Type O Negative/"Bloody Kisses"実況レビュー
2010/03/10(Wed)
一応オリジナル盤。ヨーロッパでは曲順が違ったりとか、いくつか違うバージョンがあるらしい。未発表の曲とか入ってるって、買ってから知ったよorz
Bloody Kisses (1993)
イントロ、Machine Screw。
金属の扉が開閉する音? 女性のものすごい喘ぎ声orz
1曲目、Christian Woman。
いきなりこれが最初なのか。ここでは単数形(Woman)なのに、なんでDVDとかだとWomen(複数形)になってたりするんだろう。謎。
繊細な、重々しい曲調と歌い方。懺悔の声にも聞こえて来る。
曲だけ聴いてるとものすごい何か切ないんだけど、歌詞読むともうorz
いやまあようするに、信心深い女性が神に恋をしていて、それは肉体的な愛でもあってみたいな、そういう内容なんだけど・・・。
半ばでアコースティックになって、そこでずーっと延々、Peteがものすごい普通の声で、「彼女は神を知りたがっている、愛したがっている、もっともっともっと奥深くで(多分、遠回しに、体でという意味)知りたがっている」って、どこのラブソングですかという調子で歌い続けてる。
その後で急にまたロック調に戻ったら、「キリストはおれとそっくりなんだぜ」と、ビデオでは半裸でB弾きながら歌うのが見れるorz この部分は本気で歩く猥褻物と化すPete。
1曲目から9分弱。とりあえず酔え!惚れろ!これぞTON!
2曲目、Black No.1 (Little Miss Scare-All)。
次がこれか! 次がこの曲か!!!
べべべべんという、ぶっといBの音のイントロ、吐息の多い、太いけどかすれ気味の、一言一言やけにはっきりと発音する歌い方で始まる。妙に単調なくせに、印象的なベースライン。後ろでこっそり鳴る、不気味なKey。
Gが入ってそれなりに激しさは増すものの、深夜の森という雰囲気はまったく変わらず、墓地の近くですかと、ちょっと首の後ろの毛が逆立つ。
そんなところで、ちょっと曲調が妙に明るくなって、そこはKennyが歌う。「染めた髪の根元が伸び始めてる」という歌詞。笑うところ?
とにかくひたすら不気味、繰り返される、意味の良くわからない、でも聞いてるうちにトリップできそうな、Black Black Black No.1というコーラス。
妙に優しいKeyの音、そこへかぶさる、ささやくような、あるいはちょっと泣き出しそうな、それとも語りかけるような、Love Loving Youという歌詞。そしてKennyの声が続けて歌う、Lovin You Was Like Loving The Dead。ここのDr.の音が好き。
またKeyの音、それから心臓の音? Keyの音がちょっとゴージャスになって、でもフレーズが不気味さを増したところで、またGがちょっと激しくなって戻って来る。
これはアルバムバージョンで、PVで聞けるシングルバージョンとはアレンジがかなり違う。
11分もあるのかorz PVは4分くらいだもんな。倍ですかorz
ちなみにBlack No.1というのは、髪染め剤の番号で、いちばん黒いヤツのことらしい。
あんまりそうとはっきりわかる風ではないけど、一応珍しくきちんとGソロが入ってる。身の丈に合った感じに(ひどい)。
どうと言うような特徴のある曲ではないと思うんだけど、とにかくひたすらな不気味さとわけのわからなさと、そして妙に耳に染みついて忘れられなくなるフレーズ、とにかく奇妙に印象の強い曲。
しかし、これこそがTONだ!と思うと大変な勘違いと後で気づくorz
PVは非常に(良くも悪くも)印象が強い、曲だけで聞いても印象が同じようなのはさすが。しかしあのPVは超損をしてるような気がするよママンorz(←このPVでドン引いてそれ以上TONを聞こうと思わなかったヤツ)
Fay Wray Come Out And Play (Interlude)。
何語だろうこれ、原住民の儀式みたいな感じ。逃げる(?)か怯えてる女性の声。叫び声。生贄の儀式とかなのかな。
3曲目、Kill All The White People。
いきなり突っ走るパンキッシュ。タイトル通りの曲。
歌詞が途切れたところで、みょ〜にサイケくさいGの音が入る。気が抜ける。
どよ〜んと音が重くなって、何だろう、軍隊の演習の様子とかなのかな、そういう音が入る。機関銃の音?
Bのフレーズがかっこいい。歌詞のリズムが実は好き。
4曲目、Summer Breeze (originally by Seals and Crofts)。
白人どもを殺せ、と歌った後でこれかorz
オリジナルのさわやかさは、とりあえずちょっぴり残ってる気がするけど、薄気味悪さをよけいに増すだけな気がする。
とても可愛らしく入るKeyの音の浮きっぷりが逆に怖いorz
Gの音がちゃんとMetalなだけに、オリジナルに対していたたまれなくなるorz
ちなみに、毎度カバーのたびに歌詞を変えることが多いPete、この曲に関してはオリジナル側からクレームついて、歌詞の変更ができなくなったとか何とか。いやカバーを許してもらえただけ寛大さに感謝って感じだと思うorz
何かホントに、吸血鬼が獲物の話をしてるような雰囲気。
5曲目、Set Me On Fire。
前の曲と途切れないまま、まるで続きみたいに始まる。歌詞にSummer Girlと入ってるので、そういう意図で作った曲なのかな。
この中ではわりと短い曲で、Drの音とKeyの音が印象的。
Popと言えば言える曲調なのか。その割りには、何だかよくわからない、「何なのこれ?」的な雰囲気があって、明るいとも言い切れない、かと言って切ないとか淋しいとかそういうわけでもない、単に耳に気持ちいい音符を並べてみました的な感じが、逆にちょっと気味悪い(そして曲は全然気味悪い感じじゃない)。
印象が薄い割りに、She Sets Me On Fireというメロディーは妙に耳に残る。
Dark Side Of The Womb (Interlude)。
赤ちゃんがむずがる声。機械がぶつかるみたいな音? 女性の声?
6曲目、We Hate Everyone。
明るく始まる、これもまた何だかふざけてるのかというような曲。
後ろでドコドコ鳴るDr.。
歌詞が過激な割りに、Peteの歌い方はごく抑え目で淡々としてて、ああからかってるんだなあという感じのコーラス。
途中で展開、うね〜んとお得意の落とす重い流れ。不気味な声。わざと言葉の途中の音節で切って、言葉を聞き取りにくい感じにしてるのかな。訛りも強調?
そして突然、妙にメロディアスなフレーズが始まって、やけに淋しげな感じになる。
少し感情のこもった声でWe hate everyoneと繰り返す。ものすごく悲しげで淋しげ。ちょっと可哀想になる。
最初のおふざけに戻る。かわいそうに思ってた気持ちがここで吹き飛ぶorz
曲の〆部分の音が外れるのが、あれはきっと揶揄の表現。
7曲目、Bloody Kisses (A Death in the Family)。
ドラマティックなイントロ。とりあえず前の曲の余韻(?)に浸ってると面食らう。
ドラマティックな流れの割りに、メロディーラインらしいラインがあんまりない。Peteの声より、Bの方が歌ってる感じ。
あ、これはお経だ。うね〜んうね〜んと言う感じの歌い方。
曲調がちょっと鋭くなって、Peteの声も急に高くなる。
大きくて重い石の下敷きになって、一応じたばたもがいてる感じ。助かるとは思ってないけど、一応悪あがきはしておく、というような。
Keyの音せつねー。
これもまた映画みたいな感じで、曲が長い&メロディーらしいものがないわりにドラマティック&ほとんど台詞みたいな歌詞。
LPだったら、これがB面の最初かな。CDで6曲目と続けて聞くと、ちょっとそれどうなのという気分になること請け合い。
最初っから最後までひたすらドラマティック。でも歌詞は非常に単純で特にひねりも見当たらない。含みは山ほどありそうなので、いろいろ深読みできそうで面白い。
3.0.I.F. (Interlude)。
バイクとか車の音?
妙な儀式でもしてるみたいな、何だか不思議で気味の悪い歌(?)声。気持ちが悪い。怖い。夜聞いたらトイレに行けない。
女の子たちがはしゃいで遊んでる声? ニュース音声? 車やバイクの音? 事故?
8曲目、Too Late: Frozen。
曲が始まる、途切れる、誰かが笑って"Fuck You"と言う声。最初からまた始まり。
妙にうるわしい声のコーラス。
ノリのいい曲、色っぽい系のPeteの歌い方。
切れのいいDr.の音、GとBのリフ、その合間を縫うように歌詞がぬろ〜んとのたくる。
また重い展開。どろ〜ん。のたくる歌に引きずられたような音。
I'm Freezingという歌詞は、寒さに震えているという意味か、声が震えるエフェクトつき。ライブの時は喉を叩くPete。
最初のBのイントロが戻って来る。コーラスがまた妙にうるわしい。Gソロ、なのかなこれは。
雪の女王とかそういうのをちょっと思い出した。
9曲目、Blood & Fire。
わりと真っ当なロックっぽいイントロ。
わりと普通なPeteの声。
後ろでぎゅいんぎゅいん鳴るGの音が何だか珍しい感じで微笑ましい。
いろんな意味で普通な感じ。初めて作った曲です、みたいな感じ。
アコースティックのG。ここからちょっと雰囲気が変わる。いきなり暗い小道にぶち当たった感じ。
どうしていつも、詠唱っぽいメロディーが、ある意味脈絡なく差し込まれるんだろう。好きだ。
そして一応Gソロらしい音。
またアコースティックなフレーズ。Peteの語り。吐息を混ぜてしゃべるな。
Gがけっこう出張ってるのと、曲自体が至って普通のロックなので、何かみんなで戸惑いながら演ってる印象。「これでいいのかな?これでいいの?」みたいな。
普通に盛り上がって終わり。
10曲目、Can't Lose You。
何だか不安にさせる音で始まったと思ったら、みょーに色っぽいというか、ちょっと面食らう感じのメロディー、シタールの音かなこれ(キーボードだろうけど)。
全部の楽器が、単音をうね〜んうね〜ん鳴らしてる感じで、合奏と言うよりも、集団でマリファナで酔っ払ってるようなイメージ。
Peteが低い声で歌う。色っぽい系。
面白いというか妙と言うか、物悲しいくせに、どこかこう、思わず笑みがこぼれて来る、おかしいという意味ではなくて、何だろう、一種微笑ましいとでも言うのか、そういう雰囲気。
歌詞は、タイトル通りの、I Can't Lose Youだけ。ひたすら繰り返し。みんなでマリファナで飛んで、それぞれ好き勝手に楽器弾いてます、というのは言い過ぎかな。
ある意味典型的なトリップソング(自分的には)。
何もかも流れに任せました的アレンジ。誰も何も深く考えてない。Blood & Fireが、あれこれ凝った割りに今ひとつ印象深さが足りない感じなのとは逆に、何も手を加えない、ただ流れるに任せただけなのに、それがゆえに引きずり込まれてそこから逃れられません、という感じがする、妙な曲。
なぜか突然終わる。一瞬CDに何か起こったかと思う。心臓に悪いからやめて。
総評。
「曲がどれも長すぎる、反社会的ハードコアから、突然メロドラマ調ロックになって戸惑う」というような評価があって、とりあえずそれには賛同。
ただ、一端入り込んでしまうと、このどれもうんざりするほど長い曲は気持ちいいだけになるだろうし、凝ったアレンジも、微笑ましいレベルで無駄にゴージャス、「無理にゴージャス」じゃないからいいんじゃないかと思う。
本人たちも、前作までの反社会ハードコアからの自分たちの変化に戸惑ってる様子が見えて、自分たちが行きたい方向へ向かいつつも、まだまだいろいろと手探りという感。
メロドラマ部分はいっそうメロドラマに、ハードコアなパンクは相変わらずなノリで、そのギャップが冗談にもなるし、可愛らしくもあるし、いろんな意味で微笑ましいアルバムかもしれない。
聞く人をおちょくる姿勢は相変わらず、気の利いた冗談と言うにはちょっと泥臭くて垢抜けない風はあるけど、これが彼らの魅力なんだろう。
全部で70分前後あるのかな、みっしりと言うには少し力量が足りてないところは、まあ若さってことでひとつ。
でもとにかく、伝えたいことがあるんだ!という毎度のPeteの表現力の部分には感嘆。展開の強引さも、これはJoshのおかげか、以前よりもずっとなめらかにドラマティックになってると思う。
下品に猥雑な感じのアルバムジャケット、これもまた印象が強い。アルバムはほぼジャケット通りの印象。
内容の混沌っぷりのせいか、中身の印象はやや散漫。惚れないと単につまらないアルバムになっちゃうと思う。曲調の変化のせいか、Joshが目立つ(keyでもアレンジでも)ようになって来た気がする。
全部じゃないけど、Peteの発音がちょっと舌が回ってない、つたない印象。わざとなのかなどうだろう。元々歌い回しが上手いとか、そういうタイプではないので、言いたいことがあふれるとメロディーに乗せ切れなくなるのか、あるいは歌と思うと言葉にしにくくなるのか。歌い叫びがほとんどないので、とりあえず「歌う」ということに目覚めたのかもしれない。
10年前だったら、曲はいい、アレンジの大仰さに負ける歌が残念、という評価で落ち着いただろうな。今では、この残念に聞こえるはずの歌の中に、逆にその技量の足りなさゆえに、歌う本人の心の叫びが生々しく立ち現れる。表現力でごまかすことのできる歌の上手さがないからこそ、「ここで歌われていることはほんものだ」と感じられる。このほんものの部分が、TONの魅力なんだろう。
1曲目からChristian Womanで9分、その直後にBlack No.1、そして締めはCan't Lose Youという、とにかく大胆な構成に驚く。メロドラマな曲の間に入る、パンキッシュなKill All The White Peopleとか、分裂症気味な感じがたまりません、と言っておく。
初代Dr、Salの最後のアルバム。少年が、青年に変化して行く過程のようなアルバム。