはなんかさ・・・。
いろいろとほんとうに自業自得だという気がして来たorz
ようするに、似非ライブの会場全部で、「女なんかクソっくらえだよな!そうだろ!」ってことか。うんうん(憐れみの視線)。
観客の声援。Peteがべんべん弾くB。笑い声。

2曲目、Are You Afraid。
ドラマティックで、ちょっとぞくぞくするKeyのイントロ。歌詞通り、ちょっと控え目なPeteの歌。
歌詞が過激な部分は歌い叫び。この部分は、個人的に泣き叫んでるように聞こえる。

3曲目、Gravity。
ぶつっと音が切れて突然始まる、カウントの声と曲。観客の声は聞こえない。
このバージョンは最近のライブでやってる大体そのまま。1stよりもっと洗練されて、曲としてまとまってる印象。
1stでのタイトルはGravitational Constant: G = 6.67x10-8 cm-3gm-1sec-2。
ひたすら能天気な展開。外で裸で踊り狂ってるような印象。内容は殺伐なのに。
また途中で曲が止まる。Peteが「落ち着け」とか観客に行ってる・・・これか、例の架空の爆弾騒ぎがどうのは。
いろいろ効果音入って楽しいってか、曲の妙な明るさとあいまって、おもちゃ箱みたいな印象の曲。
まあ、TONの明るいは、「ヤケになって突き抜けた後のどうしようもない絶望感の上の明るさ」なんだけど。
また曲が止まる。こういうのが好きだねほんとに。ここで爆弾の話(ヨーロッパではナチとして糾弾されてるTONに対して、誰かが抗議の爆弾を仕掛けたとか何とか、そういう設定)をPeteがしてる。騒ぐ声がやや大きくなる。犬の鳴き声。拡声器で呼び掛ける声。

4曲目、Pain。
観客の声。パトカーのサイレンが去ってゆく音。「Here we are again. This is your lucky day, ha?」と言うPeteの声(爆弾はなかった、あるいは無事に取り除かれた、ということか)。
1stのPrelude To Agonyの、Jackhammerape〜Painと題された部分がこの曲。
PTAのいちばん過激な部分。歌詞の内容はまあある女性に対する復讐(の妄想)って感じで。これは10年前だったら聞いた瞬間吐いたと思う。
この場に男しかいなくて、ノリノリで聞いてるんだと思うとカルトみたいで怖い。曲調は素直なハードコアなので、聞く分にはいいんだけど。曲は嫌いじゃないだけに歌詞がなあorz
「(次が)最後の曲なんだぜ!」とPeteが言うと、観客からブーイング。

5曲目、Kill You Tonight。
1stのXero Tolerance。ああ、真ん中の「Into Someone I Don't Know」のところが気持ちいい。
情緒もへったれもなく、突然音が切れて終わり。

6曲目、Hey Pete (music from Jimi Hendrix's "Hey Joe" with new lyrics)。
この曲は、アルバムのきれいな音もいいんだけど、ライブで生で聴いたら、歌詞はともかく後ろに反り返るみたいな感じのリズムが気持ちいいと思う。さすがジミヘン。
Peteは歌い叫びが絶好調になるとRの音が舌を巻く。すでにこの頃からってことは、TON以前もそうだったんだろうな多分。
わりと頑張ってカバーしました的に終わる。

7曲目、Kill You Tonight (Reprise)。
「Baby, tonight, you (will) sleep (at) Kenny's house」とささやく吐息交じりのPeteの声。その後で照れ隠しのようなわざとらしい笑い声。何かこうこいつら何なの?orz
5曲目で唐突に終わってしまったKill You Tonightの続き。
異様に美しくキャッチーなキーボードのフレーズにかぶさる、Kill You!というコーラスに、うっかり心が騒いでしまう自分を何とかしたいorz
Peteのふざけた歌い方にはさらに磨きがかかって、問い詰められても全部冗談で逃げる口実のように聞こえる。まあ、おふざけがすごい分、彼自身の傷つきっぷりがさらに露呈するだけだよね、という見方もできる。
ライブではノリノリでハイになれそうな曲だ。ドラマティックな展開は相変わらず、でもナルシスティック度はまだ低いか。
突然曲は、ピアノっぽい和音(ちょっと乱れた音)で終わる。その後に続く、不快ではない雑音。夜の外の音?

アルバム本編はここで終わり。次は、ジャケ差し替え後に追加されたもの。

8曲目、Paranoid (Black Sabbath Cover)。
これをあの曲だと言われて誰がわかるかっつーの。初めて聞いた時は、同じフレーズ使ったオマージュ?と思った。カバーだとは思わなかったorz
昔風に言うと、シングルの回転数でLP回しちゃいました、になるのか。逆だっけ?
ぶっちゃけ、この曲聴いて、Peteの声が異様に色っぽいのに気づいた。声だけじゃなくてまあ歌い方というか。
これはこういう人なんだよねと思ってたけど、こういう吐息交じりみたいな、自己陶酔タイプの歌い方も、「おまえらこういうのが好きなんだろ?バーカ」という彼らしい揶揄なんだろうなと今は思う。
まあしかし、Bの音もみょーに色っぽい人なので、基本音楽における官能的な部分に、ごく自然に魅かれてしまう人なのかもしれない。
この人の怖いところは、この激ナルシスティックな表現というのが許されてしまう、というか本人の見かけにぴったりで、その点でも受け入れられちゃうという辺りか。本人の冗談が冗談になりませんでした、もう今さらやめるのもできません、的に。
そしてさらに、本人もこういう表現がきらいじゃない、むしろ好きじゃね?というところに気づいてしまってΣ(゚д゚ ;)ガーンとなったに違いない。

総評。
ライブという設定のせいで、演出がいろいろと過剰ww 作ってた本人たちがいちばん楽しかったろうと思われる。
元気にハードコア。自由の国では何を言ってもいいんだ!自己表現だぜ!という感じに。まあ、その自由度すらおちょくってる感がなきにしもあらず。というか、自由というのは他人の自由であって、彼らの自由ではないんだ、という辺りか。
差し替え前のオリジナルのジャケットにすべてが現れてるよ、ということでひとつ。
似非ライブということで、妙に盛り上がる感じが、歌詞の過激さとあいまってちょっと怖い。フレーズのキャッチーさに乗せられて、一緒にKill you!とかI Know You're Fucking Someone Elseとか一緒に歌ってる自分がいちばん怖いですorz
単純に心の底から楽しめないっぽいのは、多分こいつの頭が固いせい。それでも、これを吐かずに一緒にノリノリで歌おうとする辺り、無節操にもほどがあるな自分orz
いわゆる(架空の)ライブでのMCというのを聞いてて、Peteという人は、存在自体がジェンダーに対する幻想というもののパロディなのかもと思う。
2m超えの身長、(染めてるけど)漆黒の腰まで届きそうな長髪、とんでもなく低い声、そういう部分だけ並べれば確実にこの人は超男性で、実際、ホルモン的にも男性部分が過剰らしいし。
そういう外見で、ものすごい情けない歌を歌う。浮気されてフラれた恋人をネタにして、現実には絶対にできないから、妄想の中で彼女を殴り殺したり電動ノコギリやら斧で叩き切ったりする。彼女を貶めて、彼女の相手もついでに同じように貶める。その貶めこそが、彼自身を貶めることだと知ってるかのように、彼女への復讐はやけに具体的で生々しくて、そのくせ結局は現実感が薄い、いかにも妄想めいた文面だったりする。
そして彼女を(妄想の中で)殺した後で、「天国で彼女に会うんだ」と言う辺り、個人的には工エエェェ(´д`;)ェェエエ工って感じだ。
勝手な解釈だけど、自殺の理由に彼女を使ってるだけじゃね?という感じで。
彼女に対して、「おまえは、おれに自分自身を憎ませる、おれは自分が大嫌いだ」と叫ぶ。いや彼女に責任転嫁してんなよにーちゃん。
ここまで来ると、林先生お得意の、「その女性はあなたの妄想の中にだけ存在するのではありませんか」と真顔で訊きたくなる。
まあ、1stに続いて、このアルバムも、基本女性に対する憎悪の部分は全部妄想だよ、という辺りで結論できたら気分が楽だ。
実際にこの彼女という人が浮気したんだろう、ということはまあ信じるとしても、彼がこれほどの憎悪を抱く理由になった、とは思わない。単に、Peteが自己憎悪を深めるきっかけになっただけじゃないかと。
だってさー、「こんなひどい女なんだぜ!」って世界に向けて言うって、「はい、おれは全然女性を見る目がないバカです」って白状するのと同じだぜー。この聡明な人がそれに気づかないってありえない。
女性に振られた→なんでこんな女に→そうかおれがどうしようもない屑だからか→自己憎悪→憎悪を他人に転嫁して表現→その方が自分の痛みは少ないぜヒャッハーという流れじゃないかと。
正直なところ、世間一般で言うところの、「女々しい」という部類に、Peteはあてはまると思う。そして、いわゆる自虐的に自分を切り売り(わかりやすい例としては売春)してるという部分に、こいつは彼の中に(一般的に世間で求められてる)女性性というのを非常に強く感じる。
自分が他人(Peteの場合は、一応異性である女性)に対して性的な感情を抱かせることができる、それを利用して他人の関心を得たり利用したりする、男女どちらもやることだけど、女性の方が、これを(無意識に)やることを社会的に求められる傾向が強いような気がする。
極めて男性的な外見で、"女々しい"心情を吐き出し、女性的(女らしい、という意味ではない)な意味合い濃く性的に振る舞うことを厭わない、彼のやってることは、どれも性向が今ひとつ一致せず、どちらにも向かいつつ、ひとつに絞れずに迷走しまくってるように見える。
まあその迷走っぷりが魅力なんだけど(鬼)。
そしてまた、彼自身も、迷走しながらも自分のやってることはちゃんとわかってるんだろうしな。過剰に男を求める面々を揶揄して、自分を女々しいと言う輩には暴力も厭わないぜという態度で、極端に男らしい外見に、ほんとうに14歳の少女くらいの傷つきやすさを内包して、カテゴライズ大好きアメリカ文化の中で、彼はどこにも入れずにずっと苦しんでるんじゃないかと、そう思う。
歌詞の中で彼女に与えてる生々しい苦痛こそ、彼自身が現実で味わってる苦痛の表現なんじゃないかと、ふと思う。その苦しみの、ちょっとわかりにくい表現が、1stとこの2ndな気がする。
ここで彼が殺したいと思ってるのは、現実に彼を振った現実の女性のことではなく、女性に転化した彼自身なんじゃないだろうか。
Peteの、極端な男性らしさと女性らしさが、(差し替え前の)ジャケットから歌詞から曲調から、何もかもすべてに込められてる、そういうアルバムなのかな、と。いろいろと意味深長に考えられるアルバム。
 
Type O Negative/"Bloody Kisses"実況レビュー - 2010/03/10(Wed)
一応オリジナル盤。ヨーロッパでは曲順が違ったりとか、いくつか違うバージョンがあるらしい。未発表の曲とか入ってるって、買ってから知ったよorz

Bloody Kisses (1993)

イントロ、Machine Screw。
金属の扉が開閉する音? 女性のものすごい喘ぎ声orz

1曲目、Christian Woman。
いきなりこれが最初なのか。ここでは単数形(Woman)なのに、なんでDVDとかだとWomen(複数形)になってたりするんだろう。謎。
繊細な、重々しい曲調と歌い方。懺悔の声にも聞こえて来る。
曲だけ聴いてるとものすごい何か切ないんだけど、歌詞読むともうorz
いやまあようするに、信心深い女性が神に恋をしていて、それは肉体的な愛でもあってみたいな、そういう内容なんだけど・・・。
半ばでアコースティックになって、そこでずーっと延々、Peteがものすごい普通の声で、「彼女は神を知りたがっている、愛したがっている、もっともっともっと奥深くで(多分、遠回しに、体でという意味)知りたがっている」って、どこのラブソングですかという調子で歌い続けてる。
その後で急にまたロック調に戻ったら、「キリストはおれとそっくりなんだぜ」と、ビデオでは半裸でB弾きながら歌うのが見れるorz この部分は本気で歩く猥褻物と化すPete。
1曲目から9分弱。とりあえず酔え!惚れろ!これぞTON!

2曲目、Black No.1 (Little Miss Scare-All)。
次がこれか! 次がこの曲か!!!
べべべべんという、ぶっといBの音のイントロ、吐息の多い、太いけどかすれ気味の、一言一言やけにはっきりと発音する歌い方で始まる。妙に単調なくせに、印象的なベースライン。後ろでこっそり鳴る、不気味なKey。
Gが入ってそれなりに激しさは増すものの、深夜の森という雰囲気はまったく変わらず、墓地の近くですかと、ちょっと首の後ろの毛が逆立つ。
そんなところで、ちょっと曲調が妙に明るくなって、そこはKennyが歌う。「染めた髪の根元が伸び始めてる」という歌詞。笑うところ?
とにかくひたすら不気味、繰り返される、意味の良くわからない、でも聞いてるうちにトリップできそうな、Black Black Black No.1というコーラス。
妙に優しいKeyの音、そこへかぶさる、ささやくような、あるいはちょっと泣き出しそうな、それとも語りかけるような、Love Loving Youという歌詞。そしてKennyの声が続けて歌う、Lovin You Was Like Loving The Dead。ここのDr.の音が好き。
またKeyの音、それから心臓の音? Keyの音がちょっとゴージャスになって、でもフレーズが不気味さを増したところで、またGがちょっと激しくなって戻って来る。
これはアルバムバージョンで、PVで聞けるシングルバージョンとはアレンジがかなり違う。
11分もあるのかorz PVは4分くらいだもんな。倍ですかorz
ちなみにBlack No.1というのは、髪染め剤の番号で、いちばん黒いヤツのことらしい。
あんまりそうとはっきりわかる風ではないけど、一応珍しくきちんとGソロが入ってる。身の丈に合った感じに(ひどい)。
どうと言うような特徴のある曲ではないと思うんだけど、とにかくひたすらな不気味さとわけのわからなさと、そして妙に耳に染みついて忘れられなくなるフレーズ、とにかく奇妙に印象の強い曲。
しかし、これこそがTONだ!と思うと大変な勘違いと後で気づくorz
PVは非常に(良くも悪くも)印象が強い、曲だけで聞いても印象が同じようなのはさすが。しかしあのPVは超損をしてるような気がするよママンorz(←このPVでドン引いてそれ以上TONを聞こうと思わなかったヤツ)

Fay Wray Come Out And Play (Interlude)。
何語だろうこれ、原住民の儀式みたいな感じ。逃げる(?)か怯えてる女性の声。叫び声。生贄の儀式とかなのかな。

3曲目、Kill All The White People。
いきなり突っ走るパンキッシュ。タイトル通りの曲。
歌詞が途切れたところで、みょ〜にサイケくさいGの音が入る。気が抜ける。
どよ〜んと音が重くなって、何だろう、軍隊の演習の様子とかなのかな、そういう音が入る。機関銃の音?
Bのフレーズがかっこいい。歌詞のリズムが実は好き。

4曲目、Summer Breeze (originally by Seals and Crofts)。
白人どもを殺せ、と歌った後でこれかorz
オリジナルのさわやかさは、とりあえずちょっぴり残ってる気がするけど、薄気味悪さをよけいに増すだけな気がする。
とても可愛らしく入るKeyの音の浮きっぷりが逆に怖いorz
Gの音がちゃんとMetalなだけに、オリジナルに対していたたまれなくなるorz
ちなみに、毎度カバーのたびに歌詞を変えることが多いPete、この曲に関してはオリジナル側からクレームついて、歌詞の変更ができなくなったとか何とか。いやカバーを許してもらえただけ寛大さに感謝って感じだと思うorz
何かホントに、吸血鬼が獲物の話をしてるような雰囲気。

5曲目、Set Me On Fire。
前の曲と途切れないまま、まるで続きみたいに始まる。歌詞にSummer Girlと入ってるので、そういう意図で作った曲なのかな。
この中ではわりと短い曲で、Drの音とKeyの音が印象的。
Popと言えば言える曲調なのか。その割りには、何だかよくわからない、「何なのこれ?」的な雰囲気があって、明るいとも言い切れない、かと言って切ないとか淋しいとかそういうわけでもない、単に耳に気持ちいい音符を並べてみました的な感じが、逆にちょっと気味悪い(そして曲は全然気味悪い感じじゃない)。
印象が薄い割りに、She Sets Me On Fireというメロディーは妙に耳に残る。

Dark Side Of The Womb (Interlude)。
赤ちゃんがむずがる声。機械がぶつかるみたいな音? 女性の声?

6曲目、We Hate Everyone。
明るく始まる、これもまた何だかふざけてるのかというような曲。
後ろでドコドコ鳴るDr.。
歌詞が過激な割りに、Peteの歌い方はごく抑え目で淡々としてて、ああからかってるんだなあという感じのコーラス。
途中で展開、うね〜んとお得意の落とす重い流れ。不気味な声。わざと言葉の途中の音節で切って、言葉を聞き取りにくい感じにしてるのかな。訛りも強調?
そして突然、妙にメロディアスなフレーズが始まって、やけに淋しげな感じになる。
少し感情のこもった声でWe hate everyoneと繰り返す。ものすごく悲しげで淋しげ。ちょっと可哀想になる。
最初のおふざけに戻る。かわいそうに思ってた気持ちがここで吹き飛ぶorz
曲の〆部分の音が外れるのが、あれはきっと揶揄の表現。

7曲目、Bloody Kisses (A Death in the Family)。
ドラマティックなイントロ。とりあえず前の曲の余韻(?)に浸ってると面食らう。
ドラマティックな流れの割りに、メロディーラインらしいラインがあんまりない。Peteの声より、Bの方が歌ってる感じ。
あ、これはお経だ。うね〜んうね〜んと言う感じの歌い方。
曲調がちょっと鋭くなって、Peteの声も急に高くなる。
大きくて重い石の下敷きになって、一応じたばたもがいてる感じ。助かるとは思ってないけど、一応悪あがきはしておく、というような。
Keyの音せつねー。
これもまた映画みたいな感じで、曲が長い&メロディーらしいものがないわりにドラマティック&ほとんど台詞みたいな歌詞。
LPだったら、これがB面の最初かな。CDで6曲目と続けて聞くと、ちょっとそれどうなのという気分になること請け合い。
最初っから最後までひたすらドラマティック。でも歌詞は非常に単純で特にひねりも見当たらない。含みは山ほどありそうなので、いろいろ深読みできそうで面白い。

3.0.I.F. (Interlude)。
バイクとか車の音?
妙な儀式でもしてるみたいな、何だか不思議で気味の悪い歌(?)声。気持ちが悪い。怖い。夜聞いたらトイレに行けない。
女の子たちがはしゃいで遊んでる声? ニュース音声? 車やバイクの音? 事故?

8曲目、Too Late: Frozen。
曲が始まる、途切れる、誰かが笑って"Fuck You"と言う声。最初からまた始まり。
妙にうるわしい声のコーラス。
ノリのいい曲、色っぽい系のPeteの歌い方。
切れのいいDr.の音、GとBのリフ、その合間を縫うように歌詞がぬろ〜んとのたくる。
また重い展開。どろ〜ん。のたくる歌に引きずられたような音。
I'm Freezingという歌詞は、寒さに震えているという意味か、声が震えるエフェクトつき。ライブの時は喉を叩くPete。
最初のBのイントロが戻って来る。コーラスがまた妙にうるわしい。Gソロ、なのかなこれは。
雪の女王とかそういうのをちょっと思い出した。

9曲目、Blood & Fire。
わりと真っ当なロックっぽいイントロ。
わりと普通なPeteの声。
後ろでぎゅいんぎゅいん鳴るGの音が何だか珍しい感じで微笑ましい。
いろんな意味で普通な感じ。初めて作った曲です、みたいな感じ。
アコースティックのG。ここからちょっと雰囲気が変わる。いきなり暗い小道にぶち当たった感じ。
どうしていつも、詠唱っぽいメロディーが、ある意味脈絡なく差し込まれるんだろう。好きだ。
そして一応Gソロらしい音。
またアコースティックなフレーズ。Peteの語り。吐息を混ぜてしゃべるな。
Gがけっこう出張ってるのと、曲自体が至って普通のロックなので、何かみんなで戸惑いながら演ってる印象。「これでいいのかな?これでいいの?」みたいな。
普通に盛り上がって終わり。

10曲目、Can't Lose You。
何だか不安にさせる音で始まったと思ったら、みょーに色っぽいというか、ちょっと面食らう感じのメロディー、シタールの音かなこれ(キーボードだろうけど)。
全部の楽器が、単音をうね〜んうね〜ん鳴らしてる感じで、合奏と言うよりも、集団でマリファナで酔っ払ってるようなイメージ。
Peteが低い声で歌う。色っぽい系。
面白いというか妙と言うか、物悲しいくせに、どこかこう、思わず笑みがこぼれて来る、おかしいという意味ではなくて、何だろう、一種微笑ましいとでも言うのか、そういう雰囲気。
歌詞は、タイトル通りの、I Can't Lose Youだけ。ひたすら繰り返し。みんなでマリファナで飛んで、それぞれ好き勝手に楽器弾いてます、というのは言い過ぎかな。
ある意味典型的なトリップソング(自分的には)。
何もかも流れに任せました的アレンジ。誰も何も深く考えてない。Blood & Fireが、あれこれ凝った割りに今ひとつ印象深さが足りない感じなのとは逆に、何も手を加えない、ただ流れるに任せただけなのに、それがゆえに引きずり込まれてそこから逃れられません、という感じがする、妙な曲。
なぜか突然終わる。一瞬CDに何か起こったかと思う。心臓に悪いからやめて。

総評。
「曲がどれも長すぎる、反社会的ハードコアから、突然メロドラマ調ロックになって戸惑う」というような評価があって、とりあえずそれには賛同。
ただ、一端入り込んでしまうと、このどれもうんざりするほど長い曲は気持ちいいだけになるだろうし、凝ったアレンジも、微笑ましいレベルで無駄にゴージャス、「無理にゴージャス」じゃないからいいんじゃないかと思う。
本人たちも、前作までの反社会ハードコアからの自分たちの変化に戸惑ってる様子が見えて、自分たちが行きたい方向へ向かいつつも、まだまだいろいろと手探りという感。
メロドラマ部分はいっそうメロドラマに、ハードコアなパンクは相変わらずなノリで、そのギャップが冗談にもなるし、可愛らしくもあるし、いろんな意味で微笑ましいアルバムかもしれない。
聞く人をおちょくる姿勢は相変わらず、気の利いた冗談と言うにはちょっと泥臭くて垢抜けない風はあるけど、これが彼らの魅力なんだろう。
全部で70分前後あるのかな、みっしりと言うには少し力量が足りてないところは、まあ若さってことでひとつ。
でもとにかく、伝えたいことがあるんだ!という毎度のPeteの表現力の部分には感嘆。展開の強引さも、これはJoshのおかげか、以前よりもずっとなめらかにドラマティックになってると思う。
下品に猥雑な感じのアルバムジャケット、これもまた印象が強い。アルバムはほぼジャケット通りの印象。
内容の混沌っぷりのせいか、中身の印象はやや散漫。惚れないと単につまらないアルバムになっちゃうと思う。曲調の変化のせいか、Joshが目立つ(keyでもアレンジでも)ようになって来た気がする。
全部じゃないけど、Peteの発音がちょっと舌が回ってない、つたない印象。わざとなのかなどうだろう。元々歌い回しが上手いとか、そういうタイプではないので、言いたいことがあふれるとメロディーに乗せ切れなくなるのか、あるいは歌と思うと言葉にしにくくなるのか。歌い叫びがほとんどないので、とりあえず「歌う」ということに目覚めたのかもしれない。
10年前だったら、曲はいい、アレンジの大仰さに負ける歌が残念、という評価で落ち着いただろうな。今では、この残念に聞こえるはずの歌の中に、逆にその技量の足りなさゆえに、歌う本人の心の叫びが生々しく立ち現れる。表現力でごまかすことのできる歌の上手さがないからこそ、「ここで歌われていることはほんものだ」と感じられる。このほんものの部分が、TONの魅力なんだろう。
1曲目からChristian Womanで9分、その直後にBlack No.1、そして締めはCan't Lose Youという、とにかく大胆な構成に驚く。メロドラマな曲の間に入る、パンキッシュなKill All The White Peopleとか、分裂症気味な感じがたまりません、と言っておく。
初代Dr、Salの最後のアルバム。少年が、青年に変化して行く過程のようなアルバム。
 
Type O Negative/"October Rust"実況レビュー - 2010/03/15(Mon)
前作と打って変わって、過剰な演出はほとんどない、音楽だけのみっしり詰まった1枚。脳が融ける。

October Rust (1996)

Bad Ground。
ズーっというただのノイズ。ある意味イントロに非常に相応しい。Josh曰く、「CDか機械に何かが壊れたかって思わせる冗談」だそうで。まったくもうww

Thanks from the Band。
笑い声。バンドメンバー全員から一言ずつありがとう。こちらこそありがとう。

1曲目、Love You to Death。
そして1曲目がこれかああああああああああorz いきなり欝になれるピアノの音、Peteの低い声。
ライブになると非常にこう、ドス度の増すバラード。アルバムだと、ひたすらのた〜んくた〜んとたるい音が続く。
水死体になって、流れのゆるい川を仰向けに流れてるって感じ。
好みはあるかもだけど、この1曲だけでこのアルバムを聞く価値があると思う。この1曲だけでTONをすごいバンドと言うだけの価値のある曲だと思う。
とにかく延々とたるい、切なくて胸が締めつけられる音が続く。何もかも絶望に満ちた無気力と言うか・・・決して無条件に美しい(だけの)曲ではないと思うけど、こんな美しい曲を聴いたのは10何年ぶりかと思った。
特に盛り上がるようなフレーズもなく、とにかく延々と延々と、地を這うような音が続く。
そして最後に、Peteが少し高くなった声で、Am I Good Enough For You?と繰り返す。この人がこんな言葉を繰り返すというところがまた切なくて泣ける。
最初から最後まで、胸をかきむしるように、ただただ淋しくて切なくて、悲しい曲。

2曲目、Be My Druidess。
ノイズっぽく始まる。べんべんべんなB。サイケというかテクノっぽいとも言うのか、この曲だけ聴くとロックバンドに思えない。
細くて高めの声。普通に歌う声。後ろでBがずっとべろんべろん。脳が揺れそう。
歌詞はまあ、官能小説系なので、歌い方もそういう感じに。Bloody Kissesに比べると、こういう歌い方が板につきつつある。鬱陶しさやわざとらしさが減って、わりと自然に色っぽい。
そして突然声が低音になる。地獄の底ですかと言いたくなるような声で、官能小説な歌詞は勘弁して下さいorz
後ろで鳴ってる音は特に印象的とも思えないけど、途中でちょっと調子が変わる辺りで、妙に耳に残る。
湿った暗い森の中、という感じ。メロディアスではあるけど、ドラマティックな部分は抑え気味。わりと淡々と進んで、淡々と終わる感じ。
メロドラマという印象は非常に薄い。曲としての盛り上がりには欠ける(でも欠点じゃない)けど、やたらと大仰でないところが好感触。

3曲目、Green Man。
何かの作業の音?
爽やかな感じのアコGの音で始まる。そこへ入る、んべべべんなBの音。これもまた爽やかっぽいPeteの声。
優しいGの音、優しいPeteの声、鳥の声も入る。優しい旋律。
穏やかな、透明な空気の匂い、孤独というわけではなくて、ひとりという印象。
歌詞はちょっと自然に関わることなせいか、曲もそういう感じが強い。ただひたすらに穏やかで優しい。ちょっと民俗音楽っぽいフレーズもある。
Peteの歌い方が丁寧。歌い叫ぶとか投げ捨てるような歌い方は一切なし。語るように、ほんとうにギター1本でひとりで歌ってるよみたいな、そういう感じ。
空や地面に向かって声と音が広がってゆく。誰かのためではなくて、誰かに向かってではなくて、内側からあふれて来るものを、外へ向かって放っている、そういう曲。空気の匂いがする。
どの音もでしゃばらない。どの音も全部バランスよく絡まって、何もかも、ただそこに在る、ただそれだけ。
突然ぶつ切れで終わり。

4曲目、Red Water (Christmas Mourning)。
キーボードだと思うけど、ちょっと金管っぽい音で始まる。
水面を叩くような感じのキーボードの音に重なる、ぎーぎー言うGの音。
静かな小さな部屋で、何か床に置いた何か硬いものを、手にした道具で叩いてるような、そういう情景が浮かぶ。その行為に意味はなくて、ただそうしたいから、本人もどうしてかわからないままそれをやってるっていう、そういう感じ。
Gの音は割りと鋭い。
Peteの声は、何と言うか泣くのを耐えてるような、そういう印象。
途中の鈴の音みたいなKeyの後ろで、妙に耳につく音で、Bが鳴る。
淋しくて悲しい。みんながいるところで、ひとりきり。孤独という感覚に襲われる。
Gはぎーぎー後ろで鳴るけど、ほとんど目立たない。誰か、少女らしい誰かが泣いてるような声。教会辺りで聞けそうなコーラス。
きれいで、悲しい曲。聞いてると泣きたくなる。これもブツ切りで終わる。

5曲目、My Girlfriend's Girlfriend。
Dr.の音、妙にファンキーでサイケでキャッチーなKeyで始まる。とにかく奇妙にポップ。
そこへ入る、まるで戦車がガガガみたいな、PeteのドスDeath声。なにごとorz
何と言うか、人工的に着色されたすごく色鮮やかな花壇を踏みにじる戦車って感じorz
歌詞はまあ、つまり「オレの彼女の彼女」とそのまんまで、「3人で手を繋いで街を歩くとみんなが振り返る〜」とかそういう能天気系の、意味は特にない系。ただひたすらにポップでキャッチーなフレーズの後ろで、ザクザクGやらBの音が聞こえる。
真ん中で麗しいフレーズになる。Peteの声も麗しい。
PVも非常にドン引きな意味で印象が強いけど、曲のアレンジだけでもドン引けるすごい曲。
最後近くに入るBのソロ(?)がすげえ好き。かっこよすぎ!

6曲目、Die With Me。
人の声。アナウンスの声? 飛行機の飛ぶ音?
アコGで開始。ささやくようなPeteの声。
優しいラブバラード、なのか? 声もGの音もKey(ピアノ)の音も、全部優しい。背中や頬を撫でる手みたいに、優しい。
別れを嘆いている内容の歌詞と思うんだけど、相手がいわゆる普通の女性なのか、それともこれもお母さんのことなのか、お母さんと思うのはまずいかもだけど。
Peteのマザコンは真性なので、実はお母さんのことですって言われても全然驚かない。この人が(歌の中で)心底優しいのはお母さんに対してだけだしなあ。
いつまでも優しいまま。ただひたすらに優しい。淋しげに、悲しげに、優しい。誰かの穏やかな死を看取るのはこういう感じかと思う。
最後の最後で、Dr.の音が強くなって、ちょっと変わった感じのフレーズが続く。突然ぶちっと終わり。

7曲目、Burnt Flowers Fallen。
ヤギとは羊の鳴き声。
うねうね〜んと始まる音。これもBだな。ちょっと東洋っぽい感じのフレーズ。
Keyが入って、ほんの少しだけうねうね〜ん度が下がる。
Bの音と歌メロのうねうね度のせいか、脳が揺れる。歌メロの後ろで鳴るBの音が何気に超かっこいい。
盛り上がりはあるけど、特にメロディックというわけではなくて、むしろ曲自体は平坦。ただとにかくそのうねうね〜んの繰り返しのせいで、酔っ払える。トリップソング。
これも何だか美しい。花畑で気持ち良く、ちょっと行き過ぎに酔っ払って、ああ空が高いなあ青いなあってぼんやり思ってるような、そういう感じ。
歌詞は4行程度を延々繰り返し。高めの声で歌い方は丁寧。激しさは抑え気味に、ちゃんとそこに在って、Bがさり気なく感情表現豊か。

8曲目、In Praise of Bacchus。
うね〜んとしたGで始まる、うね〜とした高い声が入る。ちょっと突然で面食らう。
割りと普通のスローなロック。ちょっと吐息の混じる、つぶやくような歌い方。声は高い。
リズム隊の音がけっこう低めで、ちょっと音が太くて地を這う感じ。
声はエフェクト掛かってて、こもった音にしてある。後ろで効果音がけっこう鳴ってて、曲のシンプルさとは逆にアレンジは妙にゴージャス。
歌メロ部分は抑え気味(Bloody Kissesまではドラマティック過剰なんだけど)。
歌い方が、下手すると気持ち悪い系。曲全部気持ち悪い系というか、粘着質。でろ〜んどろ〜ん。
ハモンドオルガンの音に、さらにつぶやくように歌う声。そこからサビ部分に戻る。オルガンの音はそのまま後ろで鳴ってる。
Dr.が入って、それなり普通にロックかなという流れに戻って、粘着はそのまま。音とか声がたくさん重ねてある。
突然切れる。情緒もへったくれもないのはなぜ。

9曲目、Cinnamon Girl (Neil Young cover)。
ちょっと元気がいい感じに始まる。これもまた何事、という感じ。
基本のメロディーは爽やかな感じなのに、それをブチ壊すGの音とBの音。ざくざくじゃかーんみたいな。
明るいのか爽やかなのか不気味なのかよくわからないブレンド具合。とりあえずうねうね〜んな音に脳が揺れそう。
Peteの歌は普通。オリジナルよりも色気増しかな。これはこの人の歌い方のせいってことでひとつ。
MGGとは違う意味で、ちょっと可愛らしい感じ。しかしなぜかちょっと不気味な感じもあって、どうしたらいいのか戸惑う。
そしてちょっと真ん中で盛り上げるために(?)ドスDeath声を使うPete。
GとBのザクザク具合は相変わらず。
何と言うか、サイケなDeath Metal風味とでも言うのか。
爽やかに終わり。

10曲目、The Glorious Liberation of the People's Technocratic Republic of Vinnland by the Combined Forces of the United Territories of Europa。
飛行機が飛ぶ音? 重い曲。叫ぶ声。軍歌の響き、みたいな印象の曲。飛行機の飛ぶ音で終わる。インストと言っていいのかこれ。短い。

11曲目、Wolf Moon (Including Zoanthropic Paranoia)。
きれいな、どこか宗教音楽めいた感じの曲。Bの音がうね〜んときれい。麗しい。
重い。暗い。ちょっと不気味。非常に真面目で真っ当なホラー映画のサントラって感じ。馬鹿馬鹿しいとか安っぽい感じは全然なくて、開拓時代のアメリカの夜、辺りのイメージ。
音が全部丸い。尖ってるけど、鋭さはない。穏やかというわけではなくて、物静かと言うか。
非常に麗しい印象。怖くて、きれい。
クラシックっぽい音に聞こえるのは、途中でバイオリンぽかったり、そういう音が入るからなんだろうなあ。
物悲しい、何か人でないものが、淋しいとか切ないとか、そういう感情を表してるような、そういう印象。
物悲しいまま終了。

12曲目、Haunted。
高音の、金属の楽器が鳴ってるような音。
ピアノの音。ゆっくり曲が始まる。
詠唱みたいな歌い方。何もかもうね〜ん。
黒衣、何かに向かって捧げるために歌、感情の昂ぶりらしいものは特にない。
急に暗く重くなる曲。声も低くなる。地の底から聞こえるような低音。不気味な、何か古い弦楽器みたいな音、Peteが歌わずに語る、訛りがきつい。
音が増える。バレエの公演でも見てるみたい。
過剰ではなく、ドラマティック。正直10分あって長いと思うのに、長さにうんざりしない。
不気味で美しい。醜悪で美しい。何と言うか、恍惚となる。引きずり込まれる感覚。
大仰に劇的ではないのに、物語を語られたような、充足感ではないけど、脳がいっぱいになった感じ。
何の情緒もなく突然切れて終わり。

Bye from the Band。
Peteが「じゃあまたな」と言うのが、最後でまたブチっと切れる。ある意味興醒めというか、突然現実に引き戻されて、ちょっとめまいがする。脳の揺れが止まらない。

総評。
Bloody Kisses同様、いきなりこれでアルバム開始ですか、という曲順。最初に雑音とメンバーのしゃべりが入るので、その辺りでちょっと興醒め気味に救われる感じ。
1曲目の1音から暗闇に引きずり込まれる。ここだという盛り上がりのようなものは特になくて、MGG辺りでちょっと明るくなるかと思う程度。CGでもちょっと爽やかに救われるかな。
とにかく全体がどろ〜んぐた〜んうね〜ん、特に後半は全部のっぺりの暗闇の中。
完全ダウナー系。マリファナの酔いでもなくて、何だろう、睡眠薬の飲み過ぎ? 脳ミソが直に揺さぶられてその内融ける。
前作までが怒りを主に歌ってたのと対照的に、October Rustは、タイトルの印象通り物悲しさとか、人生の無常さに対する諦観というのか、そういうのを主に感じる。
物悲しい、切ない、淋しい、でもなぜか、絶望感は薄い。そこはもう突き抜けてしまってるのか、それとも方向性が違う闇なのか。とりあえず生きているという匂いはする。
全般Bの音が激好み。低く鳴る音がたまらない。声よりも感情豊かな気がする。
いわゆるメロドラマ的にドラマティックな部分が薄れて、非常によく出来た、心理描写で盛り上がる(ラストに特に救いはない)長編小説を読んでるようか感覚。
曲調がどれも似てるせいか、アルバムひと続きという印象が強まってて、でも1曲1曲、きちんと差異が際立ってる・・・のは構成のおかげか。
ある部分、まとまり過ぎなくらいによくまとまってると思う。単調だけど、ぎりぎり単調になり切らずに、あちこちに印象的なフレーズがさり気なく、目立たなく差し入れてある。濃淡のある闇、あるいは、闇の中で見える、物の形や影。
これをMetalと言っていいのか、いわゆるGothだのDoomだのに入れてしまっていいのか迷う。かと言って普通のロックではなし。何と言っていいものか迷う。こんな疾走感のないアルバム、よく作ったな。
どの曲も好みどストライクで、アルバム全部同じ曲調って、まるでお気に入りの曲だけ集めた自分用ベストって感じ。個人的には捨て曲が1曲もないって怖すぎる。
Peteの発音は、わざとなのかどうか、非常に聞き取りにくい。Layneとは対照的。歌詞にはほとんど言葉を詰め込んでないのに、歌詞見てもどこを歌ってるのかたまにわからなくなる。
ブルックリン訛りを強調してるという話も聞いたけど、どっちかって言うとロシア語訛りじゃね? ってか、普通に英語に聞こえないんですが。
この声(と発音)と歌い方がTONの顔だと思いつつ、実はこの人のBが超好きだったりして。
メロディーが非常に成熟したなあと思う。前作までの幼稚さがまるっと抜けて、いわゆる大人のためのロックというわけではなく、むしろ内向度は前作の比じゃない。世間の基準ではなく、Peteの個人的基準として、「成熟した」という感じがする。
Peteの個人的事情の発散の方向と、世間の求める方向が偶然一致したと言うか。
メロディーの美しさとかいわゆるバラードの集合体ということを考えれば、売れない方がおかしいと言えなくもないけど、内容の内向性を考えると、どマイナーのままでもおかしくなかったと思う。
売るために作った内容ではなく、ぶっちゃけるとただのPeteの個人的な日記。ただ曲が異様に良い、捨て曲がない、メリハリつけようとか色気を出さずに、これでいいんだと押し切ったところが個性になった、稀有なアルバム。
わざと残したアマチュア臭さと、曲の終わりが時々ブチ切れなのは、多分メンバーの照れ隠し。そういう意味では、恐らくこれはほんとうにある種の素を剥き出しにした作品なんだと思う。
ねじれた方向に美しいアルバム。ただひたすらに醜悪に美しい作品。LYDT1曲だけでも聞く価値のあるアルバム。
 
Type O Negative/"World Coming Down"実況レビュー - 2010/03/16(Tue)
ジャケ裏のPeteに死相が現れてる。ライナーノーツの欝っぷりが半端じゃない。音的には多分いちばんまとまってた頃。ライブの出来が超ステキな頃。

World Coming Down (1999)

イントロ、Skip It。
CDが音飛びしてる音。Kennyの声。

1曲目、White Slavery。
また欝〜っとなる音から始まる。超Black Sabbathっぽい感じ。ねじれた方向にうねってて、ちょっと頭痛がしそう。
何と言うか、床で死に掛けてる感じ。ああ内臓が機能停止し始めてるんだなーって、動かない体で冷静に考えてる感じ。
何かもう、ただひたすら重くて暗い。これが1曲目って正気の沙汰じゃないだろ。
印象としてはむしろアルバム最後の曲って感じかなあ。
途中でちょっと明るくなる。明るくなるというか、音が高くなる。望みが見えると言うよりも、いよいよ死ぬ段になって、「ああやっと逝ける」って微笑してる感じ。あくまでそっち方向。
Gソロが繊細に始まって繊細に終わる。ソロの後でBの音が静かに鳴って、声だけになったところで、また賛美歌みたいな高い音が入る。
相変わらず歌詞は聞き取りにくい部分が割りと多い。Nightmareと繰り返されるところを見ると、明るい内容でないのだけは確か。Pepsi Generationとか入ってるのは、相変わらずのシニカルなジョーク。
どの音も、妙におとなしく(控え目という意味ではない)演ってる印象。葬送歌って感じだ。

Sinus。
女性が笑う声? 笑うというか、狂気じみたはしゃぐ声? 鼻をかむ音? 鼻炎で苦しんでますという気配。叫び声。

2曲目、Everyone I Love Is Dead。
Gのちょっと淋しげな音で始まり。
太くて低い声。丁寧に語るように歌う声。後ろで、シンプルなGのリフがずっとじゃーじゃー鳴ってる。
一時盛り上がり。真っ当にMetalな音。
歌メロはちょっとダサい感じで、垢抜けないというか・・・何と言うかこう、あがいてるような感じ(多分わざと)。
途中で入る、Goddam Itという歌い叫びが何だか悲しい。
サビの部分でちょっと繊細さが増して、何と言うか、何もかも丁寧なのに、投げやり度が増す。
Bの音が妙にメロディアス。
メロドラマ的な部分や妙に大仰に凝った部分がなく、垢抜けないっぽい感じがむしろ素という感じで、妙に胸にしみる。
Goddam Itという歌い叫びと、Everyone I Love Isという控えた声の対比が、ものすごく切ない。
Goddam Itと歌い叫んで終わり。最後に高音のノイズみたいなのが入る。キーボードの音だ。

3曲目、Who Will Save the Sane?。
いきなり3拍子。何だろう、ちょっとだけぽいっけど、ジャズじゃなくて、南部の路上で聞けそうな、妙に凝ったメロディー。
自然に体が揺れる。
Dr.の手数が割りと多い。どのパートもそれぞれメロディアス。うるさくなくて、絡み合いがうねってて気持ち良い。でも全然爽やかじゃなくて、安物ウイスキーで酔っ払ってる感じ。
歌詞に割りと言葉が詰まってて、音楽的にどうこうよりも、とりあえず言いたいことを言ってみましたという感じなのか。
印象としては優しい感じのメロディーなんだけど、穏やかと言ってもいいと思うんだけど、明日の朝二日酔いで大変ですねみたいな、そういう雰囲気。
投げやり、負け犬、そういう言葉が浮かぶ。
Peteがほとんど無理をせずに歌ってる。高音やむちゃくちゃな低音を使わない、ごく自然に出る声だけで歌ってる。
聞かせる曲だなあ。さり気なく凝ってる。でも大仰じゃない。こけおどしじゃない、素直に出た音、という感じ。強引さがない。

Liver。
観客の声? 車から降りて小走り? 病院? 人の声、水音、グラスや何かが触れ合う音? 小さな爆発音? パトカーの音、ピーっという電子音。ドアが閉まる音? 電話が鳴る。眠そうな女性の声が答えて、それから叫び声。落ちてゆく音?

4曲目、World Coming Down。
目の前の闇が、いきなり振り払われるような、そういう印象の始まり。何かとても広大な感じ。空から音が降って来るような。
LPだったら回転数間違えたかなと思うようなテンポ。うっかりリズムに乗り損なう。
中域よりちょっと高い声を使って、歌い上げるような、そういう歌い方。テンポはうんざりするくらいトロいくせに、メロディーのリズムはちょっと前乗り。
Kennyがサビを歌う。Peteの声より華やかで、リズムも実はしっかりしてたりして。
頭上にこう、延々と何かが広がってゆくような、そういうメロディー。
突然地上に降りる。Peteの声とDr.だけ、Gの音がしみるように時々流れる。
導く声というのか何と言うか・・・ほんとに空から語り掛けられてるみたいだ。
なぜか天使が見える。
多分歌詞を読めばそのままだと思うけど、Peteが何もかも、包み隠さず吐き出してるような、そういう印象。告白と言うのか懺悔と言うのか。
なぜか不思議と、切ないとか淋しいとか、そういう感情は湧かない。ただひたすら、両手を広げて、彼を抱きしめたくなる。
珍しくきちんとアルバムの中のあるべき場所へ納められた曲だと思う。すげえ、信じられないくらいに良い曲だ。
人間の、絶対に失うことのできない、優しさのようなものを感じる。包み込まれるみたいな、包み込みたくなるような、ただ人としてそこに在って、互いに抱きしめ合うとか、尖った感情とか誰かを傷つけそうな衝動とか、そういうものが一切ない、悟りの境地みたいな、そんな感じ。
気がついたら泣いてましたとかでもおかしくない。

5曲目、Creepy Green Light。
ちょっと高めのBの音。ちょっと不安になるようなメロディー。
不気味で、でも魅かれずにいられないような、そういう音。
わりと感情的な曲。泣いてるような、わめいてるような、そういう印象。
なぜか、Peteが地面に転げて泣いてる姿が浮かぶ。
特に激しいというわけでもないのに、ざくざく草の生えた地面を切り裂いてるような、そういう圧倒感。暴力的ではなく、ただちょっとかかとをつい後ろに引くような、そういう圧迫感。
オルガンの音。教会の雰囲気。Gの音が割り入る。
ある種の混乱状態を、とりあえず吐き出してみましたという感じなのか。歌詞読んでもよく意味がわからない。悲しんでるらしいことだけはわかる。
誰かにぶつけられる怒りや悲しみではなくて、ただひたすらひとりで耐えるしかない系統。
内容は内向してるけど、音的には外へ向かって拡散してる印象がある。

6曲目、Everything Dies。
カオスな感じのGの音で始まり。みんなでせーので音出してます、みたいな。ちょっと素人臭い。
Peteの低音地を這う声。ただ叫んでるだけ。
突然優しくて切ないGの音と、Bだけになる。
ささやくような、Peteの声。後ろで鳴る、ちょっと叩くようなピアノの音。
ちょっと無理をしてる感じの、Peteの透明な声。似合ってないところが、この曲の不安定さに似合ってる。
音数が少ない(そう聞こえる)せいか、曲の透明感が強調されてる。
シンプルなロック。優しくて、切ない。
下手すると超女々しい。Peteの声で歌われるとたまらん。
力抜いて演ってますというのか、あんまり気負ってない感じ&ある意味成り行きで作ったらこうなりましたみたいな感じで、そのせいかメンバーの素が見える感じ。
途中でいかにもらしく、低音の歌い叫びが挿入、無理矢理っぽさが何だか可愛らしい。
何だろう、妙に可憐な曲。道端に1輪きりで咲いてる、雑草の花って感じ。可憐なままで終わりかと思ったら、音が重くなって、ぶ厚くなって、突然死刑場にでも引きずり出されたかと思った。
可憐な雑草が、大きくて重いブーツに突然踏みにじられたような、そういう印象。突然切れて終わり。

Lung。
男の苦しむ声? 咳。息を吐く音。電子音。女性が泣く声。咳の音。子どもの無邪気な声と女性の泣き声。

7曲目、Pyretta Blaze。
何だかサイケなイントロ。いきなり後ろ頭を軽く殴られたような感じ。
海を渡る風? 妙に爽やかなメロディー。ちょっとらしくないっぽい感じなので、カヴァーかと一瞬思う。
普通にトロい感じの、ちょっと古臭い感じのロック。ザクザク刻むGのリフが浮いてていい感じ。
サビ部分でとってもポップ。何が起こったかと思う。爽やかさが増して、そのせいでよけいにちょっと不気味に感じる。
Dr.がいい。うるさ過ぎず、音が多過ぎず、ちょうどいい感じで後ろで鳴ってる。
ちょっと勘違いした、夏の終わり辺りを表現してみましたみたいな、なぜかそういう印象。
ああ、あんまり怖くないホラーみたいな、そういう感じか。不気味で何となく気味が悪い。でも魅かれずにいられない。
音は安定してるのに、曲の不安定さが最後で増す一方。薄気味悪いなあと思う間にFO。

8曲目、Hallows Eve。
Bがべんべん。のくたろ〜んと始まる。人気のない、夜のどこかの工場の敷地内という印象。
サビを歌ってるのはKennyか。
Peteはわざとまた訛り強調して歌ってるのかなこれ。
曲としては真っ当と言うか、さり気なく重ねた音が凝ってていい感じ。
なんでここでPeteがきれいに歌うのorz 相変わらず不安定と言うか、聞いてると面食らう展開だなあ。
Gのリフが立ってていい感じだ。Peteが歌う後ろで鳴る音が、みんな妙に美しい。不安定な印象のくせに、音のひとつひとつはみんな麗しい。
綺麗な薔薇には棘があるの反対で、美しくないはずのものを美しく感じてしまうその感情に対する戸惑いというのか、そういうのが湧く。
何だか、目の前にいる誰かに、ちょっとバカにされて笑われてるみたいな、でも悔しさよりも悲しさが湧くような、そういう感じ。自分が惨めなのが悲しいというような、そういう感じ。
Dr.のオカズがいいなあと思ってる間にFO。誰かの哄笑が聞こえたかと思った。

9曲目、Day Tripper (Medley) ("Day Tripper" / "If I Needed Someone" / "I Want You (She's So Heavy)")。
いきなり首をくくりたくなるような音で開始orz
Paulが聞いたら怒り狂う予感。ちゃんとMetalだよ! 超冒涜アレンジ! でも気持ちいいよどうしよう!
Day Tripperはぶっちゃけ、歌うのはけっこうめんどくさい曲で、それをつまらなくない感じにしてるアレンジはすごいと思うし、Peteはよく歌ってると思う。本気ですごいと思う。冒涜アレンジだけど。
ビートルズもまた、あのメンバーだからこそ出せた音なんだと、再認識させてくれる。
さらっとオリジナルをなぞってやるとただつまらない曲になる(オリジナルが演ると別)ところを、アレンジと声で聞かせてるのはすごいと思う。
そしてI Want Youはさすがと言うか・・・このまま「オレらの曲でーす」って言ってもおかしくないと思うよ。これはオリジナルこそが、「え?ビートルズ?え?」っていう曲だしな。
うっとりしてたらいきなりブチ切れて終わり。工エエェェ(´д`)ェェエエ工

総評。
始まり方も終わり方も、聞いてる人間を驚かせるための冗談と見た。
相変わらずの構成。1曲目がこれですか、最後はカバーでいきなりブチ切れですか。なんかホントにCDに何かあったのかと思うじゃないか。
重いのもトロいのものたくた〜んぶりも相変わらず。October Rustよりもダサさが見えるようになって、むしろ人間味が増したと言うのか。酔っ払える度も相変わらず。今回はよりヘヴィーに、まさにコカインか何か決めてますという感じで。
傾向としては、自分の内側にいっそう深く向きつつも、そのせいかよけいに実際の「死」(自分のものとは限らず)に近くなって、そのせいで思想の向かう方向がよけいに普遍的になったと言うのか。
個人的度が増してるはずなのに、向かう方向は外へ向かって拡散、というか、テーマがもっと人間の根源に向かってるような気がする。
October Rustの美しさが、ある意味青年になりたての人間の、非の打ち所のない完璧さによるものだとしたら、WCDは、そこから大人になって、成熟したゆえに現れてしまった欠点による不安定さが生み出す安定感と言うか、ORとは別の方向での完璧さとでも言うのか。
まったく完璧ではない。徹頭徹尾不安定さがつきまとう。触れたら切れそうな鋭い美しさではなくて、むしろ手を汚しても触れてみたいと思わせるような、うっかり庇護欲をそそるような、そういう妙な魅力。
アルバムとしてまとまってるのかどうか、それすら今はっきりとはわからない。全編に漂う息苦しさ、闇の中で窒息しているという閉塞感、けれどなぜか、どこかに救いがあると信じられるような、奇妙な爽やかさと広大さ。
「どうせみんないつか死ぬんだ、死んだら焼かれて骨になるだけ、骨になったら誰とも見分けがつかなくなる」とでも言うような、突き抜けたような開き直り。
何だろう、妙な無邪気さを感じる。飾らないと言うか、何かをさっぱり脱ぎ捨ててしまったと言うか、素直と言えば言える、でもどちらかと言えば、ヤケになってめんどくさいことをやめてしまったと言うような、きれいな服を脱いで、みっともない下着姿を晒してるような(裸ではないところがミソ)、そういう印象。
絶望ではなく、諦観。人生とはこういうものだと、若気の至りではなく見切りをつけてしまって、でもまだ実際には若いから、死は遠いという、そういう立ち位置。
もう自殺はしないけれど、代わりに酒と薬に溺れて、消極的に死へ向かうという、そういう態度。
もう(死に対して憧れだけを抱ける)子どもではないのだという、避けようのない淋しさ。
高校生の頃に、自殺未遂(実際に実行したのか、実行以前に見つかったのかは不明)で閉鎖病棟に入院させられてた頃のPeteは、確実に、思春期の不安定さだけのせいではなく、物理的に脳の中のバランスがおかしくなってたと思う。
TONを始めて、30も半ばを過ぎて、頭の中は落ち着いたけれど、それでもいわゆる普通にはなれず、この辺りから人嫌いが若さ特有のものではなくなって、ほんとうにもう1枚の皮膚的な感覚になってしまって、ああやっぱりどこかがおかしい(単なる事実)んだという認識に、本人自身が落ち着いたんじゃないかなと思う。
何と言うか、アルバム全体に流れるトーンは、どこか淋しげだ。孤独を強く感じる。
ほんとうに死を目前にしたら、この人はどういう態度を取るんだろう。
Peteの、人間としての成熟を感じる。ここまで(女々しい)素を、女々しく剥き出しにできるほど強くなったという驚き。
さらけ出した本音が、まとめてみたら偶然うっかり美しくなりました的な、芸術的昇華の点が高い作品。Peteの感じる孤独の深さゆえに、、テーマが結果的に普遍的なものになってしまったという辺り、結局どこまで行っても人は人である、ということなのか。


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