月明かりひとつ、窓辺に
月明かりひとつ
窓辺に
沈み込んでゆくその想いの中
横たわるのは昔の記憶
照らしだされるその破片(かけら)
脳の奥へと引き込まれる
月明かりひとつ
窓辺に
ねじくれてゆく欲情と
発酵してゆく想いの狭間
ふと思い出す誰かの面影
かすめてゆく記憶の片隅
月明かりひとつ
窓辺に
変わらぬ恋を誓う相手
丸い瞳を見開いて
優しい毛並のその下の骨
しなやかにみだらに掌の中
月明かりひとつ
窓辺に
奇妙な形で愛を繋ぐ
誰に知らせる必要もなく
言葉さえも通い合わせず
夜の底にはふたりきり
月明かりひとつ
窓辺に
その銀の光の中
月明かりひとつ
窓辺に
月の下
月の下 その横顔
煙草に火を付けて
過ぎた日々に思いを馳せる彼の人はいずこ
追うこともできず
見送りは哀しく
ひとり逝くその時
腕を伸ばす 空回る
虚しく宙を掴む歩いてゆくその月の下
同じ月の光を浴びたあの時
背と胸を重ね
掌を合わせ
扉を開けた瞬間
積み重ねてきた想い
月が見ていた
ゆらりゆらり
月だけが見ていたふたり歩いてゆく 今はひとり
その月の下
分け合った煙草
分け合った時間
分け合った鼓動
同じものを見ていた
同じものを求めていた
今はひとり 空の右側
視線を流す 幻を見る
月の下 名を呼ぶ
声はない想いはまだ胸に
姿はまだ腕の中に
月の下 ひとり
失われた影を求めて
夜の中をさまよう
彼の人はいずこ 昏い夜の底
月光は流せない涙
その光を浴びて
月の沈むその時をただひとり待っている
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月へ飛ぶ
月へ行く
月で逢う
月を歩く
僕と貴男
月へ飛ぶ太陽の明るさは眩しすぎて
ふたりひそやかに息を止める
影を探し 隠れてゆく
僕と貴男
この恋を秘めたまま
ゆらゆらと揺れながら
月の出る時を待っている夜が帳を降ろす
許されない恋人達のために
靴を脱ぎ捨て
裸足で夜の中を駆けてゆく
猫のように 足音を消して月へ行こう
月で逢おう
月を歩こう
ふたりきりで
月へ飛ぼう重ねてきた膚の下の傷
なぞるように触れてゆく
冷たく黒く光る銃身
貴男の背骨に手触りが似ている貴男の瞳の中に映る
小さな自分を見ている
貴男の瞳の海に揺れる
小さな小さな自分の姿月へ行きたい
月で逢いたい
月を歩きたい
ただ貴男とふたりのまま
星の瞬きほどの生の間に
燃え尽きることを夢見ながら
高く高く首を伸ばして
月へ飛びたい
ふたりきりで