Misbehaviour
礼儀正しい態度そのままのように、一分の隙もない服装を、ゆっくりと乱してゆくというのは、悪い気分ではない。
高い襟のホックを、わざわざ両手でゆっくりと外す。かすかに立てる音に、あごの辺りが震えたのをちゃんと見て、それから、裾の長い上着の、大きな金色のボタンを、気の遠くなるような時間を掛けて、全部外す。
まずは、そうやってボタンを外すだけだ。まだ触れない。
どちらがどれだけ切羽詰っているか、いつもはそんなことを争うように、ろくに服を脱ぎも脱がしもせずに慌しく抱き合うけれど、今日は特別に、何もかもを剥ぎ取ってしまう気で、ひどく丁寧に指先を使う。
いつも手間取って、結局脱がせることをあきらめる原因の、シャツの首元の小さなボタンを、承太郎は、自分に重ねたままスタープラチナを出して、その薄青い指先に扱わせた。
スタンドの気配に気がついたのか、外しやすいように伸ばしていた花京院の喉が、ごくりと上下する。
今すぐそこに歯でも立ててやりたいと思いながら、ひとまず今は、シャツのボタンを全部外すことに集中する。
まるで着せ替え人形か何かのように、両手をだらりと下げて、ズボンのベルトにかかった承太郎の手に、花京院は特に反応するでもない。かちゃかちゃと音を立ててベルトが解かれると、平たいボタンを外して、ジッパーが滑らかに下がる。そこだけしわだらけの、シャツのすそを引っ張り出すと、承太郎は、また丁寧に残っていたボタンを全部外した。
ここは真っ暗な教室だ。窓の外から、街灯の照明が差し込んでいて、何もかもがうすぼんやりとしている。水の中で、ふわふわと漂っているような気分を味わいながら、だからこそ花京院を全部剥き出しにしたかったのだと、限られた視界の明るさに、ちょっとだけ苦笑をこぼした。
制服のズボンが、下着ごとすとんと足元に落ちる。膝を抱え上げると、簡単に、今は靴下だけの爪先が滑り出てきた。
そのまま体を押すと、そこにあるのは承太郎の使っている机だ。教室の中の、他のどの机よりも背の高いそれは、けれど花京院が横たわるのに充分な大きさなどあるわけもなく、背中だけがかろうじて収まると、頭は向こうに垂れ、腰から下は、だらりとこちら側に投げ出されている。胸も腹も下肢も剥き出しにして、上着とシャツから両腕を抜いてしまうこともできたけれど、承太郎は結局それをしないことにした。
冷たい床の上で、花京院の爪先が遊んでいた。
胸も肩も充分に厚いのに、そこだけは不自然なほど薄い腹に、承太郎は顔を近づける。
すぐ上にある、広い引きつりの跡が、いっそう白く、わずかな光を集めて、ぬめぬめと光って見えた。
今はまだ、そこには触れない。筋肉の線の刻まれた腹に、まるで味わうように舌を滑らせる。爪先が床から浮いて、花京院の脚が跳ねる。かまわず押さえ込んで、浅くへこんだへその辺りの皮膚を、甘く噛む。
舌先を差し込むと、くすぐったがって腹を揺らして、花京院が声を立てた。
無人の教室に、音を吸い込むものは何もなく、高い天井に、花京院の声が、やけに淫猥に響く。
頭を振って、首を折って、花京院が動くたび、承太郎の机はかたかたと音を立てる。机の中に置いたままの教科書やノートが、息をひそめて自分たちの気配をうかがっているような気がして、何だかおかしくなる。
承太郎は体を滑らせて、床に膝を落とした。花京院の脚を開かせて肩に乗せると、腿の内側からもっと際どい辺りへ、ゆっくりと唇を滑らせてゆく。
まだ触れられもせず、けれどすっかり勃ち上がっているそれを、口の中に誘い込んだ。湿りを通り越して濡れている辺りを、舌先でなぶると、花京院が持ち上げた腕で顔を隠す仕草をする。狭い机の上で体をねじるけれど、承太郎から逃れられるわけもない。最初から、逃れる気もないのだ。
承太郎は、わざと下卑た音を立てて、それを舐めた。目の前で、花京院の薄い腹がうねる。張りつめた皮膚が、舌の上で震えていて、その震えと一緒に、花京院の腰も揺れる。
こんなふうに舌を使うのは、花京院の方が上手かった。それでも、こうすることが嫌いではなくて、承太郎は、ゆるく顔を動かしながら、まだ花京院を追いつめることはしない。花京院の脚が、承太郎の肩を引き寄せようとするのを、承太郎は気づかないふりで、そっと押しとどめる。
今日の花京院は、やけに素直だったから、その欲情を誤らずに悟って、承太郎はいつもの熱心さを押し隠して、余裕のある素振りを見せていた。
息を乱して、自分で脚を開いて、承太郎の髪の中に指先をもぐり込ませながら、もう一方の手指は、口の中に押し込まれて声を噛んでいる。花京院は、そんな自分の姿には気づかないように、承太郎の唇に、腰を押しつけてきた。
わざと舌を伸ばして、承太郎が唇を外す。唾液が糸を引いたけれど、顔を背けている花京院は、それを見ない。
承太郎は指先で濡れた唇を拭いながら立ち上がると、花京院の体を軽く引き起こして、机の上で裏返しにした。
机を抱え込む形で、花京院があごを肩に埋めるように、承太郎を見返してくる。欲しいものがもらえると期待している目は、薄闇の中でもはっきりと潤んで見えた。
腰を覆ったままの、上着の裾を、そのすぐ下のシャツも一緒に跳ね上げて、それから、机の縁をつかんでいる花京院の両手を、承太郎は背中の真ん中にきっちりとまとめ上げた。手首を重ねて、そんな必要もなかったけれど、ただそうしたいという理由で、するりと腰から抜いた自分のベルトで、少しきついくらいに縛ってしまう。
「・・・承太郎ッ・・・。」
弱々しく抗議するように、花京院が肩を揺すった。顔を上げて、こちらを見るけれど、目元はすでに酔ったように赤い。何をしたところで、醒めるどころか火に油を注ぐだけだ。
承太郎は、机の縁に頭を垂らした花京院の腰に手を滑らせて、また床の方へ体の位置を落としてゆく。
机をそのまままたいでしまいそうに大きく膝を開かせると、今度は、滅多と目に触れることのない狭い入り口へ、舌先を差し出した。
触れた途端に、花京院の上半身が跳ねる。もがいた肩が、がたんと音と立ててまた机の上に落ちて、背中で自由にならない腕を振るように動かしながら、承太郎の舌が自分を侵すのに、流されないようにと、必死で床を踏みしめる。
やめろと言うのは、もちろんそのままの意味ではなく、粘膜同士が、そこで浅く触れ合うのに、気がつけばもっと足を開いている。承太郎を受け入れるために、慣らされているだけだというのに、それ自体に果てそうになって、花京院は思わず机の縁を思い切り噛んだ。
承太郎の舌が、執拗に這い回って、濡らして広げることが目的だと、もう忘れ去っているように、花京院のもらす喘ぎ声に合わせて、出し入れを繰り返していた。
まだ少年の肉づきの、どこか痛々しい線の見える腿を撫でて、ふと、承太郎の舌の動きが止まる。
力の抜けた膝の辺りにも指を這わせて、承太郎は、花京院が反応するのを、そこで待った。
突然放り出されて、皮膚はそのまま冷えても、躯は熱いままだ。花京院は、承太郎をうかがって、また机の縁から頭を上げる。泣きそうに潤んだ瞳が、すべてを雄弁に物語っていて、承太郎は、聞こえないように喉を鳴らした。
「・・・承太郎・・・早く・・・。」
承太郎の机はもうきっと、花京院の吐いた息と汗で、生暖かく湿っているだろう。春には3年生になる花京院が、この教室へやって来るかどうかはわからなかったけれど、少なくとも、自分のことを忘れることはないはずだと、ひどく下らない確信を抱いて、承太郎は、体の重みを掛けずに、花京院の背中へ添って行った。
「早く、何だ・・・?」
すでに開き切っている花京院の脚の間に、膝を割り込ませて、承太郎は、腰を押しつけながら、なるべく耳の近くでささやいた。
振り返った花京院の頬にも額にも、乱れた髪が張りついている。首をねじ曲げて、承太郎を見上げると、
「・・・焦らすなよ・・・。」
消え入りそうな声が、そこでかすれた。
承太郎は、花京院の背中に、まるで押し潰すように体の重みを乗せる。そうしながら、耳やこめかみの辺りに唇を押し当てて、かすかさがよけいに花京院を切なくさせるのを承知で、そこに息を吹きかけた。
承太郎の下で、花京院が肩を揺する。
はっきりと口にして、花京院がねだらない限り、先へは進まないつもりで、承太郎は、花京院の耳を甘噛みして、その流線のすみずみに、濡れた舌先を滑り込ませる。その感触が、さっきまでどこにあったのかを思い出させるために、承太郎は、喘ぎ続ける花京院を許さずに、その耳を舐め続けた。
「頼むから・・・承太郎、欲しいッ・・・くれ、よ・・・頼むから・・・。」
いつもなら、舌を噛み切る羽目になっても、そんなことは口にはしない。今日は違う。まるで発情したように、欲しがる躯を自分で止められずに、花京院が承太郎を誘っている。
そんな花京院を眺めているだけで、もう他の何を手放しても惜しくはない気になりながら、承太郎は焦る手を、そうとは気づかれないように押しとどめて、まだ焦らすように、花京院の中へ、ゆっくりと押し入った。
くしゃくしゃになった制服の背が、うねる。承太郎に合わせるように、爪先を伸ばして、腰の位置を高く突き上げてくる。欲しくて欲しくて我慢できないと、躯中に言わせて、花京院は、承太郎の手が片膝を持ち上げるのに、逆らいもしない。
こうやって、花京院の無防備な背中を見下ろす時、まれに、花京院がほんとうに自分のものだと思い知る。陳腐な誤解かもしれなかったけれど、誰も知らない花京院を知っているのだというつまらない優越感で、承太郎の頭の中はいっぱいになる。
今手首を縛っているベルトは、外してしまえば、もう花京院の自由を奪うことはない。けれど、花京院の内側の熱さの中に、自分の熱を注ぎ込めば、そこから、花京院の一部になってしまえる気がして、花京院とひとつになったという錯覚にひたるために、まるで確認するように、承太郎は、花京院に欲しいという言葉を聞きたくなる。
滅多と、素直にその言葉を耳にすることはないけれど、それでもたまに、気まぐれのように起こる花京院の欲情の匂いさえ嗅ぎ分けられれば、それが自分だけ向かっているのだと確認することができる、と承太郎は信じていた。
机の縁で、花京院の首が折れて、また頭が上がってくる。承太郎が動くたびに、こすり合わせる粘膜の熱さに耐えられないように、花京院が小さく叫んだ。
この姿勢が嫌いではなかったけれど、花京院の乱れた姿をもっと間近に見たくて、承太郎は、何の前触れもなくするりと躯を外した。
鋭く、声が喉を裂いて、花京院が懇願するように承太郎を見返してくる。ねじれたその上体を、承太郎は無言で引き起こすと、抱き寄せたまま、床へ向かって倒れ込む。
大きく開かせた脚を抱え込んで、まだ開いたままの花京院に繋がると、さっきよりももっと近く、躯を寄せた。
床は乾いて冷たい。花京院の裸の胸は、湿っていて熱い。服も脱がない承太郎は、制服のボタンや金具が、花京院の剥き出しの膚をこすって傷つけているかもしれないと思ったけれど、痛みなど、今は脳のどこにも届いてはいないらしい花京院の、何か形のないものを追っているらしい表情を近々と見つめているうちに、そんなことはどうでもよくなってしまった。
胸を重ねて、抱え込んで、壊れるほど揺すぶり上げる。開ききった花京院の足や、揺れる肩が、周りを囲っている机や椅子の細い脚に当たって、かたかたかたかた、ふたりを責めるように音を立てる。
いつも、承太郎が肩を縮めるようにして歩いている、教室の机の間だ。そこでふたりは、親密に手足を絡めて、卑猥な形に躯を開いている。ふたりの熱の跡を、まるでこの床に刻みつけようとするかのように、承太郎は花京院の熱い内側に、自分の熱を叩き込んでいた。
忍び込んだ夜の教室で、濡れた息が絡む音だけが聞こえる。
花京院が熱くて、そこで溶けそうになりながら、承太郎は、花京院が自分の名前をうわ言のように繰り返すのに、じっと耳を傾けた。
こすれ合って、やわらかく鳴るふたりの制服が、薄闇の中で、一際暗い。花京院の、力なく揺れる素足だけが、そこに仄白く浮かんでいる。
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