贖 罪
「テメーはっ」
ガシッと僕の胸倉を掴むとサトリが怒りを露わに叫んだ。手が震えている。
「テメーで回復できねーんだから、俺のそばを離れるんじゃねーよっ!」
そのまま彼の顔が僕の胸に埋まる。彼は顔を押し付け、嗚咽する声を押し殺していた。
「ごめん……」
僕はサトリを強く抱きしめた。
蘇生呪文を唱える彼が、どんな辛い思いをしているのか僕は分かっているつもりだ。
「万が一、突然"加護"が発動しなくなって生き返らなくなっちまったら、どうすんだよ……」
もしも生き返れなかったら――? 永遠に彼らと別離を迎えるっていうことだ――。
「えっと……それは困るな」
照れ笑いでごまかされないサトリは、僕を睨んだ。
「笑い事じゃない」
その時、澄んだよく通る声が響いた。
「ロラ〜ン! サトリ〜! どこなの〜っ!」
僕たちを捜すルーナの声が、森の中から聞こえてくる。
急いで僕たちは洞窟を出た。
「ルーナ、ここだ! あいつは無事だぞ!」
彼女を思いやり、サトリが咄嗟に嘘をつく。
本当のことを知らせれば、彼女に負担を押し付けるだけだから。
「ルーナ!」
僕も彼女に向かって元気よく手を振った。
「ああ、良かった……」
サトリの手を借り、雑草の生い茂る崖を上って来たルーナが胸を撫で下ろす。
「大丈夫? ロラン」
柔らかな彼女の手が僕の両手を握った。
「ちょっと頭打っちゃって。サトリにホイミしてもらったから、もう平気。心配させてごめんね」
「そ〜そ。白目むいてただけさ」
「サトリ!」
ルーナがサトリに非難の眼差しを向ける。
サトリは弁解するように苦笑いした。
「怒るなよ、ルーナ。……にしても、魔物が強くなってることは間違いねえ」
「そうね。今まで以上に気を引き締めていかなくちゃ」
「僕も油断しないようにする」
「行きましょう」
ルーナはそう言うと身軽に崖を伝い、すたんと着地した。
サトリは「今のうちに、さっと着替えておけ」と僕の荷物を手渡した。
「上着が血まみれになってるぞ」
「え」
「ルーナに気付かれないうちにって言ってんだ」
ぼうっと突っ立っていた僕に、焦れたようにサトリが声を荒らげる。
「いいな」
僕が頷くと、サトリはゆっくりと崖を降り、ルーナに何ごとか耳打ちした。
「お待たせ!」
暫くして僕が彼らの許に戻ると、ルーナは心配そうに僕を見上げた。
「お腹痛いんですって?」
「あ、いや……」
「いいのよ。生理現象なんだから。遠慮しないで。ね?」
「そうだよ。人間誰しもやってることなんだからなー。どんなに綺麗なムーンブルクの姫君だって――」
「も――っ!」
「サトリッッ! 何を言ったんだよっ?!」
真っ赤になって、僕らは逃げ回るサトリを追いかけた。
「ははっ。二人とも、元気出たじゃねーか!」
突然体を反転させ、ぐいっと僕らの手を掴むと、サトリがルーラを唱える。
彼はいつもこうだ。
不器用な仲間思いの表現方法。
「もう少し、素直になれないものかしらね」
「ひねくれた性格って魔法で直らないのかな」
「お前ら、ゴチャゴチャうるさい。着いたぜ」
誰よりも正確な(と、ルーナが言っていた)サトリのルーラの着地座標点は、ぴたりと宿の真ん前に符合し
ていた。
「どうぞ、姫」
サトリが一礼し、丁重に宿屋の扉を開ける。
「罪ほろぼしのつもり? でも、ありがと」
軽くローブの裾をつまみ、ルーナが宮廷式の挨拶を返す。
サトリが扉を押さえ、彼女にしたのと同じように僕を先に通そうとするのを断り、僕は彼の背を押し宿の中
に入らせた。
「僕はいいよ。別の形で君に返してもらうから!」
がしっと肩をつかむ僕の笑顔に、サトリの顔が蒼ざめた。
( 完 ) 2007.3.25
下ネタで申し訳ない。
だが、下ネタは好きだ。大好きだ!
……ジャンピング土下座ーーー!! onz