欲しい



 正面から抱き合って、胸を合わせて、両腕を互いに回す。そうやって、近づく唇や首筋や肩や、その他のいろんなところへ、舌と指先を這わせる。
 承太郎の膝の上に乗った形で、重なる肌の熱さに我を忘れたように、少しばかり大胆に、躯を揺すって承太郎を煽る。
 昂ぶるのに、時間は掛からない。触れるまでもなく、そうなってしまうこともある。互いが、欲しくて欲しくてたまらないと、服を着ていても、目を合わせていなくても、全身が、互いに向かって開き切っている。
 何もかもを取り去って、できる精一杯の近さで躯を寄せて、羞恥や照れを、まだ忘れ切れずに、そうやって昂ぶってしまう己れを、少しばかり恥じて、けれど、そうなってしまうのは、互いのせいだけだったから、その気持ちにはこっそりと誇りを持って、他の誰にも見せない姿で、ぴたりと抱き合う。
 昂ぶっても、躯はまだ繋げない。
 躯をそのために拡げるのに、少しばかり時間と手間が掛かる。その時間と手間が惜しいことが大半だったから、大抵は、互いに合わせた全身を揺すって、外側からばかり、互いの熱を奪い合う。
 唇を開いて、合わせて、舌を絡めて、そうすることが唯一の粘膜同士の触れ合いだ。
 そのことに満足しているけれど、同時に、物足りなさも感じている。
 もっと近く、もっと激しく抱き合えないかと、全身を揺すって、いつも思う。
 腿の辺りに触れる承太郎の熱に、手を伸ばす。指を滑らせて、けれどそれは、躯の形を整えるためだけで、それ以上強く触れることはしない。
 腹の間に、両方が触れ合うようにして手を添えて、それから、承太郎にのしかかって、躯を揺すり始める。
 花京院の、腹の傷に、ふたりのそれや承太郎の肌や汗や、いろんなものが触れる。引き伸ばされて縫い合わせれたその部分は、まるで剥き出しの内臓がじかに触れるように、ひと色赤が濃く、そして張りつめて薄い。
 そこに、承太郎の熱が、触れる。内臓に近く、承太郎のその形が、触れる。
 もっと激しく、花京院は躯を揺すった。
 承太郎を、皮膚でこすり上げる。下目に見るその顔に、余裕の笑みはまだ浮かんでいるけれど、唇を噛む仕草も、時に混ざる。
 自分が、承太郎を欲情させているのだという感覚が、全身を熱くさせる。承太郎を煽り、熱くさせて、自分を欲しがらせることができるという、その奇妙な全能感。
 僕が欲しいかと、承太郎を欲しがりながら、それを隠して、訊く。見上げて、承太郎が、熱に潤んだ瞳で、うなずく。
 口に出せと、きちんと言葉にしろと言うと、てめーが欲しいと、ふっくらと厚い唇が、あえぐように動く。
 緑の瞳に、まるで海のように潤んだそこに、自分の姿が揺れている。その自分の、欲情しきった姿に、苦笑を返して、さらに何か言おうとした承太郎の唇を、花京院は笑いながら塞いだ。


* 絵チャにて即興。

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