Cross Road






 散々悩んだ挙句、フォックスは立ち上がった。その足に若干のためらいを残しながら、彼は選手控え室へ向かう。ちらりと横目に時計を見ると、針はちょうどよい頃合いを指していた。今ばかりは、控え室までの距離が長く感じる。
 空はまだまだ高い。暖房の入っていない室内の空気は少しばかり冷たいが、窓越しに差し込む日の光が暖かい。平和で、普段となんら変わりない、至って平凡な一日だった。窓の外では、からっ風が落ち葉と戯れている。澄んだ空に舞う枯葉は、もうすぐ訪れる冬を告げているようだった。
 そんな風に廊下を歩く間、窓の外を見遣っては気を紛らわせる。そうして歩くうち、気がつけばもう控え室の前だった。ドアの前のディスプレイには、戦場で戦う選手が映し出されている。表示を見れば、もう戦いも終盤に差しかかっている。とくとくと脈打つ胸を押えて、その様子を見守る。ステージは終点、ストック2のタイマン戦だ。戦っているのは、メタナイトと・・・・・・ウルフだ。対照的な戦い方をする二人は、どちらもお互いに勝るとも劣らない対等な戦いを繰り広げている。もう終盤ではあるのだが、まだどちらが勝つのか予想がつかない。フォックスは二人の戦いをぼんやりと眺めていた。考えなければならない考えごとも忘れ、立ち尽くす。流麗な剣技と、野生的な体術がぶつかり合う様に魅入っていた。
 ふと、試合終了の合図で我に返る。僅差で勝利を手にしたのは、ウルフであった。フォックスは安堵と疲労がない交ぜになったため息をつく。もうすぐ、彼が出てくるはずだ。ドアの横、壁に寄りかかって眼を閉じる。
 これで何度目だろうか、自分に問いかけた。このままで本当にいいのかと。否、もう耐えられそうにない。それを直接伝えればいいのだ、と自分に言い聞かせる。もう自分に問いかけるのも、言い聞かせるのも、これが最後だ。がちゃとドアの開く音に眼を開く。

「ウルフ!」

 控え室を後にしようとするウルフを呼び止める。彼はぴくりと耳をそよがせてから、面倒くさそうに首だけをフォックスに向けた。

「・・・またお前か、今度は何の用だ?」
「俺、よく考えたんだけど・・・やっぱりウルフが好きだ!」

 少し棘のある彼の言葉に臆することもなく、フォックスは言い切った。
 直球すぎるフォックスの発言に、ウルフは言葉をなくした。突っ込みどころが多すぎてどこから突っ込めばいいのやら、皆目見当がつかない。かと言って、フォックスを無視して歩き出せる雰囲気ではなかった。彼の表情は至極真剣そうだったからだ。ウルフが困惑していると、不安になったのかフォックスは言葉を付け足した。

「あの、ライバルとして、とか、そういうのじゃなくて・・・純粋に、っていうか・・・なんていうか・・・」

 フォックスは言葉を詰まらせてうつむいた。その顔はうっすらと朱に染まっている。顔を紅潮させて必死に言葉を探す彼がいやにいとおしくなって、ウルフは彼に向き直った。
 ウルフは彼が言わんとしていることがそれとなくわかっているのだが、わざと声を尖らせて、せかしてみる。

「何だ? 言いたいことがあるならはっきり言えよ」
「えー・・・っと・・・、・・・・・・敵同士とか関係なく好きだっ」
「・・・それで?」
「それで・・・って?」
「それで、これからどうしたいんだ?」

 ウルフは小さく息をついて腕を組む。その口元は緩やかな弧を描いていた。そんなことなどつゆ知らず、フォックスはまた少しうつむいて考え込む。窓の外、舞い上がった枯葉がすべて落ちきる頃、彼はふと顔を上げて、言った。

「・・・・・・ずっと一緒にいたい!」

 豪速球かつ、ど真ん中ストレートな答えであった。ウルフはふんと鼻で笑うと、くるりと踵を返して歩き出す。

「・・・勝手にしろ」

「やった! じゃあ今日はウルフの部屋でお泊り会だな!」
「おい、てめぇはガキか?」
「じゃあ枕投げは我慢するよ」
「お前な・・・」
「勝手にしろっていったのは誰だ?」
「・・・・・・あんまり騒ぐなよ」
「わかってるって」

 それ以来、仲良く並んで歩く二人の姿がよく見られたとか。





「・・・・・・やれやれ、やっと行ったか・・・」

 再びがちゃりと控え室のドアが開く。深いため息をついて、メタナイトはようやく部屋を出た。ドアの外の二人に道を阻まれ、出るにも出られずずっと立ち往生していたのだ。
 思わぬとばっちりを食らったメタナイトは、先程より幾分か軽いため息をついて、仮面の下でかすかに笑う。

「若いな・・・ フフ、私もカービィと・・・」

 この二組の恋路(?)は、果たしてうまくいくのだろうか。















あとがき
フォックスもウルフもわからん\(^O^)/
フォックスは直球な子だとかわいいなー