DNTシェーンコップ×ヤン。

AS Ordered

 汗に湿ったシャツを脱がせようとした手すら払われた。
 動くなと言われて、肩を押されて、素直に横たわった腰をまたいで来るのに、一体何をするつもりかと、触れはせずにシェーンコップはヤンの薄い腹の辺りへ手を添える。
 軍服の上着の嵩が失くなると、シャツにまつわりつかれる体の薄さ──シェーンコップに比べて──が目立って、膚の照りも相まって、ヤンは余計に少年めいて見える。
 士官学校の生徒がせいぜい、冴えない容貌でさら年齢不詳が強調され、それでも蒼味の沈んだ髪の色の、吸い込まれそうな奥行きに、シェーンコップは届かないと分かっていて手を伸ばさずにいられない。
 ヤンが持つ宇宙の闇色はもうふたつ、今はそれは熱に潤んでシェーンコップを見下ろし、かすかに浮かんだ笑みに少々無理が見えて、やれやれと思いながら、上官の意に背けるはずもない。
 ヤンの闇色の視線が自分の目を射て来るのに、シェーンコップは瞬きもせずに応えて、ヤンが自分のみぞおちに両手を滑らせるのを下目に眺めた。
 シェーンコップの厚い腰をまたいで、そうやって脚を開くだけで支えなしでは体が傾きそうになるくせに、ヤンは頑なにシェーンコップの掌を拒んで、似合わない卑猥な仕草で、シェーンコップへ腰を押し付けて来る。
 ヤンがそうするのに、シェーンコップに否はなく、好きにすればいいとただ眺めて、ヤンの手指がみぞおちを滑り落ち、脇から下腹をなぞってゆくのに、ヤンから視線を外さずに、シェーンコップは喉を伸ばした。
 かすかに立てたシェーンコップの声へ、ヤンはごく薄く、満足そうに微笑む。決して間違ってはいないと自分の動きへ自信を得たのか、少しだけ自分の体の位置をずらして、シェーンコップへ手を添えて来る。
 シェーンコップよりは少し小さくて薄い、それでも確かに男の手で、ヤンはシェーンコップに触れて、それを自分の躯へ添わせながら、またゆっくりと腰の辺りを揺する。
 ヤンの開いた脚の間でこすり上げられて、ヤンの皮膚が敏感に張り詰めた輪郭をなぞってゆく。もどかしい摩擦にシェーンコップの腰が浮き、それをヤンは素早く制して、あくまで上官の貌(かお)は崩さない。
 「提督・・・。」
 「今日はわたしが動くから。」
 そう言い捨て、シェーンコップの体を、みぞおちを押さえてそれだけで動けなくすると、ほんとうにそう言った通り、上から躯を繋げて来た。
 シェーンコップから動いても、まだ馴染み切らないヤンの躯は硬さを残して、苦しげに呻く声を耐えるのに必死になるくせに、それにも構わず、ヤンはわざとのように自分本意な動き方をする。
 強引に押し拡げた躯の中へ、シェーンコップを導いて、不慣れでは互いに苦痛ばかりだけれど、耐えようとするヤンを下から眺めるのも悪くはなく、シェーンコップは何度か奥歯を噛みながら、結局助けはせずにヤンの好きにさせた。
 時々、躯を進ませながら勝手に先走り掛けるのを、ヤンはそのたびシェーンコップを押さえて辛抱強く止め、
 「だめだよ、わたしが良いと言うまで動いてはいけないよ。」
 浅くしかできない呼吸を切れ切れに、それでも声には司令官の威厳を含めて、黒々と今深い瞳の潤みだけが、声音を裏切っている。
 シェーンコップは、ヤンがそうとは自覚せずに自分を煽り立てるのに、内心では必死に耐えながら、ヤンのつたなさに、失望するよりも欲情の方をそそられていた。
 繋げた躯を深めて、何とかしようと夢中になっているせいか、ヤンはシェーンコップの目の前に体をさらして隠すことも思いつかない素振りで、薄い腹筋の上下する様も、それよりは線のややましな胸筋の辺りの、力の入れ具合かいつもより固く盛り上がる様も、何よりも、開いた脚から下腹が丸見えで、自分にこうして触れて欲情しているヤンの、髪と同じ色の下生えに覆われたそれが腹へ向かって勃ち上がるのが、触れてくれと言わんばかりで、シェーンコップは何度か下唇を噛んだ。
 ヤンの中にやっと飲み込まれて、ヤンの中に消える自分の分身が、ヤンの手などさっさと振り払って勝手に先へ進みたがっているのを、ヤンが自分を押しとどめている以上の理性で抑止して、ヤンは恐らくそうしながらどれだけシェーンコップを焦らしているのか自覚はない。
 ヤンに焦らされることを受け入れて自分を焦らしながら、どこかで耐えられるかと、まるで競争のようにシェーンコップは考えた。
 開き切ったそこへシェーンコップをやっと受け入れて、ヤンはやっと上から動き出す。むやみに動いたところで快の感覚は引き出せず、明らかに、当てが外れたと言う表情がヤンの片頬へ走り、それでもヤンは頑なに自分が握った主導権を手放しはせずに、シェーンコップを押さえ続けた。
 閣下、とシェーンコップが促すように呼んでも、ヤンは短く首を振ってそれを断り、少なくともシェーンコップが自分の体を支える腕は今は拒まずに、不器用に躯を揺すり続けている。
 焦らされるのも度が過ぎると、忍耐が切れて来る。これがローゼンリッターの隊員なら、罰で組み手でもさせるところだとシェーンコップは考えながら、これも一種の組み手と言えなくもないなと、ヤンの与える波にさらわれないために、よそ事を考えた。
 少々ぎこちなくても、摩擦と出入りの刺激に躯はそれなりに反応し、シェーンコップは少しずつヤンの中を拡げながら、自分のそれへ隙間もなく添って来るヤンの粘膜の熱さに、今では全身が汗を吹いて、いつの間にかべったりと頬へ張りついた髪を耳の方へ払った。
 苦しげなヤンの息に、シェーンコップはヤンの限界を読み取ると、突然体を起こしてヤンを抱きしめ、そのまま体の位置を入れ替えた。横たえられ、上から見下されて、ヤンは垂れた髪に縁取られたシェーンコップの、どんな角度で見ようと美事さの変わらない造作へ、一瞬あらゆることを頭から飛ばして見惚れる。にいっと笑ったシェーンコップへ、それでも数拍後には自分を取り戻して、弱々しく微笑んで見せる。
 「動いていいとはまだ言ってないよ、シェーンコップ准将。」
 「でしたらどうぞ、閣下のお好きに。」
 ヤンを下に置いて、シェーンコップは体を起こし、そうやって放り出されればヤンも仕方なく、躯を解(ほど)きもせず、自分の言った通りに、自分が下から動き出した。
 腰を浮かせ、シェーンコップへ押し付けるようにしながら、その姿勢がどれだけ辛いか、1分足らずで悟っても、吐いた言葉は取り返せないし、こんな状況で上官ぶったことを後悔しても遅い。
 それでも、上から動いた時よりも、下からシェーンコップを煽る方が多少ましで、シェーンコップへ向かって腰だけ揺すり上げながら、時々こすり上げられる場所で、ヤンは短く啼いた。
 大きく脚を開いた姿で、腰だけ浮かせて揺する姿がどれだけ淫猥か、ヤンは知りもしないように、粘膜に包まれた刺激ではなく、見下ろすヤンの姿だけでシェーンコップは果てそうになっている。
 焦らすにも程があると、決して口にはしない不満を喉の奥にこもらせて、ヤンに向かってほとばしりそうになる自分の青臭さへ、シェーンコップは余裕を失いつつあった。
 こうして触れれば確かに大人の男の、それでもそれでも少年くささの印象は拭い切れずに、そんなヤンに引きずられてかどうか、シェーンコップも奇妙に青臭い自分を感じながら、とうに忘れていた少年の自分を思い出している。
 抑え切れない衝動を、外へ向かって吐き出すことばかり考えていた、今になれば思い出したくもないそれらが、ヤンへ向かうと剥き出しになる。稚なじみたヤンに、大人の余裕など剥ぎ取られて、愉しんでいたはずの悪ふざけに、いつの間にか足元をすくわれて溺れ切っている。
 ヤンはシェーンコップへ向かって躯を揺すり上げながら、いつの間にかリズムを合わせてシェーンコップが動いているのにも気づかず、開いたままの唇の中で、舌が声を出さすに蠢いていた。
 シェーンコップはとうとうヤンの言いつけを守らずに、ヤンの方へ躯を傾けると、いきなり頭を抱えこむようにしてヤンの半開きの唇を自分の唇で覆い、漏れ出る声を全部吸い取って、ヤンには何も言わせずに勝手に動き始めた。
 ヤンの喉が震える。絡めた舌からそれが伝わる。突然躯の中へ送り込まれた律動にさらわれて、ヤンは必死でシェーンコップにしがみついて、恐らく止まれとかもっとゆっくりとか、そんな風に言いたいのだろうけれど、シェーンコップはそれを全部飲み込んで、聞こえない振りをする。
 ヤンの躯をもっと開いて、ヤンがそうしたよりももっと奥へ進んで、すり上げる強さも深さも自分勝手に、シェーンコップはただヤンを揺すぶり上げた。
 唇の中で、ヤンの声が短く切れる。泣いているような、喘いでいるような、どちらにせよ苦痛の声と聞き分けのつかないそれは、ヤンの躯の奥から伝わる音に従えば、少なくとも止めろと言う風には聞こえず、シェーンコップは痛めつけない心遣いはしながらも、ヤンをひどく押し潰して、全身で抱き込んで、決して逃さないようにした。
 喉を絞り上げる声が、ヤンの舌を震わせ、けれど今ヤンに絞め殺されそうになっているのはシェーンコップの方で、粘膜のすれる音と腿の内側のこすれ合う音と、どちらも熱に湿って、闇の中に響くとひどく猥褻に聞こえる。
 提督、とシェーンコップが、まだ触れ合う近さで唇の先だけで呼ぶ。シェーンコップと、返したヤンの声は喉で割れた。
 果てたのはどちらが先だったのか、シェーンコップはヤンの腹を汚し、ヤンも自分のそれで自分の腹を汚した。
 汗が混じり、ふたりはまだ重ねた体の間で互いの皮膚を汚し合って、ぬるつく下腹をわざとこすり合わせて、シェーンコップは意地悪くからかうように、まだヤンを煽り立てている。
 散々焦らされた意趣返しと、そうする自分の稚気が、ヤンに引きずり出されたそれの続きだとは思い至らずに、ヤンへ向かうと必ず顔を出す自分の素のまま、シェーンコップはヤンの額へ敬愛の口づけを落とした。
 「・・・勝手に動くなと言ったのに・・・。」
 唇の離れる直前に、ヤンがぼやいた。
 「貴方の言うことを聞いていたら、ひと晩掛かっても終わりませんよ。それともその方がお好みで──?」
 たった今口づけた額から汗に湿った黒髪をかき上げながら、シェーンコップが訊く。
 「・・・どうせわたしは下手くそだよ、君と違って。」
 「上手い下手だけではありませんがね、提督。」
 だったら何だと説明はせず、ヤンが問おうと開き掛けた唇を素早く覆って、シェーンコップはヤンを黙らせた。
 上手い相手との方が楽しめることは確かだったけれど、それだけではないのだと思いながら、シェーンコップはヤンの唇を小鳥のようについばんだ。
 頬へ落ち掛かるシェーンコップの髪をくすぐったがってか、ヤンはそれを耳の方に持ち上げるようにかき上げて、そうして、露わになったシェーンコップの耳へ指を滑らせ、まだ熱を持った耳朶を、まるで愛おしむように指先につまんだ。
 くくっと、子どもじみた声がふたりの唇から同時に漏れ、ぎこちない触れ合い方にさえ夢中になれるのはヤンだからだと、思いながらシェーンコップはヤンを抱きすくめて、ヤンの見せた淫らさへまた兆して来るのをどうするかと、身内の熱の行方に迷う。
 今度は後ろからと、さり気なくヤンの躯の位置をそう仕向けながら、シェーンコップはヤンの、シャツ越しにもまだ熱い背中へ、再び溺れるために自分の胸を重ねて行った。

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