馬から落馬 それはよく晴れた日のことだった。 朝食を終えたが、食堂に残り談話するまったりとしたこの時間。 アイクはあまり人と話すのが好きではないため、立ち上がろうとした。 その矢先、リンクが歩いてきて空いていた隣の席に座った。 「ねぇ、アイクって歩兵だったよね」 「あぁ、そうだが」 「やっぱりさ、騎馬兵のほうが強いと思うんだ。あの行動力、2回攻撃!」 「まぁ・・・」 俺だって2回攻撃くらいできる。 そう突っ込みたかったが、話がややこしくなりそうだったのでやめた。 確かに騎馬兵や天馬、竜騎士の移動力は魅力的だ。 しかしどうしてそんなことを知っているんだろう。ファイアーエムブレムをやったのだろうか。 「ということでアイク! 歴代主人公の法則を破って馬に乗ってみようよ!」 「え? いや・・・」 「絶対強いと思うから! ねっ!」 「ちょ・・・」 否定の言葉も届かず、リンクは強引にアイクを立たせると、引きずって行った。 この宿泊施設の片隅にちいさな馬小屋があって、そこにリンクの愛馬がいるらしい。 アイク自身は見たことがないのだが、好奇心旺盛なネスやリュカ、トゥーンリンクたちが話しているのを聞いた。 (どうせならペガサスに乗ってみたかったな・・・) 「アイク、乗馬経験は?」 「ちいさい頃乗せてもらったきりだ・・・(ペガサス乗りたい・・・)」 どうしていきなり馬に乗れなどというんだろう。 そんな疑問はすでにアイクの頭の中から消えて、ペガサスに乗りたいにすり替わっていた。 (あの天使を一緒に乗せればペガサスになるかな・・・) そんなことを考えているうちに、引きずるリンクの足が止まる。 馬小屋に着いたようだ。見れば、確かに馬がいる。 慣れた手つきで馬具をつけ、小屋から出す。 「エポナって言うんだ。かわいがってあげてくれ」 「・・・あぁ」 「これでソシアルナイトアイクの誕生だね! 楽しみだ〜」 「よく知ってるな・・・」 「さぁさぁ!」 「そう急かすな・・・」 アイクの背中を押して、エポナの脇に立たせた。 ・・・正直、気が進まない。 が、振り返ってリンクを見ると、プリンも顔負けなくらい眼を輝かせていた。 どうやら後には引けないようだ、ポナの背に手を掛けると、ぐっと体重をかけてまたがる。 「おぉー!」 「た、たかい・・・」 リンクの頭のてっぺんが見える。高い。相当高い。 ちいさい頃乗せてもらったときもまったく同じことを思った。 降りたい。こわい。でも高くて降りられない。 「歩かせられる? 平気?」 「へ、平気だ・・・」 「じゃあおなかを軽く蹴ってみて」 とん、とかかとでエポナの腹を蹴る。 エポナが歩く。揺れる。 「うおっ歩いた!」 「そりゃあね」 「揺れる・・・お、落ち・・・!」 ぐら・・・ どさっ アイクが地面に落ちるまでの間がすごく長く感じられた。リンクはぽかーんと口を開けてそれをただ見ていた。 まさか、歩いている馬から落ちるわけないだろう? 馬が走っているなら理解できるが、あんなにゆっくり歩いている馬から?これにはエポナもびっくりだ。 自分の目を疑うが、アイクは確かに地面に倒れている。 「いて・・・」 むく、と上体を起こす。 薄っすら涙の浮かぶ眼で、はっとしてリンクに振り返る。 そこには困惑を極めた表情のリンクがいた。 「・・・・・・え、えっと・・・」 「・・・・・・・・・っ」 アイクの顔がみるみる赤くなる。 自身もそれに気付いて、ふいと顔を背けた。 「あの、・・・なんか、ごめん」 リンクはどうすることもできず、ただ呆然とアイクを見ていた。 俺は一生歩兵でいい。 byアイク fin. あとがき。 |