酔い



 酔うと、わりと陽気になる。
 ふたりきりでもなければ、酔うこともしないけれど、けらけらと声を立てて笑い、腕を取って、体を寄せて来る。
 猫のように頭を撫でられたり、膝に乗せられたりするのに抗うこともせず、肩先をこすりつけて来て、自分の酔いを承太郎にうつそうとするかのように、唇を近づけて来る。
 自分で体を倒して、承太郎の好きなようにさせて、あまり長々と触れられるのは好まずに、躯を繋げたがる。
 素直に、欲情していて、承太郎を欲しがっているのだと、ゆるみ切った口元が、言葉にはせずにそう告げている。
 欲しい。だからそれをくれ。そこにくれ。
 爪先を伸ばし、承太郎の肩や首筋を、そこで引っかきながら、開いた両脚の間に、ひどく淫らな所作で、承太郎を引き寄せに掛かる。
 こんな時には、自分でさっさと服を脱いで、膝の裏や腿の内側を晒すことをためらいもせず、早く、と吐息が何度も承太郎を誘う。
 酒の匂いのするその息を、けれど間近にすることはなく、花京院に触れられれば──触れられなくても──素早く反応する自分の躯を、承太郎は花京院が欲しがるそこへ、手足もほとんど触れ合わせないまま、穏やかにけれど性急に、押し込んでゆく。
 入り込めば、足が伸びて背と腰が反る。喉からではなく、鎖骨の後ろ辺りから、つぶれた声がもれて、苦痛にしか聞こえないその声は、その響きとは逆に、もっと、と背骨の奥に伝えて来る。
 花京院の躯の奥と繋がって、その背骨のつけ根辺りに、ほとんど触れる近さに躯を寄せて、承太郎は、その慄えを自分の身内にも感じながら、もっと深く、花京院の中へ入り込む。
 酔って力の抜けた体は、花京院の素直さ以上に素直に承太郎を飲み込んで、そのくせ内側はいつもより熱くて、包み込む粘膜の狭さが、承太郎をいつもよりも優しく追い立てる。追い立てられながら、そこだけで花京院と繋がって、承太郎は、床に背をこすられながら躯を揺らす花京院を、じっと下に見下ろしている。
 開いた唇から、殺さない声がこぼれて、その合間に承太郎を呼んで、焦点の合わない視線が、あちこちに漂っている。何も見ていない。けれど、そこにいるのが承太郎だと知っている。承太郎を感じて、承太郎だけを感じて、酒に酔いながら、花京院は承太郎に酔っている。
 注がれれば注がれるほど、もっと欲しくなる。躯全部を潤して、内側を全部満たして、それでも承太郎が空になることはなく、欲しがれば欲しがる分だけ、花京院の中へ、注ぎ込みにかかる。
 いつまでも尽きることがない。だから、欲しがることをやめられない。
 際限なく欲しがる、欲張りな自分が、時々恐ろしくなる。その自分の強欲ぶりに、ひるむことのない承太郎は、時折もっと恐ろしい。
 それでも、皮膚の表面だけではなくて、自分の内側すべても、内臓の内も外も、承太郎を欲しがっている。
 酒の酔いよりも、承太郎に、心の底から酔っている。
 その花京院を、承太郎はずっと見下ろしていた。
 手足を投げ出し、躯を開いて──文字通り、拓いて──、まるで意思などない人形のように、がくがくと頭を振りながら、人形ではない証拠に、ひどく熱い躯だ。どこまでもどこまでも承太郎を飲み込んで、飲み干そうとする。
 傷つきやすい粘膜と、傷つきやすい皮膚と、両方を重ねてこすり合わせて、そうやって確かめる親密さは、ただ猥褻なだけではないのだと、こうなってから知った。
 承太郎を欲しがることをやめない花京院のように、承太郎も、花京院を欲しがることをやめられない。飲み干されることを、どこかで恐怖しながら、それでも、視覚では決してとらえられない花京院の熱さのすべてを、ごく限られた皮膚の表面ででも、感じ続けたいと思う。
 際限もない花京院の深さと熱さと、それに飲み込まれる卑小な自分と、酔っているのは自分なのだと、承太郎は思う。
 自分が動けば、花京院の躯が揺れる。肩も手足も、人形のように、押し込まれるままに、揺れる。
 花京院の喉が反る。両手が、もがくように承太郎に伸びる。けれどそれを避けて、承太郎はいっそう深く、花京院の中へ突き立てる。
 あごを引いた花京院と、目が合った。今にも泣き出しそうに見えるのは、酔いのせいだ。いっそ泣かせたくて、また強く、花京院の中へ押し込んだ。
 すでに限界まで開いている脚を、両手を掛けてさらに開いて、そうして、筋肉が細かく慄えるのを視界にとらえたまま、承太郎は自分を押し留めるのをやめる。目の前に躯を開いた花京院の素直さを見習って、自分の素直さを解放する。
 酔っ払いがふたり、けらけらと笑いながら、うまく動かせない手足を揺すって、いつまでもいつまでも床の上で、卑猥にふざけ合っている。


* 承花リレチャ#4絵チャにて即興。4文字修正。

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