承花フェチ祭りJ.K.F.の肖像参加、承花フェチ×相互指口姦

唇に指先

承太郎が部屋に現れると、座っていた花京院が立ちあがり承太郎に向き合った。
滲む視界に花京院の姿が映る。朝10時。
「おはよう。」
あいさつを交わした二人は向き合い、承太郎は花京院に口付けた。

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 唇はすぐに離れて、軽く触れ合わせただけで口づけは終わる。
 ふたりで一緒に平静を装っていて、けれど、ちらちらと重ならない頻度で、互いに互いの手指にこっそりと視線を当てていた。
 白いマグにはたっぷりとコーヒーが入っていて、花京院が注いだ承太郎のそれには何も入らず、花京院のそれにはクリームが入っている。ふたりとも、コーヒーの香りに目を細めて、けれど上目遣いに、違うタイミングで互いを見ていた。
 マグの取っ手に絡む承太郎の指は、いつものように長く形良く、大きなその掌に包まれて、マグの白さはほとんど隠れてしまっている。
 花京院は両手で包み込むように、マグを胸元に引き寄せて、意識もせずに指先を重ね合わせてはまた離す、意味もない仕草を繰り返していた。
 落ち着かなさの現れだと気づいているのは、それをこっそり見つめている承太郎の方で、マグを持つ手は微動だにしない承太郎は、代わりに不自然な瞬きを止められない。
 また、互いの手指に視線を走らせた時、今度は同時に滑った視線が、宙で重なって、思いがけず──今だけは、そんなことは期待していなかった──合わさってしまった視界の位置をするりとずらす、いつもの器用さは、これもふたり一緒にないまま、ふたりは少しばかりうろたえて見つめ合う羽目になった。
 「・・・てめー。」
 マグから少し唇を遠ざけて、承太郎が先に口を開く。
 「君の方こそ。」
 今度は承太郎の、ふっくらとしたその唇から目を離せないまま、語尾を投げ捨てるように花京院が応えて、承太郎はその花京院の形の良い爪に視線を当ててから唇へ視線を移し、同じように、花京院は承太郎の唇から節の高い指を順に眺めて、それからまた、ふたりはゆっくりと視線を合わせた。


 いつものように、裸になってベッドにもぐり込んで、互いに慣れた手つきで触れ合う。手順も淀みなく、かと言って倦んだようでも、おざなりでもなく、相変わらずの情熱を込めて、すでに知っている感触のもっと深くを手探りするように、伸ばす指先はいつも変わらずに熱心だ。
 どんなに慣れ親しんでも、花京院は最後のところの羞恥心は決して失えず、承太郎はいつもそれをひそやかにつついて、含羞の表情が毎回違うのを楽しんでいる。
 今日は何を思ったか、花京院が素直に開いた両脚の間に這い込んで、平たく重ねた躯を一緒に揺すった少し後で、するりと静かに躯を引いた。
 そうして、引くと同時に、花京院の内側が無意識に追いすがって来る感触に未練を残しながら、花京院の肩を押して、体を返すように促した。
 また、違う羞恥の表情が、花京院の目元をかすめてゆく。それに負けそうになって、けれど自分の方へ向く、信じられないほど秀麗な線を引く花京院の、肩胛骨から背骨の根へ流れる辺りを目の当たりにして、承太郎は、改めて自分の躯をそこへ沈めることに没頭した。
 躯が繋がれば、すぐに腰が上がって来る。楽になろうとするのか、承太郎へ添おうとするのか、どちらかはわからなかったけれど、よく見えない花京院の表情よりも、親密に触れている内側はよほど素直だ。
 腿がすれ、時々膝の辺り同士も当たる。上半身とは違う感触の骨や筋肉の硬さにしっかりと触れて、それから承太郎は、左掌を、形良く盛り上がった肩胛骨──貝殻骨とも言うのだそうだ──に、そこを包むように乗せて、そこから指先を滑らせてうなじに移る。最初から想像していた通りに、耳の後ろからあごの線を撫で、目元から頬にかけて掌を置き、指先だけで鼻筋をたどった後で、その指先を、花京院の唇の間に押し込むように差し入れた。
 歯列に触れたと思った時には、それは薄く開いて承太郎の指先を受け入れ、中指に続いて人差し指と薬指が順に滑り込んでも、逆らいはせずに、素直にもっと大きく唇を開いた。
 生暖かい唾液に触れ、動く舌先を指の間に挟む。舌先は承太郎の指を舐めるように動き、舐められて濡れてしまった勢いを借りて、承太郎はもっと奥に指先を差し込んだ。
 第2関節を、花京院が噛む。甘くではなく、噛みちぎるようではなく、ぎりぎりと痛みを味あわせて、けれどなぜかそこからすぐには離れられない具合に、承太郎の指を舐めるのは決してやめずに、関節に歯を立ててゆく。
 舌の根に、時折いちばん長い中指が届き、そうすると舌は向きを変えて、承太郎の指をまとめて舌の裏へ送り、そこから一度押し出して、今度は爪を噛んで来る。
 爪の生え際を傷つけないようにと、こんな時にも思いやりが先に立つのか、そこからは舌だけでまた承太郎の指を口の中に引き入れ、まるでそこでだけ承太郎と繋がっているように、奇妙に夢中な様子で、承太郎の指を舐め続けていた。
 躯の末端部分がふたつ、同時に花京院の中に入って、粘膜を探りながら、いつまでもそこに居続けている。
 筋肉にくるまれるのとは違う、ただ柔らかく波打つ丸い空間の中に差し込んでいる、まとめて束ねた自分の指が、そこが口の中だと言うのに、食べられているのだという感覚はなく、ただひたすら舌先になぶられていて、自分の手や体がもっと小さければ、花京院の口の中に全部入って行けるのだと、不思議な気分になった。
 口の中の温かさに満足して指を抜き出した時には、花京院があふれさせた唾液で、手の甲まで濡れていた。
 肩越しに振り向いた花京院が、濡れた目でこちらを見る。
 承太郎が思考をめぐらせるより先に、花京院が先に躯を動かした。
 脚を引いて躯を外し、承太郎の背中をシーツの方へ押す。腰をまたぎ、まだ終わっていない承太郎のそれへ手を添えて、そこでまた躯を繋げ直す。
 承太郎は、花京院がするまま、熱っぽく天井を見上げていた。
 ゆっくりと、花京院が動き始める。
 体の重みで繋がりが深くなり、互いの躯の位置のせいで、こすれ合う部分が違う。花京院が少し変わってしまう声を恥じるように、奥歯を噛んでいるのが、あごの線に現れていた。
 承太郎は、動く花京院の腰の辺りに両手を軽く添えて、厚みのある自分の体のせいで大きく開いた両脚を、花京院が膝だけで支えているのを、そっと助けている。
 あまり馴染みはないその姿勢のまま、どちらかと言えば苦痛を耐えているように見える動きをしばらく繰り返した後で、花京院は主導権を渡すつもりのように、承太郎の手に自分の手を重ねた。
 けれどその手は、少しずつ体を前に倒しながら、すぐにそのまま承太郎の腕を全部撫でて、肩へたどり着いた。
 肩から鎖骨へ、鎖骨から首へ、絞殺に似た仕草で首筋と喉仏を探ると、花京院の両手は承太郎のあごを下から包むように動いて、ようやく頬で止まる。届いた指先がまぶたを撫で、眉をなぞって、親指は、そこだけ独立した部分のように、承太郎の唇の端を何度も何度も撫でて行った。
 それから、両方の親指が撫でた後を、両方の人差し指と中指が追い、すぐにその動きに、薬指と小指さえ加わった。
 花京院の両の指先が全部、承太郎の唇を撫でる。ふっくらと形のいい、いつも血色のいいそれを、皮膚との境い目を、まるで盲人が指先で"視"ているような所作で、執拗になぞって行く。
 花京院の動作に、息苦しくなって、承太郎は思わず上向いて唇を開け、大きく呼吸をしようとした。肺が膨らんだと思ったと同時に、それを待っていた花京院が、指先を全部、承太郎の口の中に差し入れようとして来る。
 さすがに全部は果たせず、長さの足りない親指と小指は取り残され、薬指も場所を失い、中指と人差し指が2本ずつ、きれいに束ねているとは言いがたい状態で、承太郎の口の中に残る。
 承太郎は、やや戸惑いながら口を開け、さっき花京院が自分にそうしたように、逆らわずにその指を全部舐めた。
 舐めながら、歯も立てる。頬の裏や歯の裏に、自分のものではない皮膚の感触があるのが、奇妙にそそって来る。触れる爪の硬さと冷たさと、それを補うようにひたすら柔らかい指の腹のなまあたたかさと、見慣れているはずの指も、そうやって口の中で探れば、まったく別のもののように思えて来る。
 承太郎がいやがらないと悟ったのか、花京院は手を別々に動かして、右手の指だけを口の外へ出したり、両手の指を一緒にもっと奥へ差し入れたり、そんなことを、承太郎の口の中を傷つけないようにしながら、次第に、指が承太郎の唾液に濡れて来る感触に夢中になっている。
 動く合間に、時々、花京院の指が全部口から外れて、自分の唾液にびしょ濡れになったその指の腹に、承太郎は慌てたように噛みつく。いちばん長い中指──左手でも右手でも、どちらでもよかった──に横ざまに噛みついて、そのまま指の腹を全部舐めてやると、背骨の根が慄えるように花京院の内側が動き、それが承太郎の、耳の後ろ辺りに響いて来て、承太郎の舌先から花京院の指に伝わる。
 承太郎は花京院の中にいて、花京院も承太郎の中にいた。
 文字通り輪になった形に繋がって、自分がそうされていた時にはそんな風には思わなかったくせに、承太郎は、花京院を食べてしまいたいと思った。
 口の中に入った花京院の指を舐めて、唾液に濡れた皮膚に伝わるのがなまあたたかさだけではないと、花京院の内側の反応に悟って、そうやって口の中に触れられるのが、ただ粘膜に触れさせるというだけのことではないのだと、承太郎自身も悟っている。
 もっと奥へ、吐き気に襲われても、喉の奥へ、内臓の入り口へ花京院の指先を誘い込んで、いっそ胃の中へでも落ちてしまえばいいと思う。そこで溶かされて、承太郎の血管の中をめぐって、文字通り承太郎の血肉になって、自分とひとつになる花京院を想像する。現実になれば耐えられそうにないグロテスクさと反比例するように、それはひどく心地よい夢想だった。
 文字通りのひとつにはなれないから、こうやって躯を繋げて、粘膜を探って、体液を混ぜ合わせて、ひとつになるという錯覚に一緒に溺れる。
 恋をすると言うのは、そういうことだ。
 承太郎は、もう1度花京院の指を噛んだ。
 噛まれたその指も、他の指も、花京院が全部一緒に引き出そうとするのに追いすがってゆくと、思わず追い駆けて差し出す形になった承太郎の舌先に、花京院の右の指先が改めて触れる。そうして、つままれたままの承太郎の舌先に、自分の舌先を触れさせるために、花京院が唇を近づけて来る。
 唇が重なるのと同時に引こうとした花京院の手を、承太郎はそこでつかんで離さなかった。
 ふたつの唇の間に、花京院の指先は挟まったまま、その指を間に置いてふたりの舌先が絡み、口づけとは言いがたいその形のまま、承太郎はゆっくりと体を起こして、片腕の輪の中に花京院を抱き寄せる。
 もう一方で繋がったままであることは、もうどうでもよかった。
 承太郎が放すと、花京院の指先はやっとそこから滑り落ち、離れる時に、指の腹が承太郎の唇を撫で下ろしてゆく。
 指ではなく、舌先を互いの喉の奥に押し込むように、できる限りで口づけを深くして、ふたりはしばらくまともな呼吸もしなかった。
 息苦しさよりも、触れ合える限界の近さの方が気になって、ふたりは数瞬、息をすることすらどうでもいいと、そう思った。
 唇の重なりが浅くなったところで、呼吸のためにわずかな距離を作って、それからふたりは、互いに、互いの唇に互いの揃えた指先を乗せた。
 互いの指の腹を同時に舐める。承太郎は花京院の指の腹をそこでやわらかく噛み、花京院は承太郎の中指の第2関節に優しく噛みついた。
 どこかでけじめをつけなければ際限もないから、区切りのために、ふたりはもう一度普通の口づけをして、額をこすり合わせて笑い合った。笑い合う間もずっと、抱き合った腕はそのままだった。
 ようやく終わった後でごく自然に、ふたりは指先を絡め合ったまま眠った。


 指を見るだけで頬が赤らむ。目が覚めて思い出せば、ひどく卑猥な仕草だったと、自分で思って、花京院は承太郎の腕の辺りからもう視線をそらそうとしてうまく果たせずに、夕べのことをなぞるのをやめられない。
 まだ指に濡れた感触や、承太郎の舌が絡みついた感触が残っていて、自分が舐めた承太郎の指も、今朝はやけに色鮮やかに見える唇も、何もかも夕べに直結して、とても無表情を保っていられない。
 コーヒーを飲む振りでマグの陰に顔を隠し、自分を真っ直ぐ見つめて来る承太郎の視線を避けて、そして、すぐに承太郎の上にとどまってしまいそうになる自分の視線を断ち切ろうとした。
 あの時の自分の表情や仕草を思い出しているのだと、上目に盗み見る承太郎の視線の位置でわかる。承太郎に、それを見られたということに耐えられずに、今すぐ自分の記憶も承太郎の記憶も、全部すっぱりと消してしまいたい衝動に駆られた。
 そんな便利なスタンドがいればと、埒もない考えへたどり着いたところで、承太郎が真正面の自分の席を立って、椅子を、テーブルの角を囲い込む位置へ置き、どさりと腰を下ろす。コーヒーのマグは、元の位置に置いたままだ。
 横から、赤くなった顔を見られる羽目になって、花京院は慌ててマグを置き、さもこれから出掛けるから忙しいという動きへ移ろうとしたところで、承太郎に右手首をつかまれた。
 「てめー・・・。」
 いかにも忌々しそうに、舌打ちと一緒に承太郎がつぶやく。
 「僕ら同罪だぞ。むしろ共犯だ。君が主犯じゃないか。」
 始めたのは承太郎だったし、時々そうしていたのは承太郎の方だ。花京院は、あんなことは夕べが初めてだった。
 「やかましい。同罪だの共犯だの、下らねえこと抜かしてるんじゃねえ。」
 こんな口調になると、高校時代の地が出る。低めた承太郎の声に、うっかり聞き惚れそうになって、花京院はとりあえず承太郎からつかまれていた手首を取り上げた。
 「・・・今度は食っちまうぞ。」
 どこを何をどういう風に、と、するりと近づいて耳元でそう囁かれた瞬間に、疑問で頭がいっぱいになった。
 うなじの辺りの血管が膨れ上がったように感じたのは、単に顔が赤くなったというだけだったけれど、そのうなじに承太郎の掌が乗り、引き寄せられた時には、心臓が破裂しそうになった。
 夕べのことを忘れたようにごく普通に口づけられて、逃げようとする背中を抱き寄せられ、床に、向き合って坐る形に引きずり下ろされた。
 スタープラチナで時を止めたのかどうか、それとも、動作の大半をスタンドにやらせたのか、承太郎の両足の輪の中に収まった時には、素肌の一部が触れ合っていて、承太郎が引き寄せた花京院の手は、指先がもう唇に触れさせられていた。
 「・・・おれに食われたいか。」
 唇をあまり開かずに、承太郎がまた低めた声で訊く。訊きながら、右手が花京院の下肢に滑り込んでいた。
 「少し、違う。そういうことじゃないんだ、多分。ただ君に、できるだけ近く触れていたいだけだ。多分。」
 珍しく曖昧な言い方で、もう顔を赤らめたまま承太郎の唇から目を離せず、この場の明るさも思い当たらない表情で、花京院は承太郎の右手に、自分から躯をすりつけて来る。
 「おれを食うのはどうだ。」
 「・・・君の指をとても好きだが、食べたらなくなってしまう。それはいやだ。」
 ふん、と鼻で笑って、承太郎は花京院の指を噛んだ。
 空いた片手は花京院の口元に運び、噛むでも舐めるでも好きにしろと言わんばかりに、揃えた指先を花京院に差し出して、そうして互いの指を舐めながら、空いたもう一方の手は、互いのそれに触れていた。
 濡れた音がどちらから聞こえるのか、そんなことはどうでもいい。ふたりの、両手の指先が濡れてゆく。熱くなるのは、体のどの部分も一緒だ。
 指を舐める合間に、浅い口づけを交わして、また舐め始める時には必ず、互いに一度まず指を噛んだ。
 花京院の歯列が、承太郎の、中指のつけ根に食い込む。ぎりぎりと歯を食い込ませて、横に広がった唇の端が、まるで笑ったように上がる。血の気の失せた承太郎の指の皮膚に、ふっと歯列がゆるんで、舌先が触れた。
 血が戻ってゆく感触と、花京院の舌に触れられたなまあたたかさと、承太郎の中でどこかが弾けて、その熱は花京院の片掌の中に広がった。
 指が、互いの唇から外れ、腕の中に互いを抱き寄せようとした時に、承太郎は、花京院の下唇を噛んだ。少し強く歯を立てて、血の色そっくりなその唇が、自分のそれと重なれば色も皮膚も混じってしまうのだとなぜか信じて、そのばかげた考えを振り払わずに、いっそう強く白い歯を食い込ませる。
 後で見せられた内出血の跡は自分の歯形そのままで、そのしるしが、癒えれば消えてしまうことを心の底から惜しんだ。
 そう思う少し未来の自分のことはまだ知らず、承太郎は、自分の吐き出した熱に汚れた花京院の手を取り、指を絡め合わせて握る。握り返して来る花京院の唇は、まだ放さない。
 一緒に、同じ事を考えたように、同時に伸びた人差し指が、まるでそこで静かな口づけを交わすように、指の腹同士で触れ合っていた。

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