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プリミティブな音楽
2003/07/11(Fri)
 いわゆるスポーツの種類に、貧富の差が関わってるのはまあ、一目瞭然ですが、音楽の世界にもそれがありなのを、改めて感じた映画2本。
 かのEminemの「8Mile」と、大学の吹奏楽団のお話、「Drumline」。後のは日本公開されてないのかなあ、もしかして。
 ラップは元々あまり好きじゃないし、アルバム買うこともないし、誰がナニってのも知らないんですが、まあ、Eminemは何となく耳に引っ掛かるので、ちょっと見てみました。
 ラップって、そう言や、あんまりお金のかからない音楽だねと、初めて気づいた。
 もちろんDJやるのは大変なんだろうが、いわゆる歌を歌う分には、機材いらないし・・・必要なのは、自分の喉だけ。非常にプリミティブだ。
 昔、アイスキューブが、ものすごいリズムで何やら歌ってるのを聞いて、ビビったことがあるけど・・・普通の歌なら歌うが、ラップは挑戦する気にもならない。とてもじゃないけど、あんなリズム感で、知らない言葉の歌を「歌う」なんて、無理に決まってる。
 音楽として高尚かどうかは、まあ置いておいて、でも、歌を歌う人間が、自分の紡ぎ出す言葉(とリズム)で勝負してるってのは、ある意味、非常に「正しい」音楽かもしれないと思った。
 こいつは、歌詞(日本語でないものは)は、サウンドとしてしか聞かないので、歌詞カードでも読まない限りは、滅多と内容なんか聞き取りませんが、まあ、聞き取らない方が、音楽そのものの音を、純粋に楽しめて良いかもと、思うこともあったり。
 歌詞知ってがっかりとか、まあ、ないわけではなし。非常に下らない歌詞と知っても、なおそれを音のすごさが凌駕する場合も、もちろんあるとして。
 作中、Eminemが、必死に歌詞を考えてるとこ(小さく折りたたんだ紙に、ちっちゃな字が延々・・・左利きな彼)で、ちょっと目の奥が痛くなった。
 日本語のラップなら、冗談でちょっと挑戦してみたいなと思った(笑)。
 まあ、とりあえず、ラップと言うのが、基本的に黒人の音楽だと言うのに、貧困、というキーワードを引っ掛けて、初めて納得した。
 お金がなくても、とりあえず始められるジャンルなんだよね。必要なのは、自分の喉だけ。
 プリミティブだ。
 黒人の方が、リズムに優れてるのが、ほんとうなのかどうかは、まあ、ともかく、地味なパートに黒人が多いのは、機材と練習と教育にお金がかけられるかどうかってのは、非常に関係があるんだろうなあ。
 こいつが知ってるハードロック系(典型的な白人の音楽)だと、いわゆる花形パートのギターをやってる黒人は、金持ちで、大学ちゃんと出てるとか(ひとりなんかハーバードだ。あんなきれいな英語、普通にはニュースでも聞けない)だし、まあ、あまり「普通の」黒人ではない。
 「Drumline」は、大学に行って、フットボールチーム応援のための吹奏楽団に入る、ドラム(小太鼓?)の男の子の話なんだけど・・・これは黒人映画なんだろうなあ。
 吹奏楽団の花形的に、ドラムパートを扱ってたんだけど・・・音は気持ちよかったなあ。
 打楽器も、のめり込めば、お金のかかるパートだけれど、始める時には、プリミティブに始められる類いの音楽だったりする。
 叩くこと、歌うこと、音楽の、原始の部分。
 ある意味、対照的なのは、アラン・パーカーの「ザ・コミットメンツ」かもしれない。映画の質はこっちの方が断然上だけど、比較すると、貧しい黒人、貧しい白人、這い上がろうとする黒人、這い上がろうとする白人、その違いが、何となく見える。
 アイルランドのダブリンで、ソウルバンドを結成しようとして、楽しみながらも、色々挫折したり(音楽に関わることだけではなく)、ちゃっかりうまく行ったり、「アイルランド人は、ヨーロッパの黒人だ、ダブリンの人間は、アイルランドの黒人だ」と、話の中では冗談めかして言われる台詞が、実のところ、重くて、痛い。
 黒人であること、白人であること。アジア人であり、日本人であるこいつには、絶対にわからないけれど、部外者として、膚で感じることのある、どこかぴりぴりとした、関係。
 そう言えば、白人に対する侮蔑語で、「white trash」(白いクズ、ゴミ)ってのがあったな。
 差別されるからこそ、自分たちのテリトリーで、「白い野郎にラップがわかるもんか!」「白人は、(俺たち、黒人みたいには)高く飛べないんだぜ」と、時には憎悪を込めて、あるいは冗談めかして、言う。
 音楽もスポーツも、肌とか国とか人種とか、そういうものを、越えさせてくれる瞬間のあるものだと思う。
 その瞬間がもっと増えて、もっと長く続けばいいなあ。
 と、アジア人の、チビな、女にすら見えないらしいこいつは、思う。
 自分が差別されるのはいいんだけどね、人が差別されるのを目にするのは、痛いよ。
 違いは、膚の色だけではない。何かもっと、他のものがあるのだと、映画を見終わって思った。



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