月のない路地裏にはステップを忘れた捨て猫がみゃあと鳴く代わりに
誰かを誘って忍び笑いを漏らしながら時を刻む空の星に感謝する振りをして
嘲笑をこぼすと地面に落ちた光のかけらはころんと誰かの耳に入り込んで
瞳から流れ出て涙になり捨て猫はその塩辛い粒をなめ取って顔をしかめながら
また星に恨み言をこぼし何気ない哀しみに不意に襲われて誰かに抱いて欲しくて
みゃあと鳴くと誰かは拾ってあげられなくてごめんねとつぶやきながら捨て猫を
一度抱きしめてから去ってしまい捨て猫はまたひとり路地裏で忘れてしまった
ステップを思い出そうと必死になりそれを見た星が今度は捨て猫を嘲笑う番で
捨て猫が星に向かって舌を出すと星は横目でそれをちらりと見やって歌を歌い始めたので
捨て猫はそれに合わせてステップを踏み始めそれを聞きつけてやって来た小さな少女が
路地裏の捨て猫を抱き上げて家に連れて帰ることに決めると捨て猫と星は
少女には聞こえない声でまたねと言った
また忍び寄る夜の気配は記憶の底を暴きだし逃れるために買う人口の夢の中で
おまえの誇りを踏みにじっても微かな希望の光るその瞳がまた憎悪を煽る繋がりの中で
おまえの指の奏でるその音を聴きたいと思う時駆けてゆく律動の激しさに
身震いさえできず茫然とその美しさにただ立ちすくんでおとしめてもおとしめても
傷ひとつなく甦るおまえのその強靭さがまた憎しみを生み出すのにおまえの
凄まじい美しさに限りもなく魅かれてゆくしか術はなく魅入られてゆくほど
深まる憎しみはただ己れを傷つけるよりほかないというのに自虐だらけの幻想の中に
逃げ込むだけが唯一の安らぎなのだとおまえにわかるはずもなく悔しさがまた
凶暴な衝動を生み出してゆくのを見ているとおまえが創りだす美の前にウジ虫の
ように這いずり回る惨めさの中に沈み込んでゆく時壊れてしまった愛はもう
飛ぶこともできず枯れ木の上でただ乾いた残骸を晒しているだけで朝の光のその強さに
耐えきれずに隠れる場所さえなく生の痕跡も見えない内臓のなれの果ての肉塊に
おまえが優しげに接吻を繰り返しても失くしてしまった記憶の何処にもおまえの
ぬくもりが届くことはなくただ冷たい骸が棺もなく白い狂った夢の中で壊れた愛の破片を
拾い集めて繋ぎ合わせる虚しい希望を売ることを夢見ている