シェーンコップ×ヤン
* みの字のコプヤンさんには「私は晴れの日が嫌いだった」で始まり、「明けない夜もあるのかもしれない」で終わる物語を書いて欲しいです。できれば3ツイート(420字程度)でお願いします。

永遠の夜のような

 晴れの日が嫌いだった。もちろん雨の日だって嫌いだ。野戦では、どんな天気も快適であるはずがない。太陽に晒されながら死ぬのと、雨ざらしで死ぬのと、どちらがどれほどましかと言う問題だ。
 戦争が終われば、平和がやって来れば、そんなことも考えずにすむようになる。そのために微力を尽くすと誓って、そうして今は、上官の──要塞司令官の昼寝を、こうして黙って見守っている。
 公園のベンチでベレー帽で顔を隠しているのに、いいご身分ですなと、喉の奥で、ご本人には聞こえないように苦笑する。
 ただこの人のために、雨が降らず、それなりに天気がいいことを、毎日祈るようになった。雨さえ降らなければ、乾いたベンチで好きに昼寝ができる。そうして俺は、それを少し離れたところから見守る。この人を護るのが役目だから、ただそれを果たしていると言う体で。
 まだ戦争は終わっていない。平和な世の中もどこへやらだ。それでも、要塞司令官が、こんな風に寝くたれていられるなら、それはそれ、悪いことではないのだろう。
 眠っていても恐らく、この人の頭の中は休まず働き続けて、だからこそこんな風に、だらしのない姿で昼寝などしているのだと、問わず言われず察している。
 茫洋とした緊張感のない見掛けで、世界を煙に巻いて、宇宙の半分をその肩に背負い、英雄と呼ばれて顔をしかめ、奇跡と言われて困惑の表情を刷く。
 寝癖のままの黒髪をかき混ぜて、どうとでも好きに言うがいいさと、投げやりに見える態度を隠しもしない。変わった人だと思って、だから気に入ったのだとも思う。
 それでも、勝敗の結果に関わらず、被害を数ではなく、個々の死んだ者、喪われた者として捉え、戦闘の収まった後には憂悶をかかとの辺りに引きずって、そんな時こそ、不貞腐れたように昼寝でもしたいのかもしれない。
 肩を貸しましょうかと申し出て、あの黒い瞳を見開いて、それから伏せ、いやいいよと、かすれ掛けた声で拒まれたことが数度。泣くでも寝るでも休むでも、いくらでも私をお使いなさいと言っても、いやいいんだありがとうと、丸めた背中が遠ざかる。眠れますかと問うには、少しばかり親しさが足りない。
 暗色の髪と瞳は宇宙そのもののように、どこまでも果てしなく昏いあの闇には朝と言うものはなく、彼の人もまるで宇宙のように、鋭過ぎ冴え過ぎたあの頭脳には、明けない夜もあるのかもしれない。
 まるで永遠の夜のような、彼の人。

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