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フォズたんとぬいぐるみ
 
 さわやかな若葉色の風が吹いていました。
 ――――ここは、むかしむかしのダーマの神殿――――


 ここの神官長であるフォズ様は、十にも満たない可愛らしい小さな女の子です。
 いつもの通りフォズ様は、転職希望の人たちを導くお仕事をしていました。
 今日は、ぽかぽかと、よい天気。
 順番待ちの人の列が途絶えたお昼前のひとときに、ついフォズ様は眠くなってしまいました。
 「あ……ふ………」
 思わずあくびが出そうになるフォズ様。
 (あ!………いけないであります)
 そうです。今は大事な職務中!フォズ様は必死に深呼吸をし、健気な努力を続けておりました。

 そんな時です。彼らが現れたのは。
 フォズ様の耳に、懐かしい声が聞こえてきました。
 「ほら、ガボ、前に出なよ。ガボが過去のダーマでなきゃ転職するのイヤだって言ったんじゃないか」
 緑色の帽子をかぶった少年は笑いながら、後方でもじもじしているボサボサ頭の小柄な少年に向かって言
いました。
 「おいら……やっぱり恥ずかしいよぉ。アルス〜」
 ガボは、すがるような目をアルスに向けると、顔を赤らめて下を向いてしまいました。
 アルスはちょっと考えると、何かひらめいたのかガボの方に戻り、素早く彼の背後に回りこむと背を押しまし
た。
 「わっ、わっ、わぁ〜〜〜」
 悲鳴をあげ続けるガボに、フォズ大神官様のお姿がどんどん近づいてきます。
 両側に子猫の耳のような三角の張り出した、独特の帽子。
 細い肩にかかる、紅い紐で結われた、つややかなお下げ髪。
 フォズ様を正視するまでもなく、ガボはクラクラしてきました。

 フォズ大神官様は、笑顔で語りかけます。
 「ガボ殿は、転職したいのでありますか?」
 「………!」
 固まったままのガボの頭をアルスが掴み、前に何度も倒し、うなづかせます。
 フォズ様は、声を出して笑いそうになるのをこらえながら、職務を続けました。
 「では、ガボ殿は何の職業をお望みなのでありますか?」
 アルスは今度はガボの下アゴを取り、カポカポと動かしながら、彼の声色を真似て話しました。
 その様子は、まるで人形劇のようです。
 「おいらぁ、戦士になりたいぞ!」
 「…そうですか。では、ガボ殿は戦士の気持ちになって祈って下さい」
 フォズ大神官様は心を込めて神に祈りました。
 不思議な、新たなるチカラがガボに宿ってきました。
 「他に転職される方は、おられますでありますか?」
 アルスは首を振りました。ガボは相変わらず、放心状態のまま立ち尽くしています。
 二人の間を縫うように神官がフォズ大神官様の前に進み出て、一礼しました。
 「フォズ大神官様、ご休憩の時間でございます」
 「そうでありますか。アルス殿、ガボ殿、よろしければ御一緒にお食事でもいかがでありますか?」
 「よろこんで!でも、いいんですか?」
 「この間は皆さんに何の御礼も出来ませんでした……今、ここに私が居られるのは、皆さんのご助力のたま
ものでありますから」

 フォズ様の後に続き、二人はダーマ関係者以外立ち入り禁止の部屋に通されました。
 (よかったなー、ガボ。チャンスじゃないか)
 (チャチャチャチャチャチャチャチャチャンスって?)
 (………まず、落ち着けよ………)


 「急ごしらえでありますので、大したおもてなしは出来ないでありますが…」
 すまなさそうに、フォズ様はテーブルを前にして言いました。
 「とんでもない。こんなご馳走久しぶりだよな、ガボ」
 「う………うまそうだぞ!」
 ようやく食べ物を前にして、ガボは緊張が解けてきたようです。
 「よかったであります」
 安堵したフォズ様は、天使のような笑顔を見せました。

 和やかな食後の歓談も過ぎ、そろそろ午後の職務の時間になりました。
 「今日はアルス殿とガボ殿に再会できて、とても嬉しかったであります」
 「こちらこそ。ごちそうさまでした、フォズ大神官様」
 「………うまかったぞ………」
 「じゃあ、僕は店で買い物がありますので、先に失礼します」
 ガボが引き留める間も無く、アルスはフォズ大神官様に挨拶をすると、さっさと行ってしまいました。
 取り残されたガボは、しばし呆然としていましたが、最後の大仕事をようやく思い出しました。
 大慌てで自分の道具袋をひっかきまわすと、彼はお目当てのものを取り出しました。
 「こッ………これッ!!」
 目の前にずいっと乱暴に突き出されたのは、小さなクマのぬいぐるみ。
 首には赤いリボンがついています。
 「これを……私に下さるのでありますか?」
 ガボは、真っ赤になりながらも今度は自分の意志で首を縦にふりました。
 フォズ大神官様の小さな手がぬいぐるみを受け取り、そしてその胸にしっかりとそれは抱きしめられました。
 「……ありがとう……大事にするで…あります……」
 「げっ、元気でっ!フォズ大神官様!」
 ガボは別れの挨拶もそこそこに、もの凄いスピードで走り去っていきました。

 ――――いつ、また逢えるでありますか?――――

 遠ざかる少年の後姿に、フォズ大神官様は小さく呟きました。


 ガボの走り去ったあとに、小さな紙切れが1枚落ちていました。
 フォズ様は、その紙切れを拾いあげました。
 そこには、たどたどしい大きな字で
 『 ふよズ  ねい>゛るみ 』
 と書きなぐってありました。
 「ぷふっ…」
 思わずフォズ様は、吹き出してしまいました。
 どうやらガボの道具袋の中から落ちた、お買い物メモのようです。

 (今度逢った時には、ガボ殿に手習いを教えるであります!)

 フォズ大神官様は、自室の棚に大切にぬいぐるみを飾ると、神殿にしずしずと向かわれるのでありました。
( 完 )  2002/04/23
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小さな女の子が主人公なので、絵本風に可愛らしくしてみました。
フォズたんは萌えます。フォモも好きだがロリも好き(最低