白と黒
一緒に並んで歩いていると、たまに不躾けな視線に合う。剣呑な雰囲気を漂わせて、貧相な白人男と、妙に恰幅のいい黒人男がふたり、鋭い視線をあちこちに送っているというのは、一体何だと思われているのだろう。
Munchだけなら、刑事だと想像するのもさほど難しくはないかもしれないけれど、Finの方は、いわゆる偏見というやつか、どこかのギャングの上役だと思われることが多い。
Munchは、そんなことを思ってもいない時に、おれが黒人だからって差別しやがるのかと、容疑者や目撃者に突然言われたことが何度もある。初めの頃は、思わず肩を引いて、申し訳ないという表情を即座に浮かべた。差別されたと彼らが感じるなら、それは白人であるMunch側の責任なのだと、そう思っていたからだ。
けれど今は、そんなことはしない。
差別だ何だ言い掛かりをつけて、人の罪悪感につけ込むような連中の言うことに、耳なんか貸すことはねえ。
ひずんだ声と同じほど顔を歪めて、Finが言った。
法のこちら側に来てしまったFinは、同じ黒人から、裏切り者と差別を受けているのだと知ったのは、それからずいぶん後のことだ。
世の中には、様々な言い分がある。
何もかもを、白と黒にきっちりと分けられるなら、どれほど自分たちの仕事が楽になるかと、Munchは時折思う。
犯罪者にも、己れの意見を声高に叫ぶ権利があって、そこで、とっくに死体となっている被害者が、死んだ後も踏みつけにされているのだとしても、まだ声の出る者がまず先に、救い上げられなければならないというのが、MunchやFinの日々直面している現実だ。
こんな、白も黒もない、ごちゃごちゃとした混沌の中に放り込まれている中で、白人である自分の相棒が黒人だというのは、面白い皮肉だと、Munchは薄い唇をねじ曲げる。
白人にも黒人にも、人種差別主義者はいくらでもいる。
自分の中にも、そんな醜い偏見があるのだろうと、Munchはひどく冷静に思った。思って、隣りにいるFinをちらりと見た。
不意に、その黒い膚に触れたくなって、白い指先を伸ばす。触れたところから、肌の色なんか混じってしまえばいいと、思いながら、途中でその手が止まった。