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牧場物語・ルーンファクトリー小説保管スレッド Part1
73:ラグナ×キャンディ 2009/12/13(日) 21:52:23 ID:kh1UIBdU 389 名前:名無しさん@ピンキー[sage] 投稿日:2009/05/07(木) 00:19:05 ID:LC4bHXtk ほとんど食べ終わってから、やがてキャンディが呟いた。 「うん、そうだったわ。あたし、お兄ちゃんを信じてたもん」 キャンディは再確認したように、確信に満ちた笑顔でキッパリと言い切った。 僕の何を信じていたんだろう? 僕は何とも言えないくすぐったさに胸を襲われて、言葉にすることができなかったので、笑顔だけで気持ちを返した。 「あっ! み、見てみてお兄ちゃん。あそこのルーニー、クリを食べてるよ! もしかしたら実りの木から取ってきたのかも!」 キャンディは、すぐに恥ずかしいことを言ってしまったと悟ったらしく、慌ててボートから身を乗り出し、彼方を指差した。 いかにも話題を逸らそうとしているのが丸分かりで、見ていて微笑ましかった。 ……そんな姿にすっかり気を取られていたから、あんなことになってしまったのだろうか。 もう一秒だけでも早く、この言葉を言っていれば。 「キャンディ、ちょっと、」 ボートからそんなに身を乗り出したら駄目だよ、と注意しようとしたその時、 「きゃあっ!」 案の定、キャンディはバランスを崩してしまった。 今にも湖に飲み込まれようとする小さな体。 「危ない!」 僕の体が、彼女を受け止めるべく勝手に前に飛び出していた。頭が真っ白で何も考えられなかった。 しかし――それが逆に災いし、前のめりになったことでボートの全体の重心まで崩れ、クッキーも、僕達も、丸ごと湖に放り投げられた。 じゃぼん、と大きな水飛沫を立てて、それから僕の視界は透明な青に包まれた。 390 名前:名無しさん@ピンキー[sage] 投稿日:2009/05/07(木) 00:20:08 ID:LC4bHXtk 「はあ、はあ、はあ、はあ」 周囲を見渡す余裕ができたのは、脳に酸素が回ってきてからだった。 空が曇っていた。 僕は今、仰向けで倒れている。 背中に感じるのは、ジャリジャリとした感触。 ここは――海岸? …… そうだ。僕は湖に落ちた後、意識を失ったキャンディを右腕に抱き抱えながら、目の前に見える島を目指し――ひたすら泳いでいた。そして砂浜に辿り着くなり倒れ込んで、こうしてゼエゼエと息をしていたんだ。 隣に横たえたキャンディに目をやると、まるで起きる気配がなかった。背筋が凍った。 「キャンディ、キャンディ、大丈夫? キャンディ」 僕は急いで起き上がって、耳元に何度も何度も呼び掛けるが、反応はない。 ――これは本当にマズいかもしれない……。 加速してゆく不安の中で、僕はキャンディの胸元に手を当てると、何とか呼吸を確認することができた。 「良かった。びっくりしちゃって気を失ってるだけか……」 ほっと一息をついて安心したのも束の間、びゅうっと一陣の冷たい秋風が吹く。 「……くしゅっ!」 キャンディがくしゃみをした。 「へっくしょん!」 遅れて、僕もくしゃみをした。 秋の始めとはいえ、この肌寒い中――びちょびちょの格好でこのまま放っておけば間違いなくお互いに風邪をひいてしまうだろう。 風邪薬ひとつ飲むだけで治ってしまう僕はともかく、キャンディも同様に治るとは限らない。 「……」 ボートの上で、僕が注意してさえいれば、こんなことにはならなかった。 これは他の誰でもない、年長である自分の責任であることは明白だった。 「風邪なんかひかせないよ」 決意が――いつのまにか言葉になっていた。 僕にとって、何だか不思議な義務があるように感じられた。 それは決められたことじゃないのに、誰からもそうするように強制されてなんかいないのに、どうして? それはきっと、彼女が『お兄ちゃん』って僕を呼んでくれるから……。
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