雨月夜 それは 月のきれいな 夜だった 金色の月が 夜空に輝いているのに なぜか雨が降っていて めずらしいこともあるんだなと 思った そう思って あいつを連れて 外に出た あいつは今 俺の隣を歩いている 空を見ながら 歩いている 会話はない 距離は ある 傘と傘の間 約50cm 近くて遠い距離 やっぱり傘は一本にしておくべきだったな 隣を見れば 彼は空を見ている ずっと 俺のことはそっちのけで その足取りは軽い 機嫌は悪くはないようだ 雨粒のはねる道を 歩く 歩く 見えてきた 小さな休憩所を指さすと 彼は 笑って頷いた ベンチに座ると いつもどおり 足を組む 「どうしたんだ? 急に」 茶化すような 笑みを含んだ声 少し考えて、 「・・・月が綺麗だったから呼んだだけだ」 「見かけによらずロマンチストか? はははっ」 彼もそんなふうに笑うのか と その口元から 目が離せない 「今日は機嫌がいいみたいだな」 「あぁ、まぁな」 「どうしてだ?」 「誰が教えるかよ」 つんとそっぽを向く 大体はわかる ひとりでに口元が緩み 彼に怒られた 少し 雨音を聞いたあと また彼の声が響く 「・・・・・・俺、月は好きだぜ」 「そうか、それはよかった」 「近くで見りゃただの石ころのくせに、夜の太陽みてぇなツラしやがって」 「・・・おまえも意外とロマンチストだな」 「・・・うっせぇ!」 顔を赤くして怒る 今日はついているようだ 怒る顔も 笑う顔も見られた 泣き顔だけは 見たくない 「オイ、帰るぞ!」 彼の手にある邪魔な傘を 奪ってやろう ついでに その生意気な くちばしも あとがき。 |