セイレーンの歌声







 ちいさなちいさな歌声は、砂漠に吹く風に飛ばされていった。
 その歌はガラスのようにすきとおっていて、風に乗ってどこまでも広がり、どこかでとけた。

 あれから、どれほどの時が経ったのだろう。ひゃく、にひゃく、さんびゃく・・・もはや数えるのも億劫だ。
 最初の百年は泣きはらした。
 次の百年は渇望した。
 その次の百年は希望をもった。
 そのまた次の百年は絶望した。

 そして、今。涙は枯れ、希望は失い、絶望すら無となった。
 あの頃と変わらない姿で、あの頃とまったく違う世界を生きている。
 あのひとのいない、色のない世界を生きている。



 セネリオは、座っていた岩を降りた。
 はるか遠く、あのひととはじめて出逢ったガリアの地を見つめて、見えなくて、セネリオは眼を閉じる。

 最初の百年。どうして逝ってしまったのだと嘆き、泣きはらした。
 次の百年。どうか還ってきて、また大きな手で頭を撫でてと、渇望した。
 その次の百年。生きていれば、あのひとの生まれ変わりに出逢えると、希望をもった。
 そのまた次の百年。ただ、絶望した。

 そして、今。どんなに泣いても願っても、失ったものは還らない。
 過ぎ去った過去を愛でながら、未だ来ない未来を憂いている。
 あのひとのいない、意味のない世界を生きている。



 風の噂で聞いた。世間では、あのひとは伝説として語り継がれているらしい。
 “一夜にして墜ちたクリミアを再興した将軍”と。
 セネリオは鼻で笑った。
 伝説なんかじゃない、紛れもない事実だと。
 そして自分は、その伝説の人物と肩を並べて戦ったと。

「――――そうですよね、アイク?」



 枯れたはずの涙が、砂漠の砂をふたたび濡らした。
 涙を含んで、セイレーンの歌はまた砂の海にひびく。













あとがき。
ゴッドオブウォーのセイレーンはこわかった
あれのせいでセイレーン=砂漠なんですが、ほんとうは海の怪物だそうで・・・
えと、かわいそうなセネたんがすきです(・・・