Calling You

 無言で手渡されたそれを、花京院は両手に持って、何事かと承太郎を見上げた。
 何もかも、おう、ですませてしまうのが常な承太郎は、今も裾の長い上着を脱ぎながら花京院に背を向けて、一体どんな表情をしているのかすら見えない。
 付き合いの長さだけはどこかの夫婦のようなふたりの間で、それに反比例して説明の言葉数は少なくなる一方──ことに、承太郎が相手では──だから、花京院はもう深く考えもせず、どうやらDVDらしい手渡されたそれを、ビニール袋の中から取り出した。
 見覚えのあるジャケット。花京院の瞳が大きくなり、眉の端がはっきりと持ち上がる。それを承太郎が肩越しに見て、ひそかににやっと笑う。
 「どうしたんだこれ。」
 「見つけたから買って来た。」
 承太郎はそう答えたけれど、店の名前は、わざわざ目指して出掛けなければならない大手のそれだ。そこを突つきはせず、花京院はとりあえずありがとうと言った。
 「DVDになってたんだな。」
 映画館で何度か見て、テレビでも放送されるたびに見ている。ビデオも録ってあった。
 「サントラも持ってるんだ、これは。」
 ひとり言のようにつぶやくと、
 「ああ、そうだったな。」
 意外な確かさで、承太郎が応える。
 そんなことを憶えていてくれたのかと、花京院はちょっとびっくりして、ようやく眺めていたDVDから顔を上げた。
 驚くほど伸びやかな、女性の声。乾いた土地と、そこを吹き抜けるさらに乾いた風のことを、淡々と、けれど鬱陶しくも押しつけがましくもない情熱を込めた声が歌う。歌の中の風そのままのような歌声を、花京院は思い出していた。
 斜めに傾いだカメラ。黄色がかった映像。俳優──女優たちが主役だ──たちの声はどんな風だったかと、裏ジャケットの小さな写真を見ながら目を細める。
 「いつ見たんだったかなこの映画。」
 「大学時代じゃねえか。」
 そうだったっけ。どこの映画館だったろう。きっと週末だ。あの頃はいつもそうだったように、丹念に時間を調べて、何館かできる限りはしごして、終わった後はふたりで愉しく──少なくとも、花京院自身は──ぐったりと、喫茶店で口重く過ごした。家に帰るのが惜しくて、見て来たばかりの映像の美しさが惜しくて、そして大抵は洋画ばかりだったから、外国語を浴びるほど聞いて、忙しく字幕を追った後で、口をきくのも億劫なその時間──けれど興奮冷めやらずに、誰かと一緒にはいたい──に、黙って付き合ってくれる承太郎に、深く感謝したものだった。
 主役の女優がドイツ人だったことは覚えている。監督も確かドイツ人だ。この映画を見た時に、ドイツのあの壁はもう壊れていたろうか。思い出せない。あの後でソ連が失くなってロシアに戻り、様々なことが起こった。
 ただの大学生だった自分たち──語弊はある──の身辺は、平々凡々そのものだった。歴史が動くその渦中で、渦に巻かれるように翻弄されていただろうそこに住む人たちに、申し訳ない気持ちが湧いたのは、あれは若さだったのだと今はわかる。あんな時こそ案外、その真っ只中は台風の目のように、普段と特には変わらないものだ。
 主人公の彼女が、言葉も通じにくい旅行先で、徐々に人たちに馴れ、そこに自分を馴染ませて行く様子を、花京院はひとコマずつ思い出していた。
 国籍が違う、言葉が違う、肌の色が違う、生きる目的が違う、様々な人たち。肩を寄せ合うようにして、時には反発もしながら、それでも一度通じ合った心は、引き離されても引き裂かれない。
 まるで、自分たちと同じだ。エジプトへの旅を思い出す。映画の、砂漠のイメージが、そのまま旅の思い出に重なった。
 楽しかったと、本来なら口が裂けても言えない旅だったのに、なぜか思い出すのは愉快だったことばかりだ。
 「なにニヤついてやがる。」
 キッチンから、自分の分のコーヒーを持って来た承太郎が、そこで足を止める。床に坐ったまま、天井に届きそうな承太郎を見上げて、花京院は微笑んだままだった。
 いつの間にかみぞおちに手を当てていた。今もまだ、天気の具合で痛むことのある腹の傷跡だった。これを指して愉快とはとても言えないにせよ、これと引き換えにして充分に価値のある、花京院にとってのあの旅だった。
 「ありがとう、週末にでもゆっくり見るよ。」
 ジャケットを承太郎の方へ向けて、花京院はいっそう深く微笑んだ。
 一度死に掛けて、死んでしまえばあれこれ札angerous Game (24、首絞め)
Set On (54)
Break Down (54)
Painful Gaze
(24)
There, Here (54/74)
Empty Bottle
(24&7、異物)
Tease Me #2 (54)
Tease Me (54)
Not Me (74)
White Stain (24、ソロプレイ)
No Bounds (54)
A Trance (24)
No Use (24)
BlDangerous Game (24、首絞め)
Set On (54)
Break Down (54)
Painful Gaze
(24)
There, Here (54/74)
Empty Bottle
(24&7、異物)

Tease Me #2 (54)
Tease Me (54)
Not Me (74)
White Stain (24、ソロプレイ)
No Bounds (54)
A Trance (24)
No Use (24)
Bl Whose What (74、ソロプレイ)
Silk Ties (24、拘束、目隠し)
Blue Dress #2 (47、女装)
Blue Dress (少年ハインリヒ、女性)
Gentle Whisper (94)
Chaotic Scent (24)
Orange Juice (24、食べ物)
Black Dress (274、女装)
Happy Birthday (24/74、強姦、拘束)
Hard On (74、拘束、目隠し)
The Moment #2 Whose What (74、ソロプレイ)
Silk Ties (24、拘束、目隠し)