YJシェーンコップ×ヤン
* YJコプヤンさんには「あの子になりたい」で始まり、「だから君がいい」で終わる物語を書いて欲しいです。できれば6ツイート(840字)以内でお願いします。

Excuse

 あの子になりたい。シェーンコップの顔中にべたべたと口紅の跡を残した少女たちみたいに、無邪気に好意を示せたらどんなにいいだろう。
 ヤンは少女でもなければ、無邪気でもない、30男で、シェーンコップの上官で、同盟軍中将で、第13艦隊司令官だ。無理だねと断じる唇がつい尖る。口紅を落としもしないで自分の前に作戦後の報告に現れたシェーンコップへ、呆れた顔をして見せても、動じる男ではないから、ふんとちょっと不機嫌な表情を浮かべてから、良かったねとうそぶく素振りをしておいた。
 ふたりきりになって、シェーンコップが戦闘の汚れを落としてシャワーから出て来ると、もうヤンは公人の貌(かお)を保つ必要もなく、好きなだけ不機嫌な顔をして、好きなだけシェーンコップに八つ当たりをする。
 ヤンがどんな態度を見せたところで、今さら驚きもせず、シェーンコップははいはいと何もかも受け流して、それでもまだ腕の半分くらいの距離は保ったままでいる。
 ここから先は、ヤンが踏み込まない限り、シェーンコップは踏み込んでは来ない。これはシェーンコップのYesであり、ここから先はヤンのYesだ。
 自分のYesはまだ伝えずに、ヤンはシェーンコップの、口紅だらけだった頬や口元へ掌を伸ばす。まだシャワーの湿りとぬくもりの残る、湯で蒸されて柔らかくなった皮膚。その柔らかさとは対照的に、体中に大きな傷跡が散って、どれもこれも迫力満点だった。
 その迫力満点の体の上に乗った、近々と見れば造作の整った、いかにも帝国人然とした顔立ち。髪を立てていると、不遜が目立って顔立ちから視線がそれる。多分そうと分かっている髪が、今は濡れて降ろされて、そうするとちょっと目の離せない風になる。
 ヤンは隠れた額はそのままにしておいて、耳の上辺りへ指先を全部差し入れ、シェーンコップの髪をぐしゃぐしゃと乱暴にかき回した。
 洗った後で丁寧に水気を拭い、一応は手櫛程度で整えて出て来たのだろうその髪を、ヤンは、爆風にでも巻き込まれたみたいな乱れようにする。
 そうするヤンの不機嫌な顔を見下ろして、シェーンコップは面白そうに笑っている。
 君がかっこいいのはよく知ってるよ。でもこれ以上モテるのは我慢できない。
 そうヤンの表情が隠さないのを、シェーンコップはやれやれと苦笑いして、貴方にだけもてれば十分ですよ司令官閣下と、薄い背中に添えていた手を少し下に下ろした。
 優秀だとか有能だとか、理由はいくらでも上げられる。けれどそれだけではないのだと、今自分の前で、シャワーを浴びただけの素肌を晒している男を眺めて、軍服を脱いでも、髪を下ろしても、いやむしろこうして何もかもを剥ぎ取ってしまった方が、この男の、自分が魅かれた部分がより際立つのだと、ヤンは突然素直に思って、やっと足の大きさ分シェーンコップへ近寄る。
 それでもまだひと筋だけ、上官の素振りを残して、こんな作戦を任せられるのは、君とローゼンリッターだけだ、そう思うのを闇色の瞳に浮かべて、ヤンは穏やかなシェーンコップの表情を写して、真一文字の唇を少しゆるめた。
 シェーンコップの髪から指を外し、その手をそのままぶ厚い肩へ掛けて、ほんの少し背伸びする。
 だから君がいい。シェーンコップにそう伝えなかったのは、先に口づけられてしまったからと言うのは、もちろんただの言い訳だった。

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