侵入者 チチチ・・・ 鳥の鳴く声に、アイクは眼を覚ました。薄っすらと開いた眼はぼんやりと天井を映す。すこし頭を上げて、時計を見た。まだ6時だ。あと1時間以上寝られるではないか。アイクはぱたんと頭を枕の上に落とした。 寝返りを打とうと、体を動かす。しかし、何かが引っかかって向きが変えられない。なんだ?と疑問に思って違和感のする方へ向く。 「・・・・・・・・・? ・・・・・・?」 そこにはあどけない寝顔があるではないか。寝ぼけた頭で考える。誰だ? しかし名前が出てこない。ただ、“天使”と、それだけが浮かんだ。背中に白い翼をもった天使だ。天使はアイクの腕を抱きこんですやすやと寝息を立てている。 どうしてここにいるんだ? 昨日は一人で寝たはずだ。 「・・・おい」 返事はない。今度は天使の体を揺らし、天使がしがみつく腕を振って、声をかけてみる。 「おい、起きろ、天使」 「ん・・・」 安眠を妨害されて唸る。やがて眠そうに眼を開けて、むくりと起き上がる。眼をごしごしとこすって、それから急に眼を見開いた。 「・・・! あっ、あの! ・・・えっと・・・」 彼は顔を真っ赤に染めて口ごもった。やがて恥ずかしそうにうつむく。何か言いたいのだが、どうも言葉が絡まって出てこないらしい。 アイクは彼の頭に手を置いた。 「まぁ落ち着け」 「ご、ごめんなさい! 本当はアイクさんが起きる前に自分の部屋に帰ろうと思ってたんです!」 「わかったわかった。で、どうしてここにいるんだ?」 「えっと・・・恥ずかしい話なんですが・・・」 彼はぽつりぽつりと話し始めた。 どうやら昨晩、悪い夢を見たのだそうだ。もちろん自室で。それで怖くなって誰か傍にいてほしくて侵入を試みたらしい。時刻は午前2時。さすがにそんな時間まで起きている人はいないだろう。 きっとドアには鍵がかかっているからドアからの侵入は断念、窓から飛び出して一軒一軒窓の鍵が開いている部屋を探したとか。 侵入の手口は置いておいて、なんとも子どもらしい理由だ。 「布団にまで侵入する気はなかったんですけど、どうしても寒くて・・・ 本当にごめんなさい・・・」 うなだれる天使の頭をわしわしとなでる。うつむいたまま、たまにちらりとアイクの眼を上目遣いで見る。機嫌を伺っているようだ。 「もう謝るな。悪意がないならいい」 「ありがとうございます・・・」 彼はほっと安堵のため息をついて胸を撫で下ろす。 「そのかわり」 「?!」 びく、と肩が跳ね上がる。なにかされるのではないか、なにかさせられるのではないかと被害妄想がふくらんだ。 「・・・羽、触らせてもらっていいか?」 「え?」 「だめか?」 「そんなことでいいんですか?」 「・・・? あぁ」 「そんなことなら、お好きなだけどうぞ」 天使は、まさかあーんなことやこーんなことを・・・と一瞬でも想像したことに後悔した。 触りやすいようにアイクに背を向ける。ぱさ、と翼を広げると、風切羽根に空気が入る。 「間近で見るのははじめてだ」 手のひらで翼を撫でる。なかなか触り心地がいい。羽の先端の方を軽くつまみ、広げてみる。 「・・・ラグズか?」 「ラスクじゃないです」 「そうか」 ・・・ん? ラスク? アイクは返事をしてから気がついたが、まぁどうでもよくなった。それより眼の前の翼の触り心地といったら、顔をうずめて擦りつけたいほどだ。 翼のふちに手をかける。少し固い。骨があるからであろう。 「このへんはどうやって動かすんだ?」 「どう・・・って言われても・・・」 天使はうーんと唸りながら悩んだ。それもそうだ。どうやって腕を動かしているんだ、と聞くようなものなのだから。 「ふつうに・・・こう」 「おぉ、すごいな。いけ、天使! かぜおこしだ」 「僕はポッポじゃありません」 「・・・むう」 乱闘でもかぜおこしは使わないのか?使いません 間髪入れず否定され、アイクは残念そうな表情をつくった。きっとかぜおこしは忘れてゴッドバードを覚えたのだ、アイクはそう結論付けた。 そしてまた翼を触る。今度は付け根の辺りを指でなぞる。 「本当に背中から生えてるんだな」 「あっ・・・そのへんは・・・っ」 「・・・?」 天使の肩がひくりと跳ね上がる。妙に上ずった声をあげて。痛いのだろうか、と思ったが、どうもそうではなさそうだ。引き続き触ってみる。指先で翼と背中の境界をつうっとなぞった。 「や、やめてください・・・っ」 「・・・急にどうした?」 「根元の方はダメなんです・・・はうっ・・・」 「どうして?」 「根元の・・・方は・・・」 「は?」 「・・・・・・性感帯、なんです・・・」 ほう。アイクは息をついた。天使の股間に手を伸ばす。そこはだんだんと熱を持ちはじめていた。 「あっ・・・、やめてください・・・」 「“こっちは”いいんだろう?」 「やっぱりダメですっ!」 ばたばたと羽ばたいてまとわりつく手を振り払い、立ち上がる。アイクに向き直って翼をアイクから遠ざけた。真っ赤な顔、うっすら涙を浮かべた眼できっと睨む。それがどれほど扇情的か、天使は知らなかった。否、体を以って知ることとなる。 アイクはベッドから飛び降り天使を抱いた。 「できるだけ優しくする」 「そういう問題じゃ・・・うわっ」 一度は抱いた天使をベッドへ放り投げる。先ほどの言葉はなんだったのだろう。すかさず覆いかぶさると、唇を重ねてから服に手を掛ける。が、服の構造がいまいちよくわからない。しばらく覆いかぶさったまま思案していた。 「・・・・・・」 「・・・本当に優しくしてくれますか?」 「・・・あぁ」 「じゃあ、自分で脱ぎます・・・」 アイクが退くと、天使は体を起こして服を脱ぎ始めた。途中翼が引っかかって脱ぎにくそうにしていたが、やがて白い肌が露わになる。 一糸まとわぬ天使をまじまじと見つめるアイク。腕も脚も腰も、折れてしまいそうなくらい細い。舐め回すような視線に天使はまた頬を染め、翼で体を隠した。 「あんまり見ないでください・・・」 「・・・天使に性別はあるのか」 「見ての通りです」 「人間との子はできるのか?」 「アイクさんが女性だったらできるかも」 「・・・出るものは出るんだな」 「〜〜っ、いいから早くしてください! 寒いですっ」 「あぁ、悪い」 天使を抱き上げてベッドに寝かせる。なんだろう、アイクは優越感によく似たものを感じた。この清廉な天使を組み敷いているとだんだん自分がおかしくなっていく。翼を折って牢にでも閉じ込めて、自分だけのものにしたい。 そんな邪な思考ばかりが頭の中を支配する。これが魅力というものなのだろうか。 「・・・どうしてほしい?」 「・・・・・・お好きなように」 唇をそっとあわせて、舌を滑り込ませる。天使はぎゅっと眼を閉じた。舌を絡めてくちゅくちゅと唾液を雑ぜあう。最初は硬直していた天使も、徐々に自分からも舌を絡めるようになった。 「ん・・・っ、んふ・・・」 アイクは薄く眼を開けた。顔を真っ赤に染め上げて必死に舌を絡める天使。端整な顔は女かと見間違うほどだが、これが男というのだから惜しいものだ。 舌で口内を犯しつつ、手を下へ伸ばす。小さいながらも自己を主張するそれは先端から先走りを流している。指先で先端のその汁を塗り広げるように擦ると、天使はびくりと震えた。その拍子に舌を噛まれた。 「・・・いて・・・」 「ご、ごめんなさいっ」 「・・・仕置きが必要だな」 「痛いのはやめて・・・あふ・・・」 頭を下げて、天使の下半身のそれと向き合う。唾液でぬるぬるとぬめる舌が、汁を垂れ流すその裂け目をなぞる。敏感な先端だけを執拗に責めた。 舌を細くしてちろちろと舐める。一層声が大きくなるポイントを見つけると、今度は舌の真ん中でべろりと舐め上げる。 「く・・・ぅ、ごめ・・・なさ・・・もうやめ・・・ああっ」 「こら、暴れるな」 「だって僕死んじゃああああっ」 ベッドがぎしぎしとしきりに軋む。煩わしさに耐えかね、アイクは一時中断した。 言うことを聞けとばかりに天使を鋭い目つきで見下した。 「ごめんなさい・・・」 アイクは上半身だけ服を脱いだ。そして間髪入れず天使の腕を頭の上で押さえつけ、ベッドの柵と一緒に手首を服できつく縛る。 「ちょ・・・! やめ・・・」 「よし、さぁ、続きだ」 「ひ・・・っ」 膝で天使の両脚を押さえてまた敏感なところを責め始める。 天使は息を呑む。もう本当に抵抗が出来ないしやめてくれと懇願しても彼は聞き入れてくれない。敏感なところを責められ続けるのは拷問に値する。簡単に言えば脇や足の裏などを延々とくすぐられ続けるようなもので、それはだんだんに苦しくなる。本当に死ぬのではないかと思うくらいだ。 そんな天使の不安と恐怖を知って知らずか、アイクの舌が先端を擦る。間隔の狭い激しい呼吸音が絶え間なく響く。 「も、やめ・・・! 苦しい・・・! はぁああっ・・・」 確実に、着実に、天使は狂っていく。 その裂け目に口づけると、ぢゅう、ときつく吸い上げた。悲鳴にも似た喘ぎ声。否、喘ぎ声に似た悲鳴なのかもしれない。 胸が焼ける、目の前がぼうっと白くなる。 「もう、もう死んじゃう・・・!」 一層強く吸うと、天使は自らの手首に爪を立て、唇をぎゅっと噛む。それでも絶えられずに叫んだ。 「あああ・・・ッ!」 白目を剥いているのをみて、アイクは口を離した。当の天使は限界を突破したようで虚ろな眼をしている。 「優しくしてくれるって・・・言ったじゃないですか・・・」 「・・・・・・そんなことも言ったな・・・」 「苦しい・・・」 「どうしてほしい?」 「・・・イカせて・・・」 先走りをじゅくじゅくと溢れさせるそれに、手を伸ばす。手のひらにすっぽり収まるそれをしごき始めた。天使は眼を固く閉じ、押し寄せる快感の波に耐える。先ほどの叫び声はどこへやら、甘い喘ぎを漏らす。 「あん・・・きもちいい・・・アイクさん・・・ちゅぅ下さい・・・」 天使がこんな行為に耽っていいのか。それともすでに堕ちたのか。もう拒む声は一切聞こえない。それどころか今度はキスをせがむ声。手は止めずに唇を落とす。軽いキスのつもりが、天使は自ら舌を絡めて逃がさない。 荒い呼吸を続けていたせいか天使の口内は少し冷たかった。が、雑ざる唾液ですぐに熱を取り戻す。天使の口の端から漏れる声、伝う銀の唾液。 「ふ、ぁ・・・、イクっ、出ちゃう・・・!」 「・・・早いな」 白濁が勢いよく迸り、アイクの手と天使自らの腹を白く染める。ひくひくと脈動するそれは、やがて最後の一滴まで精を吐き出した。 手のひらについた精液をべろりと舐め取る。天使だからといって特に甘いわけでもなんでもない。枕元に置いてあるティッシュボックスからティッシュを数枚引っぱると、天使の精液をふきとった。 悦に浸った表情の天使はやがて頭を振って、アイクに言う。 「アイクさん、これ・・・ほどいてください」 「あぁ、そうだな」 頭の上で縛られていた腕が、やっと自由になる。ふぅ、と息をつくと、天使は起き上がった。 「今度は僕の番ですね」 天使は自由になった手と足でベッドの上を這い、アイクの下半身にまとわりついた。ズボンに手を掛け、脱がせていく。外気に晒された雄はひくりと震え先走りでその先端をてらてらと光らせている。 迷うことなく天使はそれに舌を沿わせると、汁を舐め取る。それから口に含み、裏筋をなぞる。唾液をたっぷり塗りつけて顔を上下し始めた。 ぐちゅ、ぐちゅといやらしい音が響く。天使は、その口には少々大きいそれを懸命にくわえた。時折その雄の持ち主の表情を窺い見、目線がかち合う前に逸らす。 「なかなか・・・うまいな・・・」 慣れてますから。敢えて口には出さず、無言で行為を続ける。 雄をじゅるじゅると吸い上げ顔を動かしながら、一方で舌をぬるぬると巻きつける。ちらりと眼を盗み見れば、眉間にしわを寄せ快感の波に押し流されまいと耐えるアイクの表情があった。 脚の間に顔を埋める天使の頭に手を乗せる。頭は手のひらにすっぽり収まった。髪の流れに沿って撫でる。そうでもしていないと、すぐに達してしまいそうだ。できるだけ意識を散漫させる。 「きもちいい?」 「あぁ・・・天使、もう、出る・・・」 ラストスパート、とばかりに動きを早める。程なくして天使の口内で雄が跳ねた。 白濁の味が勢いよく口いっぱいに広がる。天使は喉をこくこく鳴らして飲み下し、残る精液を搾り出そうと先端をきつく吸った。 「っ・・・」 「ごちそうさまでした」 「天使、おまえ・・・こういうの慣れてるのか?」 「僕の名前は“天使”じゃありません! ピットですっ」 名前が思い出せなかった、なんて、今更言えない。アイクは少しばつの悪そうな顔をした。そんな彼を尻目に、ピットはちらりと時計を見る。それに倣って、アイクも。もう朝食の時間だ。 ふたりとも脱ぎ捨てられた服を手に取る。 「本当は抱いてほしかったけど・・・仕方ないですよね」 「そうだな、また・・・、・・・機会があるのか?」 「・・・一期一会かも知れませんね」 「・・・その、・・・悪かった。つい勢いでこんなことして」 「いいです。僕もこういうの、嫌いじゃないですから」 「それと、うまかったぞ」 「えへへ」 「誰かに教わったのか?」 「いえ?」 「じゃあ何であんなに・・・」 「ひみつです☆」 ピットは屈託のない笑みとひとひらの羽根を残して窓から飛び去っていった。 行為後の気だるさを抱え、アイクは食堂へ向かった。 あとがき。 |